第3回 音波の性質

講義

受講生
受講生

音楽の音色を決める要素は楽器だけでなく、音楽や音を発する空間も重要な要素であるのだとわかりました。(経1)

その通りですね!下の動画に登場する先生も同じことを言っています。


定常波は、互いに逆向きの2つの進行波の重ね合わせです。赤(進行波)+青(逆向きの進行波)=黒(定常波)になっています。よく見て納得しましょう。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: Standing_wave_2.gif

さて、皆さんは講義でこの質問にどう答えたでしょうか?

【質問】 ___が変わるところで、波は屈折する。

①媒質 ②波の速さ ③波のエネルギー

教室での答えは、①が約70%、②が約30%、③が少々ぐらいでした。

正解は②です。これまで理科で「媒質が変るところで屈折する」と習ってきたと思いますから、間違えるのも仕方ないと思います。

しかし、大気中で音の進路が曲がったり、海の波の進む方向が海の深さで変化したりします。つまり、媒質が同じでも屈折が起こるのですから、①は間違いです。

受講生
受講生

波の速さが変わるのは媒質によって屈折率がかわるからであり、結局は媒質が変わるからではないのか?

受講生
受講生

屈折するのは屈折率の違いだから、媒質の違いで正しいのでは?

媒質が変わると屈折率が変わると言いますが、では、屈折率の「定義」を知っていますか?

それは、波の速さの比、として定義されます。屈折率で波の速さが決まるのでなく、波の速さが屈折率を決めるのです。

もちろん、媒質が変われば、波の速さが変わることが多いです。しかし、同じ媒質でも、温度やその他の要因で波の速さが変わり、それによって屈折する例を説明しました。

こうしたことから、媒質という答えが本質的でないのは、明らかです。自分の習った知識にしがみつかないで、頭を柔らかくして、論理的に考えましょう。

Q&A

今週のピックアップ!

コウモリは高い音で普段たくさんの障害物を認知しています。なぜ低い音を使わないのですか?低い音の方が回折が大きく、広い範囲に届くはずです。


コウモリは、人に聞こえないような高い音を発し、反射音を聞くことによって、暗闇で障害物を検知ししたり、餌である昆虫を捕獲したりします。体の中を見る超音波検査機も同じ仕組みです。イルカも同じように、超音波で周囲を探っています。

このような目的には、周波数の高い音が適しています。というのは、反射音がどこから来るかという場所を特定するには、周波数の高い音の方が有利なのです。これは、周波数が高いほど、直進する性質が強いことが原因です。ピッコロのような高い音と比べて、バスドラムなどの低い音は、どこで鳴っているのか分かりにくかった経験はないですか?

なぜ周波数が高いほど直進するかというと、音波は、直進する以外の方向では互いに干渉して打ち消されますが、その打ち消し合う傾向は高い周波数ほど強いのです。そのため、高い音は直進方向だけが残り、低い音は四方八方に拡散することになる。これが、周波数が高いほど直進性が強い原因です。(これは周波数が高いほど回折が小さいのと同じ理由です。「ホイヘンスの原理」で考えると、わかると思います。)

今日のWiFiの例のように、今までに授業で習ったことと日常生活の関連について目が向けられていない部分が多いのですが、そういったことを紹介しているおすすめサイトがあったら知りたいです。


仮にそういうサイトがあったとして、それを読めば賢くなりますか? 私はそうは思いません。教えてもらって「うんうん」と納得して面白がっているのは、学習のレベルでいうと、まだまだ低い段階です。その関連を、自分で発見することにこそ価値があるんです。

波動の屈折の理由が媒質の変化でなく、波動の速度が変化することであるという話は、考え方の違いではないかと思った。直接的な原因を重視するか、根本的な原因を重視するかの違いで、どちらかに決める必要があるのか疑問に思った。(工2)

屈折は波の速度によるものとありましたが、私は媒質の変化によって波の速度が変わるのではないかと思いました。海の例であった媒質は同じだが波の速度が異なるものは屈折するとありましたが、正直それを屈折と言ってよいのか分かりません。屈折の法則では媒質の違いが屈折を生じる要因だと思います。

屈折率は各物質毎に固有のものを持っており、値が同じとなる物質は(その物質以外に)存在しないのではないかと思います。その場合、媒質が変われば屈折率も必ず変わるため、波が屈折する条件として「媒質が変わる」というのも適すると思います。


