受講生のおすすめ図書

伊藤が挙げた図書受講生の見つけた図書
推薦文
川原繫人『音とことばのふしぎな世界』川原繫人『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』 本書は、タイトルから明らかなように、「音声学」に関する本である。「学」という文字から堅苦しい内容なのではないかと感じるかもしれないが、決して身構える必要はない。著者は、「本書の大事な目標はみなさまの知的好奇心の扉をノックすることだ」としており、音声学について時間をかけることなく概観し、教養の前提として音声学に関する知識を得たいと考える人に向いているといえよう。音声学者である夫婦が、子育ての過程での気づきや発見に音声学の観点から検討を加える形式が採られ、それゆえ私たちにも身近な内容が中心となっている。本書は新たな知識と発見に溢れているが、中でも特に興味深いと感じた内容を挙げたい。 みなさんの好きなおやつは何だろうか、ポッキーやプリッツはどうか。このほかにも、ディズニーキャラクターのミッキー・ミニーなど、可愛らしいものには「m」や「p」のような両唇音(両唇を使う音)が使われている例が多いようだ。それは、両唇音は赤ちゃんが使う音であって、人間はそこに可愛らしさや親しみやすさを感じるからだそうだ。では、なぜ赤ちゃんは両唇音を使うのか? ジブリ映画『となりのトトロ』の中で、めいは「おたまじゃくし」を何と呼んでいたか。そう、「おじゃまたくし」と呼んでいた。これは本書の記載から私が想起した例であるが、このように子供の言葉に見られる「ひっくり返る」現象を音位転換という。この現象は大人にも見られ、転換後の音がそのまま定着してしまった例も複数あるそうだ。東京都の地名である「秋葉原」は何と読むか、素直に読めば「あきばはら」では?「雰囲気」という漢字にふりがなを振るよう指示されたら「ふんいき」と書くだろうが、日常会話では何と発音しているか? 以上2つの例とそれに関する問いを投げかけた。問いの答えを知りたい、より音声学について知りたいと思った方には是非とも本書を手に取っていただきたい。
ダーウィン『種の起源』を漫画で読む更科功 『進化論はいかに進化したか』 この本をお勧めしたい人は、少しでも「進化」という事象に興味がある人である。漠然と進化について興味がある人でも、進化のプロセスを知っていてもっと知りたいと思う人でも、事前知識の有無は関係なく、興味があれば楽しめる本だろう。 この本の内容はタイトル通り、ダーウィンの進化論の概要とそれが世の中にどう評価され、現在の進化論が生まれたのかという過程を知ることができる。さらに、後半には、その進化論に基づいて、生物の素朴な疑問のような進化の過程について記されている。ダーウィンは根っからの科学者ではないし、間違って認識していたこともある。それでも今このように称えられているのには理由があり、偉大であることに変わりはない。読み終えたときそこに気づき、ダーウィンにも進化生物学にも親しみを持てるようになれて、爽快な気分になるだろう。 この本を読んで気づいたことは、自分の思い込みの多さだ。例えば、『種の起源』はあんなに有名なのだから、ダーウィンの進化論というものはたくさんの人に歓迎され支持されたのだろうという思い込み。しかし、『種の起源』とダーウィンの進化論は必ずしも同じではないことや、出版当初は批判する人も多くいたことを知った。ほかには、肢は陸上を歩くものであるという思い込みである。進化の過程で肢を獲得した生物は陸上に進出するという思い込みのせいで、水中での肢の利点に気づくことができなかった。このような思い込みや主観的な考えのせいで、進化論の進化の途中に誤解するようなことがたくさんあったことにも気づくことができる。この本は、進化論について誤解されやすい点について多く解説しており、自分の中での誤解が多いほどその種明かしがたくさんあって面白いのではないかと考えられる。したがって、進化論について曖昧な話しか聞いたことのない人が読んでも面白いかもしれない。
佐藤雅彦、菅俊一「行動経済学まんが ヘンテコノミクス」」松村真宏「仕掛学 人を動かすアイデアのつくり方」」私は課題図書の「行動経済学まんが ヘンテコノミクス」の参考図書として、「仕掛学 人を動かすアイデアのつくり方」という本をお勧めします。私は経済科学部に所属していて、今後は行動経済学について深く学びたいと思ったので、この本を選びました。この本は、行動経済学や心理学、もののデザインなどについて学びたいと思っている人に強くお勧めします。「仕掛学」とは、デザインや構造にほんの少し工夫を加えることで、人の行動がどのように変わるかを研究する学問です。例えば、みなさんは、バスケットゴールのついたゴミ箱をみて、何を思いますか?ごみを捨てたくなりませんか?コインスライダーのついた募金箱をみて、何を思いますか?ついついコインを入れてみたくなりませんか?このように、人が「ついしたくなる」には、仕掛けが隠されています。この「仕掛学」は「行動経済学」と似ているようで少し違います。仕掛学は「つい」ごみを捨てたくなる、「つい」募金したくなるといったように、「つい」の部分、つまり人がなんとなく行動してしまうというところに重点が置かれています。対して行動経済学は課題図書の中で取り上げられていた新近効果(複数の情報を提示されたときに後に提示された方の印象が強くなってしまうこと)や上昇選好(報酬などはだんだんと増えていった方が仕事に対するモチベーションが上がる)などのように、人の心理を利用した心理学的な部分に重点が置かれています。このように、仕掛学は何かが仕掛けられた状況下での人の意識的な行動に注目し、行動経済学では人の無意識的な行動に注目します。では、この仕掛けのアイデアには他にどのようなものがあるのでしょうか、そしてその仕組みはどうなっているのでしょうか?続きはこの本を読んでからのお楽しみです。「行動経済学」との相違点はどこかを考えながらぜひ読んでみてください!
下條信輔、サブリミナル・マインド茂木健一郎、意識とはなにか突然ですが皆さんは「自分」とは何かについてこれまでの人生で少なくとも一回は考えたことがあるのではないでしょうか?自分とは何なのか深く考え続けているとこの世に存在していること自体が不気味に感じ急に孤独という不安にさいなまれたことがある人も中にはいることでしょう。この「自分」ないし自分を取り巻く「意識」について脳科学の見地に基づき細かく解説しているのが今回私の紹介する茂木健一郎著の「「意識」とは何か?」です。結論を先にいうと現代科学において「意識」とは脳の神経活動によって生み出されているということ以上のことは全く分かっておらずブラックボックス化されているといいます。したがって著者は「クオリア」をキーワードに別視点のアプローチから心と脳の働きについて解説しています。クオリアとは簡単にいうとあるものがあるものたらしめる個々の質感のことで例えば「とうきょう」という言葉を聞いたときその言葉の響き、頭に浮かぶ都会のイメージ、東京スカイツリーなどのシンボルといった連想される要素のことをクオリアと言い、私たちはその組み合わせによって「とうきょう」が「とうきょう」であると認識しています。なぜ個人個人によって認識の差異が生まれるのか、そして意識とはいかにして発現するのかなど非常に興味のそそられるテーマをこのクオリアというキーワードを用いて解き明かしていきます。意識という非常にあいまいで不明瞭な概念はどのように形成されていき、個性と表されるように人との違いは何に起因するものなのかなど私自身今まで疑問だったものの多くがこの一冊によって解決されました。本書のタイトル通り「意識」とは何なのかについて科学的に理解したいと思っている方にはうってつけの本だと思います!
佐藤 雅彦/菅 俊一【原作】/高橋秀明【画】 行動経済学まんがヘンテコノミクス著者:内藤 誼人 題名:『世界最先端の研究が教える すごい心理学』 私が推薦する本は、『世界最先端の研究が教える すごい心理学(著者:内藤誼人)』です。この本は、「心理学にちょっと興味がある」「読書に時間をかけたくない」「テンポよく読みたい」「自分の行動を客観的に理解したい」「人生ちょっと得したい」という方におすすめです。この本の特徴は、主に2つ。 1つ目は、1つの事例につき、およそ見開き1ページの文章量にまとめられていることです。本文は、タイトル→日常生活の例→研究とその結果→筆者から一言。この流れに沿ってバリエーションに富んだ様々な研究が紹介されています。『心の不思議』がわかる心理研究、『え?本当に?』意外な心理研究、『人間』が見えてくる心理研究、ちょっと怖い心理研究、こんなことまで扱う心理研究、の全5章に分かれており、「読みたい章から読むも良し、テキトーに開いて読むも良し」です。 2つ目は、本文の重要箇所が「太字とマーカー」で強調されていることです。これは、「本を読みたいけど、やっぱり面倒くさいな…」という方におすすめです。正直なところ、私は読書・細かい文字を読むことがかなり苦手です。しかし、この「太字とマーカー」をとりあえず読み、もっと知りたいと思った箇所だけ踏み込んで読めばいいのです。また、一度読んでも忘れてしまいます。そんな時にも「太字とマーカー」さえ読めば、おおよその内容は思い出せるので便利です。 最後に、おすすめの内容を一部ピックアップして紹介します。・着ている服が行動を変える・敬意を払う「対人距離」・男性が見られるところ、女性が見られるところ・やっぱり自分が一番好き!・看護師、致死量の薬投与の危機・男女の関係で後悔しないために・子どもの人気は親が決める?・顔が大きいと、出世する・白いシャツを着ていると「いい男」に見える日常で使えることから、つい笑ってしまう内容まで、読み飽きることはないでしょう。
V. S. ラマチャンドラン 脳の中の幽霊ゲアリー・マークス KLUGE 脳はあり合わせの材料から生まれた私が本書を今回の題材に選んだ理由は、図書館の脳科学コーナーを見たときに、背表紙が明朝体やゴシック体で書いてある分厚い本が並ぶ中に、コミカルな字体で背表紙が書いてある本書があって、中を読むと人が使う思考回路がコンピュータと比較して具体的な状況や実験を使って説明されていて、もっと読みたいと思ったからである。本書の良い点は2つある。1つ目は、脳とコンピュータの思考回路の違いを、「生物の進化はその場しのぎでごちゃごちゃしている(KLUGEである)」という考え方の下、互いに比較して書いているので、説明の構図を理解しやすいことである。これは著者のゲアリー・マーカスが、言語獲得とコンピュータ・モデリングを専門としており、どちらの知識にも精通している学者だからこそ出来ていることである。ちなみに、タイトルのKLUGEは「不釣り合いな部品を寄せ集めた奇怪な代物である」のようなことを意味するコンピュータ言語である。2つ目は、詳しい注釈がたくさん載っていることである。これは心理学などの専門用語に対してだけではない。外国の本を読んだ人の中では、日本ではあまり知られていないが外国では有名な人物や出来事(ハリウッド俳優や外国で起こった大事件など)が具体例やジョークなどで出てきて、それが分からないがゆえに、小説では登場人物の感情が、研究書などでは筆者が何を伝えたいのかがわかりにくいと思った経験はないだろうか。この本では、こういったものだけでなく、「この命題の逆は成り立たない、それは~だからである」といったことまで書いてあって、この多くの注釈が本文の説明に奥行きを持たせていて、ただ足りない知識を補完するだけではない注釈がとても興味深かった。本全体の結論はなく、絵や図を用いた説明は少ないが、それでも読みやすいと思えるので、脳科学に興味はあるけど、外国の本が苦手、と思う人に是非一度手に取ってほしい1冊である。
斎藤洋 「ルドルフとイッパイアッテナ」ロアルド・ダール 「チャーリーとチョコレート工場」この物語は、貧しい家庭に育つ少年チャーリー・バケットと、彼が体験する奇跡的な冒険を描いています。チャーリーは、世界一のチョコレート工場を経営する奇才ウィリー・ウォンカが開催する特別なイベントに参加する機会を得ます。ウォンカの工場見学に招待されるためには、チョコレートの包装に隠された5つのゴールデンチケットを見つけなければなりません。
運良くゴールデンチケットを手に入れたチャーリーは、家族のために工場見学のチャンスを手にします。彼とともにチケットを手にしたのは、4人の個性豊かな子供たちで、それぞれが自分の欠点や過剰な欲望を持っています。工場内部は、現実の枠を超えた奇想天外な光景と技術で満ちており、ウォンカの創造性と独創性が存分に発揮されています。各セクションにはユニークな仕掛けが施され、訪れた子供たちはそれぞれの性格に応じた試練を迎えます。
この物語の中心人物であるウィリー・ウォンカは、ルドルフとイッパイアッテナのイッパイアッテナに通じる部分があります。彼は非常に知識豊富で、奇抜なアイデアと無限の創造力を持つ人物であり、読者にとって魅力的なキャラクターです。ウォンカが子供たちに提供する試練や経験は、イッパイアッテナがルドルフに都会でのサバイバル術を教える過程と類似しています。両者ともに、知識と経験がいかに重要であり、それが生存と成長に繋がることを示しています。
また、チャーリーとルドルフの冒険も共通点が多いです。チャーリーが貧困の中でも純粋な心を持ち続ける姿勢は、ルドルフが未知の都会で困難に立ち向かいながら成長していく姿と重なります。彼らは共に、自分の内なる強さと友情の力で試練を乗り越え、最終的には新たな自分を見出します。
「チャーリーとチョコレート工場」は、夢と現実、創造性と倫理観の対比を巧みに描いている作品です。
岩堀修明 図解・感覚器の進化―原始動物からヒトへ水中から陸上へ川崎悟司 人間と比べてわかる 動物のスゴい耳図鑑メンフクロウの耳の穴は、高さや大きさ、位置が左右で異なります。この構造は音を効率的に集め、獲物の捕獲に役立ちます。動物は耳だけでも多様な種類があります。この本はそんな動物たちの耳を人間と比べてわかりやすく解説する「耳」だけにスポットを当てた動物図鑑です。 この本で、特筆すべきはそのわかりやすさにあります。最初の説明を聞いてメンフクロウの耳についてイメージできたでしょうか?この本では、そんな動物たちの耳の特徴を人間に当てはめたコメディータッチな絵を用いて、説明してくれます。また、耳についての説明はトピックごとにまとめてあり、読みやすくなっている。最近は情報を短くまとめた動画などが流行り、本を受け付けないという人が増えてきていると感じる。この本はパラパラめくるだけで大まかな情報が入ってくるため、気になった部分を読むということもできる。 前述の通り、この本は非常に読みやすく、頭に入ってくる内容だと思います。本を受け付けないという人にもおすすめできると思います。フクロウだけでなく他の動物の耳にも興味を持ったのならば、是非読んで欲しい一冊です。
斎藤洋 ルドルフとイッパイアッテナ後藤竜二 キャプテンはつらいぜこの本は主人公がブラック=キャットという小学生の野球チームのキャプテンとして様々な困難に立ち向かい成長していく物語です。小学生でも読むことが出来る文庫本のため文章自体が非常に分かりやすく、そして途中に絵も入っているため読みやすい本となっておりおすすめです。私はこの本を読んで、子どもの頃夢中になって遊んだりスポーツをしたりしたことを思い出すとともに、大学生になった今自分の好きなことややりたいことに一つでも夢中になって取り組んでいるものはあるのだろうかと考えさせられました。いつの間にかこの本の主人公のように一つのことを心の底から楽しむということはできなくなっているのではないかと感じました。また、人間関係においても得られるものがありました。主人公が不良になり自分のことを馬鹿にしてきた友だちに、チームに入って一緒に戦ってほしいと頼みに行く場面があるのですが、今の私たちにこのような正直で自分の気持ちに真っ直ぐな行動は出来るのだろうかと思いました。人間関係でトラブルが起こってしまった場合、その人とは距離を置いて関わらないようにしてしまうなと思い、自分の中で欠けてしまっている部分を感じました。正面から正々堂々とぶつかることは周囲の目が気になってなかなかできないと思いますが、時には必要な行動だと感じさせられました。この本は子どもの頃の純粋な気持ちや行動を思い出させるとともに、大学生になった今、改めて成長すること、素直になること、仲間との絆がどれだけ重要なのか考え直すきっかけになる本だと思います。大学生が読んでも得られることはたくさんあるのでぜひすべての大学生に一度読んで日々の生活を振り返ってほしいです。
鴻上尚史「『空気』と『世間』」鴻上尚史  「『空気』を読んでも従わない:生き苦しさからラクになる」 私が紹介するのは「『空気』を読んでも従わない」という本です。 本書は、世間というものは何なのかということを社会や空気との違いや具体例から説明し、空気に従わないことの重要性を強調しています。私は、今現在、人間関係が上手くいかなかったり、接し方が分からず、悩んでいる人はもちろん、今までに一度でも不安や悩みを抱えた経験のある人に、ぜひ読んでもらいたいと思います。 本書では、今まで日常で聞いたり、使ったことがある空気、世間、社会といった言葉の相違が分かりやすく説明されています。社会の中で生きる外国とは異なって、昔から根付いてきた世間が残っている日本、それによる日本人の価値観、文化の良くない点が著者の外国での経験から述べられています。同時に、その良くない点の対処、改善方法も述べられています。また、世間でも社会でもない空気というものをいかに日本人が注意を払いすぎているかが分かります。 今まで、空気を読むということをよく耳にしたことがあると思います。世間が残っているが故に、空気を読んで、それに従うことが大切であると思う人は多くいるでしょう。私もそのうちの一人です。しかし、この空気というものがどれだけ弱いもので、流動的であるかが理解できると思います。空気というものを理解すると、今まで空気を読んで、従っていたことが馬鹿らしく感じるかもしれません。 昔からずっと日本で世間が残り続ける中で、それに上手く対応するために、社会や空気に対する考え方を変えていくことが大切であると気付かされると思います。また、自分自身が人生を決めて、自分自身が幸せになることが第一であると改めて感じさせられると思います。 この本を読むことで、今まで人間関係に問題があった人は自分自身の考え方が大きく変わり、気が楽になると思います。
哲学の謎 野矢茂樹哲学するって、こんなこと? 篠原駿一郎 私は今まで哲学にあまり興味がなかったため、哲学について進んで学びを深めたり、本を借りるといったことは一切なかった。しかし、今回の期末レポートが哲学について考える良い機会だと思い、先生の参考図書で紹介された「哲学の謎」を手に取った。この本と出会い私は哲学に夢中になった。そこで私は参考図書と関連する、「哲学するって、こんなこと?」という本について紹介する。私は今まで哲学に触れてこなかった第一の原因は難しそうというイメージを持っていたためだ。答えの出そうのない問いをずっと考えてしまうのは時間の無駄とさえ内心思ってしまっていた。だが、私が見つけたこの本は、難しさや飽きるという言葉とは無縁で一つ一つのテーマを楽しみながら読むことができる。この本の魅力はテーマが特に哲学的なものではないというところにあると考える。なぜなら、どのテーマも生きているうちに一度は気になったことがあるだろうというものばかりだからだ。例えば、小さいころに嘘はついてはいけないと教わるが、本当にどんな時でも嘘はついてはいけないのか、なぜ戦争は終わらないのか、サンタクロースは本当にいるのか、時間は流れるのかなど、この本を読むとテーマは無尽蔵あり、どんなテーマも哲学的思考の対象になってしまうということがよくわかる。また、この本からは今まで生きてきてわかったつもりになってしまっていたもの、当たり前のように理解してしまっていたものでさえも絶えずその基盤を見直すという思索が重要なんだと強く実感した。これからは自分が気になったことは浅く理解するのではなく、自分の気が済むまで深く深く考えようと思った。 このように今まで哲学とは無縁だった私でさえも、ある物事について深く考える楽しさを理解しもっともっと哲学に触れていきたいと思った。ぜひ哲学にネガティブなイメージを持ってしまっている方は、この本を読み、楽しさを共有できたらなと思う。
V.Sラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリーの脳の中の幽霊茂木健一郎の「脳内現象」私は、「脳のなかの幽霊」の関連図書として茂木健一郎の著書「脳内現象~〈私〉はいかに創られるか~」の紹介文を書きたいと思います。著者の茂木健一郎は脳科学の第一人者として知られ、その独自の視点と豊富な知識を活かして、脳の複雑な働きを分かりやすく解説しています。本書では、脳の構造や機能に関する基本的な知識から始まり、意識のメカニズム、感情の生成、創造性の本質、自己認識と他者との関係性など、多岐にわたるテーマが丁寧に取り上げられていて、脳科学や神経科学に興味があったり、哲学や心理学に関心がある初学者にとてもおすすめです。本書では主に六つのトピックにより構成されており、一つひとつのトピックを読み込むことで理解を深めることができます。一つ目は、意識のメカニズムです。脳内でどのようにして意識が生まれるのか、そしてどのようにして私たちが自分自身を認識するのかについての説明、考察が取り上げられています。二つ目は、感覚の処理です。外界から得られる感覚情報が脳内でどのように処理され、知覚として形成されるのかについての説明が取り上げられています。三つ目は記憶の形成です。記憶が脳内でどのようにして形成、保存されるのか、長期記憶と短期記憶の違い、相互作用について説明されています。四つ目は感情の働きです。感情が脳内でどのようにして生まれるのか、感情がどのように私たちの行動や意思決定に影響するのかについての考察が取り上げられています。五つ目は創造性と脳です。創造性なアイデアや芸術的な表現が脳内でどのようにして生まれるのか、創造性を高めるための脳の使い方やトレーニング方法についての説明が取り上げられています。最後に自己意識とアイデンティティです。私たちがどのように自己意識をもち、アイデンティティを形成するのかについての説明が取り上げられています。これらのトピックを意識して、皆さんにも考えてもらいたいです。
岩堀修明 図解・感覚器の進化ー原始動物からヒトへ水中から陸上へ犬塚則久 「退化」の進化学―ヒトにのこる進化の足跡 私は参考図書である感覚器の進化という本を読んで、それに関連する『「退化」の進化学ーヒトにのこる進化の足跡』という本を読んだ。この本の内容を簡単に説明する。この本は人間の体に残る退化器官をまとめた本である。人間の体には、かつては機能していたものの、今はなごりとしてあるだけで、なにも機能していない骨や器官がある。または、進化の過程で、もともとの機能とは別の働きをするようになった骨や器官もある。大抵の人にはなくても、いわば先祖返りとして、過去の機能を彷佛とさせる特徴を持つ人もいる。耳小骨、ひ骨、結膜半月ヒダ、男の乳首などなど。人のからだのさまざまな場所に残る進化の足跡を、次々と紹介してくれる。
また、人体の構造がなぜこのようになっているのかに、脊椎動物の歴史や生物全体の歴史が現れていることを学ぶことができる。今回一番面白かったのは、腕と脛の違いだった。腕は肘を固定したまま手首をまわすことが出来るのに対して、足首を廻すには膝もろとも股関節動かさないと廻せない。爬虫類では両方同じ機能があったのに、足の使い方が変化して必要がなくなって退化したものだ。その証拠には、膝も腕も2本の骨があるのに、脛の方は一本は取ってしまっても構わなくなっていて、実際に骨の移植に用いられているそうだ。
各特長のある器官の歴史を読み解く中で、何か生物同士での親近感が湧くというか、何か不思議な気持ちになった。この本は生物に興味がある人にはもちろん勉強になるし、体を動かすスポーツや体操(筋トレ、ダンス、なども)をやっている人にも勉強になるので勧めたい。少し難しい専門用語が多く登場するので、読み進めるのは苦労するかもしれないが、図を見ながら解釈していくのが良いだろう。テーマごとにかいつまんで読んでいくのも可能である。
佐野洋子・加藤正弘『脳が言葉を取り戻すとき』佐藤正之『音楽療法はどれだけ有効か 科学的根拠を検証する』この図書は、医療現場に携わっている著者が様々な症状に対する音楽療法について、様々な検証やその結果、残る課題を中心に書いた文献です。認知症、失語症、パーキンソン病、脳卒中などの音楽療法について取り上げていて、理系、特に医学部の学生に参考にしてもらえるものとなっています。医学部の学生だけでなく、音楽が人間の身体や精神にもたらす効果について興味がある人にもお勧めします。人間の耳が音を聞く仕組みなど、この授業の内容とも被る記述があり、音楽療法を科学的に捉えたものとなっています。ただ音楽療法だけを取り上げているのではなく、最初の方にエビデンスの積み重ねについて説明されていて、医学では研究はエビデンス(わかっていること)を元に仮説を立てて調べていく方法があると書かれており、その方法について詳しく述べられているため私たち学生(特に理系)の研究にも大いに役立つものとなっていると思います。認知症や失語症など病症の話では、まず初めにその定義や症状、どのように生じるか、その分類などについて説明され、その病症に対する音楽療法の方法やその効果について述べられています。聞く音楽による効果の違いなども書かれていて、興味深い内容となっています。また、その効果にも症例研究や群研究など、様々な測り方についての説明もなされています。 この文献は、ただ音楽療法を称賛する内容とはなっていません。著者がある医者から聞いた経験談として、音楽が逆に認知症を悪化させてしまったという話が載せられています。音楽療法はリスクも伴っていることを言及されていて、療法の在り方について考えさせられます。失語症の療法としてだけでなく、様々な病症に対しても有効性がある音楽療法について科学的に追求したこの文献を、私は参考文献として紹介します。
野矢茂樹「無限論の教室」アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』「無限とはなにか」ということを考えたことはあるだろうか。日常的に私達が使っている意味としては「数え切れないぐらい大きい数」といったものがほとんどではないだろうか。また、そんな「無限」について考えようとしたときに自分が狂ってしまうほど思考を巡らすことができるだろうか。私が紹介するのは、アミール・D・アクゼル著作、青木薫翻訳の『「無限」に魅入られた天才数学者たち』である。本書は「無限」の誕生から現在に至るまでの様々な理論や解釈、問題などを天才数学者たちに注目しながら展開されていく。 私が本書を通して感じたことは「無限」に対する解釈の多様性である。私達が平然と使っているものに自然数がある。「1」から始まれば次に来るものは「2」、その後も「3、4、5…」と“無限に”続いていく。これは今の世の中で当たり前のことである。しかしなぜ私達はこの自然数を繋がりのあるものとして考えられているのだろうか。さらに言えば数直線で実数の並びを考えたときには分数や小数、無理数までもが一つの線の中に順番通りに並ぶものと考える。「無限」について思考を巡らせたときに今まで学んできたものとは違う新たな考え方に出会うだろう。一方で無限には「実無限」という考え方が存在し、どちらかといえば私達が考える無限に近い考え方である。人間が一生かけても到達できない領域、規模の話であり、それについて証明によって真偽を求めるなど考えられないことだと私は感じた。しかし、「天才数学者たち」は果敢にもそんな無理難題に挑むのである。精神を蝕みながらも「無限」に魅入られ、足を踏み入れたために逃げ出すことはできないのである。 本書は史伝的な側面が強いためこれだけでも楽しめる内容になっていると感じたが、私は「無限」についての知識を少しでもつけた上で本書を読むことを強くおすすめしたい。「無限」とはなにかを考えるきっかけになれば幸いである。
佐野洋子,加藤正弘『脳が言葉を取り戻すとき』恋塚弘『甦る!失語症克服の記録』 「失語症」を知っているだろうか。それは、話す、聞く、読む、書くという言語機能が損なわれている状態のことだ。本書の筆者である恋塚弘氏は、四十七歳でクモ膜下出血に倒れ、後遺症として重度の失語症を発症した。そして、思いがけない短時間で社会復帰を叶えた。「今日こそ死ぬか」という日々の中で、彼は周囲の人々から生きることを諦められた。しかし、彼自身は一度も生きることを諦めなかった。失語症を発症し、彼は周囲の人々から社会復帰を諦められた。しかし、彼自身は一度も社会復帰を諦めなかった。皆さんが同じ状況に置かれた時、果たして彼のように居られるだろうか。到底不可能だと思ったあなたも、本書を読めば彼のようになれる。そんな生命力に溢れる話だ。あなたやあなたの家族がいつ失語症になるかについては不可測である。いざという時までに読んでおいてほしいのが本書であるが、いざという時には、何から手を付けたら良いのか身動きが取れなくなるものだ。そのため、今のうちに読んでおくことを強くお勧めする。 先ほど「周囲の人々」から生きることや社会復帰を諦められたと述べたが、例外としてたった一人、筆者とともに全てを諦めなかった人がいる。それが、妻利子氏である。筆者は基本的にどこまでも前向きかつ活動的であるが、病気には必ず苦しいことが付きまとい、中でも言葉でのコミュニケーションが出来ないことは、例外なく筆者を苦しめた。その中で支え続けた利子氏の存在は、失語症の患者を持つ家族の在り方の手本となっているように思う。 失語症の影響は一生ある。この事実は失語症患者とその家族を失望させることになる。しかし恋塚氏は、その「影響」を「言葉、人生、生命を大切にすること」であると考えて、その「影響」を心から喜んでいる。私は、この人はどこまでポジティブなんだ!と感嘆の溜息をついた。それと同時に、彼の生命力を私にも分けて貰ったような気がした。
V.S.ラマチャンドラン 脳の中の幽霊林(高木)朗子・加藤忠史 「心の病」の脳科学 近年、「心の病」という言葉をよく耳にするようになった。うつ病、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、統合失調症、双極性障害・・・。これらは「心の病」と呼ばれる精神疾患である。現代ではこの「心の病」に苦しむ人が30人に1人の割合で存在するともいわれている。 これらの「心の病」について、未だ解明されていないことも多い。というのも、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患では異常なタンパク質の蓄積や神経細胞の細胞死などが見られるのだが、精神疾患においてはそのような脳への異常がほとんど見られないからである。また、神経変性疾患は根本的な治療薬が多く承認されているが、精神疾患は、その原因が解明されていないために、効果的な治療薬も未だない。 しかし、脳科学者たちは精神疾患の原因の多くが脳にあると考え、今まさに研究を進めているところである。彼らの仮説と実験によってどんなことが分かっているのか、治療にどのように生かすことができるのか、本書を読んで確かめていただきたい。 私は本書を現代社会で生きるすべての人に薦めたい。身近な人、あるいは自分が「心の病」になる可能性が高いこの現代社会で、様々な「心の病」のメカニズムやその治療方法について知っておくことは、今後生きていく中で必ず役に立つと考えるからである。「心の病」にもたくさんの種類があって、同じ病であっても異なる症状に苦しめられ、悩みを抱えている人がいる。それらの人々の脳内で何が起きているのかを少しでも理解し、どのようにアプローチできるかを考えていただきたいと思う。
ルドルフとイッパイアッテナ 斉藤洋聖域 コムドットやまと ルドルフとイッパイアッテナという本に、リエちゃんが猫のルドルフに対し「猫はええなあ。学校、いけへんのでもええんやで。」と言った時、ルドルフは、リエちゃんは学校で友達とおしゃべりしていて楽しそうなのに、なぜルドルフを羨ましがるのか不思議に思う場面がある。私自身、学校は嫌いでなかったが学校が警報等で休みになると嬉しかった。このシーンのリエちゃんと自分が重なり、自分の思考に強烈な違和感を覚え、もっとポジティブになれるように思考のベクトルを変えたいと思い、聖域という本を読んだ。それでは、この本について紹介する。 突然だが、自分を変えたいと思ったことはあるだろうか?私は大学に入ってから「自己肯定感を上げたい」、「人の目を気にせずやりたいことに挑戦したい」、「夢を見つけたい」等の思いが強まった。このような思いとの向き合い方が、この本には書いてある。ここでは、自己肯定感を上げる方法についてのみ紹介していく。 自己肯定感が低い人は多い。これは、皆が日頃から周りと比べすぎて、自分をほめるハードルが上がっているからである。自分をほめるハードルを下げてみてほしい。朝ベッドから出られたとか、犬を散歩に連れて行った等の小さな成功を積み重ねていく事が自己肯定感を上げ、ハッピーに生きる一番の近道なのである。だから、ぜひ小さいことから自分をほめてみてほしい。高い自己肯定感は、自信・活力になる事を実感できると思う。そして、これは、私に、学校に限らずだが、小さな楽しかった事に目を向ければ、物事を楽しめる事に気が付かせてくれた。 自分を変えたい、変える為の思考法を学びたいという方。まず、聖域という本を開いてみてほしい。そして、自分をほめてあげてほしい。「本を開けるなんて自分すごいじゃん。」と。この本を読み終わる頃には、聖域というタイトルの由来を理解し、もっと自分と素直に対話できるようになっているはずだ。
V.S.ラマチャンドラン著「脳のなかの幽霊」オリバー・サックス著「妻と帽子をまちがえた男」 科学的なものとロマンチックなもの、事実と夢が交錯した不思議な世界を生きる人たちがいる。そんな彼らの物語を伝えてくれるのが、この、オリバー・サックス著「妻と帽子をまちがえた男」という本だ。一見すると奇妙なタイトルのこの本は、脳神経科医である筆者が出会った24人の患者たちの症例を記した医学エッセイである。「妻と帽子をまちがえた男」とはそのうちの一人、視覚的な認知能力に欠陥を抱えた音楽教師Pのことを表している。彼は物や人を見ても、それが何で、誰であるかを理解することができなくなっていた。彼には世界がどのように見えているのか?そのような状態で何を頼りにして生きているのか?本書では、このような患者たちと実際に交流しながら分析を重ねていく様子が詳細に綴られている。 感覚や記憶、認知能力などを失い悩み苦しむ人もいれば、故郷の情景が見える、懐かしい歌が聞こえる、生まれ変わったように元気で明るい気分になる、というように本人にとっては幸福な変化がもたらされた人もいる。いずれにせよ、筆者は彼らをただ好奇の目で見るわけでも、単なる病気の究明のためのサンプルとして扱うわけでもない。奇妙に映る症状の数々には、ただ○○病と一括りにはできない背景、つまり彼らの人間性や歩んできた人生があり、筆者はそこに愛情をもって向き合っているのである。病気そのものよりもそれを患う人間のほうに関心があるのが本書の特徴的な部分といってもいいかもしれない。 原書の発行が1985年ということもあり、正確で科学的な答えを求めるのにはこの本は向かないだろう。しかし、患者一人一人に真摯に向き合ってきた筆者の信念は、時代を超えて、脳がもたらす想像もできないような不思議な世界を体験させてくれるはずだ。
ルドルフとイッパイアッテナ ⻫藤洋ルドルフとともだちひとりだち ⻫藤洋私がこれまで⽣きてきて、これほど影響を受けた児童⽂学作品はありません。
⁤私が紹介する『ルドルフとともだちひとりだち』は、⻫藤洋さんによる「ルドルフシリーズ」の2作品⽬で、講義で紹介された参考図書『ルドルフとイッパイアッテナ』の続編です。この物語は、ルドルフという岐⾩県で飼われていたᅳ匹の⿊猫がある拍⼦に誤って⼘ラックに乗り込み、東京に連れて⾏かれてしまうところから始まります。東京に来て、どうすれば良いのか何もわからず彷徨っていたルドルフが、ある野良猫に出逢います。その猫は、名前を聞いた際に「イッパイアッテナ」と答えました。そこからルドルフは彼から野良猫として⽣きていく術を教わり、一緒に⽣活していくようになります。イッパイアッテナはとても教養のある猫で、彼から字の読み⽅を教わります。純粋で未熟なルドルフは「オ⼘ナ」とは何かを考えながら、困難を共に乗り越えていきます。 ⁤
