第13回 デジタル・ワールド(音楽とコンピュータ)

講義

パソコンやスマートフォンにお世話にならない日はありませんし、車に乗っても今はほとんどがコンピュータ制御です。デジタル技術なくして、我々の生活はありません。

ではここで皆さんに質問ですが、デジタルってなんでしょう?「0と1のこと?」「機械的なもの?」といったアバウトな答えがほとんどで、きちんと理解している学生は、ほとんどいません。

デジタルとは、離散的(量がとびとび)であるということです。離散的という言葉は初めて聞く人が多かったと思いますが、講義の前半では、多くの例をあげてこれを説明しました。離散的な量は、すべて、整数に置き換えられます。対応表を作れば良いのです。コンピュータの文字化けの原因である「文字コード」などは、その典型例ですね。

さてここで、すべての整数は2進法で表現できます。結果、離散的な量は、すべて0と1の組わせで表現することができます。これが「デジタルは0と1」の正体です。0と1で表すのは、単に、その方が他の方式よりコンピュータの設計が簡単で安くなるというだけであり、本質ではありません。離散的である、ということこそが本質です。

後半は、音楽のデジタル化について説明しました。現在の音楽は、大きくふたつの(全く違う)意味で、デジタル化が進んでいます。ひとつはMIDIに代表される楽譜情報のデジタル化で、もうひとつは、音そのもののデジタル化です(CDなど)。今の時代に音楽に関わるひとは、両方、よく知っていると良いと思います。

また、デジタルという概念そのものが、なかなか奥深いものです。Q&Aにあるように、このことに気づいていくれた学生も何人かいたのが嬉しいです。

MIDI演奏

生演奏

Q&Aコーナー

今週の勘違い

デジタルという言葉は日常のあらゆるところで使われてきたが、だれも離散的という意味では用いている感覚がなかったように思える。(人文)

単純に「新しい」や「古い」という単語の代わりとして用いられている場面などもあり、実際の意味と普段の生活で使われる意味とで乖離があると思いました。(農)


そんなことはないですよ。世間一般では、(全員ではないかもしれませんが)多くの人が正しく使っています。それを自分が(大学1、2年生のほとんどが)、勝手に違った意味に誤解しているだけです。自分達が間違っていたから他の人も間違っていると、勝手に思わないようにしましょう。

高校時代にn進数を習ったときにはただ公式を教えられ、私自身もそれをただ覚えただけだったので、今回、先生の説明がとても理解しやすく、高校時代にこの説明が聞きたかったなと思った。(農1)


教えてもらわえなかったから、分からなかったのだと、人のせいにしてはいけません。公式を覚える時に、なぜその公式が成り立つのか、自分で考えればよかったと思います。私だって誰かにこのような説明をしてもらったわけではなく、自分で考えて腑に落ちた理屈流れを、皆に話しているだけです。

自分はイヤホンやヘッドホンを買う時に音質をとても重視していたが、それが具体的にはどういった違いがあるのかということを知ることが出来た(経3)

マイクやスピーカーなどの値段は商品により大きな差がありますが、あれらもビット、バイトの量の問題なのでしょうか(工1) 

など、イヤホンやヘッドホンのコメント多数


今回は、イヤホンやヘッドホンの音質については、なにも話していません。

イヤホンやヘッドホンやスピーカーは、アナログの電圧を受けてアナログの音圧を発生する、アナログ機器です。つまり、スピーカーやイヤホンに電気信号が到達した時点で、すでにその電気信号はアナログの電位変化になっています。

スピーカーやイヤホンの性能とは、そのアナログの電気信号を、どれほど忠実に、物理的な空気の振動に変換できるかという点にあります。物理的な構造の問題です。

(注)ワイヤレスイヤホンでは、ワイヤレス信号の転送はデジタルで、イヤホンの内部にDAコンバーターが入っています。しかし、DAコンバータの性能はどれもあまり変わらず、音質を決めるのは、主にイヤホンのメカニカルな要素です。

今週のピックアップ

n進数の説明を聞いたときに10を表す数字を設定すれば11進数を作れるのかなと考えた(理2)