屈折率について、皆さんどうも頭がかたいようなのですが・・・

ではこれらはどう考えるのでしょう? 媒質が違っても屈折が起こらない例です。媒質が違っても波の速さが同じなら屈折は起こりません

消えるガラス

脳の透明化

ノイズキャンセリングイヤホンのなかで、雑音の反転した音波を当てて、雑音を消すという説明があったが、そこで消された音の持っていたエネルギーはどうなったのか疑問に感じた。(理2)


いい質問ですね〜

イヤホンの外からきた雑音のエネルギーは、音を消すための逆向きのスピーカーの振動を止めるために消費されています。綱引きの綱が釣り合っているとき、綱は動いていなくても、両陣営はものすごいエネルギーを消費してますよね。

上下逆の波が干渉すると波が消えるとありましたが、上下逆の波の音は聞こえ方に違いはあるのでしょうか。(農4)


下の音声を再生してみてください。2回目の音声は、1回目の音声の正負(山と谷)を逆にしたものです。

全く同じに聞こえますよね?でも、この二つを足し合わせると無音になるのです。嘘だと思う人は、自分で実験してみましょう。講義で紹介した Adobe の Audition を使えばできます。この音声ファイルをダウンロードして、このファイルを開いてみてください。音のことをよく知りたいなら、Auditionを使えるようになっておくと良いですよ。

4分33秒という曲が存在することは知っていたのですが、その曲がどうして作られたかがはっきり知ることが出来て良かったです。てっきり「俺ってこういう斬新な曲も作れるんだぜ」というような趣旨で作られた曲だと思い込んでいたので。(複数)


作品がつまらないと思ってしまうのは、自分の無知や無理解が原因かもしれない・・・

そんな振り返りこそが、無知の知、そして他者へのレスペクトにつながります。

そのほか

反射・吸収・透過(音楽室やコンサートホール)

音楽室は反射させないよう壁に穴があいているが、コンサートホールは反射させるために様々な工夫をしている。どちらも音楽を奏でる場であるのに、なぜ反射について違いがあるのか疑問に思った。(工1)

広いホールは壁が遠いので、反射音が小さくなります。狭い音楽室は壁が近いので、反射音が大きくなります。だから、ちょうど良い反射音にするには、正反対のことが必要です。

音楽室の壁に穴があいている理由を初めて知りました!(多数)

多孔質板による吸音について、私は「開口部の空気がおもり、空洞部の空気がバネとして働く振動系を形成し、開口部壁面との粘性抵抗により吸音する」と勉強したことがあるのですが、今日の授業で先生は、「空洞部で音が無数に跳ね返り吸音する」とおっしゃっていました。どちらが正しいのでしょうか。(工3)

これは同じことの別の表現です。

音をトラップして、中で吸収して、反射を抑えるために穴があります。穴の奥には共鳴のための空洞があります。これがヘルムホルツ共鳴器として機能し、共鳴する音を吸収します。空洞に綿のようなものを詰めると、さらに吸音効果が上がります。

ヘルムホルツ共鳴器は、バネとオモリの振動系でモデル化できます。穴の大きさや間隔、空洞の厚みなどにより、共鳴する周波数が変わるため、吸収される音の高さも変わります。

有孔ボードで消音

ヘルムホルツ共鳴器

引っ越す予定の家を一人で見に行ったことがあります。自分の部屋に入ったら、私の音と足音が部屋全体に響きました。だが、引っ越してその部屋に家具を配置した後には、この現象が発生しなかったです。家具と音の反射に何の関係があるかが知りたいです。(人文)


平らな壁にボールを10個投げると、10個とも自分の方に返ってきますが、でこぼこした壁にボールを10個投げると、それぞれあっちこっちの方向に散ってしまいます。音も同じです。家具があると、反射された音が様々な向きに散って部屋全体に音が広がります。

ストレス発散のために叫びたいときは騒音にならないよう布団で顔を覆って叫ぶことがあります。こういった経験から布団や柔らかい布なども防音効果があるように感じます。(医保ほか)

積雪のある日は静かに感じるのですが、雪は吸収性が高いのですか?(医保)

段ボールとAmazonで購入した吸音材で簡易的な机上防音室を用意することで解決していたような気持ちになっていましたが、今回の講義を鑑みると、吸音材だけでなく遮音性のあるなにかも一緒に用意しないと意味がないと気づき、とても意気消沈してしまいました。(法1)