⁤そんな作品の2作⽬が今回紹介する本です。イッパイアッテナと⽣活して1年が経った頃のルドルフが、ある環境の変化に直⾯し、そこで⼼境も変化していきます˳そんなルドルフがどういう選択をしてどう進んでいくのか。そんな話がルドルフ視点で進んでいく物語です。主⼈公視点で物語が進んでいくのでとても没⼊感があります。そして、1話あたりも短いので、時間を分けて読み進められます。
⁤私は、この「ルドルフシリᅳズ」を⼩学⽣の頃に読破しました。しかし、今改めて読み返してみると、⼩学⽣に読んだ頃とは全く違う視点で読むことができました。⼦供の頃は全くわからなかった言葉が⾃分が⼤⼈になりわかるという「教養」の⼤切さが⽬に⾒えてわかる作品です。しかし同じ未熟なルドルフ視点で物語が進むため、同じように考えながら読み進められます。
⁤私は教養がある⼈にも、ない⼈にも「教養」について考えるきっかけが持てるこの作品を紹介したいです。
鴻上尚史著『「空気」と「世間」』原聰著『日本人の価値観 異文化理解の基礎を築く』当書は、私たち日本人のもつ価値観やものの考え方とはどのようなものかを紹介する本である。日本は、「空気」が支配しやすく、たやすく自分の意見を出すことが出来ない社会であることや、人を「内と外」に分けて、「内」の人を大事にし、「外」の人を軽んじる傾向がある社会であることなどを筆頭に、日本人の特性を紹介している。普段は意識しないながらも、無意識のうちに自分の行動を決めている価値観について知ることが出来るので、参考図書を読み、日本社会の根底にある価値観との向き合い方を見つめなおしたいと思った人にお勧めだ。当書の例の一つに、このようなものがあった。在外の日本大使館や総領事館にある領事斑によせられた、要請についてのものだ。その要請は、「現地の女性と付き合ったが、トラブルになったので、助けてほしい」というものだったそうだ。この事案に対し著者は、「知人もいない異国の地で、その日本人にとっては在外公館に務める日本人を「内」なる人と認識して、「甘え」てもよいと考えた」のではないか、と語る。これは、日本人が人を「内と外」に分けて、「内」の人に「甘え」る傾向があるということの例だ。確かに、日本人は基本的に、「内」なる人には「大目に見てほしい」や「察してほしい」などの「甘え」をもって接している。しかし、その無意識の甘えに気づいている人はどれだけいるだろうか。参考図書を読み、「日本社会は「空気」に支配されている」ことを強く意識し、日本社会のいき苦しいところばかりに目を向けていた。しかし当書を読み、日本は「甘え」ることが許される社会でもあり、いき苦しいだけの社会ではないということに気づいた。日本社会はいき苦しいだけの社会ではない。日本人の価値観を知ることは、生きやすくなるような上手な社会との付き合い方を考え、自分の無意識の言動を見直すきっかけとなる。当書は、日本人の価値観を知るのに最適な一冊だと思う。
野矢茂樹/ 哲学の謎苫野 一徳 / 子どもの頃から哲学者 世界一おもしろい、哲学を使った「絶望からの脱出」!「僕は『哲学者』というのをやっている。え、哲学者?それっていったい、何をやってる人なの?……そう思う人は、多いんじゃないかな。」この本の冒頭部分である。私はこの講義をきっかけに初めて哲学書を手に取り読んだが、目的地が不明瞭でどこまでも枝分かれしていく哲学の課題に直面し苦しかった。もう少しゆっくり哲学というものに近づきたくて、この本を読むことにした。この本は、筆者の山あり谷ありな人生(筆者の大学生時代が中心である)とその時々の感情に沿って、ヘーゲルやカントをはじめとした歴史上の様々な哲学者の哲学を易しい言葉でかみ砕きながら、哲学が人の人生にどう役立つのか、難しいと思われがちな哲学の存在価値をわかりやすく教えてくれる一冊である。また、この本のテーマとして、「どうすれば豊かな人間関係・承認関係を築いていくことができるのだろう」という問いが挙げられており、全体的に「時間とは?」「愛とは?」といったような哲学の議題よりも人の人生に近い内容である。この本には、社会に生きる人間の誰しもが「私もこれに当てはまる」と感じるであろうポイントがあり、哲学を難しいと捉えている人でも「自覚」を通しながら読むことができる。だからこそ読んでいて引っかかることがなく、抵抗感なく哲学に触れ、理解することができる。また、前述のとおり筆者の波乱万丈な自伝を含みながら進んでいくので、楽しく読むことができる。私はこの本を、哲学は難しいものだと考えている人に特に読んでほしい。また、この本のテーマにある通り、筆者は人間関係をめぐる問題を哲学を使って解決していくので、人間関係に悩んでいる人や人生について悩み考え込んでしまう人にとって心に響く言葉がたくさんある。だから、そういった人にも特にお勧めできる。哲学を通して、自分と社会を見つめなおそう。
鴻上尚史『「世間」と「空気」』鴻上尚史『「空気」を読んでも従わない、生き苦しさからラクになる』私が紹介するのは『「空気」を読んでも従わない、生き苦しさからラクになる』という本です。あなたは本当はやりたくない頼み事を断れなかったり、周りに合わせようとして自分の心に素直になれなかったりしたことがあると思います。そんな「空気」や「雰囲気」に振り回され、日々生き苦しさを感じることがあったのではないでしょうか。日本ではこのような周りに合わせることが当たり前になり、生き苦しさとは感じずに生活していたかもしれません。しかし、考えてみると僕は周りの目を気にして周りと異なることを恐れて生活していることをこの本を読んで気づきました。そんな心を軽くしてくれたのがこの本です。この本で重要な言葉が「世間」です。日本人は「世間」に生きているから皆周りに流されてしまうのです。「世間」とは学校のクラスや部活、サークル、職場など少人数で濃い人間関係のことを指します。思い入れのないグループ、好きでもない集団、関心のない人達などから悪口を言われてあまり心がチクっと感じなければそこは「世間」ではありません。しかし、大切な人たちや大好きなグループ、ちゃんと所属している集団から言われると心がドキッとなります。これは「世間」に所属しているということです。「世間」に所属していると「世間」が心の強い支えとなり、自分が強くなった気がします。しかし、それは間違いで、「世間」が強いだけなのです。たがら、日本人は自分が所属している「世間」から追い出されないために皆と同じ時間を過ごし、皆がやることを自分もやろうとするのです。この本は「世間」がなぜ生まれたのか、日本の文化や歴史から明らかにし、なぜ「世間」は日本特有のもので海外にはないのかを詳しく説明しています。そして、日々周りの人たちに合わせ、空気を読み、なぜこんなにも生き苦しいのだろうという謎を解明し、強力な「世間」との関わり方を教えてくれます。日本人は皆読むべきです。
野矢 茂樹 哲学の謎飲茶 史上最強の哲学入門 今までの哲学入門書には何が足りなかったのだろうか?そうだ。「バキ」分が足りなかったのだ。 これがこの本の著者、飲茶さんが導き出した結論でした。この本には哲学と「バキ」という一見交わらなさそうな2つの要素が入っています。(ここでいう「バキ」とは「グラップラー刃牙」に始まる、格闘技を題材とした人気漫画シリーズの一作です。)しかし、この2つが組み合わさることで読みやすさが劇的に上がっています。この本は、哲学入門書を読むのに挫折した、哲学について学びたいが本を読むのが久しぶりで一歩が踏み出せない、そんな人が手に取るはじめの「哲学入門書の入門書」としてぴったりとなっています。 「バキ」の作中には、世界中から1流の格闘家たちが東京ドームに集まり、最強の称号を手に入れるため戦いを繰り広げるというストーリがあります。この本も同様、世界中の哲学者が東京ドーム地下討議場で、史上最大の哲学議論大会を行うという場面から始まります。『哲学者入場!』この合図で世界中の哲学者たちが次々と紹介されていきます。哲学者と格闘家、一見まったく正反対に見えますが、格闘家が「強さ」に一生をかけた人間たちであるように、哲学者も「強い論(誰もが正しいと認めざるを得ない論)」の追求に人生のすべてを費やした人間たちなのです。偉大なる哲学者たちが繰り広げてきた戦いの歴史を、この本では哲学者を1人1人紹介していく形でわかりやすく説明しています。 また、この本は哲学者を漫画の登場人物のように紹介しています。哲学者ごとにかっこいい肩書きと代表的な論の得意技があり、このような紹介のされかたで、難しいイメージだった哲学者たちが一気に親しみやすいキャラクターとして理解できるようになるでしょう。知の領域において、強さと強さをぶつけ合い、どのような人物がどのような強い論を追求していたのか、気になる人はぜひこの本を読んでみてください。
 V・S・ラマチャンドラン 脳のなかの幽霊アニル・アナンサスワーミー 私はすでに死んでいる―ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳  私が紹介する「私はすでに死んでいる―ゆがんだ<自己>を生みだす脳」という本は、第1章から第8章にわたり、「自分は存在しない」と言うコタール症候群、感情がわかず夢のように感じる離人症、ドッペルゲンガーなどの様々な不思議な病をもつ患者について書かれており、病の実相と自己意識の謎に神経科学の視点から迫り、自己の正体を探っていく内容の本です。 私が特に興味深いと感じた章は、身体完全同一性障害についての第3章です。この章では身体の一部を自分のものでないと感じ、切断したいと強く望み苦しむ人々に関する内容が書かれていました。私を含む多くの人は、自分の身体を「私の」身体なのだと感じる所有感覚を当たり前だと思っているでしょう。しかしこのような患者はそうでなく、脳内の身体の地図に身体の一部が欠けているのです。私たちには想像しがたい症状に苦しむ人々の物語を実際の発言を交えながら鮮明に書かれているため理解しやすく、身体の所有感覚という今まで意識もしてこなかったことを考えさせられる点に面白さを感じました。また、この症状とは反対の幻肢との関係性や四肢の感覚に脳のどの部分が関係しているのかも実験や具体例を用いてわかりやすく述べられているため、脳と不思議な感覚のつながりも詳しく学べる内容だと思います。 精神科医や神経科学者への取材だけでなく、違法な下肢切断手術の現場への同行や実験に参加した経験を生かし、読者によりリアルで鮮明な実態を感じさせる本だと感じました。また、各章で実際の患者の発言や様々な実験を含み、読者が不思議な現象を理解しやすいよう述べられているため、専門的な単語に聞きなじみのないような方も読みやすいと感じると思います。 不思議な感覚・症状そのもの、又はそれをもつ患者がどのような感じ方や苦しみを持って生きているのかに興味がある方や「脳」「自己」に関する理解を深めたい方におすすめの本です。
チャールズ・ダーウィン、マイケル・ケラー 「ダーウィン『種の起源』を漫画で読む」千葉 聡 「歌うカタツムリ 進化とらせんの物語」 この本を読めば、カタツムリの研究を中心としてダーウィンから始まる進化の仕組みの謎解きの変遷を知ることができる。十人以上の生物学者たちが登場し、時に協力し合い、しばしば論争が巻き起こることもありながら、少しずつその謎の解明へとバトンをつなげ、近づいていく様子が描かれている。 研究と聞くと少し読みにくさを感じるかもしれないが、登場する生物学者一人一人について伝記のような、物語のような形で順を追ってわかりやすく記述されてある。生物学的用語が多数出てくるため、生物学を学んだことがにない人にとっては多少わかりにくいところがあるかもしれないが、( )で説明がされている単語もあり、物語形式で進むことで生物の進化論に興味のある人ならだれでも楽しんで読めると感じる。 私は題名に惹かれてこの本を手に取った。のろりのろりと動くイメージのカタツムリが歌うとは?!表紙には白黒で描かれたカタツムリ一匹のみがいるだけ。多少難しそうなイメージを抱くかもしれない。しかし、この本のページをめくり、プロローグを読み始めれば、筆者が描く生物学者たちの進化の仕組みをめぐる熱き闘いに引き込まれていくであろう。そしてプロローグののち、ダーウィンの「種の起源」では触れられはしたが、些細なものとしてしか捉らえられなかった「ランダム進化」とダーウィンの自然選択説率いる「適応主義」の対立からこの物語は始まる。そして最後には「歌うカタツムリ」の正体が…! この本を読むと生物の教科書を読むだけではわからない生物学者同士の関わりをも知ることができ、ある概念の解明に至るまでの苦労を身にしみて感じられる。加えて、歴史を学ぶことの意義、科学者の役割までもを学ぶことができ、教養としても素晴らしい本であると考える。 生物を学んでいる人、生物の進化に興味がある人、謎解きが好きな人にはぜひとも読んでいただきたい作品だ。
「脳のなかの幽霊」V・S・ラマチャンドラン「悪の脳科学」中野信子「悪の脳科学」は、中野信子の著書であり、人間がいろいろな問題に遭遇した時の脳のメカニズムを心理学や脳科学の観点から解明し、説明するという内容の本である。この本は4つのパートに分かれており、第1パートでは脳の基本的な構造や機能、さらに人間の欲求などに焦点を当てており、時折実験を示しながら説明した。私がこの中で一番印象に残ったのは、気が弱く上司に叱られるばかりの人が、思い切り自己主張できるように豹変した原因を語る段落だった。また、自己主張が強すぎて攻撃的になるのはテストテロンという男性ホルモンが分泌されるからだという説も面白かった。第2パートでは人間の脳のものを認識する仕方とほかの人とどう付き合うかについて説明された。私が初めて知って面白く感じたのは相手の目を見つめて話すと脳から「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌されることと、極限状態で人間は心理的絆が生成するので自分を誘拐した犯人に愛情を持ってしまう「ストックホルム症候群」があることだ。第3パートでは現代社会で人間が抱く様々な問題とその原因、人間の我慢の限界について書かれた。第4パートでは以上のことを踏まえて、本の表紙にも書いてあった「だますこととだまされること」と、メタ認知能力について説明された。「だます」とは人間の心理を見極め、その弱点を狙うことであり、逆に「騙されやすい人」とはメタ認知能力が不足している人だという結論である。この本は科学はもちろん、心理学についても多く言及しているので、科学が苦手な文系の人でも興味を持ってすらすら読める。また、この本は漫画家である藤子不二雄の名作漫画「笑ゥせぇるすまん」の中の主人公喪黒福造の日常をもとに心理学や脳科学を説明しているので、内容が楽しくわかりやすく、マンガ好きな人にはおすすめである。
坂本真一、 蘆原郁共著、「音響学」を学ぶ前に読む本赤松友成、木村里子、市川光太郎共著、音響サイエンスシリーズ20 水中生物音響学 声で探る行動と生態私が紹介したい本は水中生物音響学という本です。音と音楽をめぐる科学と教養の講義では音自体や人間の耳についての内容を多く教わります。そこで、私たち人間以外の動物たちはどのように音を感じているのだろう、と考えた人はいませんか。聴覚を持つのは人間だけでなく、むしろ人間とは全く異質で優れた聴覚能力を持つ動物もたくさん存在します。この本では動物の、その中でも水中での音の観測や、水中に住む生き物の聴覚について音響学の観点から解説しています。
水中で音を利用する生き物と聞いて、まずイルカを想像する人が多いでしょう。水族館に行ってもイルショーなどでは高い身体能力とともに、イルカの出す超音波について説明してある場所も少なくありません。イルカやクジラなどの哺乳類はメロン体というところを震わせ音波を出し、跳ね返ってくる音で物体を認識します。では、みなさんは哺乳類だけでなく、カサゴやフグなどの魚類、甲殻類のエビも発声することがあるとご存じでしょうか。この本ではそのようなさまざまな動物たちがなぜ、どのように音を出し、認識しているのかを知ることができます。
水生生物を説明するにあたって音響学の専門的な話や水中の騒音問題の話もされますが、講義で学んだ周波数や音圧などのコラムもあるので、こんな話もあったなと復習しながら楽しんで読むことができます。文字だけが並んでいる堅い新書と違い、写真と器官の図解や表、グラフも豊富な本で、専門的なものに抵抗がある人にも理解もしやすくなっています。
また、この本はシリーズ構成なので音響学についてさらに深く知りたい、別のテーマに興味があると思った人には、水生生物だけでなく音響サイエンスシリーズのほかの本もおすすめしたいです。
鴻上尚史『「空気」と「世間」』鴻上尚史『リラックスのレッスン』みなさんは学校生活を行う上で何度も経験するスピーチの場面で、緊張して声が出なくなったり、自分の思うように話せなくなってしまった経験はないだろうか。そんな人に紹介したい本が、劇作家で演出家の鴻上尚史による「リラックスのレッスン」である。社会で生活していくうえで緊張やストレスは大きな課題だ。それの解決法として劇作家や演出家、そして劇の監督や学校や会社での公演も行う鴻上尚史さんの豊富な経験を基にアドバイスを提供するといった内容となっている。特に劇の監督の経験を活かし、実際の劇の演者が緊張状態に陥った時にどのように解決しているかなどの具体的な例が提示されていくのが特徴である。実際の発表などの場面で緊張してる人に対して、「落ち着いて」や「リラックスして」といった言葉をかけられるケースがあるかと思う。しかし本書ではそういった声掛けは逆効果であり、「緊張してはならない」といった否定の思考は考えれば考えるほど自意識が高まるため、さらに緊張を生んでしまうと結論付けている。そのため本書ではリラックスするためには周りから見られているといった自意識を完全に無くすことは不可能であるのを前提として、どれだけ自身を自意識から遠ざけられるかに焦点を当てている。私はこの緊張をしてしまうことを無くすのは不可能だととらえて、できるだけ緊張をしない状況を作り出すというリラックスの方法に感銘を受けた。簡単なストレッチや深呼吸の方法を紹介するだけでは一時的に緊張がほぐれても実際壇上に上がるとまた緊張してしまうように思う。だがここでは自身の考え方を変え、どのようにすれば平常時の状態に近づけるかや自意識を別の方向に向けるかについて語られているのだ。本書を読むことで、緊張をほぐす方法についての考え方が変わり、今まで苦手だったスピーチなどが多少なりとも得意になるかもしれない。
野矢茂樹「無限論の教室」荒谷大輔「使える哲学」どうして人々は「富」を求めるのだろうか?なぜ人々は「美しい」ものを称賛するのだろうか?「科学」は本当に正しいのだろうか?「正義」とはどのような意味で正しいのだろうか?そして、「私」とは一体何なのだろうか?
あなたの脳裏にも、時折このような小さな疑問の数々が浮かぶことがあるかもしれない。しかしこれらに明確な解答を出すことは困難に近く、それどころか現代を生きる私達は思考を巡らせる時間を確保するところから始めなければならないかもしれない。この本では哲学を身近な事象に置き換えることで、哲学の有する複雑さやお堅い印象を捨て去り、私達が普段過ごしている日常がどれほど脆いものの上に成立しているかを鮮烈に書き記している。冒頭で挙げたいくつかの問いは、哲学・倫理学を専門とする著者が提起した疑問そのものである。その中でも私が特に気になったのは「科学」についての項目だった。「科学的に正しい」や「最新の科学によると」という言葉がよく聞かれるように、このたった二文字の単語は社会において人を説得する材料としてとても手軽に安易に利用されている。著者はそれを受け入れ納得してしまう人々の様子を「信仰」と表現し、その信仰がどこから生まれるのかという根拠を、専門性の高さが評価されていたはずの科学者達の現場を影から蝕む「スポンサー」の存在や、過去の偉人達がパラダイムの根幹に科学とは真逆である「神学性」を大きく求めていたということから見出していく。
著者は富や美、科学、正義、そして私というこれら5つのキーワードを「現代社会を支配する魔法」と表現した。この本は知らず知らずのうちに社会があなたに掛けた、支配という名の魔法から鮮やかに解き放ってくれる助けとなる。この本を閉じた頃にはきっとあなたは音もなく迫りくる社会の変化の波へ、自分の足で立ち向かいながら、自分の言葉で明確に思考できるようになっているだろう。
題名 ダーウィン「種の起源」を漫画で読む 著者 チャールズ・ダーウィン マイケル・ケラー題名 ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界 著者 デビット・クアメン ジョーゼフ・ウォレス「生命はどこから来たのか。」この問いは世界に変革をもたらした。今の私たちにとってこの問いは難しくなく、口を揃えて進化論を唱うだろう。だが進化論にはかつて常識とされた聖書の創造説があった。この説を覆すことはとても危険な行為であることは周知の事実であったが、ダーウィンとウォレスはそれを実行したのだ。今ではその理論が新たな常識となり現代の「生物学」につながっている。
この本の冒頭には進化論についての歴史的背景とその思想が描かれている。しかし、メインはそこではなく後部にある。この本の後部8割は、大きな写真と進化におけるその解説である。一見解説多めの図鑑に見えるが、その認識は間違っていない。なぜならダーウィンはかつて、進化論を提唱するうえで「視覚」を最大のツールとして利用したからだ。必要以上に大きいと思えるこの写真たちは、実はその「視覚」を最大限に利用するために用いられている。つまり、この本は構成自体がダーウィンの軌跡を示しているのだ。
専門的なタイトル・表紙に見えるため、読むのを躊躇う方がいるかもしれない。しかし、解説と写真は非常にわかりやすく、大して専門的な言葉が連立しているわけでもない。本が読み慣れていない自分でもスラスラ読めてしまうほどである。また、解説と写真を照らし合わせて「なるほど」と理解を深めることもできる。この理解に対する楽しさと大きな写真の目新しさは読者にさまざまな思考をめぐらせる。実はこの本で必要とされるのは読解力でも推察力でもない。観察力であるのだ。かつてのダーウィンも「観察」から始まり、疑問をもち、仮説を立てて検証した。この手法はシンプルであるものの現在においても十二分に利用できる。この本を使って起点となる「観察すること」を追体験してみてはどうだろうか。知的好奇心が高い人にぜひおすすめしたい1冊である。
野矢茂樹『哲学の謎』松浦壮『時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体』「時間」とは何か。皆さんはこの問いにどうお答えになるでしょうか。物理学に詳しい方は、アインシュタインや相対性理論といった用語がまず頭に浮かんだのではないでしょうか。また、哲学分野の存在論について学んだことがある方は、ハイデガーの『存在と時間』が第一に想起されたかもしれません。本著では、普段何げなく使われている言葉で、今まさにこの時も流れ続けている「時間」というものの本質を探っていきます。ここでは「時間」を物理的な運動と関係づけ、古典的な時間から最新の物理学研究にまでわたる視座をもって究明していきます。実感は確かにあるのに、実体はない。松浦氏はそんな「時間」について、前述した偉人らのようにいきなり堅苦しい話を持ち込むことはなく、まず私たちの生活や常識に沿って解説してくださいます。しかし、そういった「当たり前」は読み進めるごとに崩れ落ちていくことでしょう。その一端をここでネタバレにならない程度に紹介しておくことにします。それは「時間は巻き戻せる」ということです。本著には「直感的に正しいことが必ずしも物事の本質を捉えているとは限らない」という一節があります。伊藤先生の講義を受けていると、そういったこと実感を何度もすることでしょう。この本にもそんな経験が溢れています。物理学を中心としたテーマであるため、もちろん物理学に興味のある方におすすめしますが、「これってそもそも何だ」という本質論を好まれる方にもおすすめです。私は物理なんて中2で諦めた文系ですが、この本はそんな人間でも読めるほど簡潔に解説されながら、専門的で深い学びを提供しています。本講義のテーマの一つである「波」にも関わるお話ですので、ぜひ一度お手に取ってご覧ください。
古屋晋一 ピアニストの脳を科学するアーミン・フーゼマン 耳を傾ける人間-音楽体験の本質アーミン・フーゼマンの「耳を傾ける人間」は人間の心の声に耳を傾けることの重要性や音楽が人間とどのように結びついているのかを探る内容である。アーミン・フーゼマンは1950年生まれの一般内科医である。訳者である本田常雄は医学研究者かつ精神科医で、二人の医学の経験をもとに本書はかかれている。本書は『第一章人間の聴覚と音楽』、『第二章音楽は「内なる化学」である―人間のフッ素プロセスに寄せて』、『第三章音楽の体験とその生理学的基礎』にわかれており音と体、音と生命の誕生、音楽と宇宙のそれぞれの関係や他人の言葉や行動の裏側にある真の意味を理解する方法など幅広い視点からとらえられており、自分自身でも深く考えさせられる内容が多い。私は次の本文について興味をもった。「耳の感覚受容器が液体で満たされた内耳の中でのみ、音の作用に参加できるという事実は、私たちが耳を通して、音を物質的な世界の中で知覚するのではなく、生命あふれるエーテル的な世界の中で知覚するということを、暗に伝えている。呼吸プロセスの中の音楽体験とは、エーテル体の体験であり、物質体の感覚-神経プロセスを必須の前提とする。こうして音楽が、感覚世界と霊的世界との橋渡しになる」。音楽が感覚世界と霊的世界との橋渡しとなるという文はインタラクティブ・リアリズムという感覚世界と霊的世界が相互に作用し合い、互いに影響を及ぼす立場へ向かっているように感じた。最後に、シュタイナーによれば、音楽の体験は「呼吸のリズムが聴覚器官の内部まで伝わり、・・・神経プロセスと出会う」ことで生じる。この言葉から、音楽は人間の細胞レベルにまで影響をもたらし、体全体で感じることができるといえる。またこの本は医療関係者にとどまらず一般市民にも広く読まれているため、音楽を細胞レベルで感じたい!という人におすすめである。
宮崎謙一絶対音感神話 科学で解き明か すほんとうの姿絶対音感 最相葉月「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義ではどちらかというと理系視点で説明され、文系の私には理解が難しい解説があった。この本は私のような文系学生にお勧めしたい。本書では難しい理系用語は一切出てこない。数多くののインタビューによって構成され、記録文学のように読むことができるので理系科目に抵抗がある人でも気軽に読んで欲しい。私は絶対音感を持っておらず、周囲の人にも絶対音感を持っている人はいない。この講義を受講している学生のほとんどは絶対音感を持っていと思う。絶対音感を持たない私たちからするとそれは一度は憧れる才能ではないだろうか。この本を読むと絶対音感とは、本当に優れた能力なのかと考えさせられる。絶対音感を持つ音楽家と持たない音楽家の双方の立場から音楽をする上での必要性や日常での苦悩などが記されている。音感を使って生計を立てている人たちが絶対音感をどのように捉えているかを知ることで、新たな視点を持つことができる。ネタバレになるが、音楽家に絶対音感が必要かと聞いた際、とあるピアノ奏者が「視力がとてもよくても画家になれるとは限らない」と答えた。この一言で、絶対音感とは役に立つ場合もあるが、音楽家にとって核となる才能ではないのだと気付かされた。何よりもこの返答が洗練されていて格好良すぎる。絶対音感にも程度があることや、絶対音感はただの記憶に過ぎないということが解説されている。話は脳科学にまで及び、本書の後半では音楽と心の関係を中心にして書かれている。音楽をめぐるヒューマンドラマの話が多く、絶対音感とは直接的に関係のないが、小説としては面白いのでぜひ最後まで読んで欲しい。
V. S. ラマチャンドラン 脳の中の幽霊土谷尚嗣著,クオリアはどこからくるのか? : 統合情報理論のその先へ 私は課題図書の中から、「脳の中の幽霊」を選択した。この本は図や例が豊富で読みやすく、脳の不思議さと面白さを十分に楽しむことが出来た。以前に茂木健一郎氏の「クオリア入門」を読んでクオリアに深い関心を持ち、その興味をさらに掘り下げたいと考えていた。そこで、自身の知的欲求を満たすことを期待し、「クオリアはどこからくるのか?」という本を手に取った。本書では、自分の体を使って経験できる実験や現象が紹介されるため、脳の不思議を実感しながら読み進めることが出来た。中には動画のQRコードが付いており、様々な心理物理学的実験を体感できる。私自身も実際読んでいてとても楽しかった。本書は意識そのものから最前線の研究にいたるまで意識研究について分かりやすく解説されており、全7章で構成されている。1・2章では、意識とは何か、従来の意識研究について示されている。そのため、あまり知識のない人でも楽しめると思う。3・4・5章では、視覚システムを例に意識と無意識について説明されていたり脳活動についても書かれていたりする。意識をより科学的な視点から捉えているため、理工系の人にもおすすめの章である。最後に6・7章については、統合情報理論そのものとそれを応用した意識研究について述べられている。そのため、少し難易度の高い内容となっている。しかし、意識についての具体的な研究の方向性が垣間見えるため、私のように、意識に関して腑に落ちない点がある、釈然としないモヤモヤがある人に是非とも読んで欲しい。この本の主要な目的は、著者がクオリアを特徴付ける研究アプローチを読者に理解してもらうことにあると感じた。章ごとに内容の専門性が高まっていくため、読者は自分の興味や理解したい内容に応じて適切な章を選んで読むことが出来る。したがって、意識に関心がある人は、自分に合ったアプローチでこの本を読んでみて欲しい。
ダーウィン『種の起源』を漫画で読む/マイケルケラー若い読者に贈る美しい生物学講義/更科功この本にこんな話がある。「ヒトは進化の最後の種なのか?」我々の祖先は海に住む魚だった。その魚の一部が陸に進出して、私たちに進化した。もちろん陸に上がる上で体の様々な部分を変えていった。脊椎動物の体はタンパク質でできており、古くなったタンパク質は分解されて体外に捨てられるが、このとき有害なアンモニアが体内にできてしまう。だが我々の祖先の魚は周りにアンモニアを捨てるための大量の水があり、困っていなかった。しかし陸に上がった両生類はそうはいかないのでアンモニアを尿素に変えれるように進化した。(尿素はアンモニアより毒性が低い)それでも両生類は水辺のそばを離れられなかった。その理由の1つが卵が柔らかく、すぐに乾燥してしまうからだ。それに対応したのが半膜類といわれ、そこから爬虫類や哺乳類が生まれてきた。そこからさらに陸上に適応するために爬虫類は尿素を出すときの水分の使用量を減らす進化をした。そう考えたとき最終進化といえるのは爬虫類なのではないか。実はそうでもない。ではヒトなのかそれも違う。陸上で過ごすことに注目すると爬虫類が最終進化だし、水中で過ごすことに注目すると魚類、物事を考えることに注目するとヒトが最終進化といえるだろう。一概になにが進化先とはいえないのだ。ヒトが進化の最終種だと思っていた私にとってこれは進化の美しさをしるきっかけとなった。現代の科学は巨大化し、多くの分野に細分化された。そのため多くの分野で活動することは難しい。しかし、多くの分野に興味をもつことはできるかもしれない。そして、興味があれば意見をいうこともできるだろう。きっとどんなものにも美しさがある。生物学だってそうだろう。その美しさを見つけることができればそのことに興味を持つようになり、その人が見る世界はより美しくなるだろう。この本を読むことはきっとその美しさを見つけるひとつのきっかけとなるだろう。
ルドルフとイッパイアッテナ(斉藤洋)アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス)「天才になりたいか?」そう聞かれたら、あなたはなんと答えるだろうか。おそらく多くの人の答えはイエスだろう。人間は生きていく中で「教養」を身につけることを求められる。義務教育に収まらず大学でも教養科目が必修であることからも分かるように、教養は一生を通してでも身につけるべきもの、身につけなければいけないものなのだ。だから皆「頭が良くなりたい」「天才が羨ましい」などと口にする。この本の主人公チャーリー・ゴードンは、障害の影響で32歳になっても幼児程度の知能と感情しか持っていない。本を開くとまず、ひらがなばかりで誤字だらけの文章が目に入るが、この本はそんな彼が書く経過報告をもとに進んでいく。ある日、彼のもとに夢のような話が舞い込んだ。それは開発されたばかりの脳手術、頭が良くなるというのだ。実験に使われたネズミのアルジャーノンはこの手術を受け、実際に知能レベルがはるかに向上していた。これはチャンスだとチャーリーは手術を受け、本当に天才へと変貌する。それまでままならなかった文字の読み書きはもちろん、他人に対する感情・恋心も豊かになる。それは彼がずっと夢見ていた生活そのものだった。しかし、訪れた日々は幸せばかりではなかった。今まで気づかなかった、障害者である自分への視線、家庭内での自分の扱い、他人の気持ちを考えて生きる難しさ…。天才であるが故に悩むことも多く、こんなことなら、なにも分からない方が良かったのか?と悶々と過ごしていた。ある日、彼と同じ境遇であるアルジャーノンの様子がおかしくなっていることに気づく。それは彼にもとって重要な兆候で……。教養は身につけるべきもの、身につけなければいけないものとして扱われる。しかし、教養を身につけると、今まで知らなかった世の中の事情に気づく。生きづらささえ感じる。「教養」とはなにか、人間はどうして学ぶのか。人生で1度は読んでおきたい1冊です。
題名 音とことばのふしぎな世界 著者 川原繁人題名 「あ」は「い」より大きい!?音象徴で学ぶ音声学入門 著者 川原繁人 私は参考図書の「音とことばのふしぎな世界」に関連する本として、「「あ」は「い」より大きい!?音象徴で学ぶ音声学入門」という本を紹介したいと思います。どちらの本も著者が同じため、もし私の紹介でこの本に興味を持った方がいましたら、先に参考図書の方を読んでおくと今回私が紹介する本を読む際に内容がより分かりやすく感じられると思います。 この本の内容は音声を使ったコミュニケーションのあらゆる側面を研究する音声学を音象徴という現象で学んでいくというものです。ここで音象徴とは一体何かと思う人が多いはずです。例えば、ゴジラから濁点を取り除いたコシラという名前からは小さくて薄っぺらい印象を受けると思います。ガンダムをカンタムに変えると可愛らしい印象を受けると思います。このように、音象徴とは名前に使われている音によってイメージに影響が出てしまう現象のことです。 次に、この本の構成について紹介していきます。この本は全8章で構成されています。その中でも2~6章が特に重要な内容となっています。 2章では優しい音、ツンツンした音が扱われています。例えば、ワマナとサタカという2人の女の子のうち、多くの人がワマナに優しいイメージ、サタカにツンツンしたイメージを抱くのはなぜか、ということについて書かれています。 3章には母音の調音と音響についての内容が書かれています。 4章で扱われているのは濁音です。この章では先述したゴジラやガンダムから濁音を取り除くとイメージが変化する現象について書かれています。 5章では大学の先生である著者が学生と一緒に見つけた音象徴が扱われており、身近な題材も多いです。 6章ではポケモンの名前の音象徴分析という意外な内容が扱われています。私の紹介で少しでも音声学に興味を持った方はぜひ一度この本を手に取って読んでみてほしいです。