その通りです。実際に、コンピュターの世界では16進数がよく使われます。16進数で使われる”数字”は以下のとおりで、Aという文字が10を表しています。

0123456789ABCDEF

16進数

人間の耳は空気の疎密波を拾い、アナログ的に音を知覚すると思いますが、脳はデジタルなのでしょうか。神経細胞の興奮は「全か無かの法則」があるように離散的に表せる部分があると思います。ただ、一つ一つの神経細胞は興奮の大きさが一定ですが、軸索の束の神経となると刺激の強さによって興奮の大きさは異なり、グラフが曲線になるのでそこはアナログ的であるのかなとも思いました。つまり、脳にはアナログもデジタルもどちらの面もあるということでしょうか。(農)


これまで講義で習ったことを踏まえて、統合して、一つ先を考えている。素晴らしい質問ですし、アナログもデジタルもどちらの面もあるというのは、これ以上ない素晴らしい答えです。

神経細胞が1つや2つしかなければデジタル的な情報処理しかできませんが、それがたくさんあることで、まるで量子化のビット数を増やしたように、実質的にはアナログ的とも言える表現が可能になります。

エスカレーターをアナログかデジタルか分類するとしたらどちらになるのでしょうか。(教)


いい質問ですね。皆さんは、どう思いますか?

デジタルとアナログの話を聞いて、はじめに思い浮かんだ例は区分求積法だった。ほかにも、少し考えてみると、線を点の集合と考えること、などもこの例として挙げられると思った。数学はまさにアナログをデジタルにしていくためにはとても重要な学問だと気づいた。(医保)

デジタル化、アナログ化が微分積分によく似ているように感じたので絶対に関係がありそうだと考えたが、二つが同じ概念なのか、よく似ているで少し違うものなのかが気になった。(工1)


そうですね。数学では、よくデジタル(不連続でとびとび)とアナログ(連続でなめらか)の間を行き来します。たとえば、講義でやった周期のある音のフーリエ級数展開はデジタルで、それを無限に拡張したフーリエ変換はアナログです。

足し算でも、Σ(シグマ)はデジタルで、∮(インテグラル)はアナログです。

すなわち、デジタルによる“とびとび”の区分を、無限に小さく滑らかにした極限がアナログです。そして、その往来に横たわる溝が「無限」なのです。

現実にある物質は細かく分けていくと原子や素粒子といったものに分解できるとすると、それ自体が離散的なデジタルの量になってしまうように思います。この場合、真にアナログなものなど存在するのでしょうか。(理)

人間は有毛細胞にK+が入ることで音の振動が電気的な信号に変わって脳に伝わることで音を聞いていると習いましたがこの場合人間はアナログ的に音を聞いているといえるのかデジタル的に音を聞いているのかどちらだと言えるのか気になりました。(農)


とても良いところに気付きましたね。K+(カリウムイオン)は、1つ2つと数えられるので、デジタルですよね。

みなさんは、どう思いますか? 

コンピュータが二進数を使う理由について、複雑な処理を簡単な処理に分解し、処理の回数を増やすことで結果、複雑な処理をしていることを学んだ。(農)


10進数は、能力の高い人(キャパの大きい桁)が少数で仕事をする、少数精鋭型。2進数は、能力の低い人(キャパの小さい桁)をたくさん集める、人海戦術型。

コンピュータや脳がそうであるように、人海戦術型では、単純な要素(0か1か、発火するかしないか)を、気の遠くなるほど膨大にたさくん集めることで、おどろくほど複雑なことが出来るのです。

世界中で売れに売れまくっている劉慈欣の本格派サイエンス・フィクション『三体』では、単に手旗を上げ下げするだけ(2進数)の3000万人の兵士が 1 辺 6 キロメートルの正方形に並んで、巨大な「人列コンピュータ〈秦 1 号〉」になり、驚異的に複雑な計算をします。これはもちろん空想ですが、原理としては、正しいものです。

機材のピークが超えることをいうクリッピングと音の出しすぎが原因で起こる「音割れ」という現象は同義なのでしょうか?録音機器が拾える音の限界を超えているという意味では似ているなと思ったのですが実際に今回の講義でクリッピングの例を聞き、私の知っている「音割れ」とは異なるように聞こえました。(工3)