毛布などの布は、中の細かい繊維で音が乱反射することで、音を吸収します。雪が積もると街が静かなのも、雪が音を吸収するからです。卵のパック(プラスチックでなく紙製のもの)もそうですね。

マットや布団で音源を包むと多少は音を吸収してくれますが、実はそれは高音だけです。低音は、ほとんど吸収されません。ドラムやベースのような低い音が漏れないようにするのは、高価な防音室でさえ難しいことです。残念ながら、防音性能の高い(家賃の高い)部屋に引っ越すしか、解決方法はありません。

音の反射の観点から、よく有名バンド等の演奏が行われるアリーナやドームは、本当に演奏に向いているのか疑問に思いました。(人文3)

去年東京ドームでコンサートに行きました。席がメインステージに近く、スピーカーから聞こえる音と、反響して聞こえる音があって少し聞きづらかったです。


コンサートホールの設計では、①音響の他に、②客席からステージがよく見えることも重要です。さらに、③興行的には収容人数が多い方が有利です。こういった相反する要求にいかにバランス良く応えるか、設計者の腕の見せ所です。

ドームなどでやる興行は、③の集客力こそが優先されますので、音響には期待できませんし、ステージも遠くて見えませんよね。

ロックやポップスのコンサートに使われる日本武道館や東京ドームなどの音楽のみを目的に設計されているわけではない会場は、Shoebox型にもFan型にもVineyard型にも当てはまらない形状をしていますが、クラシックとロックでは適した会場の形は違うのでしょうか?(農1)


クラシックの演奏は、会場の音の響きを含めて音を作っていくという発想です。ですから、会場によって演奏の仕方を変えたります。一方、ロックの音作りは、どちらかといえば完成品としての音を楽器や機材で作り込んだ上でスピーカーから出して、それをなるべくそのまま聞いてもらえるといいな、という発想です(もちろんある程度は会場の音響を考慮して、ライブのセッティングはしますが)。

ですから、ホールの音響に対する考え方は、全く違ったものになります。

ウィーン楽友協会大ホールについて、装飾までもが音の反射のために配置されていると知り感心したのだが、とすると人も反射に影響してしまうのではないだろうかと疑問に思った。極端な例を出すと、観客が満員の場合と観客が1人の場合では聞こえ方にかなり差が出てしまうのではないか。(人文2)

ホールを設計するときに綿密に計算するという説明があった。当然、人は音を反射、吸収、透過、すると思うのだが、どの程度、設計の計算に入れるのか気になった。また、人がいるときや、いないときどちらの方が、アーティスト、お客さんにとって音が聴きやすいのだろうが疑問に思った。(法)


お客さんが入ると、音が吸収されて残響が減ります。それを見越してホールは設計されています。

しかし実際には、どのくらいのお客さんが入るかや冬服か夏服かなどでも響きは変わってきます。プロのオーケストラは、当日のホールの響きを聞いて、それにちょうど良いように音の長さを調整して演奏する技術を持っています。

演奏者同士が反射した音を聞いて音を合わしていて、端の演奏者ともう片方の演奏者との距離が離れていたとき、音が届くまでの時間差があると思うんですけど、演奏の音はずれないのでしょうか?(医医)


時間差はかなりあります。しかし、それを見越したうえできちんと合わせる技術を、オーケストラのプレーヤーは身につけているのです。具体的には、音ではなく、目で見た動きに合わせる、タイミングを予期して早めに弾く、などです。

私は吹奏楽をやってきたのですが、演奏者としては、まるで1人で吹いているのではないかと思うほど周りの音が吹いていて聞こえないホールやパーカッションの音がやたらに遅く聞こえるホール、なんとなくピッチが取りにくいホールもありましたし、客席から聴くとほとんど音が飛んでこないホールやはっきりと音が聞こえずモヤモヤと聞こえるホール、木管楽器だけダイレクトに聞こえてくるホールなどもあり演奏するホールに合わせて練習するということも多いです。(理)


シラバスにも書きましたが、音楽経験があった方が、この講義の内容は、より深く実感を持って理解できます。今後の講義でも、そのようなことは多いと思います。

私は大きなホールでやるようなコンサートに行ったことがないのですが、いわゆる「S席」は「音が最も綺麗に聴こえる場所」という意味合いなのでしょうか。それとも単に「オーケストラを間近に見られる場所」というだけなのでしょうか。(理)