斉藤 洋 ルドルフとイッパイアッテナ出口治明 人生を面白くする本物の教養この本は、題名の通り「教養」という言葉の本質を読者に理解させてくれる本です。教養がある=知識や情報をたくさんもっている、と思う人が多いですが、必ずしもそうとは限らないということをこの本を読むことではっきりと理解することができます。この本は、教養を身に着けるための方法のみにとどまらず、時事問題や世界との比較による日本の実態についても学ぶことができるため、読み終えたときには知識や考える力が身に着いていると思います。そのため、教養のある素敵な大人になりたい人・自分を変えるきっかけが欲しい人にぜひ読んでもらいたい一冊です。ここで、この本の中で特に印象に残った「新しい分野を勉強するときは分厚い本から入る」という勉強方法を紹介します。この本の筆者は、何か新しい分野を勉強しようとするときは、まず図書館でその分野の分厚い本を5.6冊借りてきて読み、その後入門書のような薄い本へと読み進んでいく、というルールを決めているそうです。初めに入門書のような薄い本を読んでしまうと、何となく概略がつかめた気になって分厚い本を読まなくなる恐れがありますが、分厚い本を5.6冊読んでから入門書のような薄い本を読むと、その分野の全体像が見えてきて、いままで読んだ本すべてが同時に腑に落ちるそうです。筆者のように自分の頭で考える力、すなわち教養が身に着いていると、このような独自のルールを思いつくのだと思い、教養の応用力の可能性を感じました。また、この勉強方法は、自発的な姿勢が求められる大学生の私たちが実践していきたい内容であると感じました。この他にも、有権者である私たちが知っていなければならない選挙のこと・国民年金の正しい知識など、紹介しきれないほどの、大学生として知っているべき内容が事例を用いてわかりやすく書かれています。ぜひ多くの人にこの本を手に取ってもらい、今後の人生をより有意義な時間にしてほしいです。
小方 厚、『音律と音階の科学』秋山公良、『よくわかる作曲の教科書』 『音律と音階の科学』では、音律や音階に関して、歴史的なことや数学的なことがたくさん書いてあるので、理系も文系も興味のある内容が多いと考える。また、和音、コード進行、音楽に関することもたくさん書かれているので、音楽に興味がある人、メロディに関して深く理解を深めたい人にもおすすめできる一冊である。講義の中で出てきた話に関連する内容もかなり含まれているので、講義で得た知識を深めるためにも有用である。 そして、この本に関係して私がおすすめしたい本は、『よくわかる作曲の教科書』である。別に皆さんに作曲をしてもらいたいと思っているわけではない。先程の本の内容や講義内で説明された音楽理論に関する知識を深めたい人にはとてもおすすめである。音楽についての知識を少しでも深めたい人にはぜひ読んでいただきたい一冊である。 この本では、コード進行についてかなり詳しく書かれている。明るいコードと暗いコードの違いはなんなのか、日本人の音楽の特徴、メジャーコードとマイナーコードについて、和音の役職名と登場する順序、親分コードと子分コードの成り立ち、コード進行の制作術など、今まで得た知識の復習もでき、その知識を深めることもできる。さらに、サンプル音声もあるので知識を身につけやすく、見開き1ページに1トピックが話されているため、とても見やすい。 また、コード進行の基本的な知識だけでなく、応用的な話、メロディを作るための話も書かれている。講義の音楽理論の話の中で、プロのアーティストは、同じコード進行でも工夫しておしゃれにしているという話があったが、このおしゃれにする方法に関わることが説明されている。転調に関しても扱われている。 この本を読むことで、音楽への理解が深まることは間違いない。さらに、曲作りの知識も身につけることができる。講義で、音と音楽を多方面から見て、知ってきた皆さんにぜひ読んでほしい。
鴻上尚史 「空気」と「世間」堀井憲一朗 やさしさをまとった殲滅の時代 この本は今の社会が生きにくいと感じている人にぜひ読んでもらいたい。だが、誰もが生きにくいと感じていると思う。だから、みんなに読んでもらいたい。この本をおすすめする理由を3つ挙げる。 まず1つ目は、最近の時代の流れを知れる点だ。そもそも、この本を読んだきっかけは、課題図書の一つの『「空気」と「世間」』を読み、なぜ「世間」が壊れかけているのかと疑問を抱いたからだ。本ではここ20年くらいの出来事だと書かれていたが、崩壊の理由は分からなかった。そして、ここ20年の歴史は学校の授業でも、さらっと流されるだけで、どのような時代だったのかイメージ出来ない。しかし、今回私が紹介する本は2000年の少し前から2010年代への時代の変遷について分かりやすく書かれている。だから、どうして世間が壊れてしまったのか理解出来た。 次に2つ目は若者の変化が分かる点だ。世間の崩壊により、若者は個人として生きていくこととなった。みんなも趣味、好きな物が一人一人違うため、自分は孤立していると感じると思う。この本ではまさにその理由が説明されている。この本の話題は自分も知っているもの、なんとなく疑問に思っていたことなので、イメージがしやすく読みやすい。そして、納得できる。だから、読んでいて面白い。 最後に3つ目は、この本の著者が読者に伝えるメッセージだ。まず、本の一番伝えたい言葉は、「迷惑くらいかけよう」だ。多くの人は「迷惑をかけないように生きていこう」と考えていると思うし、私自身そうだった。だから、生きにくいのだ。この言葉は私たちには心に止めておくべき言葉だ。この本は、筆者が今を生きる若者に向けて書いているため、心に刺さる、勉強になる言葉が多い。 以上の3点から私は、この本を読むと生きづらさが和らぐため、「やさしさをまとった懺滅の時代」をおすすめする。
哲学の謎100の思考実験 ジュリアン=バジーニ この本を読み切るには、誰もが相当長い時間を要することになるでしょう。なぜなら、その思考実験のどれもが、深い思考を要するものとなっているからです。 思考実験というのは、ある問題の複雑な要因を取り除き、問題の本質について考えるために作られた架空の設定のようなものです。 まったく同じ育て方をした二頭の牛がいて、片方は車にはねられ、片方は屠畜場で殺された。どちらの肉を食べますか?といった具合のものです。 この場合、考えるポイントを殺され方という道徳的側面だけに絞っているのです。 このように、思考実験には先ほど挙げたような荒唐無稽な設定が多く存在するため、単純に読むだけで楽しむことができるのも、この本の魅力の一つでしょう。 この本には哲学や芸術、環境問題などに関する多種多様な思考実験があり、それらの殆どは哲学者の議論からヒントを得たものとなっています。その一つ一つに、思考実験が提示する問題に対して、読者自身で考えを深めるためのガイドとなる文が添えられています。そのため、思考実験の意図を苦労して読み解く、といったことは必要なく、すぐに問題の本質について考え始めることができます。 また、それぞれの思考実験に関連した思考実験のページが〈参照〉として提示されているため、自分が今気になっているジャンルの思考実験を連続して読むことができます。まったく異なるタイプの問題に連続して向き合うよりかは、楽に読み進められるのではないでしょうか。 さらに、いくつかの思考実験の末尾には、出典となった情報源が示されています。この内容についてもっと深く掘り下げたい、といった場合には、その情報源をたどって学びを深めることができますし、哲学に関する面白い小説に出会うことも可能です。 自分は、考えることが好きな全ての人にこの本をお勧めしたいと思っています。ぜひ読んでみてください。とても面白いですよ。
『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』著者 佐藤雅彦/菅俊一 画 高橋秀明『勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門』著者 エヴァ・ファン・デン・ブルック/ティム・デン・ハイヤー 訳 児島修 「ハウスフライ効果」という効果を知っているだろうか。一見すると小さなことが人の行動に大きな影響を及ぼす現象のことを筆者が「ハウスフライ効果」と呼んでいる。なぜわざわざ「ハウスフライ効果」と名付けたのか。人は「効果」と名付けられたものには興味を示しやすくなるからである。このように日常生活には私たちを誘導しようとする様々な仕掛けがあふれている。私が紹介する本は「勘違いが人を動かす」という本だ。この本は一章から七章で構成されており、各章で日常生活と絡ませた話が出てくるため、自分の行動と重ね合わせてハッとするものが必ず出てくる。自分や他人の行動を深く知りたい人や自分を見つめ直したい人にぴったりな本である。 私はこの本の中でも特に第一章をおすすめしたい。第一章はこの本の題名の通り、いかに自分が「勘違い」によって動かされているかがわかる章である。この章の中で印象深いものは、何も起こさずに効果をもたらす「プラシーボ」についての話である。プラシーボ効果とは聞いたことのある人も多いと思う。代表的な話では、本物だと渡された薬が実は何の効果もない偽薬であっても効果があると勘違いすることで身体が望ましい反応を見せるというものだ。この話を聞いて自分には関係のない効果だと思った人もいるかもしれない。だが私たちも気が付かないうちにプラシーボ効果を経験しているのだ。この本を読んでプラシーボのほかにも私たちは色々な「勘違い」をして生きていたことを実感した。この勘違いを大学生のうちに知ることをおすすめする。勘違いを知ることは自分の視野を広げてくれる。この本は視野を広げたい人におすすめだ。 最後に、「この本を読むのはあなた次第である。」と言いたい。実はこの言葉にもBYAF効果と呼ばれる効果が含まれている。相手に選択の自由があると強調すると頼んだことをしてくれる可能性が高くなるというものである。
鴻上尚史 「空気」と「世間」井上忠司 「世間体」の構造 社会心理史への試み 「世間体」と聞いて何を考えるだろうか。自分が日ごろいかに「世間体」にとらわれているかについて気付いていない人は多いことだろう。「世間」という言葉は、元々は仏教用語であり日本にこの言葉がもたらされたのは6世紀のことであった。しかし、現在使われている「世間」という言葉は人が生活し人生を営む現世の状況を意味することが当たり前となっており仏教用語として使われることはほとんどない。「世間」の「世」は時間をあらわし「間」は空間をあらわす。古い日本では親類縁者だけを全世界と考えることがほとんどであったため世界が狭かった。 「世間体」に触れた著書はあっても「世間体」を主題とした著書は皆無である。この本では、著者である井上忠司氏が「世間体」が何であるかについての「試論」を述べている。構成については、序章で「世間体」の発見について様々な文献を上げて紹介している。第1章では「世間」の原義と特徴に注目し、第2章では「世間」という言葉が日常生活の中で定着した江戸時代から近代にいたる民衆の側に即し浮世、旅、イエとも関連づけて「世間」観の変還について書かれている。第3章ではウチとソト、ミウチ・セケン・タニン、マスコミと「世間」の3つの節に分かれており、個人によって異なるように見える「世間」観が準拠集団としての「世間」という視角から見るときどのような構造をもっているのかが明らかにされる。第4章では人の行動が世間という社会的規範の基準から逸脱したときに生まれる「はじ」について、第5章では、それと関係した嘲笑などの「笑い」について言及されている。最後に第6章では、「世間体」文化の意義について再考する。 自分がいかに「世間体」に囚われているかを知りたいと思った方はぜひ本書を手に取って、自分を見つめ直すきっかけにしてほしい。
トランスナショナルカレッジオブレックス 題フーリエの冒険著者 ボエティウス 翻訳者 伊藤友計 題 音楽教程「授業の話が分からない」とか「簡単な本よりも難しい本を読んで教養を深めたい。けど、音楽について詳しくないからできない」というそこの貴方、この本を読みましょう。原書は5巻あり17世紀までオクスフォードの大学などで教科書として用いられていた由緒正しき本でして、それがこの本では文庫本サイズで一冊にまとめられています。
難しそうな本だなと思ったかと思います。全くもってその通り、音楽には疎い私にとっては難解も難解、本文だけでは第一章も読み切れなかったでしょう。ユニタスとか単部分超過比とか書かれても初めて見る人は分からない、文章を読むだけじゃ理解しきれない。当然のことだと思います。ですがこの本には訳者解題という本文の様々な解説が翻訳者によって書かれているのです。本文を読む前に読み、本文を読みながら読んでと読み直すことで二重に理解を深められ、予備知識なしでも大体は内容が掴めるでしょう。
それだけではありません。本文には音楽を数学的にとらえ比や量として音程などについての考察が様々な学説を交えて書かれています。ピュタゴラスから510年前後までの音楽理論についての内容は現在の音楽理論と完全に一致するわけではありません。この本で語られている数比で音楽や音程関係を全てとらえる等の考え方は現代では廃れている部分もあります。ですがこの本を読んでから講義を思い返したり講義を受けたりすると何となくでも昔の理論は現代ではこう洗練されたのかといった気づきを与えてくれることでしょう。
この本を読み、この時代の音楽理論についてより詳細に知りたいと思った人は訳者解題の最後のページ等に載っている姉妹編ともいうべき本を読めば更に理解が深まることでしょう。多少お堅い本ですがその分得られるものも大きいのは間違いなく、すべて理解できずとも私が読んでほしい人ならば新たな知識が必ず手に入ると思うのでぜひ読んでみてください。
杉浦彩子「驚異の小器官 耳の科学」URA著ストレスが引き起こす病気『突発性難聴』の心と身体の症状」 この本は医師が多くの患者さんと出会った中で得た突発性難聴の知識がわかりやすく説明されています。突発性難聴がどのような病気でストレスとどう関係があるのか、予防方法と対処方法が解説されています。本書は全部で7章あり、それぞれにおいてまず章のテーマが初めに書かれているため、読んでいる道筋がはっきりしていて読みやすいと感じました。喋りかけるように書かれている部分が多いため作者の講義を聞いているように読めます。 私自身は突発性難聴についてよく知りませんでしたが、病気のもたらす症状とともに患者さんが経験する心の不安、病気をもたらしたと考えられているさまざまな要因が詳しく書かれているので患者さんの経験がイメージしやすいと思いました。突発性難聴になった方の症状を知ることで自分の耳で音が聞こえることをありがたく思いました。また、対処法が複数述べられているので耳に聞こえにくい、耳鳴りが続く、などの症状が出た場合にどう行動すべきかを学ぶことができます。本書を読むことで経験談を読むことの重要性に気付かされました。病気の原因や治療法を学ぶだけでなく、患者さんの経験を知ることで病気に対する理解が深まると感じました。 日常生活で私たちが予防のために気をつけられることが書いてあるので私自身の生活を振り返る機会にもなりました。突発性難聴のみならず、他にも精神的、身体的支障をもたらすストレスと向き合いながら生活するかのヒントが書かれています。今日のストレス社会においてストレスとうまく付き合うために何が必要なのか、どのように日常を変えていく必要があるかを考えるきっかけとなりました。難聴に興味がある方、ストレスに関する悩みを持っている方にこの本をお勧めします。
鴻上尚史「空気」と「世間」中野信子 空気を読む脳日本人は外国人よりも空気を読みたがる傾向にあるのはなぜか。そもそも空気を読むという行為は人間の脳が行っていることである。その脳に着目して日本人の心理を読み解いていく中野信子さん著書の「空気を読む脳」について紹介する。まず、目次を読むだけで非常に面白い。「犯人をあぶりだす実験」や「共同体を乱すフリーライダー」など各段落の題名を読むだけでも興味が沸く。脳科学を研究している著者だけに、最初の読者のつかみも上手であると思った。次に、この本は中野さんの研究する脳科学の観点から様々な論文や実験をもとに分析を行っている。例えば日本人の性質は脳内の神経伝達物質であるセロトニンの分泌が関わっているという。セロトニン分泌が多いと幸福感を得るが、日本人はこのセロトニンが不足しているため不安を感じやすい性質になったという。このことがどう日本人に影響を与えるのか、そして利用するのか解説していく。私は、特に第3章の「褒めるは危険」が印象に残った。褒めて伸ばすという言葉を聞いたことがあるが、これは本当に正しいのか。褒め方によって子供たちの態度がどう変化するのかを観察する実験がある。この実験で子供たちに「頭いいね!」と褒めたら逆にチャレンジ精神が失われることがわかった。この褒め方のどこが悪かったのか、どうすれば子供たちのチャレンジ精神が育まれるのか。この章を読んだときに納得し、心に響いた。最後に、この「空気を読む脳」は、読む前は脳科学であるため少し難しいのではないかと思ったが、読み進めると日常的な出来事を用いてわかりやすく話が展開されていた。空気を読むことに関してはそんなに書かれていなかったが、脳科学から人間の心理がわかり、日本人がなぜ空気を読む傾向にあるのかわかった気がする。空気を読むことが日本人にとって当たり前のようになってきているが、そのことに違和感を抱いている人にぜひ読んでみてもらいたい。
宮崎謙一 絶対音感神話:科学で解き明かすほんとうの姿最相葉月 絶対音感誰もが1度は絶対音感を羨ましいと思ったことがあるのではないか。私はこの講義の特別講義で絶対音感に対する今までの概念を覆され、衝撃を受けた。そこで絶対音感について興味を持ち、より詳しく学びたいと思い本書を手に取った。本書は絶対音感について一流音楽家、科学者ら200人以上に証言を求めた、430ページにわたるとても内容の濃い作品である。絶対音感をもつこと、そして持つ人と持たない人の両方の立場での証言がノンフィクションで書かれている。ここで絶対音感とは、ほかの音との比較なしにランダムで音名を言い当て、その高さで歌ったり楽器を奏でたりすることができる能力である。絶対音感は生まれつきのものではなく、教育によって身につくものであるが、音楽家にとってむしろ障害になることもある。つまり、絶対音感がある人が音楽で有利であるわけではないということだ。例えば微妙な周波数の違いさえも気持ち悪いと感じることもある。同じ音でも周波数は時代や地域によっても異なるということも驚きだった。本書は、絶対音感を主として追いながら、音楽教育、軍事利用、そして人の耳や脳など広く学べるのが特徴だ。また、専門用語を少しかみ砕いて説明されていたり、ノンフィクションのインタビュー内容があったりと入ってきやすいため面白いと感じながら読めるというのも魅力である。私はこの本を読んで絶対音感について学ぶだけでなく、音楽の世界に触れられたと思う。ピアノを習っていたころは何も考えずに絶対音感を得たいと思っていたが、その能力は一概に良いこととは言えないと気づいた。私のように絶対音感をもつことに対して憧れを抱いている人はもちろん、様々な人の考え方に触れられるので、多くの人に読んでほしい。そして、私が絶対音感に対して衝撃をうけたのと同じように、多くの人が今までの固定概念に衝撃を受け、新しい発見をするだろう。
野矢茂樹『無限論の教室』NHK「笑わない数学」制作班編『笑わない数学』 私は『無限論の教室』の関連図書として、『笑わない数学』を紹介する。このタイトルを聞いて、ピンと来た人もいるのではないだろうか。「笑わない数学」は、パンサーの尾形貴弘氏が「笑いなし」で数学を紹介するテレビ番組であり、過去2シーズンにわたってNHK総合で放送された。本書は、そこで放送された内容を再構成し、未放送の情報も加えたものである。 『無限論の教室』は、会話形式と言えど文字ばかりで、正直私にはよくわからなかった。そのとき、「以前、パンサー尾形が数学について紹介する番組で無限も扱っていた」ということを思い出し、それをまとめた本でなら理解できるかもしれないということで本書に手を付けた。 本書は、「素数」「無限」「四色問題」「フェルマーの最終定理」「確率論」「ガロア理論」の全6テーマから構成されている。各テーマでさまざまな理論や予想を取り上げていて、「無限」のテーマでは、「アキレスと亀のパラドックス」や「自然数と偶数の個数比較」についても解説している。数学が嫌いという人は、このような説明を聞くと「小難しい数式の羅列」や「到底理解できない複雑な説明」と想像するかもしれない。しかし、本書には確かに少し難しい数式もあるが、それ以上に具体的なイメージやイラストを使ってわかりやすく解説している。また、本書を読み解く上で、小難しい数式の計算方法を理解する必要は全くない。想像力さえあれば、文系でも安心して読み進められるだろう。 フーリエ変換の講義で先生がおっしゃっていたように、具体的な数式を完璧に理解するのは難しいが、何をやっているのかを何となく理解することは難しくない。本書は、まさにその言葉を体現している1冊である。数学に良いイメージがない人も、本書を読めば、その面白さに目覚め、夢中になることだろう。現在進行形で数学が大嫌いだという人にこそ、ぜひ読んでもらいたい。
著者:小方厚 題名:音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか著者:舟橋三十子 題名:和音の正体~和音の成り立ち、仕組み、進化の歴史~ 音楽を聴くときに最初に何かを感じたり、印象に残ったりするのは、主としてメロディだという人は多いだろう。しかし、日常生活にあふれている音楽を聴いているとメロディだけで成立しているものはほとんどない。どんな音楽にもリズムがあり、その足下で和音が影の存在としてそれらをうまく支えている。分かりやすくファッションを例にとって説明すると基本となる人がメロディ、かけ算する服が和音、出来上がったファッションが音楽のイメージである。和音の使い方や進行の組み合わせが変われば、音楽も全く変わる。人々の気持ちを慰めたり高揚させたりするのはメロディだけでなく、やはり和音を伴った音楽と言えるだろう。この本は題名からも分かる通り、和音に焦点を当てており、歴史、作曲者などといった多方面からアプローチすることで和音そのものの正体を暴こうとしたものとなっている。 私がこの本を紹介する理由は、音楽を専門にしていない人にとっても分かりやすい構成になっており、和音について多様な知識を得られるからである。文章は敬体で挿絵もあり、譜例もたくさん用いられている。和音の説明をするために前述したファッションを参考にした例示のような日常生活と絡めた説明が多用されており、取っつきにくさが一切なく、誰でも読み進められるようになっている。この本の大きな特徴の一つは付属のQRコードを読み取ることで特設サイトにアクセスでき、紹介されている音源を聞きながら読むことができるということだ。聴覚を用いる音楽を言葉だけで理解するのはそれなりの専門知識がないと難しいだろう。しかし、本書のように紹介された音や曲を説明を読みながらすぐに聴けることによって、まるで講義を受けているかのように分かりやすく理解することができる。この本をよむことは、今まで聞こえなかった和音の音を発見することに繋がり、違った側面から音楽を理解する手助けをしてくれるだろう。
「空気」と「世間」 鴻上尚史「空気」の研究 山本七平 この本を読めば、日本において絶対的な力を持つ「空気」についてその構造から発生する仕組みを知ることができる。また、なぜここまで空気が日本人にとって絶対的な力を持つのかについて理解することもできる。 日本人は時として明治維新や昭和の高度経済成長期のような、奇跡に近い発展や改革を遂げることがある。その一方、時として無謀ともいえる太平洋戦争に挑むこともある。それはひとえに日本の国民性ともいえるが、その状況に持ち込んだのはいずれも空気の作用である。それでは我々を支配するこの空気とはいったい何者だろうか。その正体を暴き日本人の人間性について知ることがこの本の主題である。 まず空気とは日本独自の物事の判断基準である。それは絶対的な力を持ち、倫理的・科学的な判断よりも時として優先させられることがある。空気はどうやって生まれるのかというと、本書には、多くの人がある対象物に感情移入することによって自己と一体化させ、それを絶対な物して捉えることにより発生するとある。 また、この本では、空気に関連することとして水も上げている。「空気に水を差す」などとして使われる空気を壊す働きをする物のことである。すなわち、水とは空気と同じように私たち日本人の生活を支える重要な概念・方法である。その水についても副題として解説している。本文を引用すると、水とはすなわち現実のことである。適当な現実を指摘する言葉により空気(=虚構)を作りだしていた状況が壊れることを、水を差すという。日本ではこの水と空気の関係が成立していて、日本社会を支えてきた。 この本は1977年に出版されたが、今尚現代に通ずるものがある。日々空気に押されて自分の意見を通せないで悩んでいる人は、まずその空気の原理を知ることが解決の一歩となるだろう。日本の人間関係に付きまとう空気についてその正体や根本原理について知りたい受講生にお勧めする。
斉藤洋『ルドルフとイッパイアッテナ』宮沢賢治『猫の事務所』 「猫の事務所」は宮沢賢治の童話であり、数少ない生前発表の作品の一つである。宮沢賢治は詩人、童話作家、教師、科学者、宗教家など多彩な顔を持っていて、多くの短歌や詞、童話を遺している。代表作には「注文の多い料理店」、「風の又三郎」、「雨ニモマケズ」、「やまなし」などがある。 この物語はいじめがテーマとなっている。猫の歴史や地理を調べる機関である「第六事務所」が舞台となっていて、そこでは黒猫の事務長をはじめとして、一番書記の白猫、二番書記の虎猫、三番書記の三毛猫、四番書記のかま猫が働いている。物語の主人公はかま猫。かま猫はかまどの中に入って眠る癖があるために体が煤で汚く、他の三人の書記から嫌われている。また、他の書記はかま猫の仕事での活躍ぶりを快く思っておらず、様々な嫌がらせを繰り返す。事務長は優秀なかま猫を評価していたが、かま猫が休んだ事務所で他の書記が陰口を叩き、それを信じ込んで今までかま猫をかばってくれていた事務長までもがかま猫を無視し始めてしまう。 猫の間でのいじめを描くことで、人間社会の愚かさ、理不尽さをあぶり出そうとしている。この小説は100年くらい前に書かれたものなので、この頃からいじめや差別の問題があったのかと思うと、人間は変わらないのだと感じた。三人の書記の見た目や立場で偏見、差別をする態度、事務長の本人に事実か確かめることもなく、周りの話をあっさり信じ込み、流されてしまう態度は読んでいて腹立たしいものだったが、自分も無意識にそのような振る舞いをしていないか気を付けていきたいと思った。 短編小説なので非常に読みやすく、普段あまり本を読まないような人にもお勧めしたい。陰湿ないじめの様子は読んでいてつらく苦しくなるが、宮沢賢治の深いメッセージが伝わってきて、多くのことを考えることができる作品だろう。
「空気」と「世間」、鴻上尚史自分の中に毒を持て、岡本太郎「自分の中に毒を持て」(以下この本とする)という本について述べていきたい。私はこの本を読んで得られる教訓と考え方が深まった。最初に言いたいことがある。それは「今、何か悩んでる人、人生がつまらない人、自分が何をするべきか何が好きか」について考えてる人におすすめしておきたい。この本の始まりのあらすじでは作者の言葉が攻撃的で読みたくないかもしれないが、少し読んでみたら攻撃的な言葉も読者を励ましてる言葉であることをわかる。私はこの本を読む前に自分のダメなところと今抱えてる悩みがあったが、この本を読んで考え方が変わった。まず、私のダメなところとしては普通の人と比べたりありきたりなことを求めたりしていた。また、些細なことでもすぐ悩む性格で頭の整理がまとめきれないことが私の問題であった。しかし、この本に出逢ってからは次のような考え方もするようになった。それは、普通を捨てて自分らしいことを見つかること、普通で安易な道を選ぶことより自分の胸に従い情熱に自分がやりたいこと危険な道も挑戦してみることである。そこからくる新しい発想が自分の味方になることは間違いないと考えた。この本のネタバレにはなるかもしれないがここだけは載せていきたい「つまらない人になるな」、「成功は失敗のもと」このように自分自身に自身がない人に向かって新鮮な衝撃を与えくれる本である。おまけとしてこの本には考え方を重視している本であるが、若者の恋話もするので、恋に悩んでる人には自分のことをどのように見せたらいいのか等について考える機会をくれるためおすすめしたい。最後に、自分のことを少しでも変えたい、新しい刺激が欲しい、人生についてのアドバイスが欲しいと思って人にはこの本をおススメしたい。そしたら、勇気が湧いてくるかもしれない。以上
柳田益造  『楽器の科学』図解でわかる楽器のしくみと音のだし方フランソワ・デュボワ  『楽器の科学』美しい音色を生み出す「構造」と「しくみ」 この本は第1楽章から第5楽章で構成されており、音楽に欠かすことのできない存在である楽器を科学の視点で捉え、あらゆる楽器が音響科学の理論と技術によって支えられた存在であることを伝えるために書かれている。 第1楽章は「作曲のかけ算を支える楽器たちー楽器には5種類ある」というテーマで、世界にはどれだけの楽器が存在するのかという問いからはじまって、さまざまな楽器の個性とそれを分類する科学について紹介されている。 第2楽章は「楽器の個性は倍音で決まるー楽器が奏でる「音」の科学①」というテーマで、音や音色について書かれている。また、個々の楽器特有の美しい音色を生み出すという楽器の役割のキーワードである「倍音」についても説明されている。 第3楽章は「楽器の音色は共鳴が美しくするー楽器が奏でる「音」の科学②」というテーマで共鳴という音響現象がどのように楽器に関わるのかが説明されている。また、聴衆にとって聴きごたえのある音量へと増幅するのに「共鳴」が重要であることもこの楽章で示されている。 第4楽章は「楽器の最高性能を引き出す空間とは?ーコンサートホールの音響科学」というテーマで、どのようにしたらより良いコンサートホールができるのか音響技術者や音響現象、ステージ設計などのあらゆる視点から述べられている。 第5楽章は「演奏の極意ー世界的ソリスト10人が教えるプロの楽器論」というテーマで、彼らにとっての「良い楽器はどういうものか」や「楽器との関係性」、「最高(あるいは最悪)の音響体験」が書かれてある。 この本は楽器について深く学んでみたいという強い意欲のある受講生や音についてあらゆる角度から知りたいという受講生に向いていると考える。また、私は今まで音楽の分野に携わったことがなかったが、音楽経験のない人でも楽しんで読める本だとこの本を読んで感じたので、ぜひいろんな人に読んでほしい。
題:音とことばの不思議な世界 著者:川原繁人題:ことばの音の世界 誰も知らなかった音相の世界 著者:木通隆行、池田亜沙美 この本では言葉が持っている音に対して人が持っているイメージがあり、印象に残りやすい言葉はなぜ印象に残りやすのだろうか?や、言葉には影響をもたらす力があるのか?あるのならどのような影響をもたらすのだろうか?といったことに言及している本である。 私はこの本は言葉が与える力を知りたいという人にオススメしたい。そのような人の中でも特に本を読むのが得意ではないという人にはもってこいの1冊であると思う。この本は本編が9章構成であるが1つ1つの章の分量がとても少ないのである。これだけ聞くと内容が薄いだけではないかと思うかもしれない。しかし、この本では資料や言葉に対しての解析結果が分かりやすく掲載され、本編が終わった後にはこの本の伝えたい内容である言葉が与えるイメージをまとめてあるのだ。最低でもこの部分を読むだけで言葉が持っている“何か“を知ることができるだろう。 次にこの本にかいてあることを簡単に紹介したい。この本では言葉が与えるイメージを「音相」として、この音相について話を展開している。音相には情緒的、ぬくもり、大らかさをはじめてする様々なカテゴリーがある。昔から日本で神様としてあがめられている神の多くはこのカテゴリーの優雅さや明白さ、安らぎといったシンプル感、暖かさを音相としてもつ名前が多い。つまり昔から音相は人の考え方に影響していたことが分かる。神様以外でも人に大きな印象を与える例を挙げていて、その言葉がなぜそのような印象を与えるのかを音相に絡めて説明している。その後、子供への名づけの大切さや日本語の特徴と音相の関係について書かれていた。これは若い人こそ考えた方が良い内容だと思う。 この本を読むことでもっと言葉に対する考えが深まり視野が広がるだろう。ぜひ機会があれば手に取って読んでほしい。
千住博 芸術とは何か 千住博が答える147の質問吉野源三郎 君たちはどう生きるか「教養」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。学問に秀でている人、芸術を嗜むような人が「教養」のある人なのだろうか。教養について、漠然としたイメージはあっても、明確に説明することは難しい。しかし、「教養」の意味を辞書で調べて終わりにするのではなく、自分自身で考えて、答えを出したいと思った。そこで答えへの手がかりとなる『君たちはどう生きるか』という本を手に取った。
この本の主人公は中学生のコペル君だ。コペル君の経験をもとに、叔父さんが、社会科学的な話に広げ、心理を探究する際の姿勢や人間としての心得を説いてくれる話である。コペル君の友人である浦川君は、貧しい家庭で、学業もスポーツも冴えないけれど心優しい少年であった。しかし浦川君は家庭が貧しいことを理由にいじめられていた。それを聞いた叔父さんが言った台詞がある。
「人間の本当の値打ちは、いうまでもなく、その人の着物や住居や食物にあるわけじゃあない。どんなに立派な着物を着、豪勢な屋敷に住んだ見たところで、馬鹿な奴は馬鹿な奴、下等な人間は下等な人間で、人間としての値打ちがそのためにあがりはしないし、高潔な心をもち、立派な見識を持っている人なら、たとえ貧乏をしていたってやっぱり尊敬すべき偉い人だ。」
叔父さんが言う尊敬すべき偉い人がつまり「教養」のある人ではないかと思う。「教養」とは、私たちが一般的に想像するような表面的な豊かさではなく、内面の豊かさであると考えた。経済的に貧しい人は芸術を楽しむことができないのか。否、そうではない。道端に咲いている花を見て美しいと思ったり、星空を見て心が動かされたりするのは、心が豊かであるからだ。人間としての本質的な価値こそが「教養」に表れるのだと思う。
作中には、生きていく上での指針となる言葉が沢山出てくる。自分の考え方や生き方を見直す機会になるため、ぜひ大学生に読んでもらいたい。
「空気」と「世間」 鴻上尚史正義という名の凶器 片田珠美この本は正義とは何か?について論じる本ではない。ただ、その名前のついた仮面を被ることで本来の自身を覆い隠し、その自覚もなければその状態での行いを疑うこともしないヒトが居る、という話である。強者に抑圧されていると感じる弱者は、相手への不満こそあれどそれと戦うことはしない。自身よりも更に弱者とみなした相手にその不満を置き換え、攻撃心を向けるのだ。正義とは、それを覆い隠す為に後付けされるものである。現代は「正義」だらけの世の中である。正確には「正義」の仮面を被った狂気がちまたにあふれていると思わないだろうか?「正義」という言葉は一見悪を倒すヒーローに使われるものだと思われるが「正義」という名の狂気は容易に凶器になる。「正義」を振りかざせば、自分は相手を傷つけたいわけでも、うっぷんを晴らしをしたいわけでもなく、ただ悪者をこらしめているだけだと思えるので心地良い正義感に酔うことができる。絶対的な「正義」など存在しない以上、誰もが内心では自分の中に「正義」があると思っているのではないか。この本ではあくまでも自分は正しいことをやっているのだと信じ込んでいる人に対して「正しければ、何をやっても許されるのか?」と問いかける。また、「正義」依存が現代の日本社会に蔓延しているのはなぜか、今後どう向き合っていくべきかについても分析していく。