そうですね。クリッピングと音割れは関連していますが、正確には少し意味が違います。クリッピングは、アナログ・デジタル変換で起こる現象で、音割れは、音の聞こえかたを表す言葉です。

クリッピングは、アナログ信号をデジタル信号に変換する時に、デジタルで表現できる数値の範囲を信号が超えてしまうことです。そして、クリッピングの起こったデジタルデータを再生すると、「音割れ」した音が聞こえます。あるいは、スピーカーやイヤホン(どちらもアナログ機器)で音を再生するとき、機器が再生できる範囲をこえた大きなアナログ信号で駆動したばあいにも、「音割れ」が起こります。この二つは、聞こえ方は似ていても、原因が違います。

アナログの時計の中でも、秒針がなめらかに動くものと一秒ごとに動くものがありますが、秒針が一秒ごとに動くアナログ時計は、デジタルではないですか。経1)


そのとおり、1秒2秒という数えられる単位で針が動けば”デジタルに”時を刻んでいます。ただ、デジタル時計という意味でのデジタルは(針でなく)「数字」という意味でしょうから、そういう意味ではデジタル時計とはいえませんね。

IPhoneのカメラで星空を撮った際にカメラが勝手に最適な光のレベルに調節してくれたことを思い出しました。このように最適なレベルを調節してくれる機能があるのに音の世界には同じような機能がないのはなぜでしょうか。(工1)


いえいえ、スマホの標準的な録音アプリは、自動的にレベルを調整していますよ。つまり、小さい音は大きく、大きい音は小さくすることで、適切な音量で聞こえるように自動的に調整してくれています。

これは便利ですが、おせっかいに感じることもあります。というのも、音量の変化の大きいクラシック音楽の録音では、小さいはずの音が大きく聞こえたり、大きいはずの音が小さく聞こえたりして、本来のダイナミックレンジがきちんと表現されないからです。

クラシック音楽の録音では、自動ではなく、マニュアルでレベル調整のできるアプリや機材を使うのがおすすめです。

MIDIの演奏では生演奏に比べると、音楽の揺らぎや演奏家の細かな演出や動きが全く感じ取れなかったです。しかし、生演奏の方では指揮者やオーケストラ奏者の映像と共に聴いていたので、そのような視覚的情報によって揺らぎを感じていた可能性もあるかなと思いました。視覚的情報に強く影響されるのなら、あの映像にMIDIの音声だけつけても同じように揺らぎを感じてしまうのか疑問です。(人文)


もっともな指摘です。演奏者の動きが視覚的に見えることで、音の繊細な動きが、いっそう感じられやすくなります。わざわざコンサートホールに足を運ぶ、理由の一つでもあります。

ただ、目を瞑って聞いても、確実に違いはあります。確認してみてください。

私は教育学部音楽科でピアノを教えていただいている先生に「ただ間違えないように弾くだけなら打ち込みの方が良い」という旨のことを言われたことがあります。それからなるべく自分が何を表現したいのかを考えながら演奏することを心がけていますが、打ち込みで完全に表現したいことを再現することは難しいのでしょうか。一音ずつベロシティやタイミングを細かく調整することで生演奏に限りなく近づけることは可能なのでしょうか。(教2)

複雑な表現も楽譜に書けばいいのではないでしょうか。そうすれば同じような演奏になると思うのですが。またとてもうまい人の表現を真似したいなら、楽器を整数で表すようにその人の癖や特徴を一般化して他の楽譜に応用できるシステムにすればいくらでも表現できると思います。(工)

MIDIでもミリ秒単位で音の大きさを変えたり、揺らぎを生み出したりするのは上手く編集すれば可能なのではないかと思ってしまう。(医医1)


理屈としては正しいです。

しかし例えば、「君のことが好きだ」という同じ文字を声に出して読んだ音声は、100人いれば100人とも、すこしずつ違いますよね。声の高ささ、大きさ、声色や、読む速さや間合い、アクセントや、滑舌の良さや、とにかく色々なことが違います。それらはもちろん、録音してデータにできるわけですから、数値化することも可能です。

しかし、それを「楽譜のように記号化して記載する」ことは、実質的に無理だと思いませんか?