その両方を満たすのが良い席(S席)です。ただ、明確な基準などありませんので、区分けは割と適当です。たくさん儲けようと、S席ばかり多く設定されていることも、よくあります。

無響室と4分33秒

特に興味を引いたのは4’33”「無音の音楽」は音楽と呼ぶのかという話だ。個人的な見解としては、音楽と明確には言えないと思う。どちらかというと「思考実験」だとか「芸術」などの表現がしっくりくる。(工2)

無音の音楽は音楽なのかという問いに対しては、音楽であると考えました。数や数量を表す数字という概念の中で0という数字があるのなら、無音も音と捉えていいのではないかと思ったからです。(工1)

「4’33″」という曲は音楽とは言えないと私は考える。私は「音楽」は演奏者が音を奏でて初めて成り立つものだと考える。「4’33″」の作曲者は、無音の空間を作り出すことで鑑賞者が自身から出る音を聴き取ることを目的として作曲したと思われる。もしそうだった場合、舞台の上の人間がやっていることは、鑑賞者が自身の音を聴くための環境づくりをしているだけになるので、やっていることは音響工学技術者と同じようなことである。(農1)

私は音が存在しないなら音楽でないと考える。エアギターは音楽に入らないと思うし、それと一緒でステージに立って4分33秒何もしなかったらそれはステージに行ったという事実に過ぎない。(農1)

私は音楽だと思います。「音」とは音波を感知できる生物の存在がいて初めて成り立つものです。4’33’’は無音なのだから感知できない。よって音楽ではない。そう思うかもしれません。しかし、この曲を聴いて体験する時間は、完全な無音ではありません。この意味は、実は4’33’‘には常人には聞こえない隠された音があるとかそう言った話ではありません。単純にその他の環境音が聞こえるという話です。コンサートで聴いていれば観客の息の音や衣擦れ音、自宅で聞いていれば近所の生活音や自分の鼻息の音、無響室ですら自分の心臓の音が聞こえるでしょう。「4’33’’を聞く」という行為によって日常の音に耳を傾け、私たちはその音を知覚し、感情を膨らませます。「音楽」はその字の通り「音を楽しむ」と書いて音楽です。4’33’’によって音を楽しめるという現実がある限り、この曲は音楽です。(工1)

「4分33秒」は音楽といえるのか?そもそも音楽とは何なのか。西洋音楽では、次の3つの要件が必要と言われており、1.材料として音を用いる。2.音の性質を利用して組み合わせる。3.時間の流れの中で素材(音)を組み合わせる。そのため、リズム(律動)、メロディー(旋律)、ハーモニー(和声)をもつものが音楽とされる。この定義に当てはめると、「4分33秒」は3番の要件を満たさないのではないかと思った。また、「人は生きている限り無音の世界はない」という言葉は間違っているのではないか。宇宙は空気がない。つまり音を伝える媒質が存在しないからだ。もし、宇宙服を着ずに宇宙へ放り出されたら人間は無音の世界を体験することになるだろう。(農1)


色々な意見がでてきて、面白いですね。皆さんは、どの意見に賛同しますか? それとも全然違う件ですか?

ジョン・ケージの4分33秒は、どうして、このような中途半端な長さなのですか?(多数)


検索すれば答えはわかります。ただ、あえて自分で考えてみるのも、曲の鑑賞のうちです。

無響室に長時間いると発狂するという知識をどこかで耳にしたのだが、それはなぜなのだろうか?自分の体から発せられる音はそんなにも不快なものだろうか?(人文ほか)


普段、気付かないうちに耳に入っている音が突然なくなり、それはこれまで経験したことがない状況なので、脳がびっくりして、それを気持ち悪いとか、不安だとか感じるのでしょう。

一度防音室に入ったときに耳が圧迫される感覚と、ピーーと耳の中で鳴っていて、しばらく静かにしていると心臓の鼓動が感じられた経験を思い出しました.その時は気持ち悪くてすぐに部屋を出てしまったのですが、今では自分が生きていると感じられるのではないかと思いました.また、ピーーと耳の中で鳴っていたのはなぜかと思い調べてみると、これは耳音響放射と呼ばれ静かな場所で脳から聞こえる単調な高音で、内耳での機能的な原因で生じており内耳がダメージを受けると消滅するので、実験室や病院で内耳の健康状態を測る際に耳音響放射の存在が用いられており、近年では生体認証にも用いられていると分かりました.(工)