佐藤雅彦 菅俊一[原作]/高橋秀明[画] 行動経済学まんが ヘンテコノミクス大竹文雄 あなたを変える行動経済学私が紹介する本は大竹文雄さんが書かれた、あなたを変える行動経済学という本です。これから私が取り上げるのは1章の「もったいない」を考えるというものである。特にこの章ではお金が関わってきます。大学生はお金にはシビアな層であると私は考えます。そこでこの本を読んでお金に関する選択についての例から学びを得ることができると思います。 最初に質問です。ある映画のDVDをレンタルして一人で見ることにしましたが、すぐにつまらない映画だとわかりました。あなたは見るのをやめて他のことをしますか? もう一つ質問です。ある映画のDVDレンタル券が景品として置き売られて、一人でその映画を見ることにしました。しかし、すぐにつまらない映画だとわかりました。見るのをやめて他のことをしますか?この二つの質問で、映画を見るのをやめると答えた人は一つ目の質問より二つ目の質問の方が多くなっていました。 すでに支払ってしまって取り返すことができない文を、経済学では「サンクコスト」(埋没費用)と言います。一つ目の質問では映画を借りるレンタル代金を指します。多くの人はサンクコストの対応を間違えてしまいます。退屈な数時間とやめて自由に過ごせる数時間とどちらを過ごすかという質問にお金がかかっているかどうかという違いがこの二つの質問の違いです。 どの選択肢を選んでもすでに支払った費用は戻ることなく、戻ってこない費用をこれからの選択の理由に入れる必要はないということがわかります。 これらのような行動経済学の言葉が例を上げて紹介されているのがこの本です。数時間で読めるため自身の行動を省みることがすぐにできると思うため、私はこの本を紹介しました。
著者:柳田 益造 題名:楽器の科学著者:小方 厚 題名:音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたのか 『音と音階の科学 ドレミ・・・はどのように生まれたのか』は、音楽と数学の関係を解き明かす入門書だと思います。この本では、音楽の基本的な要素である「ドレミ…」の音階がどのようにして生まれたのかや、どうして私たちが「ドレミ…」の音階を心地よいと感じるのか、そしてその歴史や理論を分かりやすく説明しています。特にピタゴラスの行った1オクターブを12音に分けた音のデジタル化についてや、音律の構造について解説されています。また、講義で扱われていた和音とその進行がどのように音楽を作るかなどについても説明されていることに加え、講義では扱われなかった民族音楽における音階の構成や楽器の持つ個性とそれを生かした音楽の作り方についても分かりやすく説明されています。また著者は物理学者であり、音と数学の関係を分かりやすく説明しています。 この本の魅力は、そのわかりやすさにあります。物理学者である著者が、専門的な知識を持たない読者にも理解しやすいように解説しており、楽しく読むことができると思います。また、音楽理論や音響学の深い部分に踏み込んでいるのではなく基本て駅な部分を説明している為、音と音楽をめぐる科学と教養の講義を受けたみなさんにぴったりの音楽の入門書となっていると思います。  この本は、講義で習った音との基本的な知識をより深めることができ、音の物理的な側面や歴史的背景にも触れたい人にとってより深いところに入るための一冊になっていると思います。より音楽について詳しく知りたい方やより数学と音楽の関わりなどを知りたい方はぜひ一度手に取って、音楽への理解を深め、音楽の世界に新たな視点を加えてみてください。
小方厚 「音律と音階の科学」西原稔、安生健 「数学と科学から読む音楽」 みなさんは音楽といったら、どういうイメージを想像しますか?「リラックスしたい時や気分をあげたい時に聞くもの」、「自分の趣味でギターやピアノを演奏することをイメージする」様々なイメージがあると思います。しかし、「音楽といったら数学や科学だろ!」と断言する人は少ないと思います。私も実際、音楽と数学なんか無縁なもので、考えただけでゾッとするという感情でした。ですが、「数学と科学から読む音楽」を読んだ後には、音楽は数学や科学の考え方と密接に関係しており、音楽は、ほぼ数学、科学であるという考えに不思議となってしまいます。みんなが一度は聞いたことがあるであろうバッハの曲は、数字にこだわってできています。単語を数字に置き換え、作曲の暗号を用いたり、バッハが数遊びが好きだったという理由から「3」という数字にこだわり、主題の動機は3つの音からなっています。他にも主題部分の音価は、3の3乗の27という数で構成されています。また、みんなが使ったことがあるであろうピュタゴラスの定理を発見したピュタゴラス教団は、音楽において完全調和音程であるオクターブ音程の次に協和度の高い完全5度をなす2本の弦にどのような理由や根拠があるか実験し、弦長の比率が2/3であることを発見しました。つまりそれはどういうことなのかやそれを発見するにあたって使われた数学的知識が詳しく、わかりやすく説明してあります。他にも順列・組み合わせと音楽や黄金分割と音楽といった音楽と関わっていないと思っていた数学的知識が音楽において大切であり、音楽のもとになっていることを知ることができます。数学者や物理学者がどれほど音楽を愛していたか知ると同時に数学の解説も式や図を使い、丁寧にわかりやすく解説してくれるため数学が苦手な人も深く理解することできると思います。数学と科学がどれほど音楽と関わりあっているのか未知の世界を体験して欲しいです。
菊地成孔・大谷能生   憂鬱と官能を教えた学校OzaShin   誰でもわかる音楽理論入門本書の筆者であるOzaShin(オザシン)さんは主にアニメ・ゲーム音楽の作編曲家として活動しており、アーティストへの楽曲提供、専門学校講師など、その活動は多岐にわたる。本書は、彼が動画サイトにアップしている音楽理論講義の内容が本にまとめられたものであり、表紙の可愛らしいイメージとは違い内容は本格的だ。私はかつて、音楽理論を学ぼうとして教本を読んでみたことがある。ピアノを幼少期から習っていたので、自身の音楽の幅を広げたいと思ったからだ。しかし、教本に出てくる単語の意味がそもそも分からないという状況に陥り、結局理解できずに断念してしまった。「音楽理論の学習に必要な知識」があるのではないか、と気づいたのはその時だ。私は音楽理論の前提となる知識を見逃していたのだった。本書は、そのような音楽理論の初学者にも分かりやすい教本である。本書は、「音楽理論入門の入門」というイメージで、音楽のかなり初歩的な内容からスタートし、段階的に学習していく構成になっている。基礎編では拍子や小節から始まり、スケールやコードについて基本から学ぶことができる。そのため、音楽経験のない人でも理解しやすい内容だと思う。そして、応用編・発展編では裏コードやテンションコードなどについても扱っているので、幅広い知識を身につけることができるだろう。本書にはQRコードが掲載されており、それを読み取って音源を聴きながら学習すると効果的だ。また、楽器がなければパソコンやスマートフォンのアプリでもいいので、自分で演奏しながら耳で聴くことでより理解が深まるだろう。本書は図が多用されていて、教科書のような使い方もできるし、細かく項目分けされているので、辞書のような使い方も可能だ。繰り返し学習することで、音楽の力は確実に上がるだろう。本書は、知識をつけてさらに自由な音楽を楽しみたいと思っているすべての人へおすすめしたい1冊だ。
ダーウィン「種の起源」を漫画で読む マイケルケラーダーウィンの「種の起源」はじめての進化論 サデーナラデヴァ私が見つけたこの図書は子供の頃に誰もが疑問を持ったであろうなぜ生き物は環境に合わせてさまざまな見かけや性質を身につけるのか?であったり、特定の生きものがある時に絶滅して他の特定の生きものが生き残り続けるのはなぜか?というような疑問を提議して一緒に考えてくれます。そもそもダーウィンの「種の起源」というのはダーウィンの著書の名前なのです。その著書には1枚の図しか載っておらず種の分岐のパターンを類型化したものであります。1枚の図だけであるが故にその分岐の理論というものを簡単に言い表すことは難しく一種の生命観のようなものだとダーウィンは述べています。しかし、この難しい問にもダーウィンは最後にはちゃんと要約して述べており今を生きる私たちでも理解できるような構成になっています。また、この著書の中ではダーウィンの人物関係というのを詳細に示されており、論文を送り合い共に闘いあったアルフレッド・ウォレスの話も記されています。かつてはダーウィンがウォレスの発想を盗み取りしたのではないかという話もありましたがダーウィンの研究ノートを見ると自然選択の理論を着想したのはウォレスよりも20年ほど早かったそうです。そして魚類、昆虫類、哺乳類、鳥類などの具体的な例を用いて種の分布であったり、種の進化を記しているので理論ばかりで困ってしまった人でも分かりやすく理解できるように工夫されています。この著書は生物の根幹に対する疑問を深く探っていく内容であるので理系の人でさらに動物に興味がある人におすすめしたいと思います。
『哲学の謎』野矢茂樹 著『現代思想入門』千葉雅也 著この本は、参考図書「哲学の謎」等を読み、哲学に興味を持った人にまず読んでほしい一冊です。この本は哲学入門のための入門書というテーマで書かれているので、初心者向けの本紹介や、哲学書を読む上で必要な暗黙の前提知識などについても一から解説があり、哲学をこれから勉強したい人にうってつけです。(付録の「哲学書の読み方」の章は特に実用的です。)この本を読んだ後に「哲学の謎」を読み返すと、ここであの思想家の考え方が使われていたのだな、などと新しい発見がありとても面白いです。現代思想とは、1960年代から90年代にフランスを中心に展開された「ポスト構造主義」の哲学のことです。構造主義とは、簡単に言うと物事を抽象的にパターンとして捉えながら思考することで、対してポスト構造主義とは、そこで軽視されていた、定型的なパターンから逸脱するものや変化していくものにむしろ焦点を当てる思想です。この本ではデリダ、ドゥルーズ、フーコーという名前程度は知っているであろう代表的な思想家の「二項対立の脱構築」という理論を基に、現代思想の基礎的知識を解説しています。二項対立とは「受動と能動」、「主体と客体」のように二つの概念が対の関係になっていることをいいます。通常、人が何か論じる時は、二項対立を用いて一方を優位、他方を劣位として考えます。例えば「子供はゲームばかりせず外で遊ぶべきだ。」という場合、ゲームをすることを劣位、外で遊ぶことを優位としています。簡単に言えば、このような対立における優劣を決めつけず、新しい枠組みへ再構成することを脱構築といいます。この本を読み、そんな脱構築の思想を知ることは、対立する意見を持つ人や、多数派から逸脱する少数派の人を下に見たりせず、尊重することに繋がるのではないかと思います。そしてそれは、この誰でも発信力を持つ時代、多様性が謳われる時代で我々に必要な態度ではないでしょうか。
『音律と音階の科学 新装版 ドレミ・・・はどのように生まれたか』 小方厚『数と音楽 美しさの源への旅』 坂口博樹 著  私の紹介する参考図書『数と音楽 美しさの源への旅』という本は、題名にもある通り音楽の中にたくさんある「数」について様々な視点から書かれている本です。 この本では初めに、0から12までの数字が主に音楽にどのような関係があるのかわかりやすく紹介されています。その次には、リズムと分数の関係や音階と数、ピッチと音律、と章ごとに具体的に数が音楽にどのように関わっているのかについて説明されています。比較的この授業の第14回の講義にあった音階や音律などのお話と近しい部分の説明もあるため、読む際に講義の内容が頭の中に少しでもあるとさらに理解が深まると思います。 この本の内容として第1章では主に、リズムの基礎となる数である拍子、拍子記号と分数、リズムと無限数について色々な視点から書かれています。そもそもリズムとは何なのかや、分数ではあらわしきることのできないズレなど、根本的な部分から数の話に話題を広げて書かれています。第2章では主に、メロディーと数、音階ができたわけ、いろいろな音階についての内容が書かれています。実際にある曲を用いて音高や音階について色々な図を用いて説明されています。第3章では主に、チューニングや絶対音と相対音、倍音、それぞれの音律について説明されています。それぞれの音律について、それぞれが持つ良い点とそうでない点だけでなく、歴史的な背景についてもこの章を通して知ることができます。 音楽について数との関係からアプローチしたいものの、あまり数学の分野が得意ではないという人に特におすすめしたい本です。それぞれのページごとにイラストや図、コラムや豆知識があり、数学に苦手意識のある私でもとても読みやすいと感じました。興味を持たれた方はぜひ読んでみて下さい。
斎藤 洋 ルドルフとイッパイアッテナ松下 幸之助 道をひらく さまざまな人との関わり合いの上に暮らしている私たちは人と関わる回数が数え切れないほど多くあります。全130話程で構成されているこの本はそんな人との関わり、つながりの中で大切な立ち振る舞いや心得、社会の実情などをいくつも記されている本です。これから先の長い大人生活の準備期間である大学生にとって、社会を知り、社会での立ち振る舞いや心得を体得しておくことはメリットしかないと感じます。1話ごとに区切られているためとても読みやすく、気持ちの整理がつきやすいため容易に話の内容を理解することができる1冊です。
 パナソニックという会社は誰もが知る日本が世界に誇れる会社であると思いますが、この本はそのパナソニック創設者であり経営の神様と呼ばれた松下幸之助さんが著された本です。私たちが想像し得ない経験をされた松下さんの言葉の重さに心を動かされ、人生観を良いほうに変えてくれる1冊になると思います。
 この本を多くの人が読み、心を動かされ、それを心得て実際に行動し、人として一回り成長した人が1人でも多くなることを願っています。
コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて  豊田泰久 林田直樹 ホールの響きと音楽演奏 ユルゲン・メイヤー 音楽ホールと残響これは切っても切り離せない関係にあり、残響のない音楽ホールは、音楽家にとってこんな苦痛はないと言われるほどだ。そんな二つの関係について紹介してくれるのは、音響学の研究者として、世界中のホールを実地検分しておられるユルゲン・メイヤー先生である。本書はそんな先生の著書の日本語版であり、コンサートホールを中心とした、音楽演奏とその響きにまつわる沢山の知識を得ることができる。 ここでその知識の一部を紹介する。オーケストラの楽器配置は、与えられた空間の音響的環境によりオーケストラの配置を適合させなければならない。その配置による音楽への効果の例として、二つのヴァイオリンパートが互いに対向してパートナーのように配置されることで、両パートがモチーフを交互に奏でる場面では、響きの透明感が一層向上する。また、高周波成分は主に上向きに放射するので、前方の聴取にとっては聞き取りづらい、したがってコンサートホールの床面は過度に高くしてはならないのである。 このように、普通に生きていたら知ることのなかったような、演奏とその響きに関する知識が沢山紹介されている。この本を読むことで、オーケストラや音楽ホールの構成や構造の美しさに気づくことができ、ぜひ日本だけでなく、本書で具体例として紹介されていたようなオペラハウスや、世界のコンサートホールに足を運び、今までとは違った観点でコンサートホールや、オーケストラを見たいと思うようになった。説明に関しては、多くのイラスト、グラフなどが用いられており、音楽にほとんど触れてこなかった私でも理解することができるもので、多くの大学生にとって本書は、気合は必要だが、理解はさほど難しくない一冊に感じた。音楽に興味がある人はもちろんのこと、音と音楽に関する科学と教養を履修した人ならば全員に手に取ってもらいたい一冊である。
『哲学の謎』野矢茂樹『考える力が身につく哲学入門』畠山創私が紹介するのは「考える力が身につく哲学入門」という本です。この本は、日常では当たり前すぎて疑問にも思わなかった、考えようともしなかった問題について、様々な哲学者が考えるその根拠や思想が問いごとに書かれています。哲学と聞くと難しいイメージを持つ人も多いと思いますが、『殺人がいけない「理由」は?』『誰が「普通」を作るのか?』など、読む人の興味を惹くような様々な問題がテーマごとに分けられていて、好きな思想家や気になるテーマから読むこともできるので、とても読みやすく感じました。私はこの本を読んで、以前よりも「考える力」が身についたと思います。例えば、「地球は丸い」ということを私たちはいつ知ったのでしょうか。実際私はそれをはっきり覚えてはおらず、生活の中で見聞きしたことでだんだんと確信させられていったのだと思います。しかし、実際に実物の丸い地球を見たことはなく、私たちの知識の大半がこのように誰かから聞いたことで成り立っていることはとても不思議です。こうした当たり前とされている事実の根拠を、常識を捨ててゼロから考えることで、日常の素朴な疑問が浮かんでくることが哲学の面白い所だと感じました。私は今まで、「〜である」と決められていた事実について「なぜ〜なのか」というその根拠を深く考えようとしていませんでした。しかし、この本を読み進めていくうちに、自分が今まで思いつきもしなかった哲学者の視点での考えに納得させられることが多く、自分の視野も広がったような気がします。そして、普段の日常でも事実だけに目を向けるのではなく、もう少しだけ深いところまで考えるように意識するようになりました。みなさんも、日常生活にありふれている「当たり前のこと」についてちょっとだけ深掘りして考えてみることで、何か新しい発見や学びがあるかもしれません。この本はそんな意識を高めてくれる1冊です。
作:佐藤雅彦、菅俊一「ヘンテコノミクス」作:中川功一「行動経済学大全」ヘンテコノミクスは行動経済学を分かりやすく学べる本だが、この本は行動経済学を理解するだけでなく仕事の現場で生かすのに役立つ本だ。本の最初には「行動経済学」という学問について書かれている。「行動経済学って何?」と思う人でも安心して読める。そのあとには、見開き1ページにつき行動経済学に関する1つの用語に関することが書いてある。ページの右側には用語を理解するための例に関する図が書かれていて、ページの左側には用語の解説、用語を理解するための例、そしてそれを生かす方法について書かれている。ヘンテコノミクスに比べると文字が少し多めなので読みづらいかもしれないが、具体例がとても分かりやすい。私は具体例を通して知った知識もあり、とても勉強になった。行動経済学は心理学の要素もあるため、少しドキッとする部分もあり面白いと思う。ここで、この本に書いてある具体例を1つ紹介する。デフォルト効果という人間の意思決定や選択が最初の設定に影響される心理的傾向のことを説明するときの例だ。ドイツの臓器提供希望者はわずか12%なのに対して、フランスはなんと99.9%にものぼる。フランスの方が臓器提供に対する理解が進んでいたのか、と思うがそうではない。ドイツの臓器提供希望カードには「臓器を提供しても良い場合はチェックしてください」、フランスのそれには「臓器を提供したくない場合はチェックしてください」と書かれていた。人は初期設定が一番だと思い、変更しようとしないという傾向がもろに出ていた、というものだ。この本は仕事をしている人にはもちろん、もうすぐ就職をするまたは希望している人には特におすすめの1冊と言えるだろう。仕事で生かせるテクニックだけでなく、人間関係を良くするコツも書かれているため、この本はすべての人におすすめできる。この本の最後にはこの本の参考図書が載っているため、さらに読みたい本が増える点もおすすめだ。
「空気」と「世間」 鴻上尚史「空気読みすぎ」さんの心のモヤモヤが晴れる本 大嶋信頼 「空気」と「世間」では、空気について性質と世間の役割などがわかり、最後には世間や社会の関わり方をいくつか出していた。具体的にはどのようにしていけばよいか考えた人、空気が気になって自分が楽しくないと感じる人にはこの本を読んで実践してほしい。 本を開くと、自分がどれだけ空気を読んでいるのかがわかる。空気を読むことは良いことだ、生活の上では欠かせないものと捉えている人がいるかもしれないが、この本を読むとその考えが変わってくる。この本は筆者が自身の体験をもとに、空気を読み過ぎることは自分を苦しめることになるということが書かれている。ひとつひとつの内容は短くなっており、具体例もしっかりあるので簡単に理解しやすい。短時間で空気についてのモヤモヤについてわかってくるものなので、本を普段読まない方にもおすすめする。 その中の1つを紹介する。空気を読みすぎて楽しいがわからなくなってしまった時の対処法である。なぜそのようになるのかは、自分のことを後回しにしてしまうからである。これは筆者が小さい頃の母親への気遣いのエピソードと共に書かれている。しかし、自分が犠牲になっても周りは幸せにならないのであると筆者は書く。自分が人のためにと思ってやることは人の幸せに貢献している気持ちになるだけなのだ。結局は自分が幸せになればみんなも幸せになるということがわかる。そして今までの自分に犠牲も価値があったことも書かれているので否定されていなくて不快な気持ちにならないだろう。 このような例が5、6ページずつあるので少しずつ進めていくのも良いし、気になったところだけを見ていくのも良いかもしれない。また、たまに空気を読むことに関して困った時に少し振り返るのも良いと思う。
川添愛 コンピュータ、どうやってつくったんですか?村井純 コンピュータってどんなしくみ? この本は、なんでも知りたいねずみの「チュータ」といろいろ変身するねこの「ミライネコ」が登場する。コンピュータに変身したミライネコがチュータの様々な質問に答えて話が進んでいく。コンピュータのしくみを始め、この講義で扱った波や二進数についても説明があり、講義で学んだことを復習しながら読むことができる。また、この本には例えが多く登場する。コンピュータと人の違いについて「ごはん」を例に挙げている。コンピュータは命令すれば毎日同じご飯が炊けるが、人は相手好みの炊き加減にでき、状況によってはパンに変更することができる。コンピュータは同じ作業を正確に何回も繰り返すのが得意だが融通は利かず、人は失敗することもあるが臨機応変に対応することができる。このように、例を多く含めてコンピュータについて詳しく学ぶことができる。  この本のおすすめポイントとしては、内容がわかりやすい点である。本によっては、読んでいる途中でわからない語句が出てきた場合、自分で調べなければいけないということがある。しかしながら、この本は難しい用語などには詳しい説明が書いており、この本1冊で完結してしまう。途中で、難しくて投げ出すことがないのがこの本のいい点である。 次に、イラストが豊富な点である。ずっと文字を読んでいるだけでなく、イラストも多くあるため目が疲れず読みやすい。また、わかりやすいイラストなので、コンピュータのしくみを実際にイメージしやすく理解も深まる。 この本は老若男女におすすめできる本となっている。また、この本は「子供の科学★ミライサイエンス」というシリーズになっているが、コンピュータについて学校で習っていない世代の人も1から勉強しやすいため、大人にもおすすめである。また、内容もわかりやすくイラストも豊富なので、普段本を読まない人や、本を読むことが苦手な人には特におすすめである。
佐野洋子、加藤正弘 脳が言葉を取り戻すとき 失語症のカルテから高橋稔、高橋三和子、細井達雄、笹沼澄子、物井寿子、福迫陽子、真柳佳昭 失語症の記録ー奪われた言葉・取り戻した言葉ーこの本は失語症になった2人の闘病の記録である。話は3部構成になっており、第1部はブローカ失語になった本人とその妻との共同の記録、第2部は、伝導失語になった人の記録、そして第3部は失語症についての解説である。失語症について理解している人は第1部から、失語症とは何かよく分からない人は第3部から読むことを勧める。また、「脳が言葉を取り戻すとき」という失語症についての本を読んでからこの本を読むと、さらに理解が深まった状態で読むことができるのでおすすめである。第1部は失語症になった気持ち、辛い言語訓練の中で目標に向かって努力する姿、時にくじけそうになっても周りからの支援で再び頑張る姿を、本人の記録から見ることができる。また、失語症になった人を支える家族がどのような思いを持っているのか、決して明るく幸せな気持ちではなく、不安、悲しみ、焦り、苛立ちなど様々な苦悩と戦いながら必死に支える様子を、妻の記録から見ることができる。第2部は失語症になった本人のみの記録で、失語症の症状にショックを受け、しかしながら厳しい言語訓練を続けて少しずつ症状が改善していく様子や、周りの人との関わりに支えられ、必死に生きよう生きようとする姿、職場復帰した後にも絶えない苦労を抱えながら努力する姿を見ることができる。第3部は失語症についての解説で、失語症とはどのような病気なのか、どのような症状があり、どう対処すれば良いのか、家族はどのように接すれば良いのかを知ることができる。失語症は言語訓練を続けることで症状が改善するが、続けて行わなければ戻ってきた言葉もまた失ってしまう。訓練は生涯続くものであり、失語症の人たちがどれほどの思いで訓練を続けているかをこの本から見ることができる。人間を人間たるものにしている「言葉」を失い、また取り戻すために奮闘している失語症の人の姿をぜひ、この本を読み、見てほしい。
 谷村康行 波の科学-音波・地震波・水面波・電磁波-ホアン・G.ローダラー著 高野光司/安藤四一訳 音楽の科学「音楽の物理学、精神物理学入門音はどのように楽器に発生し、その発生した音はどのように環境に伝わり、その環境に伝わった音はどのように私たちの耳に検出されて、私たちの脳で判断されていくのだろうか。とても興味深い物理学に関係のある問いであると私は感じる。私が紹介する本はホアン・G.ローダラー著の『音楽の科学「音楽の物理学、精神物理学入門」』である。この本では「音楽」に関わっている物理学的システムと精神物理学的な過程が取り扱われている。そして音の客観的物理学的な特性が、音楽のどのような主観的精神物理学な感覚と結びついているかについても分析している。この本の特徴を述べる。第一の特徴として複雑な大学で扱うような数学を使わずに説明されていることが挙げられる。フーリエ変換などの大学で扱うような複雑な数学は必要としていないため、数学の知識が乏しい方々や数学が苦手な方々にとっても非常に読みやすい本である。また、第二の特徴としては力学や波動などのこの本を読むうえで必要になる最低限の物理学の知識はこの本の中で丁寧に説明されていることが挙げられる。そのため高校で物理学を履修した方々はもちろん、物理学を履修することができなかった方々の両者においてこの本は音楽と物理学との関係を楽しむことができる最適な本となっている。さらに、第三の特徴として図やグラフなどが多用されていることが挙げられる。図やグラフのメリットとしていまどのような実験を扱っているのか、どのような現象を説明しているのか文字だけでは完全に理解しイメージすることは難しい。図やグラフなどのおかげでそのイメージをありありと理解することが容易になる。以上の特徴からこの本は物理学と音楽の関係について興味のある人にとって最適な本であると考える。物理学と音楽の関係に興味のある人にはぜひ読んでもらいたい。
原作:佐藤雅彦、菅俊一/画:高橋秀明『ヘンテコノミクス』著:ダレル・ハフ/訳:高木秀玄『統計でウソをつく法』 私が推薦する図書は『統計でウソをつく法_数学を使わない統計学入門』である。私はこの本を『ヘンテコノミクス』の関連図書として推薦する。突然だが、『ヘンテコノミクス』を読み、はじめて行動経済学やマーケティング論に触れた人に問いたい。読んでいて「こういう行動以前したことあったけど、あれ企業側の思うつぼだったのか…。」と恥ずかしい気持ちにならなかっただろうか。そう思ったあなた、とてもラッキーである。なぜなら、純粋で情報不足な人であればあるほどこの本は面白いからだ。 私たちの周りには統計で溢れている。広告も、頭良いキャラのタレントの主張も統計データに基づきがちであり、統計データ=正しいと考える人も多いのではないだろうか。しかし、この本の主張は「統計でもウソはつけるので鵜呑みにするな」ということである。本文中にある例を1つ挙げる。ある歯磨き粉の広告の見出しで、「虫歯が少なかった。この結果は信頼できる人達が保証している」としていた。これのどこがダメなのだろうか。正解は、「実験グループの人数を極端に少なくして、実験が都合の良い結果になるまで繰り返し」たデータだということだ。もし目の前の情報だけしか見ようとしなければ、このとんでもない嘘つき企業の商品を好んで買い続けてしまうだろう。 1968年の出版以降、今も読み継がれている百刷本であり、私自身とても面白かった。皮肉とユーモアたっぷりの文章は読みやすいし、例えが古くてピンとこない部分も、同じような広告や失敗が今もないかと探しながら生活してみるのも楽しかった。そして何より、この本の最終章の第10章の「統計のウソを見破る五つのカギ」は非常に実践的で、プレゼンをする際の質問対策としても大いに役立った。 「主張にデータがあれば正しい。」という先入観を壊すこの本を、一度読んでみてはいかがだろうか。
日本音響学会 音のなんでも小辞典福井一 音楽の生存価この本は音楽と人間の関係から音楽科学のこと、音楽と脳のこと、音楽の影響のことを端的にまとめた本である。また、それらはコンパクトにまとめられており、一日で読むことも可能で、「音楽」というものを広く知るために、最初に読む本としてとても適切なものであるといえる。最初は音楽というものはどのようなものであるのかを解説している。音楽史から始まり、現在の音楽の身近さ、音楽教育、音楽療法等のことについてが記載されている。その中でとても気になる問いがあった。それは物事の楽しさに順位をつけさせる実験があり、その結果、音楽はセックスと並んで高順位であったという。セックスの重要性は改めて指摘するまでもなく、遺伝的にプログラムされている快楽であるが、なぜ音楽はそれに並ぶのだろうかという問いがある。私はこの記載を見たときに「え、なんで」とこの本に引き込まれてしまった。この問いの解が知りたいものは実際に借りてみてほしい。次に音楽と脳、音楽行動論についてが書かれている。音楽行動論とは「音楽は何のためにあるのか」という音楽の機能や意味を音楽の科学的研究を通して追求することだ。ここには音楽行動論は音楽のみの研究にとどまってはいられず、音楽を生み出す人そのものの研究でなければならないということが書かれている。これはこの講義中に学んだ、音楽はいろいろな分野につながっているということにつながる。そして、最後に音楽が人間に及ぼす影響について述べられている。ここでは音楽家と非音楽家の脳の働き、音楽能力についての記載や改めて音楽療法について述べられた。この本では何を伝えたいのか。それは音楽は性や攻撃、摂食といった生物の生存にかかわる行動と直結していて、その目的はヒトの生存、音楽には生存価がある。まさに音楽は人間の存在そのものであるということだ。音楽を学ぶ入門書として適切なものであると思うので是非読んでみてほしい。
鴻上尚史  「空気」と「世間」宮島未奈   成瀬は天下を取りにいく「天下」とはなんだろう。様々な解釈があるのは思うが、まず読んでみて欲しいのでそこは割愛する。この本は、普段空気を読む、世間体を気にし、自分のやりたい事を一貫して行う事を体裁を気にして出来ない、我々一般的な日本人全体に読んで欲しい「青春小説」である。この著書は様々な賞を受賞し、恐らくこの紹介文を見ている人々は題名だけは知っている、という事もあるかもしれない。少なからず僕は世間体を気にしてしまうタチなので、「空気を読め」という言葉をよく耳にする今日の我が国の状況を悔やんでいる。空気なんぞ読み物では無いし、誰も説明できない。だがそんな空気に我々日本人は日々囚われている。グローバル化が促進され自由を叫ぶ人々がいる状況下で、自分のやりたい事をやるべきか、それとも世間体、評価を気にして無難に安全牌を選んでいく人生を歩んでいくのか、どちらが正解なのか分からないのが現状の日本のカオスな色である。この著書の主人公成瀬あかりは言ってしまえば「主体性の鬼」である。破天荒、とも言うべきかもしれないがあまりに希少な人間性であるため形容しがたい。成瀬は地元のショッピングモールの閉店に伴い感謝を伝えるべくとある現実離れした行動に移したり、M-1グランプリに挑戦したり、髪型を坊主変えたり、とまぁ文章に表すとよりわけのわからなくなる行動をし続ける。その理由は、「やってみないとわからない、たくさん種をまいてひとつでも花が咲けばいい、花が咲かずとも挑戦した経験は全て肥やしになる」といったスタンスであるからだ。僕はこのスタンスに深く感動した。我々は今大学生である。ネットの情報だけで物事を理解にはこの美しく、広い世界ではあまりに勿体ない。世間で「アイツはおかしい、普通じゃない、関わるのをやめよう」といわれてでも可能性を楽しむことの大切さは何よりも尊く、愛すべきものである。
V.S.ラマチャンドラン サンドラ・ブレイクスリー著 山下篤子訳 脳のなかの幽霊ダニエル・キイス著 小尾芙佐訳 アルジャーノンに花束をこの小説は脳に障害をもった青年、チャーリィ・ゴードンが主人公の物語です。私がこの小説を知ったのは日本のバンド「ヨルシカ」の楽曲「アルジャーノン」がこの小説を元につくられたものである、というところからで、主人公が脳に障害をもっていることなど、あらすじの一部を知っている程度でした。なかなか読む機会を設けることができずにいたのですが、今回「脳のなかの幽霊」を読み、脳の障害について学び、この機会にこの小説を読もうと考えました。実際に読んだ率直な感想としては、今まで読んだ小説のなかで1、2を争うほどに心を揺さぶられるものであった、と思っています。私は小説に限らず、音楽・映画等の創作物について「感情を動かす作品」であることが満足感を与える最も重要な要素であると考えています。その点においてこの小説は非常に満足度の高いものでした。この小説を読んで後悔するということはまずないと思うので読んだことのないみなにおすすめしたいです。内容については実際に読んでもらうのが一番よいと思うので細かいあらすじについては触れませんが、この小説について特に評価したいことは、本著の内容が優れていることに加え、訳もまた非常に優れているということです。脳に障害のあるチャーリィの視点て物語が進行していくため、特に序盤はまるで幼児が書いたような文章で誤字や脱字が多く読みにくい印象を受けます。元は英語で書かれた小説であるため、原文に忠実でありながらも読者が読めるよう考え尽くされており、著者と訳者によるすばらしい作品としてこの小説をぜひともおすすめしたいと思います。
佐藤 雅彦/菅 俊一【原作】/高橋秀明【画】 行動経済学まんがヘンテコノミクス清田予紀 心の謎が解ける50の心理実験 【人が嘘をつきやすいのは、午前中と午後のどちらの時間帯だと思いますか?】 皆さんは、この質問を投げかけられた場合どのように答えますか?ほとんどの人が「午前でも午後でも嘘をつく人は嘘をつく、つかない人はつかない、時間帯もなにもないだろう」と考え、「答えはその人の性格次第だ!」と答えることでしょう。実際、私自身もそのように考えていました。しかし、この考えは大きな間違いでした。その理由は何なのか。その答えは、今回私が紹介する、清田予紀『心の謎が解ける50の心理実験』という本を読めば解決できます。 この本では、例としてあげたような、一見誰が聞かれても簡単に予想したり、答えたりできる50の人間の心理に関する質問が掲載されています。しかし、実際には誰でも答えることができる一方で、理由まで含めた完璧な答えをすることはほぼできません。そんな面白みがある奥深い50の質問に対して、この本は、人間を利用した実験や研究で得られた【結果】や【根拠】を用いて答えを解明してくれます。そのため、この本を読めば、考えたこともなかった人間の心理の本質を多く学ぶことができます。 全体を通じて、この本では、妙な爽快感を得ることもできます。私自身も50の質問全てに真剣に理由まで考え、答えた結果、ほとんどの答えが自分の納得した、予想した答えと違っており、中には納得のいかないようなものも多々ありました(皆さんにもあると思います。)が、50の答え全てにまかり通った理屈があり、解説を読めば必ず納得のいく答えを得ることができたため、爽快感がものすごくありました。この様々に考えた後に答えを知ったときに得られる爽快感を皆さんにも感じてほしいです。 まずは、人は午前中と午後、どちらの時間帯に嘘をつきやすいの考えた上で、ぜひ私のおすすめする本を読んでみてください!人間の心は、大いなる〝不思議〟に満ちている!