音楽では、ひとつの旋律の演奏にも、無限とも言える可能性があり、それをすべて楽譜に記載して指定することは、理論的には可能でも現実的に不可能です。記号化して、つまり離散化して記載できないものは、MIDIのデータにできません。

だから結局、生演奏をして、その音を録音した方が早い、ということになるわけです。

さらに、演奏家は、単に毎回おなじ音楽を、機械のように再生しているわけではありません。会場の音響や観客の反応、一緒に演奏している仲間の出す音などに応じて、その場で、瞬間的に、出す音を微調整しています。つまり、演奏とは、能動的でcreativeでリアルタイムな作業です。

演奏家の代わりをするような人工知能(AI)が開発される可能性はあると思います。ただしそれは、MIDI技術の延長とは異なるものでしょう。

人間の遺伝子はATCGの四つの組み合わせによって情報が作られているがこれも数字に置き換えててしまえばデジタルなものと言えるのだろうか。(人文)

デジタルのものによく似た仕組みのものにDNAがあげられる気がしたが、DNAの場合機械的に配列された塩基の組み合わせが、複雑なたんぱく質(の元となるアミノ酸)を指定しているが、それを翻訳するときどこから翻訳し始め、どこで終止するのかで全く異なるたんぱく質になってしまう。従って同じ塩基配列でもどこから読み始まるかで大きく内容が変わってしまうが、デジタルなコンピュータなどのシステムではどのように記録されているのだろうか。(理)


遺伝子は、まさにデジタルですね。

遺伝子もそうですが、単なる記号の羅列は、どこを出発点に、どのような単位で(1 bitずつか、2bitずつかなど)読むかで、全く違う意味になります。

コンピュータでは、それはファイルの種類ごとに予め決められているか、ファイルの先頭(ヘッダーといいます)に、このファイルはどうやって読んだら良いのかの説明が記してあります。

そのほか

デジタル


指は英語で fingerとも言いますが、digit との違いはあるのですか?(人)


finger とは本来、親指以外の4本の指のことです。つまり、「4 fingers + thumb = 5 digits」が正式です。一般では親指も含めてすべてfingerとされる場合もありますが、医学や学問の世界では、正式には親指は thumb であってfingerではないとされます。

ビットの桁数の多い数値の音(=大きな音)ばかり出てくる曲を聞くとデータ量が増えてしまうということですか?いや、でも、使わない桁も「0」で表すなら結果的にどの音(=例えば小さな音)でもデータ量的には変わらないんでしょうか?(人文)

一曲の中で、bit数を変えれば、データ量は少ないが音質の良い録音ができると考えました。そのようなことは一般的に行われていますか。(農)


使わない桁が、本当に使わない桁であるかどうかを示すには、そこに「0」を明示しないといけません。つまり、無音10秒と、うるさい音楽10秒は、まったく同じデータ量です。

無駄ですよね? このような無駄を省こうというのが「データ圧縮」の技術で、mp3などで利用されています。音質をなるべく犠牲にしないように工夫をしながら、データ量を減らしています。

2番目の受講生が言うように、曲の場所によってbit数を変えるのも、その工夫の一つです(可変ビットレート)。

テレビの放送でアナログ放送とデジタル放送というのがある。アナログ放送では連続的なデータを送受信しており、デジタル放送より情報量が多く元の映像に近い状態であるはずなのに、デジタル放送の方がきれいな映像なのはなぜか。(工)


TVはデジタル化して、画像は綺麗になりました。これは一見、矛盾です。デジタル化で、とびとびにしているのですから。

TVがデジタル化された理由は、電波の有効利用です。携帯電話などの普及により、電波の周波数帯域はとても貴重な資源となりました。従来のアナログ方式で、今のような高画質の放送をしようと思うと、非常に多くの電波帯域を独占する必要があります。そこで、使用する電波帯域を少なくしながらも画質を高めるために、デジタル方式が採用されました。