そうです、びっくりするかもしれませんが、耳は音を聞くだけでなく、自ら音を発生させています。その音はとても小さいので、普段は気が付きません。

自分で発見した謎に、自分で答えを見つけてくれて、素晴らしいと思います。

無響室とは反対に、極限まで音の反射が起こる空間を作った場合はどのくらい音が残り、また大きさが維持されるのかが気になった。(経2ほか)


仮に反射が100%としても(現実にはとても難しいですが)、空気を伝わる時に、音が空気に吸収されるので、いずれ必ず減衰してしまいます。減衰しないように空気を抜いてしまっては、そもそも音は生じませんし・・・。

回折(波の届く範囲)

ラジオにはAMとFMがありますがそれとWi-Fiの5GHzと2.4GHzの仕組みが同じなのではないかと気づきました(多数)

調べてみたところ、AM放送は波長が約200~600m、FM放送は約3~4mとかなり波長の長さが違うことがわかりました。(工2)


AMの方がFMより周波数が低いので、よく回折し、建物や山などの裏まで広く届きます。

なお、ラジオの周波数の表示はAMの方が数値が大きいので誤解している人がいますが、AMの単位はkHzで、FMはMHzですから、FMの方が周波数が高いです。

赤外線は回折が起こりにくく障害物に弱いにも関わらず、どうしてテレビやリモコンなどは赤外線を利用しているのか。(農1ほか)


安いから、というのが最大の理由だと思います。また、あまり四方八方に飛ばないのは、混線を防ぐという意味では利点でもあります。思ったのと別の機器が点いたり消えたりしたら、困りますよね。

屈折(なぜ曲がるか?)とフェルマーの原理

屈折の説明の際、芝刈り機を用いた例を挙げてくれましたが、なぜそれが光にも当てはまるのかが分かりません。光にも左右に車輪のようなものがあるのでしょうか?(農)芝刈り機は左右のタイヤがある、という理由があるために納得ができましたが、それを光や波でイメージしようとしてもどうしてもできません。(人文)


波には、かならず幅があります。どんなに小さくても、幅があります。すると、波のあっち側とこっち側で、媒質の境界に到達するタイミングがずれますよね。

フェルマーの原理の、「波は最短距離の経路ではなく最短時間の経路を進む」というのがどうしても分かりません。意思を持たない波がどうやって最短時間の経路を選択するのでしょうか。(人文1ほか)

「出発点の光が最短時間で到着点にたどり着ける経路を探しているわけでもないのに、なぜ光は最短時間で到着点にたどり着ける経路を通るのか」ということがとても気になったので、調べてみることにした。自分の予想では、「光がその経路を通るのは、最短時間でたどり着けるからだ。」というのは間違いで、「何か他の理由があってたどった経路が、偶然最短時間でたどり着ける経路と同一だった。」というのが正解だとにらんでいる。(理4)

自分なりに10分ほど考えた結果、「波は最短時間で進む」というより、「私たちは最短時間で進む波だけを知覚しているだけ」として理解した。(経)

音の「直線性」が、考えれば考えるほどわからなくなっていった(人文)


もちろん光や波が意志を持つわけがありません。しかし結果として、そのような経路を取るという事実があります。

フェルマーの原理は、屈折だけでなく、そもそも光がなぜ直進するかや、反射の角度についての法則も説明できる、とても根源的な原理です。

フェルマーの原理は「変分原理」で証明できるのですが、難しい数学が必要です。そこで、(屈折と同じことなので)光がなぜ直進するかについて、変分原理を噛み砕いた、わかりやすい説明を試みてみましょう。

まず、A点を発した光がB点に向かうには、その経路の数は無限にあると考えます。これには例えば、A点の周りを3周してからB点に向かうといった、奇想天外な経路も含まれます。ただ、このような経路を通る光は、この経路とほぼ同じだけれども少しだけずれた経路を通る波と干渉して、打ち消しあってしまうので、実際には観測できません。

一方、A点とB点を最短所要時間で結ぶ経路(同じ媒質中なら最短距離の経路でもある)については、ほぼ同じだけれども少しだけずれた経路を通る光と打ち消しあうことがありません。

それで、その経路の光だけが、唯一、観測できるものとして残るのです。

物理で屈折の他に光が水中から空気中に進むとき、入射角を大きくなると光が全て反射して起こる「全反射」という現象を習いました.光は水中より空気中のほうが最短時間で進めるはずです。しかしこの現象は矛盾してるように感じたのですが、「全反射」はどういったことが起きてるのでしょうか。(工1)


良いことに気がつきましたね!