フッサール/現象学の理念ニーチェ/ツァラトゥストラはかく語りきこの本は参考図書の現象学の理念と同じ、講談社漫画学術文庫シリーズの本です。皆さんは公民の授業で「神は死んだ」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。この言葉を使用したニーチェによって書かれたのがこのツァラトゥストラはかく語りきです。この本が書かれた19世紀末という時代は、それまで世界的に派遣を握っていたヨーロッパの国々が衰退し、キリスト教の思想が考え直されていたという背景があります。この本は、ツァラトゥストラという主人公が、ある日神が死んだということを知覚し、それまでの考え方とは異なる新たな考え方として、超人の思想について布教していくという内容で、全四部で構成されています。第一部から第四部までの中で、「永劫回帰」、「神の死」、「超人」について町の人に語っています。ここまで聞くと、難しくてよくわからないように感じるかもしれませんが、かみ砕いていえば、神は死んだと悟った人がキリスト教に代わる新たな思想を布教していくというものです。そして私がこの本を読んで紹介しようと思った最も大きな理由は、高校の図書室にも他の出版社から出された同様の本があり、それがとても分かりづらかったため、数年たった今どのように感じるか気になったからです。当時読んだ本は小説の体系で書かれており、途中からは読む気にもなれませんでした。対してこの本を実際に読んでみると、知識がついたというのもあるとは思いますが、漫画という形式が圧倒的に分かりやすく、ところどころにある詳しい説明欄も、重要な部分が理解しやすかったと感じました。読み始めてすぐのうちは、何を言っているのか分からず、退屈に感じるかもしれませんが、読み進めていくと手が止まらなくなるような一冊です。自分は哲学や思想には興味ないという人も、騙されたと思って一度読んでみてください。絶対に損はさせません。
須賀原洋行 現象学の理念竹田青嗣 現象学入門フッサールという人物と現象学という学問の関係性は誰もが知っているだろう。しかし、彼が現象学を研究するにあたって究明したかった事柄を知っている人はほとんどいないと思う。また、それ以前に、彼の現象学を理解することに至らない人は大勢いるだろう。そんな非常に難解な現象学の大まかな理解を促すのにこの参考図書は大変優れていると読んでいて感じた。しかしながら、一見、マンガだからと言って簡単そうだと思うかもしれないが、そんなことはなかった。意味を理解しつつ完読するのに多くの時間を費やした。それほどフッサールの現象学は限りなく狭く、深い思考を持ち合わせることが必要なのだと痛感した。現象学の超入門書と謳われるこの図書を理解するのに大変骨を折ったが、現象学の一端を知ることができた。そして、もう少し踏み込んだ現象学を知りたいと思った。そこで、私が紹介したい図書は「現象学入門」である。この本は、より専門的で、もう少し深く掘り下げた現象学を学びたい学生に推薦したい一冊である。この著者、竹田青嗣は難解な哲学を一般人にも分かりやすく解説している入門書を多く手掛けているため、安心して読んでみてほしい。現象学を理解するにあたって覚えておいて欲しいのは、関係してくるのがフッサールのみでないということだ。デカルトやサルトルといった仏哲学者、カント、ヘーゲルといった独哲学者など、またもや難解な哲学が絡んでくるのだ。そのため、現象学はより難解なものになっていると言える。しかし、この著書では、近代哲学者の思考をかみ砕きながら、フッサールの思考と比較し、より深く、理解しやすく解説を施している。この著書をはじめに読んでもいいのだが、「現象学の理念」のマンガ版で学んだ専門用語の理解が根底にあるからこそ、次に読んでよりこの著書が輝くと感じた。先ずは、深いことは考えず、全てを「エポケー」してから読んでみてほしい。
鴻上 尚史「「空気」と「世間」」鴻上 尚史、佐藤 直樹 「同調圧力 日本はなぜ息苦しいのか」この本では、日本独自の世間や同調圧力などを欧州と比較したり、実際的な問題と結び付けたりして論じています。私はこの本を、世間に同調して生きていくのが苦痛だと感じている人に読んでもらいたいです。特に、どこにいっても「先輩」という存在が幅を利かせるという不思議は今まで感じたことのある人が多くいるのではないかと思います。まったくもって敬意を払うに値しないような人間なのにも関わらず、ただ1、2年はやく生まれたためにその人に敬意を払っているフリをしなければおかしな人のような扱いを受けなければならないということに疑問を感じ続けてきた人には、そのような人がザラにいるということを理解して欲しいです。また、インターネットにおける匿名性についても疑問を感じている人が多いように思います。確かに匿名であるということにはメリットはあります。しかし昨今の誹謗中傷などの社会問題を鑑みると、日本における匿名性はマイナスに働いているように感じている人は多いと思います。そんなモヤモヤが少し楽になるようなヒントがこの本には記されています。総括すると、この著書では、世間に囚われて息苦しく思っている人をすこし息がしやすくなるようなヒントが書かれています。日本の国民性や不寛容な世間に対して不満や疑問、諦めなどを抱いているような人に勧めたいです。
千住博 芸術とは何か 千住博が答える147の質問ポーポー・プロダクション マンガでわかる色のおもしろ心理学色、それは常に私たちの目の前にある。もちろん、色覚異常や色弱などある一定の色を認識することができない人が存在するのも事実だが、多くの人はいくつもの色を認識し、世界に様々な色が溢れていることだろう。この本は、そんな“色”が人間に及ぼす心理的な効果、すなわち色彩心理について、漫画やイラストを用いてわかりやすく示している。例えば、青い車は事故率が高いという。ではそれはなぜか?青色は、後ろに下がっているように見える「後退色」というグループのうちの一色であるがために、青い車は実際の位置よりも後ろにあるように見え、他車からぶつけられやすいという特徴があるからだという。私自身、色と心理の関係性には以前から興味があったが、自分で確かめようにも主観が入ってしまい、何から手を付けたらよいかわからなかった。しかしこの本を読んで、今までの自分の中の疑問が少しずつ解消されていくようで、納得させられる点も多くあり、何より、日常生活で実践してみよう!と思えるようなものばかりで、豆知識のような感覚で楽しく読むことができた。また、この本の後半では、「好きな色で分かるその人の性格」について論じられており、『赤が好きな人は活動的である』のように、その内容はまさに私が色に対して抱いているイメージそのものだった。好きな色というのは年を重ねるごとに変化していき、環境や性格の変化が大きく影響する。本当は違う色が好きなのに、恥ずかしさで他の色を好んでいるふりをしてしまう人もいるだろう。そんなことも考えながら見てみると、自分自身の性格について何か新しい発見があるかもしれない。この本を読めば、論理的に色を知り、もっと自由に、自信を持って色が使えるようになるかもしれない。デザイナー志望などだけでなく、普段自分を周りにどう魅せたらいいか分からないような人など、様々な人にぜひ読んでもらいたい。
哲学の謎 野矢茂樹認知心理学 道又爾、北崎充晃、大久保街亜、今井久登、山川恵子、黒沢学 私は、『認知心理学』という本を紹介したい。 講義内で紹介されていた『哲学の謎』という本を読んだが、その内容に関係することを認知心理学の観点から解説しているのが、『認知心理学』という本だ。認知心理学とは、心理学の1つの分野で、人間がいかにして世界を認知して、世界についての知識を獲得し使用できるのかということを研究する学問である。この本では、まず認知心理学の歴史を紹介し、2章と3章で人間の知覚のメカニズムを解説している。4章から8章では、注意、表象、記憶、言語、問題解決と推論というより細分化された知覚の分野について言及している。 今回は、『認知心理学』の2つの部分を紹介したい。まず1つ目は、主に2章と3章で言及されている視知覚についてだ。講義内で『哲学の謎』を紹介するときに、先生が、「人間がいなくなった世界の夕焼けは赤いのか」という問いかけをされていた。それに興味を持ち『哲学の謎』を読み始めたが、この本には、視覚から得た情報をもとに、その情報の認識の仕方を哲学的に考察する場面が多くある。『認知心理学』では、視覚から情報が入り、それを伝達し認識するまでのメカニズムについて言及されている。 また、言語は人間独自の文化だが、『哲学の謎』の言語を扱った章では、ものの名前つけ方や人間の言語の構造などに言及している。『認知心理学』には、広義でも紹介されていたブローカ失語とウェルニッケ失語について詳しく書かれている。また、それらの病気で言葉を失ったことで、その人の心や思考には影響がないのかということも記述されている。 今まで哲学を学んだことがない人は、人間の認識を哲学的に考えるのは難しいだろう。その場合は、まず『認知心理学』を読んで人間の知覚や認識のメカニズムを学ぶと、人間の認識を哲学的に考えるのが容易になるだろう。『認知心理学』は哲学を学んだことがない人に読んでほしい1冊である。
「ダーウィン『種の起源』を漫画で読む」 (著)チャールズ・ダーウィン (監修)佐倉統「生物は体のかたちを自分で決める」 (著)ジョン・メイナード=スミス (訳)竹内久美子 「生物は体の形を自分で決める」この本のタイトルの通り、本書では生物に目や足がある理由を「なぜ」ではなく「どうやって」作り出しているのかを発生遺伝学の面から解説している。
この本の著者、ジョン・メイナード=スミスは動物行動学、進化生物学の世界の大御所として知られている。そして、この本は最新の研究で明らかになった知の枠組みを設定しつつ、ダーウィンの進化論を学ぶことのできる『進化論の現在』というシリーズに属している。つまり、この本は現代の知識を取り入れながら進化論の理解を深めることが出来るのだ。  本書は5章から構成されており、全89ページと短いため手に取りやすい本だと思う。1章では、進化の中で見られる形態の変化と進化理論を結びつけるうえで、発生生物学の理解が必要不可欠なことが語られている。2章と3章では、それぞれの生物の形態を作るための信号、さらにその信号を制御するスイッチまでも担う遺伝子の仕組みが解説されている。そして4章では、個体発生における分化は、自己組織化して動的に起きているのか、もしくは遺伝子にすべての情報が書かれているかの議論を展開している。5章は個体発生を研究には二つのアプローチが存在することを語っている。
 本書は2002年発行と、少し古い本であるが発生遺伝学を学ぶには十分であると考える。また、生物を専攻しておらず発生遺伝学について初めて触れる方には、基礎的な概要を端的に理解できるためうってつけである。「私たち生物がどのようにしてこの形に生まれてきたのか」興味がある方には是非読んでもらいたい一冊である。
著者:鴻上尚史、題名:「空気」と「世間」著者:鴻上尚史、題名:「空気」を読んでも従わない 私が紹介する本は『「空気」を読んでも従わない』という本だ。この本は、参考図書の中にある『「空気」と「世間」』という本の作者鴻上尚史が書いたものである。 どうしてこんなに、周りの目が気になるのか?どうしてこんなに、なんとなくの「空気」に流されるのか?どうしてこんなに、生きにくいのか?生き苦しいのか?きっと、生きていれば一度は感じたことがあるだろう。私が弱いのだろうか。こう思ってしまう人も少なくないだろう。この本は、そんな悩みを解決ないしは和らげる手助けをしてくれるだろう。 なぜ、生き苦しいのか。そこで思考を止めていないだろうか。この本は、この「生き苦しさ」のヒミツの解明するために、「考える」ところから始まる。日本では、「空気を読め」、「和を乱すな」とよく言われる。「空気」に重きが置かれている。この「空気」に疑問を持つことはあっても、言い出しにくさを感じる。従わなければと思ってしまう。従うことが当たり前だと思ってしまう。この、「空気」や「和」の根底にあるものを考えたことはあるだろうか。この本では、どうして日本ではこのような風潮が生まれたのかを歴史的な観点から見たり、海外との違いなどをふまえて書かれている。私はこの本を読んでから「人にすることは巡り巡って自分のもとにやってくる。」という言葉の捉え方が変化した。 現代の日本で暗黙の了解となっている「空気」。「空気」を読むこと、読んだうえでの対応、周囲からの同調圧力…と悩みや不安がある人はこの本を手に取ってみてほしいと思う。
ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム   古屋 晋一 芸術的創造は脳のどこから産まれるのか? 大黒達也 創造性とは「新しいもの」を生み出すことである。では、「芸術的」創造とは何だろうか。「芸術的」であるかどうかは個人の主観に基づくものであるがどのように解釈するのか。本書の著者は幼い頃から音楽経験があり、「脳の潜在記憶」の観点から、音楽の創造性がどのように生まれてくるのかを数々の論文を引用しながら探求した一冊である。 我々は日々、意識に関わらず様々な音楽を聴いている。その中でこのような経験はないだろうか。気に入った音楽を見つけ、聞き続けると飽きたと感じ、また他の音楽を探す瞬間が。他の動物より、前頭前葉機能が発達している私たち人間は音楽を理解することができる。そして、音楽を求める。この部分に著者は潜在的な脳の働きが関係していると考えており、脳の進化的側面や教育方法、生活習慣、癖などを含めた7章にもわたる検討がなされている。 私が特に興味を持った一節は「芸術家は変わりものである」という周囲が与える先入観こそ、本人を芸術家にさせるというところである。「思い込み」そのものも脳の働きであるということ。脳の働きはそれ単体でひらめきが起きるのではなく、創造性は外部からの刺激に影響されているとあまり考えていなかったので意外だった。 本書は、音と音楽をめぐる科学と教養で取り扱った音楽理論の話をより深掘った作品である。構成は、概念や抽象的な話、専門用語も多く、理解に時間を要する。しかし、誰でも一度は思うのではないか、天才と自分は何が違うのだろうと。天才と呼ばれている人達の思考はどうなっているのかと。そのような疑問を持ったことがある人には読むことを薦めたい。
近藤滋「波紋と螺旋とフィボナッチ」エンツェンスベルガー「数の悪魔 算数・数学が楽しくなる12夜」私が紹介する本は近藤滋著「波紋と螺旋とフィボナッチ」である。フィボナッチ数列という言葉に聞き覚えのある人は多いのではないだろうか。黄金比を関連して思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし、波紋と螺旋は何のことだろうか。読者は著者のユニークな文体と面白さに引っ張られてズルズルと最後まで読んでしまう。数学に苦手意識をもっている人は手を出しづらいタイトルだと思うが、ぜひ文系の人にこそ、数学の取っ掛かりとして読んでほしい一冊である。この本は1章一題で、図や写真を用いながら、日常にある「波紋」と「螺旋」と「フィボナッチ」を解き明かしていく構成になっている。章の題、話の掴み、内容に挟まるボケや語り掛けは読者を飽きさせない。一章が短いので区切りが良いところまでサラッと読めてしまうのも嬉しいポイントである。第1章を少し紹介しようと思う。第1章は「育てよカメ、でもどうやって!?」という題で、『大怪獣ガメラ』を掴みに始まる。カメの甲羅はどうやって大きくなるのか。脊椎動物の体形の基礎になっているのは骨であるため、骨の外側にカルシウムを付け足すことで大きくすることが出来るが、骨の形は複雑だ。どうしたら形を保ったまま拡大できるのだろうか。そこにフィボナッチの仕組みが隠されている。本編では他の動物にも触れられているのでぜひ読んでいただきたい。紹介文を読んでもこの本を読みたいと思えなかった人には、エンツェンスベルガー著「数の悪魔」を紹介したい。先ほどの本よりも理系向けのようなタイトルではあるが、内容は簡単な算数の知識を使って数の世界の美しさを伝える、とても面白い本である。フルカラーでイラストが多く、文字も大きいので絵本のような感覚で読むことが出来る。数学が既に好きな人も、改めて数の面白さを実感できるだろう。どちらの本も、数学の魅力を再発見させてくれる一冊である。ぜひ手に取ってみていただきたい。
原作:佐藤雅彦+菅俊一 画:高橋秀明 『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』リチャード・ショットン 訳:上原裕美子 『自分で選んでいるつもり 行動科学に学ぶ驚異の心理バイアス』私は参考図書の『ヘンテコノミクス』を読み、普段何気なく接している商品やサービス、広告等に幅広く行動経済学が利用されていると知り、この分野をもっと深掘りしたいと考え、行動科学という近しいテーマの本作に行きついた。読んでみた結果、私のように『ヘンテコノミクス』を読んで人の行動や心理に興味を持った人全員に薦められる本だという感想を抱いた。この本は、「はじめに」と「おわりに」の他に全16と1/2章、そしてボーナストラックで構成されている。章の数が16と1/2という半端な数である理由、またボーナストラックがある理由は本編で解説される行動科学に即しているので、これから本作を読む方はそういったユーモアにも注目するとより楽しめるだろうと私は考える。本作は、各章の冒頭にある人物の一日という設定での日常生活で直面する選択が提示され、その思考プロセスの背景が様々な学者の研究を元にした行動科学で解説され、その章の行動科学のビジネスにおいての応用の方法が示され、最後には次の章への橋渡し的な文章が入る構成となっている。構成が簡潔なので予備知識が無くても読みやすい文章だった。『ヘンテコノミクス』でも解説されていた「極端回避(3種類の料金プランを提示されると真ん中のプランを選択したくなる)」や「フレーミング効果(同じ情報でも表現の切り取り方によって印象が変わる)」、「ハロー効果(一つポジティブな要素があるとそれ以外の要素にも高評価を下す)」をより詳しく知れたことも魅力的だったが、私がこの本で一番印象に残ったのは、常識や規範から外れている方が周囲に同調せずとも立場がゆらぐ心配が無い=社会的ヒエラルキーが高いとみなされる「レッドスニーカー効果」だ。ただしその効果はすでに高いステイタスを持った人物やブランドでないと通用しないという点や「あえてやっている」と思われないと発動しないという点が興味深かった。
「音のなんでも小辞典」著者:日本音響学会「声のなんでも小辞典」著者:和田美代子「声のなんでも小辞典」は、声に関するあらゆる情報を網羅した便利なガイドブックだ。声の仕組みや発声方法、声の健康管理、声優や歌手のテクニックなど、幅広いトピックをカバーしている。声に関心のある方や、声を使った職業に従事している方にとって、必携の一冊である。例えば、私はカラオケで歌を歌うのが苦手で上手く歌えないため、この作品を読めば声の出し方を理解することができるので、私のような人にもおすすめである。この辞典は、初心者からプロフェッショナルまで、誰でも理解しやすいように書かれており、専門用語の解説や実践的なアドバイスが豊富に含まれている。例えば、声のトレーニング方法や、声を保護するための生活習慣、さらには声を使ったコミュニケーションのコツなど、実際に役立つ情報が満載である。また、声の歴史や文化的背景についても詳しく解説しており、声の重要性や多様性を再確認することができます。声の科学的な側面から、芸術的な表現まで、幅広い視点で声を捉えている。「声のなんでも小辞典」は、持ち込みやすいコンパクトなサイズでありながら、内容は非常に充実している。日常生活の中でふと疑問に思ったことをすぐに調べることができるため、常に手元に置いておきたい一冊だ。この辞典を通じて、声の魅力や可能性を再発見し、より豊かなコミュニケーションを楽しんでもらえるでしょう。声に関する知識を深めたい方、声を使った表現を磨きたい方にとって、最適なブックである。
鴻上尚史 「空気」と「世間」森本あんり 宗教国家アメリカのふしぎな論理 超大国アメリカ。アメリカは常に科学や工業などのさまざまな分野で世界をリードしてきました。しかし、本当に人間は神によって創造されたと信じる人達、トランプ大統領を熱狂的に支持する国民と我々日本人からすると一見不思議な国に見えます。この本ではアメリカにおけるキリスト教史の専門家である森本あんり氏がアメリカという宗教国家の本質を「富と成功」、「反知性主義」の観点から解説してくれます。
 『「空気」と「世間」』を読んだときにアメリカに世間が存在しない理由はキリスト教に頼ることができるからだとしか書かれておらず、私はなぜアメリカ人は宗教に絶大な信頼を置いているのか疑問に思いました。そこで私はアメリカと宗教の関係性をもっと深く知りたいと感じ、アメリカに関する本を調べているうちにこの本に辿り着きました。
 本書は大学生でも簡単に読むことができますし、そこまで宗教の話も難しく書かれていません。歴史的に見てアメリカのキリスト教は他の国とどう違うのか、それがアメリカの歴史をどのように動かしたのかなどの観点から解き明かしていきます。第3章ではなぜトランプ大統領が誕生したのかを宗教の視点から解説しています。そして、この本を読み終えた頃にはトランプ大統領の誕生は歴史的に見れば偶然ではなく必然だったことが見えてきます。中でも興味深かったのはアメリカ人は「選べること」が大好きだということです。アメリカ人は意思主張が大好きです。なぜ彼らは意思力を崇拝しているのか。そこにアメリカという国の成り立ち方が関わっています。そして、この本を読むとアメリカを支えてきたのはキリスト教というよりも正確にはキリスト教に基づく平等意識であることがわかってきます。  この本を読めばアメリカという国の本質を読み取ることができます。アメリカに深く関わる日本だからこそ全員に手に取って欲しい一冊です。
著者:野矢茂樹 題名;無限論の教室著者:嶽村 智子、大山口 菜都美、酒井 祐貴子 題名:めくるめく数学。 女性数学者たちが語るうるわしき数学の物語私がこの「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義を受けた受講生にお勧めしたい本は、「めくるめく数学 女性数学者たちが語るうるわしき数学の物語」である。この本の内容としては、数学が世の中でどのように役に立っているかが、数式をあまり使わずに、文章やイラストで楽しみながら理解できる内容になっている。この本を紹介しようと思った理由として、この講義で三角関数や2進数など数学に関する内容があったが、「数学で習うような知識は日常生活に用いることはないと思っていて」などの感想があり、意外と数学がどのように使われているかが知られていないことに気づいたからである。この本は、特に数学が嫌いな人に読んで欲しいと思う。「数学なんて絶対使わない」と思っている人は、列に並ぶ時の並び方、ものを買う際に次元を考えていること、数学(素数)で個人情報が守られていることなどを知っているだろうか。この本を読むことで数学を身近に感じる事ができると思う。数学を学んでいる人でも無限の考え方(アキレスと亀、ヒルベルトホテル、フラクタルなど)やフィボナッチ数列、写像、統計、トポロジーなど面白い内容もあり、楽しく読む事ができると思う。またこの講義に関連した内容として、「数学が音楽を作っている?!」という章がある。この章では講義でも習う事があったデジタルやグランドピアノの構造の復習をする事ができる。習った内容ばかりではなく、1オクターブの概念は、三平方の定理を考えたピタゴラスが始まりであることやフィボナッチ数列が隠れていることなど数学寄りの内容も含まれている。理数系に興味がない、むしろ縁遠いと思っている方に数学を身近に感じてもらえる本にしたいという思いからこの本が生まれている。そのため内容としては、難しくことはなく、楽しく読む事ができると思う。この本を読むことで、この講義の目標である教養を身につけることができると思う。
柳田益造(編) 楽器の科学(著)フランソワ・デュボア(訳)木村彩 楽器の科学 美しい音色を生み出す「構造」と「しくみ」この本は音楽経験がある人は一度は考えたことがある疑問に答えてくれる本です。しかし、音楽の経験が少ない人にも分かりやすく具体的な説明が施されています。第1章では楽器の分類について詳しく書かれています。私たちに馴染み深いのは弦楽器・管楽器・打楽器・鍵盤楽器の4種類でしょう。しかし、ここでは体鳴楽器・膜鳴楽器・弦鳴楽器・気鳴楽器・電鳴楽器の5種類に分類するHS法が用いられています。じつは人の声も楽器の1つに分類されるのですが、人の声は5種類のどの分類に属するのでしょうか。第2章では、楽器の個性を決める音色と深く関係のある倍音について説明されています。音は目には見えません。それなのに楽器ごとの音を区別することができるのはなぜでしょうか。その所以を倍音から紐解いていきます。第3章では、共鳴について説明されています。どうしてヴァイオリンは60cm程の大きさで大きい音がだせるのでしょうか。その謎には共鳴が関係しています。ヴァイオリンにはその共鳴を上手く作るしくみが施されているのです。第4章は、最高のコンサートホールとは何かという問いを音響科学からアプローチして検討しています。コンサートホールの設計は音響技術者が音の屈折や回折、直接音や反射音などを考えながら奏者と聴衆の両方が心地よいホールを作りあげます。この章を読み終えるとコンサートホールは音響技術者の血と涙の結晶だと分かると思います。最終的にどんな結論になったかは是非読んで確かめてみてください。第5章では、10人の世界的ソリストが音響体験について語っています。この章は特に何か音楽活動をしている人にとって、ヒントとなるエッセンスがつまっていると思います。さらに、この本には音と音楽をめぐる科学と教養の講義を受講している人なら聞き覚えのあるワードや内容が出てきます。講義の総復習・知識を深める1冊としても適しているおすすめ1冊です。
近藤滋  波紋と螺旋とフィボナッチイアン・スチュアート 自然界に隠された美しい数学自然界には、まるで数学の規則に従ってデザインされたかのような美しいパターンが数多く存在しています。例えば、貝殻の螺旋やひまわりの種の配置、雪の結晶の対称性など、これらの自然の形状や模様は、数学的な法則に従っています。本書では、これらの自然の中における数学的美しさを「フィボナッチ数列」や「黄金比」といった数学的概念を用いて説明します。
フィボナッチ数列は、自然界の至る所で見られる規則です。ひまわりの種の配置や松ぼっくりの螺旋模様など、身近なものがこの数列に基づいています。黄金比もまた、花の咲き方や動物の体の構造に見られる比率で、これらがどのようにして自然の美しさを生み出しているのかを本書で詳細に説明しています。
「波紋」や「螺旋」といった自然界のパターンも数学的な法則に基づいて形成されています。例えば、波紋は小さな石が水面に投げ込まれるときに広がるものであり、その形状には数学的な規則が隠れています。また、螺旋は多くの生物や物体にみられる模様であり、これも数学の美しい現れの一部です。本書では、これらのパターンがどのように自然界で見られるのか、またそれがどのように数学と結びついているのかを、イラストや写真を用いて分かりやすく解説しています。
数学の知識がなくても理解しやすいように、豊富な図解と分かりやすい説明で構成されているので、専門的な知識がない文系の方でも安心して読み進められます。本書を手に取ることで、数学が単なる数式や理論の世界にとどまっているものではなく、自然や生活と密接に関わっているものだと気づくでしょう。また、自然の中に隠された数学的な美しさに感動することでしょう。読み終えた後には、自然界のあらゆるものが数学と結びついていることに驚かされ、身の周りの生物や自然に対する新たな視点を得ることができるでしょう。
野矢茂樹「哲学の謎」野矢茂樹「言語哲学がはじまる」「ミケは猫だ」この文から猫とは何か、ミケとはどういう意味なのかという疑問が生まれる。この根本には「言語とは何か」という漠然とした疑問がある。この本では、「猫とは何か」などの身近な疑問から考え始めて、「言語とは何か」という大きな問いに飛び込んでいく。フレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタインという言語論的転回を切り拓いた3人の思考を紐解きながら言語哲学を案内し、答えのない問いを考え続ける楽しさをおすそわけしてくれる一冊である。ウィトゲンシュタインは、哲学問題は、思考の限界を越えようとする人間の知的衝動の所産なのだといい、言語と思考に関して明確に言語優位の考え方を打ち出した。思考が言語に生命を吹き込んでいると考えるラッセルとは異なる。ウィトゲンシュタインは、ある対象についてそれがどの可能的な事態に現れうるかということを「論理形式」と呼び、これに基づいて言語の動的性を示していく。彼ら3人の思考の展開については、この本で分かりやすく説明されており、新たな発見で溢れているため、実際に読んでみることをおすすめする。哲学の面白さのひとつは、ひとが立ち止まらないところで立ち止まり、分かっていたつもりのことが分からなくなって、そこに思ってもみなかった問題が開けることにあると著者は言う。私たちはインターネットの発達により既存の言葉が変化したり、新たな意味を持つ言葉が生み出されたりする時代を生きている。いつの時代においても、会話は時間がかかるものであるし、言語使用は時の流れと共に絶えず変化していく。この本は、言葉は理論化を越えて生成変化していく果てしない可能性を秘めていることを理解し、当たり前だと思っていたことを一度立ち止まってよく考える必要があることを教えてくれた。最後はウィトゲンシュタインの手稿からの引用で締められている。「言葉はただ生の流れの中でのみ意味を持つ。」一緒に考えよう。
図解・感覚器の進化―原始動物からヒトへ水中から陸上へ   岩堀修明ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト: 最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅  ニール・シュービンこの図書は、古生物学、解剖学、発生学、遺伝学を見事に繋げて、生命進化の旅へ案内してくれる。
第1章 内なる魚を見つける では、2004年に魚類と両生類の中間種である、3億7500万年前の地層から、「大きな淡水魚」という意味を持つ「ティクターリク」の発見を紹介している。動物園と水族館にいる動物や生物の形質によって、地層の柱状図からその特徴が時系列に並べることができるという事が示される。
第2章 手の進化の証拠をつかむ では、著者の医学部 解剖教室での人体解剖実験の経験と偉大な解剖学者 リチャード・オーウェンが示した「すべての動物における骨格」が同じデザインで構成されていることを詳細に読者に解説する。
第3章 手の遺伝子のかくも深き由緒 においては、ソンダースとガッセリングが胚芽の段階で極性化活性領域(ZPA)で鏡像関係にある重複肢が得られた事を紹介した上で、クリフ・タビン研究室がソニックヘッジホッグ遺伝子を紹介し、自らの腕の解剖学の特徴の中に、とうとう内なる魚を見るのである。
第8章 においのもとを質す においては、バックとアクセルが嗅覚に関して、魚類・両生類・哺乳類間でもにおい受容体遺伝子が生命の歴史における大きな移項を記録していることを発見したことを紹介する。
 この図書の著者は、研究歴のほとんどを魚に費やしてきた古生物学者でありながら、シカゴ大学医学部で人体解剖学を教えている。 このように進化を辿る古生物学と人体の器官や組織について研究する学問である人体解剖学を熟知する著者の解説と図説ともに説得力がある。タイトルの趣旨は読み進むにつれて明らかになっていくが、各考察の重点箇所では図解や写真も適宜使用されており、一般読者を充分に意識した構成である。我々の体が進化の過程で辿った非常に長い歴史を知りたい人にとってふさわしい一冊である。
野矢茂樹 無限論の教室野矢茂樹 語りえぬものを語る  世の中にはうまく言葉では言い表せないもの、相手に伝えることができないこと。そういった瞬間が世界中に多く散らばっている。今この文章を読んでいるこの瞬間も、日本そして世界ではそういう出来事が起こっている。 私が紹介する参考文献は、野矢茂樹さんの「語りえぬものを語る」である。この本は私が高校三年生のときの現代文の教材として出会った本である。ところどころに少々変な言い回しや難しい単語があるが、それぞれ説明や例えがあるため読んでいく上での心配はいらないだろう。特に読んでほしい段落は、一段落目の「猫は後悔するか」である。この段落では、普段私たちが何気なく使っている言語の細部に焦点を当てて、猫と人間がどのように「後悔するか」という点で異なるかの議論を進めている。そんな中で私が特に印象に残った文を紹介したい。「言葉がなければ可能性は開けない」である。この文章を見たとき、頭の上にハテナが浮かんだ人も少なくないだろう。しかしこの文章には深い意味が込められている。私たちの世界に言語がなくなったら、どのような現象が起こりえるだろう。そのような仮定をすることで、私たちの生活に必要不可欠である言語というものの本質を追求した結果というものがこの文章に込められているのである。 多くの人がこの本を読んで、今まで何気なく使ってきた言語について深く考え、言語の本質というものに触れてほしいと思う。そしてこの本を読み終わったとき、あなたの前には一つの哲学的風景が立ち上がってくるはずである。この本で得た新しい視点を持つことで、今後の日常生活で活きる瞬間が必ず来るだろう。
ルドルフとイッパイアッテナ 斉藤洋人間にとって教養とは何か 橋爪大三郎「教養を身に着けることは、大切である」ということは、誰もが理解しているだろう。しかし、なぜそれは大切なのか、身につけたらどんな良いことがあるのか、そもそも教養とは何なのか、分からない人は多いだろう。この本は、そんな漠然とした「教養」という概念の入門書になる本である。 入門書といった通り、この本は、終始語り口調で、非常に読みやすく、分かりやすい内容になっており、歴史や学校など、私たちにとって身近な話題を通して、「教養」を教えてくれる。この本を読めば、なぜ教養が大切なのか、そしてその教養をどこで使うことができるのか、ということに加え、具体的な学び方として、本を読むことの大切さ、辞書・辞典の良さ、そして私たちにも身近なインターネットについても知ることができる。私がこの本の中で、印象的だったのは「自分が触れる情報にはすべてバイアスが含まれている」という言葉である。どんなに中立的だと思われる人であっても、何かしら偏った考え方を持っている。教養を得ることで、いろんなバイアスを知り、知れば知るほどいろいろな見方ができるようになる。情報に左右されやすい、現代の私たちにとって、教養の大切さというのを実感させられる言葉だと感じた。 この本がおすすめなのは、高校生や大学生といった学生である。この本は、非常に読みやすい内容でありながら、教養の大切さを十分に教えてくれる。この本を読めば、もっと知りたい・学びたいという好奇心を掻き立ててくれるだろう。一冊読み終えるのは、気が引けるという学生にはぜひ「前書き」だけでも読んでいただきたい。前書きでは、教養原論として、教養の誕生・歴史について説明しており、ここを読むだけで教養に対する理解が深まっていくだろう。テストや入試の連続で、形式的な学びになっている人、学びに意味を感じなくなってしまった人にぜひ読んでほしい一冊である。