動画は音楽と同じように1秒間に何フレームも表示しており、離散的ですが、その1フレームごとの映像の画素にまで色を数値として割り当てているのでしょうか。その場合、ものすごいデータ量になると思い、処理しきれるのか疑問を持ちました。(工)


だから動画は、データ量が大きいのです。例えば、毎回フルHDで録画しているこの講義、90分で4ギガから5ギガくらいあります。音楽や画像では、これほどの大きなファイルは見かけませんよね。


私はデジタルについて習ったことがあるのですが、そこではデジタルにした音はアナログに戻すことができない、と習いました。(経)


アナログには変換できます。ただ、最初と全く同じものは復元できません。

なぜなら、アナログ情報をデジタル化すると、必ず情報が失われるからです。失われた情報は、どうやったって戻りません。

ピアノは音が階段状になっているのでデジタルと言えるのですか?とすると、ピアノの生演奏とMIDI演奏は変わらないのですか?(医保)


その通り、音の高さは階段状のデジタルです。鍵盤と鍵盤の間の中間の高さの音はだせませんよね。しかし、ピアノの演奏をするときには、鍵盤の叩く強さやタイミングで、音の強弱や音色やリズムに、無限の変化をつけることができます。演奏はアナログなのです。

一方、MIDIは、音の強さやタイミングまでがデジタル化されているので、演奏までもがデジタルです。

エレキギターは、ギターの音をデジタル化したものなのでしょうか。ギターをアンプに繋ぎ、音を歪ませています。一見すると、電気的要素があるためデジタル化していると言いたくなります。しかし、今日の授業でデジタル化についての知識を得たあと、この一連の処理はデジタル化とはいえないのではないかと感じました。(経)


その一連の処理は、正真正銘のアナログです(音色の処理にデジタルプロセッサーを使わない限りは)。

コンピュータ

ビット数が大きい方が一度に扱える情報量の大きさが違うことが理解出来ました。ということは、ビット数が大きい方が、一度に多くの情報量を扱うため、スマートフォンやパソコンの発熱が起こりやすいということでしょうか??(教)


そもそも、なぜコンピュータでは熱が発生するのでしょう? 

コンピュータ の内部では、非常に高速に0と1が切替わっています。0か1は電圧の違いですから、0と1が切替わるということは、電子が動いて電流が流れるということです。この電子の動きが熱を生みます。途中に電気抵抗があるからです。ですから、ビット数が増えたり、計算の速さ(クロック数)が上がったりすれば、それだけ多くの熱が生じます。

文字化けの原理で色化けのような現象は起こるのか疑問に思った。(人文)

色には、RGBやsRGBやCMYKなど複数の「変換表」があって、正しく使わないと、意図したのとは違う色が出てしまうことがあります。しかし、これは文字コードほど多くの種類があるわけでなく、また、規格が世界でよく統一されており、さらに、仮に間違ったとしても似たような色になることも多いので、「色化け」のようなことは起こりにくく、また起こったとしても気付きにくくなっています。



色を表すのにカラーコードというものがあると思いますが(#000000など)講義の「色を整数で表す」とはこれのことでしょうか?講義では8bit×3(RGB)とあったと思うのですが、コードは6桁なのでRGBそれぞれで2桁使っているとしたらアルファベット交じりの16進数で表されているという事でしょうか?(人文)


その通りです。正しすぎて、補足することはありませんが、それだと他の人が分からないと思うので説明します。

まず、16進数は数を表す文字が16個必要なので、「0123456789ABCDEF」となります。Fが最大値で、15に相当します。

そしてRGBの3色それぞれにつき、(16進数で)2桁ずつ、合計6桁で表現します。00-00-00は、RもGもBも、全てゼロなので「黒」です。FF-00-00は、赤だけが最大値なので、「一番明るい赤」です。FF-FF-FFは、全てが最大値なので「白」です。



音楽とデジタル

MIDIと生演奏のデモンストレーションが紹介されましたが,表現の豊かさが全く異なり,非常に驚きました.言葉で表現するのは難しいですが,とても感動しました.(工)

MIDI演奏と生の演奏とでは音色が全く違うように感じられて、プロの演奏家のすごさを感じた。(人文)