「最短時間の経路を取る」とすると、反射はうまく説明できません。実は、フェルマーの定理は、上の質問で解説したように、ちょっと経路をずらしても経路長がかわらないような経路を通る、と書くのが正確です。最短時間の経路はその条件を満たしますが、それが全てではないということです。

最短距離や最短時間というと、「P地点からQ地点への最短距離」みたいにスタートとゴールが必ずあるはずです。波が最短時間で移動しようとするとすると、波には向かうべきゴール(目標)が定まっていて、波の進行が始まる前から前もって移動先が決定していることになるのではないでしょうか。直感的には波が「ここへ向かうぞ」と目標に向かっているのは何か違う気がしてなりません。波は目標に向かって移動するのでしょうか。であれば、どこへ向かっているのでしょうか。(人文)


講義の図では、海の1箇所にだけ子供がいたので、目標がそこにしかないように見えました。

しかし実際の波では、Q以外の全ての地点も「目標」であり、それらの目標に同時に一斉に、波が向かっていきます。

「世界で最も美しい実験」で波が綺麗にしましま模様にちらばったが、「波は最短経路で進む」というフェルマーの原理を考えたら、同じ場所から電子を発射したのにどうして模様が作られるのか?(医)。


上の、フェルマーの原理についての回答をみてください。個々の電子は、ありとあらゆる経路を取る可能性があります。しかしそれがたくさん集まると、打ち消しあって消えてしまう経路と、打ち消し合わずに残る経路が出てきます。

フェルマーの原理は、個々の電子の挙動を決めるものでなく、たくさんの電子が集合として振る舞う時の、最終的に顕在化する結果についての法則なのです。

干渉(ノイズキャンセリング)

音楽の方を打ち消すことはないのか? どうやって曲とノイズを区別しているのか?(複数)


音楽は、イヤホンの内部にのみ流れます。ですから、ノイズを拾うためのマイクを、イヤホンの外部につければ良いですよね。

その他

救急車のサイレンなど近くに来るにつれて音が高くなり離れるにつれて低くなるのでこの現象も音の屈折によって説明できるのか気になりました。(人文1)

ドップラー効果には、救急車が離れていく時にサイレンの音が徐々に低くなるといった現象がありますが、音と違い、横波である光にも同じような現象が起きるのか気になりました。(教1)


救急車の音のあの現象は、ドップラー効果といいます。

救急車が近づいてくる時は、実際のサイレンの音より周波数が高くなるので、高い音に聞こえます。逆に、遠ざかる時は、周波数が低くなるので、音の高さも下がって聞こえます。これがドップラー効果ですね。原理は、自分で調べてみてください。

光も波なのでドップラー効果はありますよ。周波数が変わるので、色が変わります。近づく時は、周波数が高くなり、青寄りに見えます。逆に、遠ざかる時は周波数が低くなり、赤寄りに見えます。天文学で星の光を観察するときに確認できる現象です。

光のドップラー効果

音楽と教養という言葉に惹かれてこの講義の受講申請を出しましたが、少しずつ科学についても興味を持てるようになってきてなんだかとても嬉しいです。(人文)


そういうコメントは、私もなんだかとても嬉しいです。

多くの初めて知ることを単なる知識としてではなく、自分の経験に置き換えて考えてみるという形で講義に参加できているので、今までよりも楽しいと同時に頭を使うためとても疲れたと感じた。(人文)


疲れたぶんだけ確実に身になっています。No pain, No gain。

今日は「物理は面白いのだ」ということを知ることができた。(農1)


世の中、面白くないことなどなくて、要は、自分がその面白さをわかるかどうかではないでしょうか。別の言い方をすると、何かが面白くないのは、そのものにではなく、自分に原因があるのではないでしょうか。

そう考えてみることが、無知の知や、他人へのレスペクトや、教養につながります。

参考図書

講義で紹介した本とは違いますが、同じテーマでより新しいこちらを参考図書とします。