川原人繁 「音とことばのふしぎな世界――メイド声から英語の達人まで 」川原人繁 「「あ」は「い」より大きい!?—音象徴で学ぶ音声学入門」我々は「声」という音声を使ったコミュニケーションをする。その音声を使ったコミュニケーションのあらゆる側面を考えるのが「音声学」というものである。音声学と聞くとかなり難しそうに感じてしまう。私もそんなイメージを持ってこの本を手に取った。しかし、この本では音声学についてかなり身近な題材で分かりやすく解説されており、さらに分かりやすさの要因となっているのが、筆者が慶応義塾大学の大学教授であるということ。実際に大学生に音声学の講義をして、そこで大学生からの反応や質問などを受けてそれを反映させていることで、音声学を初めて学ぶ我々にとって分かりやすくまとまっている。例えば、「ゴジラ」という怪獣はみんな知っていると思うが、もし仮に「コシラ」という名前がついていたらどうだろうか。ただ濁点がついただけなのに印象が全く違う。「ゴジラ」のほうが明らかに強そうである。というように言葉というものはただ単に名前としてついているだけでなくその名前がついた物自体のイメージも左右してしまう。正直これはとても驚きだった。なぜなら人の名前でもその人のイメージに影響を与えるということが起きるからだ。名前で人のイメージが決定されてしまう事実があると聞くととても興味深いという人も多いのではないか。このように、身近なところにも音声学というのが深く関わっている。この本では実際に筆者が自らの研究で明らかにした結果などをもとに解説されているので新たに知ることも多く飽きずに読み進めることができる内容となっている。音声学という分野はもちろん数式などを多用する分野ではあるが、数式などを用いて解説されることは少なく、文系・理系問わず様々な人にお勧めできる。イラストや写真を用いたり、そして誰もが知っているであろうキャラクターを題材にして解説することで、とっつきにくい音声学を学び始める一歩を後押ししてくれる内容の本になっている。
野矢茂樹 無限論の教室杉浦光夫 解析入門Ⅰ 参考図書の「無限論の教室」では、数学を学んでない人にも分かりやすいように無限について学べる本であったが、私が紹介する「解析入門Ⅰ」は実数、数列の極限、関数の連続性、微分法、積分法、級数などの微分積分学を詳しく学ぶことが出来る。この本は、真剣に数学を学びたい人におすすめである。 高校までしか数学を学んだことのない人は、「数列{Xn}がaに収束するとは、nが限りなく+∞に近づいたときaに限りなく近づくことである。」と考える人もいるが、それは間違いである。それはなぜかというと、「nが限りなく+∞に近づく」とは何か、「aに限りなく近づく」とは何かは読む人によって感じ方が違うからである。実際、実数列{Xn}が実数aに収束するとは、任意の正の実数εに対して、自然数Mが存在して、N≥Mを満たす任意の自然数Nに対して、|Xn-a|<εが成り立つことである。ここで定理を一つ紹介する。「a,bを実数とする.実数列{An}はaに収束し,実数列{Bn}はbに収束するとき,実数列{An+Bn}はa+bに収束する.」以下でこの定理を証明する。正の実数εを任意にとる。{An}はaに収束するから自然数N1が存在してN≥N1を満たす任意の自然数Nに対して|An-a|<ε/2が成り立つ。また、{Bn}はbに収束するから自然数N2が存在してN≥N2を満たす任意の自然数Nに対して|Bn-b|<ε/2が成り立つ。よって、M=max{N1,N2}とおくと、N≥Mを満たす任意の自然数Nに対して|(An+Bn)-(a+b)|≤|An-a|+|Bn-b|<ε/2+ε/2=εが成り立つ。よって、実数列{An+Bn}はa+bに収束することが示された。このように、当たり前だと感じる定理も証明する必要がある。 以上から、「解析入門Ⅰ」は数学を1から厳密に学ぶことが出来る。よって、数学を真剣に学びたい人にはおすすめな本である。
「現象学の理念」(原作フッサール、須賀原 洋行訳)知覚の現象学 著:モーリス・メルロ=ポンティ『知覚の現象学』は、フランスの哲学者モーリス・メルロ=ポンティによる現象学の重要な著作だ。この本は、私たちが世界をどのように知覚し、理解するかについての深い洞察を提供する。メルロ=ポンティは、日常的な経験と知覚のプロセスを詳細に分析し、それを通じて人間存在の本質を探求している。この本は、以下のような学生に特に向いている。
哲学専攻の学生:現象学に関する深い知識を得たい学生にとって必読の一冊。フッサールやハイデガーの現象学を発展させたメルロ=ポンティの視点を学ぶことで、現象学の全体像を理解できる。心理学専攻の学生:知覚と意識の関係を探求するための新しい視点を提供し、実験心理学や認知科学の理論と実践に応用できる。
本書の内容について述べると、『知覚の現象学』は、知覚を単なる受動的なプロセスとしてではなく、能動的で身体的な経験として捉える。メルロ=ポンティは、知覚が身体と世界との相互作用の結果であり、私たちの存在と深く結びついていると主張する。また、知覚がどのようにして意味を構成するのかを解明し、感覚データに基づいて意味を構築する過程を探求している。
さらに、身体の役割についても詳述している。身体が知覚の中心であり、意識と世界との媒介役を果たすと考え、身体と心の統一性を強調している。『知覚の現象学』は、知覚の本質を理解するための必読書だ。哲学、心理学、美術・デザインなど、さまざまな分野の学生に新しい視点と深い洞察を提供する。メルロ=ポンティの独自のアプローチは、知覚を通じて世界をどのように経験し、理解するかについての理解を一新し、深めてくれるだろう。
行動経済学まんがヘンテコノミクス/佐藤雅彦 (著)行動経済学 経済は「感情」で動いている/友野典男(著) 自らの利益だけを追求する経済人は、感情に左右されず勘定で動き、市場は重視するが私情には無縁だとしている。そしてその超合理的な経済人が標準的経済学が前提としている人間像であるという。しかし私たちのほとんどは全ての行動を合理的には行えないだろう。例としてこの問題を考えてほしい。「あなたは1000円渡され、誰かと分けるように言われた。全額手元に置いてもいいし、一部を自分で、残りを相手に渡してもよい。ただし相手には拒否権があり、提案した額を受諾したらその通りに分配されるが、相手が拒否したら2人とも一銭ももらえないとする。あなたなら相手にいくら渡すと提案するだろうか?」もしどちらも経済人であるなら自分が999円得て相手に1円渡すのが正解となる。なぜこれが合理的と呼べるのかはぜひ本書を読んでほしい。 このようなクイズや事例を多用して読み手に考えてもらいながら、私たちが持っているバイアスやいかに私たちが他者の影響を受けて経済活動を行っているかが説明されている。私は、自分の持っているものに高い価値があると思う「保有効果」に興味をもった。説明の際に言葉だけでなく数式やグラフがあるものもあり、論の説得性が増しているように感じた。また、似たような例を集めて章が構成されているため、気になる章だけ抜き出して読むこともできる。 本書では心理学や脳神経科学の話も出てくるため、人間のありかたや感情に興味を持っている人全般におすすめできる。特に認知心理学や社会心理学とは深い結びつきがあり、心理学分野で聞いたことがあるバイアスが経済ではこのように使われるのだととても関心をもった。本書を通して、人間の考えかたのクセが分かるだけでなく、経営者または消費者としてどのような点に気をつけて経済活動を行うとよいかも知れてしまう。経済人とまではいかなくとも合理的に判断のできる人間になれるきっかけになるかもしれない。
音のなんでも小辞典 日本音響学会 編音楽の物理学 音楽をする人たちのための入門書 アレクサンダー・ウッド 著 J.M.バウジャー 改訂 石井信生 訳 私たちの生活に必要不可欠な「聴覚」。そこで感じ取られる日常で聞く音は、すべて「音波」と呼ばれる振動が空気中を伝わってくることで成り立っています。音は、ただの「ノイズ」ではなく、物理現象に基づいています。物理学と音楽の興味深い関係を知りたいという人に私が紹介する本は「音楽の物理学 音楽をする人たちのための入門書」です。この本の題名にある通り、音楽をする人に向けてはいますが、物理的側面で音楽を説明しています。 この本は第1章から第13章までの構成となっています。初めの章では波としての物理的な音の性質について説明しています。高校物理を履修していた方にとっては既存知識かもしれませんが、「音」についての波の関連知識が増えます。また、絶対音感や音高、音程などの授業で取り扱われていたことについてより詳しく書いてあります。 そして次の章では弦楽器、オルガン、その他のいろいろな楽器について説明しています。弦楽器ではピアノやヴァイオリン、ハープの音のなる仕組み、これらの楽器から得られる音の音質を変化させる方法について説明しています。またオルガンの音の源である音菅(パイプ)。この音菅から音がでる仕組みについて、基本である空気の振動の説明から入り、オルガンの音色の変化を説明しています。そして人の音声やフルート、木管楽器、金管楽器などのすべての一般的な楽器について説明されているので、比較しながら読むことで相違点を理解でき興味深いです。 最後の章では不協和や和音、音階や音楽堂の仕組みについて説明されています。この範囲は「音と音楽をめぐる科学と教養」の受講者にとって見たことのあるものが多く出てきます。全体的にこの本では授業の内容に多くふれているため、音楽をしている方だけでなく、授業の復習をしたい方や、より詳しくことに興味がある方にぜひ読んでもらいたいです。
下條信輔 サブリミナル・マインド内藤 誼人 図解 身近にあふれる「心理学」が3時間でわかる本  「心理学」という言葉を聞いて、どんなイメージが湧くだろうか。この本に出合う前の私であれば、人の心を読む学問だと考えていただろう。しかし、それは心理学のごくごく一部にすぎない。実際には、職場における人間の行動を研究する組織心理学、身体的な健康の維持と増進、疾病の予防と治療において、心理学的な貢献をすることを目指す健康心理学、心の状態がスポーツの過程や結果に及ぼす影響を研究するスポーツ心理学など多岐にわたる。この本は、そんなバラエティに富んだ心理学について、日常生活でおこる現象を具体例として分かりやすく説明している。また、この本は1つの現象に1つの興味を引く見出しがついており、2~3ページで簡潔にまとめられている。そのため、気になったところから読み始めることができる。そして、専門用語がほとんど使われていない、専門用語が出ても、丁寧に解説されているため、誰でも読みやすい。 この本は第1章から第6章までの構成となっている。第1章は、「『家族・恋愛』の心理学」というタイトルで、「美女と野獣のようなカップルはどうして生まれるのか?」や「長年連れ添った夫婦はなぜ顔が似てくるのか?」など家族や恋愛についての事例から心理学を説明している。第2章は「『やる気・ストレス』の心理学」というタイトルで、「大きすぎる夢や目標を実現するにはコツがいる?」や「『ストレス耐性』を身につけたい人は今すぐ運動をするべき?」など知っていれば、勉学や日常生活に生かせるテーマを扱っている。 この本は心理学を気軽に楽しく学ぶことができるので、心理学がどんなことを扱うのか知りたいという方や日常生活に生かせる知識や教養を身につけたいという方には、ぜひ読んでもらいたい本であった。
題名:音律と音階の科学 著者:小方厚題名:人生を変える「数学」そして「音楽」 著者:中島さち子 「論理」と「感性」は、一見、正反対のもののように思えるが、実際には互いに刺激し合っている。「数学」と「音楽」を、別々に、単に一つの科目として勉強することでは、これらの関連性を見出すことはできないが、この本では、論理的な学問である「数学」と豊かな感性の世界である「音楽」は、それぞれのより深い世界へ進んでいくために、影響を及ぼし合っているということを主張している。 この本の作者は、国際数学オリンピックでの優勝経験があり、数学の講師活動もしている、数学に精通した人物である。一方で、ジャズピアニストという音楽家としての一面も持っている。そんな作者は、数学の研究活動で行き詰った時、一度それを中断して、音楽を聴いたり、作曲したりすることがあり、そうすることで新しいアイデアが浮かぶことがあるという。規模は違うが私も同じような経験がある。勉強中、なかなか数学の問題が解けず、気分転換に好きな音楽を聴いて再度取り組んでみたら、意外と簡単に解けてしまったことがあった。このように、「数学」と「音楽」が実は密接に関係しているということには共感できた。 この本では、私たちが学んできた数学の法則やそれに関係する人物などに加えて、新たな図形や曲線についても説明されている。しかし、簡単な図が用いられていて分かりやすく、数学の苦手な人でも理解できる内容だと感じた。後半の音楽についての話題では、音楽経験のない私では理解しにくい用語もあったが、音楽についての教養を深めることができた。また、「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義で触れられていた内容も含まれており、よい復習になった。 この本で、全体を通して主張されていることは、論理は感性を、感性は論理をさらなる段階へと解放させているということである。この本から、数学や音楽から得られる「考える力」と「感じる力」の両方が生きる上で必要であることを学ぶことができる。
鴻上尚史 「空気」と「世間」土井隆義  友だち地獄ー「空気を読む」世代のサバイバルこの本はタイトルの通り、人間関係において空気を読み、それに息苦しさを感じつつも、順応していこうとする若者たちをテーマとしている。もう一つの参考図書『「空気」と「世間」』は、空気を読みがちな日本人全体の特性にフォーカスし、世間との関わり方が述べられていたが、こちらは特に、我々若者世代の友人関係に注目した内容となっている。本書には、形容し難い若者の思考や風潮を、的確に表現する言葉が数多く登場する。その最たる例が「優しい関係」である。この言葉は、「対立の回避を最優先にする若者たちの人間関係」を意味している。これだけでは漠然としているので、具体例を挙げる。皆さんは、休日に友人と服屋で買い物をしている。そこで友人は、あなたの好みでない服を指差して、「この服可愛くない?」と言った。あなたはここでどんな返答をするだろうか。おそらく、多くの人は正直に「可愛くない」とは言わず、「うーん、いいんじゃないかな!」といった返答をするだろう。これこそが「優しい関係」である。友達なのに、正直に自分が思ったことを言えず、相手が傷つかないように本音を仕舞い込んでしまう関係。若者世代はこのような友人関係に落ち入り、ストレスを抱えてしまうことが非常に多い。本書は、そんな友人関係という本来気楽なものに対してすら気を使い、空気を読み、心をすり減らしてしまう人たちに、共感と自分以外もみんな空気を読んで過ごしているんだという安心感を与えてくれる。昨今のコロナウイルスの蔓延によって休校が相次ぎ、必然的に友人と話すことも、どこかへ一緒に遊びに行く機会も減少したわけだが、これに関して悲しみより、面倒な友人関係がフェードアウトしたことによる安心感が勝っている人もいるのではないだろうか。そんな暗い思いを抱いてしまっている人はきっとあなただけではない。今こそこの本を手に取り、肩の力を抜いて読んでみてはいかがだろうか。
「ピアニストの脳を科学する」 古屋晋一「音楽と脳科学 -音楽の脳内過程の理解を目指して-」 S.ケルシュ音楽と脳の関係性に興味がある人、音楽の脳内メカニズムについて詳しく学びたい人に「音楽と脳科学-音楽の脳内過程の理解をめざして-」をおすすめしたいです。本書は、音楽心理学や認知神経科学の第一人者である佐藤正之氏が編訳した書籍で、音楽と脳の関係性について包括的に解説しています。近年の脳科学の進歩により、音楽知覚や演奏、創造性といった音楽活動に関わる脳内過程が徐々に明らかになってきています。本書では、そうした最新の研究成果を丁寧に整理し、音楽と脳の関係性について体系的に解説しています。特に興味深いのは、音楽と言語の連続性に関する章です。従来、音楽と言語は全く別の機能であると考えられてきましたが、近年の研究では両者に深い関連性があることが明らかになってきています。加えて、音楽と言語の脳内処理過程の共通点や相違点が丁寧に解説されており、音楽と言語の関係性について新しい知見を得ることができます。さらに、音楽療法の効果に関する章では、音楽が脳や心身の健康に及ぼす影響について詳しく解説されています。音楽療法は近年注目されつつありますが、その科学的根拠は必ずしも明確ではありませんでした。しかし、本の中で音楽療法の効果を裏付ける最新の研究成果が紹介されており、音楽の持つ治療的な可能性について理解を深めることができます。また、音楽と脳の関係性について、最新の研究成果を丁寧に整理し、体系的に解説もしています。音楽心理学や認知神経科学の第一人者である著者の専門的な知見に基づいた内容となっており、音楽と脳の関係性について易しく理解することができます。音楽に関心のある読者はもちろん、音楽療法や音楽教育に携わる専門家、あるいは音楽心理学や認知神経科学の研究者など、幅広い層に向けて書かれた一冊と言えます。音楽と脳の関係性について、最新の知見を体系的に学びたい人にぜひおすすめしたい書籍です。
川原繁人 音とことばのふしぎな世界川原繁人 なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?言語学者、小学生の質問に本気で答える 私が選んだ図書の題名のように、私達の身の周りにあり、当たり前のように使う言葉は普段気にしていないが、何故このような言葉が使われているのだろうと不思議と疑問に思うことがあります。本書では音声学や言語学を通じて、小学生が疑問に思ったことを質問形式で説明されており、面白い発見があると考えます。 具体的な例として、小さい子どもはあったかいをあっかたい、おさかなをおかさな等に言い間違えることがあります。この例から「となりのトトロ」に登場するメイがとうもろこしをとうもころしと言っていたことがあると私自身は思い出しました。このように、言い間違えていますが、間違いには文字同士が逆になる等の規則的なパターンがみられます。これには、子どもと大人の声道の形を比較した時に、口腔のカーブの仕方や舌の大きさが異なるため、子どもは言い間違えてしまうそうです。そのため、成長するに従って子どもの声道の構造が発達し、言語能力が発達するため、自然と言い間違いが無くなっていくのだと思いました。 また、本書ではポケモンの名前で強さが分かるということを紹介していました。具体的な例として、ピィとグラードンが挙げられていました。私達は無意識下で後者が強いと感じてしまいますが、ポケモンを知らない人でも同様の感じ方をするそうです。この結果に対して、文字数の多さが関係することも確かです。しかし、音声学の観点から考えると濁音が付くことやその数に注目します。そして、何故濁音の有無が強弱のイメージに繋がるのか、さらにMRIで口の中の膨らみ具合に注目します。 ポケモンに限らず、身近な漫画やゲーム等でも同様なことが見受けられるため、発見することの楽しさが感じられると思います。 小学生が理解出来るような説明がされており、大人ではなかなか質問しづらい、或いは考えにくいことを知りたいと思う受講生には大変向いていると思います。
サブリミナル・マインド(下條信輔著)恐怖の哲学(戸田山和久著)私が紹介したい本は、戸田山和久さんの恐怖の哲学という本です。ホラー作品をテーマに、人間が恐怖を感じるという事についての謎を様々な学問分野を横断して検討していくという内容のものです。なぜ我々は様々なものを恐れられるのか?なぜホラーを楽しんで見たがる人がいるのか?といった疑問に、題名にある哲学だけでなく、脳科学や心理学など様々な観点から丁寧に検証していきます。設定された恐怖に関する謎や課題一つ一つについて、筆者は仮説を立てて様々な人物の学説を引用しながらそれを検討し、人が恐怖を感じるプロセスや恐怖について、体系的な説明の枠組みを作ろうと試みます。題材が恐怖、という漠然としたもののため抽象的な話題が多く、複雑な学説を紹介してはそれを検討し、時には反論するという筆者の思考の過程をなぞるような構成のため、時には難解に感じるかもしれません。しかし、そんな難しい話題にもかかわらず不思議とスムーズに読み進められ、内容も楽しく頭に入ってきました。その理由は、筆者のフランクで親しみやすい文章や、分かりやすい例えを使った説明、また図による視覚的な説明が挟まれる事にあります。どうしても抽象的になりがちな分野の話題を、分かりやすく、そして読みやすく読者に伝えようとする著者の努力や工夫をそこに感じました。有名なホラー映画などの親しみやすい話を入り口として、専門的な見解を紹介するという構成も、読者にテンポよくページをめくらせてくれます。こういった工夫のおかげで、哲学などにつきまとう堅苦しい雰囲気を感じずに読み進めることができます。ホラーが好きな人にはもちろんお勧めしたい本ですが、ホラーが苦手な人、どうしてホラーなんてものを楽しく観られるのか理解できない、という人にとっても大変興味深い内容になっていると思います。
岩堀修明 図解・感覚器の進化ー原子動物からヒトへ水中から陸上へ水口博也 クジラの進化 この本は絵本です。絵本と聞いてどのように思うでしょうか。子供が読むもの、読んでも得られる知識がないなどと思う人もいるかもしれません。ですが、この本はクジラの進化についてとても分かりやすく、詳しく書いてあります。私は興味のない本を読むことが苦手です。本は好きなはずなのに字を見ているだけで頭が痛くなってきます。そんな人に私はこの絵本をお勧めしたいです この本を読むとクジラ誕生の歴史、クジラの進化の仕方、どのようにクジラの種類が増えたか、昔の海でのクジラ、現在の海でのクジラについて知ることができます。一度は陸上で過ごすように進化したクジラがどのように再び海の世界に戻ったのか、クジラが海の世界で生きられるようになるための進化は素晴らしいものです。生物は環境に合わせて進化していますが、クジラの進化は中でも素晴らしい進化であると思いました。この本はあとがきを読んでこそ本当の価値がわかる本だと思います。クジラの進化を通して生物の進化が奇跡といえるものであること、クジラをはじめとする地球上で生きる生物の姿から、私たちが学ぶべき、生きる一瞬一瞬がかけがえのないものであるという事実を伝えています。ただの絵本では片づけられないほど読む価値がある本であると私は思います。 所々に付け足しの形で雑学が書いてあるところがこの本のいいところだと思います。そこから関連付けて考えることができ、とても楽しいです。また、最後のページでは本に出てきたクジラについて図鑑のように見ることができます。クジラたちを一度に見れて読んできた内容を振り返ることができます。 絵本だからと最初から決めつけないで一度手に取ってほしいです。きっと想像以上に満足できる本であると思います。ぜひ騙されたと思って「クジラの進化」を読んでほしいと思います。 
哲学の謎 野矢茂樹思考の整理学 外山滋比古 この本は、「考える」とは何なのかということをもう一度見つめ直すことや、よいアイデアを出すためのヒントを得ることができる一冊である。また、東大や京大で一番読まれた本として注目されているものでもある。 現代に溢れかえった「グライダー人間」が「飛行機人間」になるためにはどのような思考を身に付ければよいのかについて筆者の考えが示されている。ここで、「グライダー人間」とは、他者から与えられたことしかできず、自分自身で考えることができない人間のことで、「飛行機人間」とは、自ら新しいことを生み出すことができる人間のことである。現代の学校教育では、基本的にグライダー人間を作る場でしかないとし、変化の激しい今の時代において、必要不可欠である自己解決能力、つまり飛行機力が欠けてしまう。確かに、はじめは何事も基礎を学んだ上で、応用をしていくのでグライダーとしての能力は必要であるが、それだけでは、グローバル化が進む現代に対応できない。そんな現代の教育システムについて、筆者は警鐘を鳴らしている。高校のテストでは教科書やテキストから出題されることが多く、記憶力勝負という部分もあったが、大学のテストでは、論理的思考について問われるなど暗記だけではどうにもならない場合もある。(自分自身が文系だからかもしれないが)だからこそ、この本を読むことで、大学生活で必要な「考える」ことについてもう一度学ぶきっかけになる。「考える」ということに自信がない人、自分の思考法に疑問を感じている人にお勧めしたい本である。
川原繁人「音とことばのふしぎな世界」今井むつみ・秋田喜美「言語の本質」 あなたは、オノマトペの正体について深く考えたことがありますか。オノマトペを使った会話は、日常生活の中で耳にしたり、口にしたりする機会も多いと思います。オノマトペには擬音語や擬態語などが含まれますが、その明確な定義について考えたことがある人は少ないかもしれません。この本では、オノマトペとは何者なのか、どのような性質を持つのかなどについて、音声的な側面などから紐解かれています。さらに、それに関連して、子どもがどのようにして言語を学習していくのか、なぜ人類は言語を持つことができたのかなどについても述べられています。 この本でオノマトペについて述べられていることの中から、いくつかご紹介します。まず、ただ聞こえた音を表すようなものが多いオノマトペは、果たして言語として扱われるべきなのかということです。この本では、オノマトペを人間の言語を言語たらしめる特徴と丁寧に照らし合わせ、口笛や咳払いなどの言語ではない音と対比することによって、オノマトペが言語であるかどうかが検討されています。言語の特徴について読むだけでも、普段何気なく使っている言葉がそれらの特徴に当てはまっていることを実感できるため、読んでいてとても興味を惹かれました。 また、この本では、世界の様々なオノマトペを例に出して、使用言語に関わらず人々が特定の母音や子音に同じような印象を持っている場合や、使用言語に根づいている文化によって、ある母音が他言語とは異なる解釈をされている場合などについての説明がされています。それにより、人々が音に持つ印象がオノマトペにどのように現れているかを知ることができます。 私たち人間は、コミュニケーションの大部分を言語に頼っています。普段意識せずに言語を使っていた私に、この本は言語を見つめ直すきっかけを与えてくれました。「言語の本質」について知りたい全ての方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
チャールズ・ダーウィン ダーウィン「種の起源」を漫画で読むデズモンド・モリス 裸のサルー動物学的人間像ー私は今回、参考図書の一つである「ダーウィン『種の起源』を漫画で読む」を読み、生物の進化、とりわけヒトの進化について大いに関心を持ち、「裸のサル」という本を読みました。ヒトの進化に興味を持ったのにサルがタイトルになっている本を選ぶのは少し不自然かもしれません。しかし、ここで言う裸のサルというのは、全身が毛に覆われていないサル、すなわち人間のことを指しています。人類は約700万年前に誕生して以来、道具や技術の使用、言語とコミュニケーション、そして社会組織やそこでのルールにいたるまで高度で精密な様々な進歩を遂げてきました。この本では、そんな万物の霊長とも言われる人類を裸のサルという侮辱的とも言える表現で呼ぶことで、人間を高度な文明を生きる合理的な生物としてではなく、サルという視点から動物学的に捉えたただの動物の一種として考える、ユーモラスでありつつも皮肉的な内容になっています。人間の行動様態について、育児や食事、性行為に至るまで様々なものを筆者特有の観点から説明されており、その大胆な内容に驚かされることが多かったです。特に印象的だった部分を取り上げると、人間の性に関する章において考えさせられる部分が多くありました。この章では、同性愛について「特殊な」セックスの問題と扱っており、生殖という意味では異常であると、現代の多様性社会ではとんでもない量の非難を浴びそうな発言をしていました。しかしこれは、少数派の性的趣向を道徳的立場から論じているわけではなく、「個体群の成功と失敗という見地にたった生物学的道徳」を適用し、その合理性を論じているということであり、非常に興味深い見方だと思います。 人類を生物界のなかで至上孤高のものとみなしていた人間の思い上がりを愕然とさせる程のかつてない前提たる、人間をただ体毛のない裸のサルとみなす考え方は大変斬新であり、一度読んでみる価値はあると思います。
ルドルフとイッパイアッテナ 斉藤洋ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門私は、ずるい考え方という題名に惹かれてこの自己啓発本を読みました。この本では、「ラテラルシンキング」という思考法を紹介されています。この考え方はイギリス人のエドワード・デ・ボノ博士が1967年に提唱した考え方で、「どんな前提条件にも支配されない自由な思考法」ということとされています。ここでは、ロジカルシンキングが比較対象として挙げられていました。この考え方は「論理的な思考」のことで、物事を順番に積み上げながら、筋道立てて正解を導いていくという考え方です。したがって、思考の各ステップが正しくつながっていることが大前提です。これに対してラテラルシンキングは、解決策を導くための順番や過程はあまり問題ではないので、筋道を立てて考える必要はないです。ラテラルシンキングには、ロジカルシンキングと違って、唯一の正解がないです。答えを導くときには、常識的に考える必要はなく、自由な発想をしさまざまな可能性を探ることができます。しかし、どちらの考え方も対立する訳ではなく、相互補完の関係にあります。この本ではこの思考法を用いた驚きのやり方が出てきます。例えば、13個のオレンジを3人で分けるという問いには、ロジカルシンキングの発想では4個ずつ分けて余った1個を3等分したり、はかりを使って同じ重量ずつ分配したりするという答えがありました。しかし、ラテラルシンキングの考えからだと、ジュースにして分けたりオレンジの種を植えてからその木でわけるという案が出ていました。この考え方はどちらも人々の思い込みを疑い、固定観念を見直しています。この本では、このような考え方を深く細かく書いています。普段の考え方とは違った角度から物事を考えることができるようになると思います。
著者 鴻上尚史 題名 「空気」と「世間」著者 冷泉彰彦 題名 「関係の空気」「場の空気」私は「空気」と「世間」を読み、それに関連する冷泉彰彦先生の「関係の空気」「場の空気」について紹介する。この本は、「空気」と「世間」で説明されていた空気について、三人以上の場における空気のことを「場の空気」、一対一の会話における空気を「関係の空気」と区別し、世間が流動化した状態である空気について、身近な問題を例として、日本語の関連性も考慮しながらさらに深く考えるという内容である。この内容について具体的に3つに分けて紹介をする。1つ目は「関係の空気」についてである。例えば、仲の良い2人やカップルが話すことなど、私たちが普段話している内容には、他人が聞いても理解ができないような省略表現が含まれていることが多い。それはフルセンテンスの文章よりも表現として強い効果を持つからである。そして、この会話は3つの要素からなる空気によって成り立つ。1つ目は話題に対してこれまで交わした会話のすべて、2つ目はそのことについて直前まで交わした会話のすべて、3つ目にその時の会話における動作、表情などのすべてである。そして、これら3つによって成り立っている空気こそ「関係の空気」である。次に「場の空気」についてである。日本に置ける長時間労働問題を例にすると、かなりの時間を要する会議は儀式的な側面も持つが、日本の多くの会社がそのようなものを好むのは、会議により空気を醸成し、その空気に基づく決定をする以外に動けないためであるとある。その空気こそ「場の空気」である。最後に日本語の使用法についてである。著者は5つの提案をしているが、そのうちの一つである会話の対等性について紹介する。タメ口は極めて近く対等な人間関係でないと安定した空気はできないため、タメ口が平等と考えるのは幻想であるという。そして、この本はこれらの内容を踏まえると、様々な人間関係に違和感や疑問を感じ、ヒントや理屈を理解したい受講生にお勧めできる。
ルドルフとイッパイアッテナ(斎藤洋)ダニエル・キイス 「アルジャーノンに花束を」哲学の謎とルドルフとイッパイアッテナを読んで昔読んだ「アルジャーノンに花束を」という本を思い出し、今回また読み直してみまして紹介したく思います。「アルジャーノンに花束を」はダニエル・キイス作のSF小説です。この作品はとても有名ではありますが内容を知らない人も少なくないと思い、講義のタイトルの一部である「教養」にぴったりだと考えます。物語は、知的障害を持つ主人公チャーリーが知能を高める手術を受け天才的な知能をもつようになりますが、信じていた友人は実は自分をいじめていたり家族に見捨てられていたりという辛い現実を知ります。一方、同じ手術を受けたハツカネズミのアルジャーノンは急激な知能低下を示し始め、それを見たチャーリーも自分の知能の低下を感じながら家族にあったり実験にかかわる女性と交際したりしながらも同様な運命をたどっていき、最後には知的障害者施設に行くことになります。そして知能が元に戻ってしまったチャーリーはアルジャーノンの墓に花束を供えてほしいと頼む言葉で物語が終わります。この作品は、幸せとはなにか、人間とは何かについて深く考えさせられる本です。私は読むたび幸せになるには天才的な知能は必要なのか、手術はチャーリーを本当に幸せにしたのか考えさせられます。ヒトのいろいろな部分がみられるこの本の中でも「思いやりをもつ能力がなければ知能など空しいもの」ということばは忘れられません。講義の「音楽」と絡めて考えると、知能がないと音楽というものは楽しめないと思います。知識があれば音楽に深みが現れるのはわかりますが、知能がないと音楽を聴いても心が躍らないと思います。本には描写はありませんが、主人公チャーリーは知能が上がる前は音楽を楽しめていたのでしょうか、自分とは全く違うように聞こえているのかもしれないと思うと気になります。とても勉強になる本だと思います、ぜひ読んでみてください。
古屋晋一 『ピアニストの脳を科学する』ジェラルド・クリックスタイン(著) 古屋晋一(監修) 『成功する音楽家の新習慣』  私がみなさんに紹介したいおすすめの本は古屋晋一さんが監修した『成功する音楽家の新習慣』という本だ。この本は題名の通り、成功する音楽家のなるための方法が全3部構成、14章からなる構成で作られている。   この本の中で、特に私がみなさんに紹介したいのは、第1部の“練習上手になるには”という部分だ。第1部では練習上手になるための方法が全6章分で紹介されている。その中でも特に私は、第1章の”準備を整える”という章について簡潔に説明する。本書で紹介されている、準備を整えるための方法としては、最初に環境を整える、次に練習の計画を立てスケジュールを組む、そして新曲の選び方、最後に自分の演奏を録音することが挙げられている。それぞれについて詳しく見ていく。まずに、練習環境を整えるについては練習室も立派なスタジオや練習室があれば立派な音楽を奏でることができるわけでもなく、平凡すぎてもインスピレーションが湧いてこない。練習室の必需品としては、身体に合った椅子、譜面台、ノートと鉛筆、電子メトロノームとチューナーなどが必要になる。次に、練習計画とスケジュールについては何をどのように進めるのかを書く練習ノートを作る。さらに、練習のスケジュールとしては規則正しく練習する、短めの練習を何度か行うことなどがある。そして、新曲の選び方については自分の好みや実力、練習計画に合わせて曲を選ぶことが重要である。最後に、自分の演奏を録音することについては録音を行うことで、今まで気づかなかった点に気づいたり、練習の効率が高まったりするという。   このように、準備を整えるだけでも、たくさんの段階があることがわかる。この本は、今音楽をやっている人も、昔音楽をやっていた人も、音楽の経験がない人でも気軽に読むことのできる本になっている。