MIDIの音楽も良いと感じたのですが、それ以上に生演奏の強弱の絶妙な付け方やホールによる響きなどの様々な要素によって曲の美しさが何倍にもなっていると感じ、音楽に携わっている人達への尊敬の思いがより一層強まりました。(理)

MIDIと実際の演奏の違いがあまりわからなかったです。(理)


普段からクラシック音楽に親しんでいると、MIDI演奏と生演奏の圧倒的な違いは、あえて説明する必要のない自明すぎることです。意外にこれを知らない人が多いので、念のため、授業で紹介しています。

違いがわからなかった人や、ここで初めてこの違いを理解した人は、これまであまり音楽に触れてこなかったのだと思います。いやいや、そんなことはない、たくさん聴いていると思うかもしれませんが、ダニング=クルーガー効果を思い出しましょう。量は分かりませんが、種類が偏っているのだと思います。

もっと、生のクラシック音楽に触れてみましょう。音楽が、もっともっと楽しくなりますよ。

MIDIではアナログ情報の点において生演奏にまだ敵わないという話をされていたが、ボーカロイドを用いたボカロ曲では呼吸感のあるものもある。いわゆる“神調教”と呼ばれる曲である(↓一例です)。このようなものがあることから一概に敵わないとも言えない気がするがどうか?(工)

確かによく作り込まれていますね。

しかし、人の歌声の表現の豊かさにはかなわないというか、まったく別次元のものだと思いますがどうでしょう? 5分ほどなので、ぜひ最後まで聞いてみてください。

マーラー作曲交響曲第2番『復活』から第4楽章「原光」

Mahler: Symphony No. 2 "Resurrection" - IV. Urlicht. O Röschen rot
Provided to YouTube by Universal Music GroupMahler: Symphony No. 2 "Resurrection" - IV. Urlicht. O Röschen rot · Marilyn...

音とデジタル

標本化定理(2倍の周波数でサンプリングする)について

信号が含む最高周波数の2倍のサンプリング周波数で記録すればよいということだが、なぜ2倍もいるのか疑問に思った。(複数)

最近窓から見える電柱にずっと鳥が止まっているなと思っていたが、よく考えるとみるタイミングで鳥が止まっているだけかもしれないなと思った。(理)


なぜサンプリング周波数は、2倍必要なのでしょう? 自分で考えて、正解に辿り着いた学生もいますが、ヒントを出しましょう。

夜は電線で寝て、昼は街で飛び回るカラスがいるとします。活動の周期は1日ですね。そこであなたは、毎日1回、つまり周期1日で、夜にカラスを観察するとしましょう。するとカラスは、ずっとそこに留まっている、という結論になります。これでいいですか?カラスの活動周期を知るには、1日に少なくとも何回観察をすれば良いですか?

ここ最近話題のハイレゾ音源ではサンプリング周波数が96kHzであったりしますが、40kHz程度で十分なのですから、聞いたときにそこまで変わらないような気がします。(実際に聞いても私は違いが分かりませんでした。)(理)


CDのサンプリング周波数は44.1kHz、量子化ビット数は16bitであることは、講義で説明しました。これを超えるスペックでデジタル化を行なっているのがハイレゾの規格です。例えば、96kHzの24bitなどです。人の聴覚の能力を考えると、理論的には意味のないはずのものですし、私も違いがわかりません。ただ、一部の音楽マニアは大金を出してこういった機器を買い揃えています。

SACDはCDより音がいいとされていますが、デジタル化の方式はどのように異なるのでしょうか?(法)


SACDとはSuper Audio CDという、超高音質のデジタル化技術です。講義で説明したものとは、まったく異なる原理でデジタル化しています。音は縦波(疎密波)だったことを思い出してください。縦波にある媒体の粗密を、そのまま表現しようとするのが、SACDの採用するDSDというデジタル化方式です。SONYのウェブサイトなどに説明があります。

デジタルにすることによって離散的にするのではなく、アナログの連続的な波をそのまま保存するというのがあのでっかい円盤なんですかね?あれは針で窪み?を作っていると思うんですけど、カセットテープはどうやってアナログの波を保存しているんですか?あの黒いテープに窪みがあるわけでも無さそうですし…、どんな仕組みなんですかね?


レコードの原理についてはその通りです。レコードの溝の凹凸が、そのまま波形の凸凹を表していて、針がその凸凹をなぞることで、その針の振動を増幅して音にしています。カセットテープには、細かい磁性体の粉がついていて、そこに記録される磁気の強さで音の波形を表しています。

なお、私はあなたの友達ではありません。言葉遣いには気をつけましょう。「あのでっかい円盤」が「レコード」という名前なことも、少し調べればすぐにわかることです。

たまにこういう、レポートらしからぬ書き方のメールがあります。場をわきまえた正しい言葉の使い方も教養のうちです。

録音の際、音が割れてしまった音声は音が割れないように編集することは可能なのでしょうか。録音した時のデータが全てとなり、編集はできないのでしょうか。(経)

16bitでレコーディングされた音楽をダウンロードして16bit以上にして聞くことはできるのですか?(歯)


直せません。録音でクリッピングが起きた時点で情報が失われています。記録されていない情報を、あとから復活させることは原理的に不可能です。

できますが、できません。つまり、形式的にはできなくもないですが、実質的には16bitの音楽のままで音質はよくなりません。デジタル化(離散化)で切り捨てられた情報は、復元が不可能です。

コンクール用に演奏している音をiPhoneで録音したら、強弱の違いが全くわからなくなってしまい、ちゃんとした録音機で取り直したことがあります。iPhoneが有能なのか無能なのかわからなかったです。これがクリッピングですか?(農)

自分のピアノの演奏を録音した際に、抑揚や強弱がいまいちうまく録音できず、生音よりも物足りない録音になることがあった。録音機器がiPhoneにデフォルトで入っているレコーディングアプリだったため、録音の性能的にクリッピングのような、音をデジタル化するにあたっての問題点があったのだろうか。(人文)


クリッピングではなく、クリッピングを防ぐ機能です。

iPhoneの録音ソフトは、録音レベルを自動で調節する(賢いとも言えるし、お節介とも言える)機能がついています。つまり、小さい音は大きく、大きな音は小さく調整して、ちょうどいい範囲に収まる様にしています。会議などの音声の録音には重宝します。でも、強弱こそが大切なクラシック音楽の録音には不向きです。

録音レベルの自動調節機能のない録音アプリを使うか、専用のレコーダーを買いましょう。

エレキギターの歪みもクリッピングによるものですか(農1)

金管などの管楽器が「音を割る」ように表現するものは、クリッピングと関係があるのか。(工)


クリッピングはアナログをデジタルにするときの現象ですが、質問してくれた現象は純粋にアナログの現象です。

アナログ機器の入力電圧には適正な範囲があります。それを超えて大きな電圧をかけても、音を出すための膜(スピーカーの構造については講義で説明しました)が、それについていけないので、振動の大きさが頭打ちになります。結果としてクリッピングに似た状態になり、音割れが生じます。

金管楽器も、楽器が許容するより大きな音を出そうとすると、似たような状態になります。トロンボーンで起こりやすい印象がありますね(なぜだか知りませんが)。

クリッピングにならない条件は分かったのですが、防ぐためにはどのように対処したらよいのでしょうか。(教)


録音しようとしている音(音楽や声)の最大音量が、デジタル化で許される最大音量を超えないようにすれば良いのですが、これをするには、事前に、音源の最大音量を知っておく必要がありますね。



その他

今回の二進数と十進数の説明や三角関数のsinとcosの説明の際も思いましたが伊藤先生はものごとを説明することがとても上手であると感じました。誰でもわかるような言葉を適切な順に組み合わせ、かつ長くなりすぎない簡潔な説明にいつも憧れがありました。質問なのですが、物事を説明するとき意識していることは何ですか。(工)


どんなに難しいことを説明する場合も、「誰もが確実にわかるところ」から出発することです。そして、子供の手を引いて横断歩道を渡るように、相手の足取りを確認しながら、一歩ずつ進んでいきます。