佐藤雅彦、菅俊一 行動経済学まんがヘンテコノミクスダンアリエリー 予想通りに不合理 私たち人間は従来の経済学の見方からすると、少しも合理的でない行動をとっているそうだ。この本では、そのような私たちの不合理な決断や行動を示す興味深い実験がいくつも紹介されている。自分たちがいかに予想通りに不合理かを知ることで、日々の生活での決断や行動をより良いものにできるだろう。 行動経済学とは、私たちの経済的な意思決定のクセを様々な実験から明らかにし、そのクセを経済モデルに取り入れて、現在の経済の動きを説明しようという学問である。この本の中で挙げられている事例として、特に面白かったのは「先延ばしの問題と自制心」についてだ。「ダイエットをしたいのにできない」「仕事や宿題をするのがいつもぎりぎりになってしまう」というのは誰もが悩んだことがあるだろう。実際、私自身この期末レポートを取り組み始めるまでにかなり時間がかかった。これは、行動経済学では「現在バイアス」と呼ばれる特性が原因である。私たちは、少し遠い将来のことは合理的な意思決定ができても、それが今になると今を楽しむことが重視されて、以前に決めた計画通りに行動できなくなってしまう。この本を読み、自分も課題を後回しにしてしまっていたことに気づき、取り組むことができた。自分で先延ばしにしてしまうクセがあることを自覚することが大事なのだと分かった。このほかにもさまざまな例が紹介されているが、どれも自分に当てはまるものばかりで、振り返ってみると当たり前のように不合理な行動をとっていたことに気が付いた。 この本は専門的な用語を使わずに書かれていて、経済学の知識がなくても読むことができた。そして、実験の内容も面白いものが多く、ユーモアのある言い回しの文章であるため楽しく読むことができた。行動経済学に興味がある人だけでなく、行動経済学を全く知らない人にもお勧めできる本であるだろう。
小方厚 音律と音階の科学岩宮眞一郎 音と音楽の科学この本を一言であらわすと、音と音楽についての事柄をまとめた百科事典である。音という現象の説明やどのようにして人の耳に入ってくるのかといった原始的な事柄から始まり、音と大きさと音色の変化はどのような現象であるか、またそれに伴う人間の感じ方が論理的に記されている。また更に進んでいくにつれて、先述した音からできる音楽の仕組みであったり、音は空間を通してどうやって私たちの耳に届くか、音を届けるオーディオ機器の原理やその歴史など音と音楽に関した多種多様な事柄が記載されている。後半には映像メディアで使用されている音や音楽の音の役割や環境音についての人間の感じ方、人間の音の感じ方を踏まえた音のデザインといった社会と音、音楽との関わりもより深く知ることができる。見た目は厚く読むのが大変そうという印象があるが、事典のように独立した事柄が細かく区切られている構成になっているため、まずは興味のある事柄から、ページを飛ばして読んでも全く問題ない。内容も易しく身近な具体例も交えて説明がされているため、納得しながら読むことが出来る。またドラマや映画などの映像作品でテーマ曲を使用することによる効果や、サウンドスケープを巨大な映像作品と捉え、地域の象徴的な音や地域の人たちに愛されている音が発生している場所を音名所として地域の音文化を掘り起こす事業についてなど、実際に私たちが身の回りで聞いている音に関しての掘り下げも多く行っており、この本固有の特徴となっている。ただ、読むにあたって「ピッチ」や「音の立ち上がり」といった音楽の基礎的な単語や常識が必要になる場合があり、調べれば問題ない程度ではあるが、多少なりとも音楽を経験したことがある人の方が読みやすいかもしれない。
日本音響学会「音のなんでも小事典」和田美代子(著)米山文明(監修)「声の何でも小事典」話したり,叫んだり,歌ったり,泣いて笑ったり・・・。人は,生まれて産声を上げてから死ぬまで,声を発さない日は一日もないといえる。そんな人々にとって欠かせない存在である「声」の疑問について答えてくれるのがこの本である。この本では,声帯の仕組みや人の一生における声の変化,声に関する問題やその解決法など,声に関する71の質問について,それぞれについて回答する,という形式がとられている。この本を読むことで,「声」に関する疑問の解決に役立つだけでなく,自分が知らなかった声に関するトピックについても知ることができる。加えて,声に関わる問題の解決法を知ることができる。例えば,アガった時に声が上ずることへの対処法,音痴の直し方,声を若返らせる方法,等などである。自分としては,特に「カラオケでのどを痛めない上手な歌い方」についてという項目が印象に残った。というのも,自分はカラオケに行くのが好きで,友人たちとしばしばカラオケを利用するからだ。これについては,①自分のキーに合わないのに,無理をして原曲のキーに合わせないこと,②マイクを独り占めして歌い続けないこと,が大事であるということだった。なぜならば,無理をして原曲のキーに合わせたり,ずっと歌い続けたりすることで声帯に負担がかかり,声帯粘膜の炎症が起こってしまうからだ。加えて,乾燥しやすく,自然と大声で話しやすくなる上,酒や煙草などを使用できるカラオケルーム自体が,喉に負担がかかりやすい環境であることも背景にあるということだった。この本に掲載されている内容は,幅広くトピックが取り上げられており,どれもこれも身近なものごとである,読んでみればきっと,興味のある内容が見つかること請け合いである。
鴻上尚史 「空気」と「世間」鴻上尚史 「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる『「空気」を読む』日本人なら誰しも耳にしたことのあるフレーズであると思うが、実はこれは日本にしかない考え方なのだ。この本では、多くの日本人を悩ませる「空気」とは一体どのようなものであるのか、どのようにして生まれたのか、どのようにして保たれているのかなどを簡潔に述べている。また、欧米の人々の考え方や育ち方の背景、それらに関する日本人との違いなども書かれており、なぜ日本人が欧米人に比べ自尊心が低く、同調圧力が大きいのかということも理解できるだろう。「社会」と「世間」という独自の感覚を用いて、劇作家・演出家として活躍する鴻上尚史がわかりやすく、易しい文章で説明した一冊である。私は自尊心がとても低く必要以上に人目を気にしてしまう、とても日本人らしい性格だと思う。私のような人は「空気を読む」ことが得意であり、嫌いである。そのような人にこそこの本を読んでほしい。ジュニア新書なので文量も多くなく、本を読むのが好きでない人も読みやすいはずだ。本が好きな人からすると物足りない文量かもしれないが、内容には満足できると思う。私がこの本を読んで一番驚いた点は、日本人と欧米人のコミュニティの作り方の違いである。日本人に恋人との出会いを聞くと、学校やバイト先、職場が同じであったという人が多い。しかし欧米人に同じ質問をすると、公園やバー、散歩中などの何気ない瞬間に出会ったという人が多い。日本人には考えられないような出会い方を欧米人は多くする。その理由は、欧米人には「空気」がないからだ。多くの日本人を苦しめ、そして悩ませる「空気」が欧米人には存在しないのだ。ぜひこの本を読んで視野を広げてほしい。そして私のような日本人らしい人の気持ちが少しでも和らいで、これからは気負いすぎずに生きていけると良いと思う。
千住博 「芸術とは何か 千住博が答える147の質問」源河亨 『悲しい曲の何が悲しいのか 音楽美術と心の社会』私が紹介する本は、源河亨の『悲しい曲の何が悲しいのか 音楽美術と心の社会』です。この本は、美に関する経験や判断の問題を扱う美学に、心の哲学を利用してアプローチするものとなっており、「音楽聴取」に焦点をあわせて、美的判断の客観主義を擁護する立場をとりつつ、音とは何か、なぜ人は悲しい音楽を聴くのか、音楽と情動はどのように結びついているのか、などさまざまなトピックについて論じていく本となっています。 私がこの本で特に気に入ったのは、第2章の“「美しい音楽」は人それぞれ?“です。講義内で触れられたように、絶対音感を持つ人がいて音を判別できる人がいます。また、相対音感も育てることができます。そのように音楽を分解して音にすると表現はどうあれ、一つの正解が見えてくるのではないかと考えました。そこで、よくわからない洋楽を流してテンションを挙げている人が、その洋楽の歌詞が暗いものであったという場面は、音楽を伝えたいことが伝わっていないと考えました。この章を読むことでその疑問を解く手掛かりが手に入りました。 この第2章では、美的判断の客観主義について説明されており、自身の美的判断が経験やその本人の性質からなると分かります。そして、美的判断には正誤があると主張しているのが私的には、腑に落ちました。 この書の前半部分は、芸術や美にフォーカスを当てており、この講義とも近しい内容になるのですが、後半部分になると、悲しい音楽を聴くときには自分の情動が間違っているのではないかや音楽の擬人化など講義内容から離れていきます。そのため、物理学が好きな人ヘは向かないかもしれませんが、この講義の音楽についての物理学的な化学よりも心理学的な化学の方が興味を持てた人へ、もう少し具体的に言うと講義の第12回と第13回が面白かったなと思った人に向けて紹介しようと思いました。
須賀原洋行 現象学の理念(原作フッサール)斎藤慶典 デカルト「われ思う」のは誰か 伊藤先生が参考図書に挙げられた著書は、大分マイルドだ。漫画で、ラーメン屋での話を織り交ぜながら話すが、「この話は無駄ではないか?」、「逆に分かり辛くはないか?」そう思った人もいる筈だ。そういう人は、原作を読んで欲しい。まるで意味が分からないのだから。 原作では、長々と文章が続くのは兎も角、専門的用語が並び、詳しい解説は全て巻末の脚注に回す講義形式の内容だ。しかも、一番多く使われるキーワードは碌に説明がされていないのだ。 〈コギタチオ〉、フッサールの書く原典にはこの単語が多く現れる。これは、デカルトの言葉、「コギト・エルゴ・スム(われ思う、ゆえにわれあり)」から来ている。〈コギト〉とは考える自我意識、あるいは考えることそのものを指し示す。 フッサールの原典はこの言葉を理解していなければ楽しむことができない。また、須賀原氏のまんがにも、不足している解説だと考えた。そのため、私はこのデカルト研究の新書を薦めたい。
 この本は、「われ思う」の「われ」が何者であるかを考えている。皆さんは「われ」と言われてどこまでを思い浮かべるだろう。自分自身の精神か、肉体か、あるいは今の自分自身を作り上げた経験の全てを含めて考えるだろうか? 定義を決めるのは難しい。この図書の中でも難航している話だからだ。だが、逆に考えてはみないだろうか、「他者」とは何か。「われ」ではないのは何か、と。こうしたテーマと共に、「デカルト」の考え方のについて学ぶのが私の挙げた一冊の第一の特徴だ。 第二の特徴は、「対話」にある。といっても、物語風の対話形式ではない。死者との対話にこそ本質はある。筆者の斎藤氏は、「対話」について新しい考えを語る。「対話」とは、死者と行うことにこそ本質があるのではないか、と。「馬鹿な」と思っただろうか?そう思ったあなたは、斎藤氏の考えが〈免罪符〉でないかその眼で確かめるべきだ。
哲学の謎 野矢茂樹りんごかもしれない ヨシタケシンスケ 私が読んだのは哲学の謎という本である。なぜこの本を選んだかというと、私は幼い頃に哲学的なことを考えることが多く、これを機に哲学について少し知ってみようと思ったからだ。さっそく本書を読んでみたが、率直に読みやすいと感じた。〝哲学〟とはなんとも難しそうな響きであり実際に簡単なものではないのだが、本書は対話形式で非常に手がつけやすい。手がつけやすいと言っても個人的には少々小難しい内容になっていると感じた。しかし、小難しい内容は噛み砕いて私たちの身近な具体例を用いて説明するため、かなり読みやすくなっている。様々な視点から私たちが当たり前だと思っていることは本当にそうであるのか、という疑問を疑問のままぶつけて著者の自分なりの考えが記されている。哲学というのは答えが明確でないものであり、著者の考えに同調できるものもあればそうでないものもある。この哲学的な疑問に対して自分自身なりの考えを導くことも楽しいかもしれない。 そこで私が紹介する本はヨシタケシンスケ氏の「りんごかもしれない」という本である。一見哲学とはなにも関係のないような本であるが、これは非常に哲学的な考え方に近いものであると感じた。目の前にあるこれは本当に〝りんご〟なのか?という疑問を深掘りした一冊である。私たちは普段赤くて丸いあの果物を〝りんご〟だと認識しているが、もしかしたら見えない反対側はみかんだったりするかもしれない、など本当はありえないことでも完全には否定することはできない。本書は絵本であり、大変読みやすい。あまり哲学に興味がないという方は本書を読んでみることをお勧めする。
杉浦彩子 「驚異の小器官 耳の科学」柏野牧夫「空耳の化学 だまされる耳、聞き分ける脳」本書は心理物理学、認知神経学を専門として研究する著者柏野牧夫さんが実際に高校生相手に講義した際の高校生とのやり取りが記されています。高校生の素朴な疑問に対して著者が答えるという形式でまとめられています。著者は講義を開いた理由として、音や聴覚に興味を持ってもらいたかったからと述べています。「音と音楽をめぐる知識と教養」の授業を受講した皆さんにはぴったりだと思います。「空耳」とは、普段私たちが何気なく体験している錯覚現象で、日常に空耳はあふれています。この本では、神経科学的、情報科学的、心理物理学的なアプローチで空耳や、聴覚について作者の考えが述べられています。また、授業で取り扱われた話もたくさん記されています。人の行進で橋が揺れる、ベートーヴェンがどのように音を聞いていたのかの話など、授業で関心を持った人はたくさんいるのではないでしょうか。「音と音楽をめぐる知識と教養」の授業を通して、もっと知りたいことができたという方は是非読んでみてほしいと思いました。授業だけでは理解できなかった方は、作者がたくさんの質問に対して図やグラフを使って答えていますので是非読んでみてください。本当に授業と似たような題材が多く扱われていますので、皆さんが授業で疑問に思ったことを解決してくれるかもしれません。ほかにも、読者の目を引くようなテーマがたくさんあります。「モーツァルトと美空ひばり」「AKB48≪Beginner≫の衝撃」などがあります。特に8章の「なぜ、音に感動するのか」では、音楽と感情の関係について脳科学的の観点から記されていて、音楽を聴いて感情的になる人は読んでみると面白いと思います。前述したとおり作者が高校生にした講義がまとめられているので、それほど理解に苦しむことはないと思います。音に関して幅広い知識つくと思いますので、とても面白いと思います。ぜひ読んでみてください。
著者:佐藤雅彦・菅俊一【原作】高橋秀明【画】題名:行動経済学まんが ヘンテコノミクス著者:平野敦士カール 題名:思わずためしてみたくなる マンガ 行動経済学1年生この本は、行動経済学をマンガを通して学ぶことのできる一冊です。普段何気なく買い物をしているときに無意識にしてしまっている行動、その「行動経済学のワナ」について詳しく解説されています。特に、「ナッジ理論」や「ヒューリスティック」、「ハンドワゴン効果」など、行動経済学の裏に隠された心理学的な要素についても知ることができます。
この本の魅力は、マンガ形式であり難しい理論について日常生活で起こる例を挙げて、読者が楽しみながら理解を深められる点です。また、ユーモアを交えたストーリーが飽きることなく読み続けられ、本を読むことに苦手意識がある人でも先を読みたくなるという魅力もあります。例えば、スーパーでの買い物や友人との会話など、私たちの身近な場面が多く登場してきます。これらを通じて、「現状維持バイアス」や「損失回避」、「双曲割引」などの行動経済学の概念を学ぶことができます。ほかにも、宝くじを買ってしまう心理やまとめ買いするとお得というものにつられて不必要な出費をしてしまう理由など、現代の消費行動に関する内容も取り上げられていてとても興味深い内容となっています。
実際にこの本を読み終えて、日常生活での買い物の際に、今まではセールやバーゲンなどをしていたらつい買ってしまっていましたが、今ではよく考えて結果的に損をしていないかなど行動経済学を応用することができ、合理的な考えを自然に身につけることができるようになったと感じました。
「思わずためしてみたくなる マンガ 行動経済学一年生」は、行動経済学に興味がある人はもちろん、初めてこの分野に触れる人にとっても手にとりやすい最適な入門書となっています。マンガを通して学ぶことができるため、学生から社会人まで幅広い層におすすめです。経済の仕組みや人間の行動の心理について理解を深めることで、日常生活を豊かにすることができる一冊です。
特殊課題を提出しました「楽器の科学 図解でわかる楽器のしくみと音の出し方」 柳田益造私が紹介する本は、「楽器の科学 図解でわかる楽器のしくみと音の出し方」である。この本は合理的な楽器の分類法に従って、いわゆるクラシック音楽で使われる楽器をはじめ、それ以外の楽器もいくつか取り上げて、それらの楽器がどのようなしくみで音を発するようになっているかが図解で説明してある。序章では主に説明してある楽器の分類について、詳しく紹介されている。「発音体による分類」や「奏法による分類」など分類にもさまざまな種類があることを知ることができる。また、どのような法則のもと分類されているかについても詳しく書いてあるので、楽器にはどのような方法で音を鳴らすものがあるのかについておおまかに知れることも面白い。 本章では気鳴楽器、弦鳴楽器、膜鳴楽器、体鳴楽器、電鳴楽器の音が鳴る仕組みについて詳しく紹介している。特に弦鳴楽器のパートでは、筆者がヴァイオリン職人なのかヴァイオリンの音の鳴る仕組みにとどまらずヴァイオリンの作り方についても詳しく書いてある。ヴァイオリンの材料から良い音を出すための工夫やヴァイオリン制作コンクールの評価基準まで細かく説明されている。また、ギターに関してもアコースティックギターの作り方や中身など細かく説明されている。弦鳴楽器のほかにも電鳴楽器についても詳しく書いてある。音の合成の歴史や歌声合成ソフトウェア、コンピューター音楽の現状と今後までも紹介されている。また、直感的には仕組みのわからないコンピューターで作る音楽についてよく知ることができる。そのほかの楽器の仕組みについてもわかりやすく説明されているので、様々な楽器の仕組みを幅広く知ることができる。この本は、楽器を学ぶうえでの入門書として最適な本であると考える。この本を読んでからより詳しい専門書を読むことでさらに高水準の学習ができるだろう。
行動経済学まんが ヘンテコノミクス 佐藤雅彦、菅俊一マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果 山下仁この本は、プラセボ効果に関するエピソードの漫画と、その事象をデータも示しながら説明する部分から成り立っている。医療現場や日常生活で遭遇しやすいような身近な現象を学ぶことができる。プラセボ効果とは、薬効成分の入っていない偽薬を本物と思って飲ませることで実際に効果が現れるというものであり、私はなぜそうなるか不思議に思っていた。また、だましている感じがしてプラセボ効果についてあまり良いイメージを持っていなかった。しかし、医療現場においてプラセボ効果の活用はさまざまであり、医療の可能性が広がるということが分かった。例えば、認知症の患者が薬を飲んでも飲んでないと思い込んでいる時に偽薬を用いること、痛さや苦さから治療を受けない人への対応においてプラセボは効果的だ。このように扱い方によりこの効果がプラスに働く。逆に、本物であってもマイナスのイメージを持っていると実際には効果が現れないノセボ効果もあり、現れる効果には、治療や薬に対して患者がどのようにとらえていることが大きく影響している。患者は、医療従事者からの説明により捉え方が変わり、体への作用も変わるため、医療にかかわる身としては慎重に説明していく必要があると思った。“病は気から”という言葉につながっていくのだろう。臨床医による医療コラムも書かれていて、検査や治療では異常が見つけられなかった患者が心のケアによって改善したケースについても知ることができる。この本は、医療に携わる人はもちろん、マンガとエビデンスでわかりやすく、人間の心理の面白さについても知ることができるため、医療関係の学部の方にもおすすめできる本だ。また、文字だと読む気にならないという人も、マンガを読むだけでプラセボ効果について知ることができるので、気軽に学べるという点でもおすすめである。
 古屋晋一 ピアニストの脳を科学するスージー鈴木 (きゅんメロ)の法則本の題名にもあるようにこの本では、「きゅんメロ」についてその実例を通して法則性や特徴を明らかにしています。そもそもこの「きゅんメロ」とは、なんであるか。これはこの本を執筆したスージー鈴木が独自に名付けた、胸が「きゅん」とするメロディーのことであり、本書でははじめに、これにおける「きゅんメロ進行」について明らかにしています。ここででてきた「進行」というものは、いわゆる「コード進行」のことであり、音楽の三要素における、ハーモニーであり、わかりやすく言うと曲の中でギターやピアノが激しくなっている後ろにポローンと聞こえるあれです。このコード進行というものは、とても奥深くその組み合わせは無限に近いほどあるのにも関わらず、私たちがよく聞く曲には、ある程度決まった型のコード進行が使用されており、本書で扱うこの「きゅんメロ進行」というものは特に私たち日本人が好き好む4536進行のことなのである。この進行は、私たち日本人が特に好むその証拠に少し昔から現代にいたるまでの日本のヒット曲にたびたび使用されてきており、その例を挙げると少し古いものだと、モーニング娘の「LOVEマシーン」や松任谷由美の「卒業写真」、最近だとYOASOBIの「群青」やOfficial髭男dismの「イエスタディ」など挙げだしたらきりがありません。全然違うように思える曲たちですが、その大部分を形作るコードがほとんど共通していることはとても面白く本書ではこれに加え、メロディーについてもその「きゅんメロ」の共通点を明らかにしています。コード進行など普通の人にはあまり聞きなじみのない言葉が少し登場しておりましたが、本書ではこれを初心者でもわかりやすいようにかみ砕いており、音楽をやっている人はもちろん、音楽に興味があるけど難しい音楽理論を学ぶのにしり込みしている人にも、音楽の重要な要素を理解するのにとても適した本である。
トランスナショナルカレッジオブレックス フーリエの冒険三谷政昭 今日から使えるフーリエ変換普及版 式の意味を理解し、使いこなす「今日から使えるフーリエ変換 普及版」は、フーリエ変換の基本を誰でも簡単に理解できるように書かれた入門書である。三ツ星レストランで、フランス料理とそれにマッチした極上のワインをセレクトして味あわせてくれると評判の「ビストロ・フーリエ亭」を舞台に、シェフ兼ソムリエの「フーリエさん」とお客様との軽妙な会話を通して、フーリエ変換の基礎知識が得られる仕組みになっている。この本の特徴は、フーリエ変換の理論が直感的に分かるように、多くの絵やグラフが用いられていることである。挿絵が多いことによって、読みやすくなっていると感じた。また、途中のいたるところに「フーリエ亭のお得だね情報」や「計算のツボ」、「ナットクの例題」といったコラムがあるため、楽しく、実際に手を動かし学び、理解を深めながら読み進めることができるのもこの本の特徴である。私は、今までのフーリエ変換の説明や本では完全には理解できていないと感じていたが、この本を読んでフーリエ変換についての理解が深まったと思う。特に、分かりやすい説明だと感じたのは、序章のフーリエ変換とはどのようなものかについてである。ワインの味覚分析を例にフーリエ変換、逆フーリエ変換について説明されていて、私は今までの説明の中で一番分かりやすいと感じた。第2章「フーリエ変換を体感する前に」の交流(cos波)についての説明の際に、ファラデーの電磁誘導の法則といった物理の説明があるため、高校で物理を専攻していなかった理系学生や文系学生には少し難しい内容であるかもしれない。しかし、この部分を除いて、中学生程度の数学知識でフーリエ変換について分かるように書かれていて、また、フーリエ変換に必要な数学の知識を確認することができる章もあるという点から、フーリエ変換についての理解を深めたい人にはぜひ読んでほしい本である。
佐野洋子加藤正弘/脳が言葉を取り戻すとき 失語症のカルテから大今 良時/聲の形友達やバイトの人と会話をしたり、好きな音楽を聴いたり、私たちは日々耳を絶えず使いながら生活しています。しかし、私たちにとって当然な存在である耳が生まれつき聞こえない人がいます。一般的にろう者と呼ばれるこの人たちは音が聞こえないため、話すこともままならないので、手話でコミュニケーションをとります。大学生になった今ならそういった人がいることは多少なりとも知ってるし、間違ってもいじめてやろうだなんて思わないはずです。しかし、小学生というまだ物事の善悪などあまり分かってはいない時なら話は別かもしれません。そんな聴覚に障害をもった人との関わりをテーマにした作品がこの「聲の形」です。この作品は、聴覚の障害によって転校した先の小学校でいじめを受けるようになった少女、西宮硝子と、彼女のいじめの中心人物となったのが原因で周囲に切り捨てられ孤独になっていく少年、石田将也の2人の触れ合いを中心に話は展開していきます。そして中学、高校と上がるに伴い、孤独と絶望を深めていった将也は、自分が犯した硝子に対する「罪」の贖罪するために、再び硝子へ会い後悔と謝罪を伝えようと決意します。全7巻からなるこの作品は、聴覚障害がどんなふうに扱われ、どんな問題をもたらすかを、一切の妥協を許さずに描かれているため、中にはいじめや障害を扱っているだけで偽善的だという声もあり、賛否両論のある作品です。しかし、その解像度の高さがこの作品の特筆すべき点なのです。登場人物たちの複雑な感情や人間関係、そして自己の成長がこの上なく繊細に描かれたこの作品を読むことは、音のない世界で生きる人、そして自分とは異なる立場、境遇の人の心を理解することに繋がると思います。人間関係で悩んだりしたことがある人ならきっと心動かされるものだろうし、これからの人生の教訓となるような作品です。相手を思いやれる人になりたいと思う人におすすめの作品です。
柳田益造 楽器の科学 図解でわかる楽器のしくみと音のだし方青木直史 Pythonではじめる 音のプログラミング: コンピュータミュージックの信号処理 最近の楽曲ではレコーディングをする方法だけでなく、DTM(デスクトップ・ミュージック)もメジャーな方法になっています。DTMでよく使われているものといえば、シンセサイザーであり、ライブでもシンセサイザーを目にすることがよくあると思います。今のシンセサイザーの多くは、あらかじめ各企業が録音して作成された音源を鳴らすことで、もはやプロでも吹くことができないようなフレーズを演奏することができます。しかし、テープやレコードがメジャーであった時代では、どのようシンセサイザーは音を再現していたのでしょうか?その時の音の作り方について詳しく書かれているのがこの本です。 正直この本の数式などの部分は難しく理解がしやすいとは言えず、万人向けの本とは言えません。しかし、ギターなどに使うエフェクターがどんな働きをしているのか、音がどのようにしたらパソコンやアナログシンセサイザーによってつくるのか、それらについて知りたい人には替えのきかない本になると思います。また、本の題名にある通りパソコンで音を作る際にpythonを作るのにあたって、サンプルコードがwebに公開されているためプログラミングができなくても音を作ることは可能です。特に最近出版された本のため、最新版のPythonで動き、準備も簡単です。 この本で書かれている内容は、音響学や信号処理、楽器の「音」について書かれており、「音楽」について書かれているわけではありません。そのため、音楽やその心理的効果について知りたい人には向いていないです。 最後に、最終章の各楽器の再現部分で、各楽器の音色の特徴ががどのように音が発生するからなのか、どの倍音が強調されているからなのかが書かれており、非常に音作りをする際に役立つとともに勉強になりました。アナログシンセサイザーを演奏する人にぜひとも読んでほしい一冊だと思います。
鴻上尚史『「空気」と「世間」』丸山真男『日本の思想』 私が紹介したい本は丸山真男著『日本の思想』(1961)である。恐らく高校の現代文で一部抜粋されたものを読んだことがある人もいるであろう。この本は、日本の歴史的背景や文化的特性を思想・歴史・社会構造等の幅広い観点で書かれている。また、鴻上尚史著『「空気」と「世間」』を読んだ後にこの本を読むと、一般法則を持たない人文社会学的で多様な考察を発見する面白さに気づかせてくれる本でもあったため、日本の社会や文化に興味を持つ人だけでなく、答えが一様でないものに興味のある人なら是非読んで欲しい本である。 丸山真男は、『日本と思想』の中で、日本の思想や社会を「である」こと(存在や身分、属性に基づく価値)と「する」こと(行為や業績に基づく価値)という視点から分析している。例えば、近代社会における自由や権利は、その権利の行使「する」ことで初めて守られるものであり、対して近代以前の徳川時代の社会は「である」価値に基づいており、当時の身分や属性が重視されたとしている。そして、現代の日本社会が混乱している理由は、近代化によって「である」価値から「する」価値へ移行していく過程で、「する」価値が必要なところで浸透せず、逆に不必要なところで効用と能率の原理が進展してしまったためであるとした。一方で、同じ日本社会をテーマとしているものの、鴻上尚史は『「空気」と「世間」』の中で、「空気」は、かつての日本の根底であった「世間」を構成する条件がいくつか欠けて流動化したものであるとし、職場や学校、地域といった現代におけるミクロな出来事を例として挙げながら、日本社会について考察している。よって、同じテーマでもの両者のアプローチの仕方が全く異なることが分かる。 同じ近代以降の日本について言及しているにもかかわらず、異なる解釈をし、異なる言葉で表現している面白さをこれらの本を読んで体感して欲しい。
柳田益造 楽器の科学 千住真理子 千住真理子とコンサートへ行こう ヴァイオリンは4本の弦が張られたただの木の箱ではなく、演奏者次第で無限大の可能性を秘めた楽器です。弓の弦のあて方や左手の指の弦へのあて方など、様々な動作が重なって一つの音が響きます。ヴァイオリン奏者である筆者がこの無限の可能性に気づいたのは習い始めてから20年近く経ったそうです。それほどヴァイオリンは奥が深いということです。 本書は3部構成になっています。1章では筆者の経歴や音楽に対する考え、2章では名曲についての筆者の意見、3章では「コンサート」について書かれています。世の中には音楽的な知識や楽器は楽器の演奏はできるけど、コンサートには行ったことがないという人が多くいると思います。筆者は本書の中でこう言っています。「同じコンサートは二度とありません。CDは冒険して失敗したところは録り直しますから、完璧な作品です。でも、生の演奏会では失敗するかもしれないというスリルも味わってほしいのです。それが演奏会の醍醐味なのです。」演奏会に向けて演奏家は多大な練習を積み重ね、本番に臨みます。それはCDの録音時も同様でしょうが、やはり緊張感や練習量はコンサートの方が勝るでしょう。現在、我々の多くは気軽に聞くことができる録音の音楽で満足をしてしまっています。しかし、その裏ではそれらの作品を超えようと力を尽くしている演奏者がいることを忘れてはならないと感じました。 床に伝わったことはホール全体に響きます。筆者によればホールも楽器だそうです。その楽器に我々聴衆が入り、全身を通して音楽を感じます。これは言葉では説明ができないくらいの感動だそうです。「生の演奏には科学では説明できない様々なことが起こっている」私にはこの文章がとても印象に残りました。 このように本書にはプロの演奏家である筆者の口からしか語ることができないような内容が多く書かれています。ぜひ一度手に取って読んでほしい一冊です。
矢野茂樹  無限論の教室丸山圭三郎 人はなぜ歌うのか私が丸山圭三郎さん著者の、「人はなぜ歌うのか」を読み始めたきっかけは、「人はなぜ歌うのだろうか?」と自分で考えた時に湧き上がってきた疑問や興味などが、この本に書いてあると確信したからです。
本書では、「人はなぜ歌うのか」という大きな疑問に対して、様々な視点から答えを追及している。その一つにカラオケでの視点を通して多く述べている。例えば、キーを変えても同じ曲を楽しめるということが出来るのは、我々が相対音感を生まれながらに持ち、その能力を成長させてきたからである。相対音感とは音と音の相互関係を認識する能力であるのに対し、絶対音感とは他の音との比較ではなく、音の高さに応じた音名を言い当てることのできる能力である。絶対音感を持つ人は非常に珍しく重宝されてきたが、実際のところ歌を上手に歌うためには相対音感の方が必要なのである。相対音感は自然と備わるものであるからこそ、人間は音楽というものを楽しむことが可能であると納得できる。歌う動物とは人間のことである。もちろん鳥や虫なども鳴くが、それらは本能的な営みの結果であり、それを人間が歌だと感じ取っているだけの話であるというのだ。音楽は動物的本能から文化へと移行する源であり、人間という動物だけが本能的目的を超えて歌うという行為に喜びを、意味を見出すことが出来るのである。これらの行動は何ら有効性を志向しないが、「無駄だからこそ魅かれるのである」という言葉には魅力を感じた。カラオケでの共感できる現象の解説から、幅広く音楽に関して話題を広げていく構成はもちろん、身近な具体例や研究を活用して「人はなぜ歌うのか」という大きな題材を追及する姿は、大学生にとって習うべき存在であったと考える。ぜひこの本を読んで、学んだことをあらゆる分野で生かして欲しいです。
鴻上尚史『「空気」と「世間」』佐藤直樹『「世間」の現象学』 あなたは、私たちの行動を決定する原理としてはたらいている「世間」について、考えたことはあるだろうか。この本はそのような「世間」について、「世間」をめぐるさまざまな問題を論じ、みえない構造としての「世間」をはっきりとみえるようにすることで、その本質をあきらかにすることをおこなっている。 本の構成は、前半で「世間」を解明するうえでの方法、「世間」の構造(性格や特徴)、「世間」の歴史的特徴、などを論理的にあきらかにしたうえで、後半に、風土、心的現象、法的現象、犯罪現象、といった具体的な問題群に即して「世間」の本質を追求する構成となっている。また、歴史学者の阿部謹也を中心としたさまざまな学者の論を引用し、それをわかりやすく噛み砕きながら展開していくため、多角的に「世間」をとらえることができる内容となっている。 この本の特徴としてあげられるのは、「世間」という問題群を考える方法として哲学者エドムント・フッサールの現象学を用いていることである。それにより、「世間」を思想化・理念化することで、具体的な問題群にあらわれる「世間」をあきらかにしている。私がこの本を読んで感じたことは、「世間」がどこまでも日本を覆っているということである。対人恐怖や犯罪のトリガー、当事者以外からの過剰な反応、さらには、家の構造や街の騒音、看板、また、俳句において風景の「意味」を読み解くことを強いられることについても「世間」の関わりを指摘している。 筆者は最後に、西欧社会の個人とは別の、「世間」の存在を前提とした独自の「自分」になることが必要だと説いている。日本、そして自身にある「世間」とは何かを考え、「自分」を疑い、「自分」自身を問うことを通じて、独自の「自分」になるとはどういうことか、そんなヒントやきっかけを、この本は与えてくれる。「世間」の息苦しさから逃れたい、そんな人に読んでほしい一冊である。
行動経済学まんが ヘンテコノミクス 原作 佐藤雅彦、菅俊一 画 高橋秀明マンガでわかる行動経済学 著 ポーポー・ポロダクションヒトはなぜ「現在価値」に拘るのだろう。「時間選好」「現在性バイアス」「保有効果」「損失回避性」「現状維持バイアス」「コンコルド効果(サンクコスト)」「アンカリング効果」「代表性ヒューリスティックス(近道の解決)」「利用可能性ヒューリスティックス」これらのヒト特有の思考バイアスは「現在、または直近」に拘るあまり、非合理的な判断をしがちである。ファースト思考、システム1に影響をしているのは脳の扁桃体であり、「不安」「恐怖」「嫌悪」といった感情に関連している。多くのヒトは現状からの変化を嫌うと言うことだろう。一方、スロー思考、システム2に影響をしているのは前頭前野皮質であり、合理的な選択を可能にしている。合理的な人とは感情をうまくコントロールできるヒトのことである。変化も好しと考えることができる。ところで、金融取引とは「現在価値」と「将来価値」の交換である。「双曲割引モデル」とはものの価値は「今」が高く「少しあと」では大きく下がり、「そのあと」「ずっとあと」まで緩かに下がっていく。「今やらねば」「今を楽しむ」「今欲しい」・・そう言ってヒトは「現在価値」を割り引いて評価して、「将来価値」をおろそかにする傾向がある。だから複利の恩恵も受けられない。トマ・ピケティが検証した、歴史的に資本のリターン率は経済成長率を上回るという、有名な公式r>gは、資本は再投資することが可能なので、分かりやすく言えば複利の効果だ。一般に割引効果は資産が多いヒトほど小さいそうだ。
川添愛 コンピュータ、どうやってつくったんですか?村井純 コンピューターってどんなしくみ?近年、小学校からプログラミングや情報の授業が行われるのが主流になってきている。コンピュータを使えるのが当たり前、そんな世の中でみなさんは、そのプログラミングの授業はなんのためにあると思っていますか?プログラマーになるためだと思いますか?それもきっとあると思います。プログラマーとは、システムを動かす「プログラミング言語」を使用して、さまざまなシステムやアプリケーションを開発するエンジニア職を指します。 プログラマーが作成するシステムやアプリケーションは、金融システムや物流システムといった企業向けのものだけでなく、テレビやスマートフォン、ゲームなど、個人向けのものも幅広く作られています。とても素晴らしい職業だと思います。しかし、この本では、コンピューターのしくみを学んだり、プログラミングを体験したりすることの目的は、プラグラマーになるためだけではないということを教えてくれます。コンピュータは夢を形にする道具です。自分が考えた案を実際に自分の手で作り出す、そんなことができたらいいと思いませんか?この本はそんなあなたの手助けをし、コンピュータが接続する原理から学ぶことのできる本です。また、出てくる単語の意味が調べても分からない、そもそもPCやネットワークの仕組みが分からない状態で、ITの知識と知識を紐付けるために必要な基礎知識が足りな過ぎている人にぜひ読んでほしいです。この本はイラスト付きで子供でも理解し易い内容になっており、大人でもコンピュータの仕組みやインターネットの仕組み、危険性を理解する事ができ、社会人のIT学習の入り口にも適していると思いました。
川原繁人 『音と言葉の不思議な世界』窪薗晴夫 編 『オノマトペの謎』 この講義の参考図書に挙げられている『音と言葉の不思議な世界』の第一章では、音から意味の連想が起こる「音象徴」について書かれています。第一章のみに書かれていた内容でしたが、ただの言葉を作るためのものだと考えていた子音や母音が、それ自体にも意味のイメージを持っていることに驚いた人も多いと思います。この本の中では、人やキャラクターの名前が例として挙げられていましたが、他にどのようなところで音象徴が現れるのでしょうか。 そこで、この『オノマトペの謎』という本を紹介します。この本は、オノマトペの研究者たちが、様々な観点からオノマトペについて書いた本であり、その中にはオノマトペと音象徴の関係について書かれたものもあります。 例えば、「すくすく」と「くすくす」のように、同じ言葉からなるオノマトペでも、位置によって子音の音象徴が変わり、オノマトペの意味も違うものになるということや、今まで聞いたことの無い新しいオノマトペに出会ったとき、私たちの脳内にある音と印象の結びつきによってその意味を感じ取っているということなどがあり、オノマトペに関する新しい発見となるような情報が多く書かれています。 また、音象徴は使用される言語などを超えて共通するものですが、外国人は音象徴からオノマトペの意味を推測できるのかということや、まだ言葉を話せない赤ちゃんでも音と印象の結びつきを持っているのかということも書かれており、音象徴やオノマトペについて深く考えるきっかけとなるような内容も書かれています。 この本を読めば、今まで何となく触れてきたオノマトペが実はとても興味深いものであると分かり、日本語のオノマトペが豊富であることを嬉しく思うかもしれません。さらに、オノマトペや音象徴についてもっと知りたいと思えるでしょう。
野矢茂樹著 哲学の謎野矢茂樹著 哲学な日々 この本は哲学者である著者の日常生活の中で感じた日々の出来事についてのエッセイである。著者は哲学という答えのない問いに対し決まりきった考え方ではなく、自分自身に疑問をぶつけることで新しい世界が見えてくると考える。 この本の前半は著者自身の体験に基づく50の短い文章である。大学の話や座禅、散歩についてなどの哲学者の日常について書かれている。この中で私が特に興味を持った話を2つ挙げてみる。 1つ目は自分の目的に向かってひたすら進むのではなく、少し立ち止まって自分を問い直す哲学の姿勢を身に着けてほしいという話だ。目的地に向かうときに不測の事態は必ず起きる。その時に速さと効率、利益だけを意識していては視野が狭くなり柔軟性を失い対応ができない。だから哲学が必要である。これは今まであとのことを考えずにとにかく楽なほうへ進もうとしてきた私にとても当てはまる内容だった。 2つ目は思考を停止させる力を持つ「掛け声化」についてである。著者はこの掛け声化が表紙にある「考えさせない時代」へと導いていると感じている。キャッチコピーやスローガンというのは、シンプルで覚えやすく、人を動かす力を持っているが、その口当たりの良い言葉が私たちの考えを遮断してしまうのだ。私たちの周りにはいろいろなキャッチコピーがあふれているが、その言葉を受け入れるのでなく、「なぜ」という視点を忘れないようにしたいと思った。 この本の後半は論理的な文章の書き方や哲学者になりたい高校生のための文章などが書かれている。後半部分を読むことで哲学者がどのような思考をしているのかが明らかになる。 この本を読んで私は著者の伝えたかったことは完全には理解できなかった。ただ、この本は物事を考え、理解する手助けにはなるだろう。この本は大学についての内容が多くこれから大学へ進学する高校生や今大学生の人に読んでほしい1冊だ。
下條信輔 サブリミナル・マインド森口佑介 10代の脳とうまくつきあうこの本では私たち10代がどのようにして自身の脳と付き合うべきかが「非認知能力」をもとに説明されています。「非認知能力」という言葉ですが、読み進めているとむずかしいものではないことがわかります。この本は自身とこれからどのように向き合うべきか、部活や勉強、人間関係など少しでも不安や疑問、悩みを持つ方にはヒントになることが、論理的に述べられていると感じました。また若者の脳の仕組みについて学びたい人にも、推薦できる本だと思います。この本はQ&A方式に構成されていて、非常に読みやすいものとなっています。そしてそのクエスチョンは私たちが素朴に疑問に思ったり、悩んだりしているものが多く含まれていてます。そのアンサーの中で、気づかされたり、新たな視点を得られたりしました。さらに、各章の最後には本章のまとめと心がけてほしいことが書かれており、1章ずつ振り返りやすい構成で内容を理解できているかを確認しやすいと思います。本のタイトルから難しい本と思われますが、構成はもちろん内容も身近なものでとても読みやすい本だと思います。1章では「非認知能力」について、第2章では欲求を制御し必要な行動を選ぶ力について、3章では情熱をもって努力できる粘り強さについて、第4章では課題を自分で解決できるついう自信について、第5章では自分と他社の感情を理解する力について、第6章では教官に基づく親切な行動について、第7章ではまとめとして再び10代のための非認知能力について述べられています。私がこの本を読んで、さもざまな視点から自身の目標達成や、人生感、人格形成について考えるきっかけとなりました。また、非認知能力について理解することで、それを鍛えたり、10代としての特徴を学び、今の自分自身と向き合いやすくなると考えました。ぜひ10代のうちに、この本を読んでみて下さい。
「空気」と「世間」 鴻上尚史「日本語は空気が決める~社会言語学入門~」石黒 圭 参考図書の1つである「空気と世間」という本を読んで、私は日常にあるこの2つの存在が私たち日本人に多くの影響を与えているのだということを新たに知ることができた。空気の支配力は自分が思っていたよりもずっと大きいものであり、私たちが普段当たり前のように行っている行動の中で空気に支配されてしまっているものは数え切れないほどあるだろう。その中の1つとして、私は特に人と関わっていくうえで欠かせないものである言語が最も空気に支配されているものなのではないかと感じた。空気と言語の関係性について聞かれてもすぐに頭に思い浮かぶ人はそう多くはいないだろう。そこで私は、この2つの関係性についてより詳しく書かれている「日本語は空気が決める~社会言語学入門~」という本を紹介したいと思う。この本では、社会言語学とは何かという基本的な内容から、世代によって変化していく言葉はその場にある様々な空気の影響を受けていることなど具体的な例を用いて空気と世間の関係性についてわかりやすく説明している。中でも特に印象に残ったことは、話し手は聞き手に合わせて使う言語を変えるという空気を読む行動を、幼児の段階で身に着けようとしているということだ。幼児語とは、幼児が話したものを保護者がまねして言うのではなく、保護者が幼児に教えた言葉をただ幼児がまねして話しているものであり、このような空気と言語の関わり方もあるのだと新たに知ることができた。大学生という立場になって、親元を離れ1人暮らしを始めた人も多くいる中、新しい環境で空気を読んで行動するという場面も以前より多くなったのではないだろうか。自分が無意識のうちにしてしまっている空気を読んで発言することの意味を知ることは、自分を客観視できる良いきっかけとなるかもしれない。一度立ち止まって自分自身について見直してみたい、そんな考えを持っている人に是非おすすめしたい一冊である。
斉藤洋(著)『ルドルフとイッパイアッテナ』ダニエル・デフォー(著)『ロビンソン・クルーソー』鈴木恵(訳) 教養とは何か。この問いは教養の必要性を考える際に重要だと思う。息苦しいときに空気の存在を感じるように、教養も生活の不便を感じたときにその価値が意識される。また、迷信を信じたり、文字が読めなかったり、他人の話を理解できない人を「教養がない」と言うことがある。こうした状況から、私達は教養を追求するようになるのだろう。「教養とは何か」の問いを通じ、人々は教養の定義以上に、その普遍性や重要性を探求しているのではないだろうか。 『ルドルフとイッパイアッテナ』の物語は、ゼロから教養を積み重ねていく様子を描いている。同様に、『ロビンソン・クルーソー』では登場人物の成長を通じ、教養が人間の発達に与える影響が示されている。フライデーはロビンソンから文字と話し方を学び、イギリス社会のマナーを身につけていった。ロビンソンは離島での生存のために、小屋を建てたり羊を飼ったりする知識を活用した。こうして、彼らは教養を通じて生活の質を高めた。また、ロビンソンは離島から救出された後も冒険を続け、教養が生存のためだけでなく、視野の広がりや個性の豊かさにも寄与することを示している。 しかし、これらの物語は単なる教養の宣伝書ではない。教養の普遍性や重要性について疑問を抱く人にとって、『ロビンソン・クルーソー』の物語は特に興味深いかもしれない。ロビンソンは離島を自らの財産とし、フライデーを奴隷のように扱った。この描写は、教養と個人的な欲望が交錯する様子や、人間の暗黒面を浮き彫りにしている。教養の向上が生活や内面的な成長を促す一方で、欲望を膨らませることもあるのだろう。欲望は教養を増やすことができると同時に、教養を制限することもできるのだろう。こうした複雑な側面を考慮に入れることで、教養の本質やその普遍性と重要性について深く考えるきっかけになるだろう。教養の視点でロビンソンの物語を再解釈しよう。
佐野洋子・加藤正弘 脳が言葉を取り戻すとき中村克樹 人生100年時代の脳科学この本には、元気に人生を歩むために知っておきたい脳にまつわる50話が収録されています。脳科学研究に長年取り組んできた著者が、エビデンスがしっかりしている研究をもとに中高年が元気に活躍し健康寿命を延ばすための脳の情報をまとめています。第1章から第5章まであり、「生活習慣と脳の関係」、「記憶と学習」、「やる気の持ち方」、「社会生活を楽しく」、「脳のしくみや働き」の5つの見出しで構成されています。50話はひとつひとつが短くコラムのようになっていて、脳科学や医学に関する知識がなくてもわかりやすい言葉で詳しく説明されているためとても読みやすいです。コラムの題は「壁に耳あり障子に目あり」、「笑う門には福来る」など誰もが知っているようなことわざが使われているものが多く、内容を簡略化したものにもなっているので、話の内容の理解度を深めるのにも役立ちます。「脳科学」というと専門的で堅苦しい、難しいといったイメージを持ってしまいがちかもしれませんが、この本では日常生活の場面を切り取ったような身近な事例ばかりで、読んでいて共感できる話が多く入っているので、誰でも気軽に読むことができると思います。私は「勉強の分散効果」という話が特に今の自分に役立つと感じました。この話は学生なら誰もが経験するであろう試験勉強を、脳科学的な観点でどのように勉強したら効率がよいか、という内容です。中高年が元気に活躍し健康寿命を延ばすために役立つ情報と表紙裏には書かれていますが、若い人や学生でも役立てられる内容がたくさん載っています。このように脳の仕組みをもとに生活を豊かにするヒントがつまっている本です。長い文章を読むのが苦手、専門的な用語ばかりでは飽きてしまうという人にもとても読みやすいのでお勧めです。                                                            
野矢茂樹 「無限論の教室」コンスタンス・レイド 「ゼロから無限へ」 自然数と平方数はどちらが多いと思いますか?
 ユークリッド幾何学原論に、「全体は部分より大きい」という公理があります。それを踏まえると、平方数の集合は、自然数の集合に内包されているため、自然数のほうが多いと感じるかもしれません。 しかし、ガリレオはこう考えました。「すべての数はその相手となる平方根を一つずつ持っている。1には1^2=1,2には2^2=4,3には3^2=9,・・・という風に組み合わせればよい。数には終わりがないのだから、平方数にも終わりがない」と。 この考えを受け、カントルという数学者が、ガリレオが考えたことこそ「等しい」あるいは「同じ個数」という概念そのものだと知り、ガリレオが見出した関係によって、「無限集合とは、そのほんとうに一部分である集合との間に、1対1の対応がつけられるような集合のことである」と定義したのです。つまり、カントルは「全体は部分より大きいという公理は無限集合には当てはまらない」と言い切りました。
 この内容は、参考図書「無限論の教室」の第4章に対応しています。「無限論の教室」を読み、無限集合についての背景知識をもっと詳しく知りたい方や、さらに発展した内容を学びたい人におすすめです。この本は無限の話についてだけでなく、0~9の話、eの話も丁寧に載っているので、単純に数が好きな人にもお勧めです。「無限論の教室」よりは文章が堅めですが、図や写真、数学者の説明が多く載っているので、非常に読みやすいです。数学が好きな人はぜひ読んでみてください。
野矢茂樹 無限論の教室木村直之 超図解最強に面白い!!パラドックスこの本の魅力は多種多様なパラドックスがイラスト・図付きで丁寧に説明されており、論理をきちんと理解しながら読み進めていけることです。先生が紹介した本「無限論の教室」でも嘘つきパラドクスやアキレスと亀のパラドクスといったものが紹介されています。しかし、「無限論の教室」にはイラストや図がほとんどなく、文字のみで無限を扱ったカントールのパラドクスなどの難解で複雑なパラドクスを説明しており、何度読んでも半分ほどしか理解することができませんでした。この本とは異なり、私が紹介する本にはすべてのパラドクスの説明にイラスト・図が用いられているため、本が苦手な人にもお勧めできます。そもそも皆さんは「パラドクス」という用語の意味を知っていますか。パラドクスというのは、ギリシア語で「反対」という意味の「para」と、ギリシア語で「定説・考え」という意味の「doxa」が組み合わさり生まれた言葉です。この本では「パラドクス」の根本的な部分から学ぶことができます。「テセウスの船」「モンティホール問題」「無限ホテル」など誰もが一度は聞いたことがあるけれど、その理論の意味はよく分かっていないという人が多いのではないでしょうか。私もその一人であり、この本からこれらを学びました。無限のパラドクス以外にも論理のパラドクス、宇宙のパラドクス、物理のパラドクスが紹介されており、この本をすべて読んだ後には論理的な思考能力・宇宙学や物理学の知識を手に入れることができます。この本を読み多種多様なパラドクスを学んだあとに、無限のパラドクスに焦点を当て深堀している「無限論の教室」を読むのが良いと思いました。最後にこの本は「パラドクスに興味がある」「論理的な思考を鍛えたい」「本が苦手だけど読書に挑戦したい」という人におすすめなのでぜひ読んでみてください。 
下條信輔 サブリミナル・マインド渡辺正峰 脳の意識 機械の意識「もし人間の意識を機械に移植できるとしたら、あなたはそれを選択するだろうか」。本書はそんな問いかけから始まる。この本では、「ニューロンの塊にすぎない」脳からなぜ意識というものが生まれるのかという謎について、脳神経科学者である筆者が様々な実験結果や脳で起きていることを分析しながら考察していく。考えていく上で必要な専門用語や知識は一つ一つ丁寧に解説されているので、脳についての知識がある人もない人も筆者の考察においていかれることなく読み進められるはずだ。図や画像も多く、文章だけでは理解が難しいものでもイメージしやすいと感じた。
構成としては、1.本書における意識の定義の説明、2.これまでの意識についての科学の軌跡とまだわかっていないこと、3.意識の問題とその解明の難しさという流れで話が進められていく。「もしあなたがモグラだったなら」「意識は解けるのか」といった興味を引く見出しもたくさんある。読み終わるころには脳に意識があることの不思議さを実感できるだろう。
自分の意識を機械に移植することなんてできないだろうし、必要ないだろう。私は最初に冒頭の問いを受けてそう思った。しかし、現実ではすでに機械に意識を移植する研究が行われ、21世紀半ばごろには可能になるだろうと予言する人もいる。
この本を読む中で、自分にはなぜ意識があるのだろう、今みている景色は本当に存在しているのだろうか、機械に意識を移植したらどうなってしまうのだろう、今こういったことを考えているのはなぜなのだろう、などといろいろ考えさせられた。考えれば考えるほど抜け出せなくなりそうな内容だが、普段あまり考えることのない、自分の本当に根本的な部分を深掘りしてみるきっかけになると思う。
著者:近藤滋 波紋と螺旋とフィボナッチ著者:更科功 若い読者に贈る美しい生物学講義感動する生命のはなし この本を一言で紹介するなら、「生物学のアソートパック」でしょう。多種多様な生物学の知識が分かりやすくかつ深くなり過ぎない専門度合いで学べます。この様式はまさに参考図書の「波紋と螺旋とフィボナッチ」と同じ方式であり生物学の入門書としても最適でしょう。 さて、私はこの本を「生物学を学ばない人」にお勧めしたいです。内容の簡潔さも然ることながら、取り扱っている分野の多様さが圧倒的だからです。上記の「波紋と螺旋とフィボナッチ」では生物の体表の模様という共通のテーマがありますがこの本にはそういったものはありません。動物植物問わず、それどころか地球の話や進化の話まで扱います。 中でも私が一番お勧めしたい部分は第二章の「イカの脚は10本?」です。この章では科学を扱う上で大切な考え方である演繹と推測について言及しており他の章を読む前に是非読んで欲しい章になっています。仮説を立て知を広げていく。それこそが学問のあるべき姿であり、その土台たる知識を吸収している段階である我々が目指すべき理想像です。 この第二章を踏まえた上で各章を読むと、得た知識も以て自分なりの推測を生み出し生物学に対してより積極的に取り組めるでしょう。この動きは基本的な知識を取り入れ済みである生物学を学んでいる人にとっては難しい行いであります。彼らはより一歩進んだ深い知識を知っているためです。しかしまだ多くを知らない人にとっては違います。未知に満ちた領域に転がっている多くの何故を疑問に思い思考を巡らす事が出来ます。未知とは想像の余地なのです。 その想像の余地に一歩踏み出すきっかけがこの本です。想像の余地に一歩踏み込み思案を走らせ、そして知を得る。ある程度深めたらその行いから降りてもいいんです。このプロセスで得た知は生物学だけでしか役に立たないわけではありません。 是非生物学の世界に足を踏み入れてみてください。
野矢茂樹、無言論の教室遠山啓、無限と連続「無限を数える」この一見矛盾しているような問題にはじめに取り組んだのは集合論の創設者とされるゲオロク・カントールである。無限とは昔から数学におけるタブーとされており、アルキメデスやニュートン、史上最高の数学者と称されるガウスでさえも、無限という問題に取り組むことに警鐘を鳴らしていたが、一方では現代における指導的数学者の一人であるワイルによると「数学は無限の科学である」という一面もあり皆見て見ぬふりをしてきたが避けては通れない場所である。カントールは無限を数える際にある例を出した。2+3=5。これを一般人であったら「1というかたまりが2つと3つだから5」という考え方をするのが普通である。それは数が増えて、2,000,000+3,000,000=5,000,000となっても基本的なかたまりから考えることは変わらないだろう。しかし、わたしたちが1以外の数字を使えなくなったときどのようにしてこの単純な加法を求めるのだろうか。というような、わたしたちが普段、あまり考える機会のない「無限」について触れることのできるよい一冊となっています。言葉としては存在する「無限」であるが、実態としてはぼやけてしまう、そんなことについて考えてみませんか。
「空気」と「世間」 鴻上尚史私とは何か 「個人」から「分人」へ  平野啓一郎 「本当の自分」とは何だろうか。学校や職場での自分は演じられた仮初の私で、その仮面の下には誰しも素顔が隠れている。では、「本当の自分」とはどんな私なのか、自分の本性を知り、確固たる自我を確立しなければならない、と多くの人々が苦しんでいる。 そんな「本当の自分」という考えに対して、筆者は「分人」という単位を導入し、たった1つの「本当の自分」など存在しないと説いている。私たちは相手が変わると自然と接し方や態度を変えている。友達が、自分に向ける態度とは違う顔を他人に見せていると、「本当は」そんな人だったのだと傷つくこともある。しかし、人間は対人関係によって様々な顔を持っており、それら全てが「本当の自分」なのである。たった1つの確固たるものではなく、複数の顔が全て「本当の自分」である。その1つ1つの顔のことを筆者は「分人」と定義し、人の個性は分人の構成比率で決定されると説明している。 この本を読んで、私は「自分」をすっきりと捉えることができた。自我や、自分の中心を考えても、必ず周りの人やものと関わっており、何にも影響されない本当の私など存在しないのではないか。私は周囲の人間や環境、体験することなどによって変化していくものであって、周りの人もまたそうなのだと考えると、少し楽になる。初対面の段階から友人になったり、恋愛関係になったりする過程も、分人の考え方を取り入れると納得できるし、柔軟な人間関係を築く手掛かりにもなる。 この本で紹介されている考え方はとても面白く、人間関係に少しでも悩んだことがある人にはもちろん、充実して楽しく生きている人にもぜひ読んでもらいたい。また、筆者の平野氏は著名な小説家であり、具体例も面白く、堅苦しくないため非常に読み進めやすくなっている。平野氏の小説とともに楽しめて、新たな知見を得られる1冊である。
川原繁人 音とことばのふしぎな世界 メイド声から英語の達人まで杉藤美代子 日本語のアクセント、英語のアクセント どこがどう違うのか 私が、この本を紹介しようと思ったきっかけとして、「音とことばのふしぎな世界」の本を読み、音声学の面白さを学び、音声学の中でも特に、言葉のイントネーションやアクセントに興味を持ったからです。私は、この図書を講義の中で、音の聞こえ方や出し方に興味を持った人や音声学に興味を持った人に読んでもらいたいと思いました。 この本は、「音とことばのふしぎな世界」で書かれている音声についての中で、発声について詳しく書かれており、様々な音声学のなか日本語と英語のアクセントの方法についての共通点や異なる点について主に説明しています。例えば、日本語のアクセントと英語のアクセントの共通点として、アクセントの判断基準が高さであることを音声学的実験や音声医学的実験などを通して、説明をしています。私は、中学校や高校の英語の授業でよく、アクセントは強くすることを学んできたため、音の高さによってアクセントが生じることに驚きました。また、喉頭筋電図によって、アクセントを作る際の喉頭筋の動きを観察する研究を行いました。その結果、胸骨舌骨筋の動きが関西人のアクセントと東京の人のアクセントに、生理学的な違いがあることを見つけ出したことなどが書かれています。その他にも、外国人と日本人が文章を音読した際に、外国人は、文章中の重要なところにアクセントを入れますが、日本人は、最初に音を高くし、その後、低い音で音読することも述べられています。この本では、日本語と英語のアクセントについてだけではなく、方言に対しても述べられているため、世界だけではなく、日本の中でもアクセント方法を比較することができる面白さがあります。また、日本語話者と英語話者の文章を読む際のアクセントの入れる場所の違いから、日本語話者の欠点なども発見され、アクセントによって多くのことが導き出されることの面白さも感じられます。
驚異の小器官耳の科学(杉浦彩子)コンビニ人間(村田沙也加)この本は、書き出しで私たち読者に音の存在を印象付けている。人が行きかう忙しい朝のコンビニを音で表現しており、その表現の巧みさに書き出しからこの本には引き込まれた。 学校帰りによくコンビニにはよるが、私は少なくとも今までの人生で音でコンビニを認識したことはない。お昼の時間はレジが人でごった返していて嫌になるし、商品の陳列台は鮮やかで何を手に取ろうかいつも迷うが、このようなことを思い返してみても、私のコンビニに対する認識はいつも視覚に頼っていて、そこに音の存在はなかったのである。このことに気づくだけでもこの本を読むことに価値があったと私は感じる。なぜなら冒頭で音の存在を印象付けたことで、この本を読んでいる間は、普段気づかなかったはずの文章内の音の存在に気づかされ、それによってなぜか頭の中に膨らむ情景は音だけでなく色味としての鮮やかさも一層濃さを増したような気がしたからである。 「売り場のペットボトルが一つ売れ、代わりに奥にあるペットボトルがローラーで流れてくるカラララ、という小さい音に顔を上げる。冷えた飲み物を最後にとってレジに向かうお客が多いため、その音に反応して体が勝手に動くのだ」という文章からは音と体が連動しあって無意識的に体が動く様子が見て取れる。音と体が共鳴しあって、社会を形成する歯車として働く主人公であるが、実はコンビニの外に出るとそうもいかない。体にスムーズにしみ込んでくるコンビニの音とは違って、外の人間の声は頭の中で租借することが自然にいかないのである。そしてそれだけではなく、後に主人公は心の中を満たしていたコンビニの音さえも身体から消え、世界から切断されたように感じ方が変化していってしまうのである。 一人の人間が音と声と向き合って、自分というものを形作っていく変化の過程を私達はこの本を通して主人公と共に体感することができる。ぜひその体験を味わってほしい。
V・S・ラマチャンドラン, サンドラ・ブレイクスリー(訳 山下篤子) 『脳のなかの幽霊』オリヴァー・サックス(訳 高見幸郎, 金沢泰子)『妻を帽子と間違えた男』 『妻を帽子と間違えた男』という衝撃的なこの本のタイトルは、実際に著者が体験した出来事である。脳神経科医である著者は、様々な症状の患者を診療してきた。その中でこのタイトルに挙げられた男性は、視覚系認知能力が失われていたために人の顔のような具体的なものが認識できなくなっていた。そのため妻の顔さえ人の顔として認識できず、帽子と間違えてしまったのである。
 もしもこの病気が実際に身近な人に現れたらと想像すると、恐怖すら感じる。しかしこのエッセイ集は、この話を含め、「患者に治療を施し症状を改善させる」ことがゴールではない。この男性で言えば、彼は優れた音楽家だった。彼は自分の音楽的才能を生かし、視覚認知ができない部分は音楽でイメージすることで病気と共生していた。  このエッセイ集では、もともと無かったり失われたりした能力に目を向けるのではなく、残っている自分のアイデンティティは何か、失ったことで得られたものは何かということを大切にしているように感じる。取り上げられる患者の中には、自身の症状を自覚しきちんと説明できる人もいれば、自分ができていないことに気づかない人もいる。その誰もが生きる希望を捨てずに病気とうまく付き合っていて、むしろ利用して能力を引き上げる人もいるのだ。24篇のエッセイを読み、患者たちがいかに豊かな世界を気づきあげているかに衝撃を受けるだろう。   この本では多くの奇妙で不思議な症状が取り上げられるが、いかに自分の知っていた世界が狭かったのかに気づかされるものばかりである。医学的専門用語も出てくるが、全て丁寧に説明されるので、とても理解しやすい。何よりこの本は症例よりも、それを抱えて生きていく一人ひとりの人生にフォーカスしているため、物語のように読み進めることができる。自分の既存の世界を壊したい人、新しい世界を広げたい人にはぜひおすすめしたい一冊である。
佐野洋子 加藤正弘 「脳が言葉を取り戻すとき 失語症のカルテから」岩田誠「言葉を失うということ 神経内科医のカルテから」
今回私が紹介する本は「言葉を失うということ 神経内科医のカルテから」という本だ。私がこの本を読もうと思った理由は、1つは障がいを持つ人々の生き方について関心があったこと、もう1つは生物学的に音や言葉が脳でどのような過程を経て認識されているのかに興味があったことである。そして読後これらの関心は大いに満たされたため同じような疑問、関心を抱いている人にはぜひおすすめしたい本である。それでは具体的な内容の話に入る。まず序章では言葉とは何かについての説明がなされる、我々は普段日常的に言葉を使ってコミュニケーションをとっているが言葉とは何かについて考えることは少ないだろう。しかしその後の生理学的観点からの言葉、動物が使用している言葉の説明の前段階として言葉について考えることは有意義であった。その後何故人間が聴覚信号をコミュニケーションに用いているのかという根本的な疑問にも解答が提示され序章だけでもかなり勉強になったように思う。余談ではあるが丸山教授の研究も登場するため医学系の学生には特におすすめしたい。2章では言葉の座が発見されるまでの過程とその結果を知ることになるのだが、医学を専門に学んでいるわけではない私には失語症の患者から言葉の座が発見されるという過程も大変興味深く感じた。2章の後半から3章にかけて脳の働きについて具体的な説明がなされる。ここはかなり難しく文章を読み図を参照してという作業を繰り返した。理解するにはかなりの時間を要するが4章での具体的な症例の説明に欠かせないため根気強く読んでいただきたい。前述の通り4章では様々なタイプの具体的な症例と失語症から回復するメカニズムの説明がなされる。また5章は読み書きについての章でありこちらも興味深い話だが音との関わりは薄いため説明は割愛させていただく。人と会話できる有難さを忘れてしまった皆さんに、ぜひ読んで頂きたい。
「音響学」を学ぶ前に読む本/坂本真一それゆけ!オーケストラ/石丸寛今までの講義にて、音響の仕組みやホールの作りなどを学んできたかと思います。そこで実際に音を出し、演奏をして響きを作り上げているオーケストラや指揮者、コンサートマスタに注目した本がこの本です。著者は指揮者として音楽界で活躍されている石丸さんという方で、石丸さんが実際に体験したことに基づいて述べられています。 内容はいくつかの観点ごとにまとめられており、オーケストラについて語られているシーンもあれば、指揮者が通る花道について、そこから発展させた天才とはどういうものかという問いにまで語られています。個人的にとても興味を抱いたのは花道についての章でした。指揮者が通る花道は20メートル程あり、指揮者の歩き方に演奏する曲の雰囲気がつかめるといった内容でした。ある指揮者がベートーヴェンの《運命》と《田園》を間違えて指揮してしまったことがあるらしい。その時のコンサートマスターは指揮者の花道を通る足音を聞いて間違えていることに気が付いたそう。そのあとの演奏にて驚くほどやさしい《田園》が始まったらしい。 このように、ところどころクスっと笑えるような実話を踏まえながら理論的な話を分かりやすく説明して書かれています。私はこの本を読む前に、コンサートホール×オーケストラ、音響学についての本を読んでから今回の図書を読んだので、内容がより明瞭に理解して読むことができました。もちろんそういった本を読まずに「それゆけ!オーケストラ」を読んでも十分楽しめるような内容です。ですが、音響についての背景知識があった方がこの本に記載されているオーケストラや指揮者による違いの面白さや標題音楽が表現するものの幅広さに感動できると思います。今までの講義をしっかり聞いてきた人であればこの本の面白さ、興味深さがよくわかると思うのでぜひ読んでみることをおすすめします。
斉藤洋『ルドルフとイッパイアッテナ』F.エマーソン・アンドリュース『さかさ町』日常でふと疑問に思ったことを、まあそんなものかと当たり前のように受け入れてはいないだろうか。小さい頃はなんで、なんでと周りに聞いて回っていたような子供でも、歳を重ねると日々の疑問を口に出すことがなくなっているように感じる。本書は、そんな大学生に読んで欲しい一冊だ。
ランカスターに住む祖父の家に向かうため、汽車に乗っていたリッキーとアンの兄妹。しかし2人の乗る汽車は線路の事故により、ランカスターではなく「さかさ町駅」という近くの駅に停車する。無事に線路が直るまで町に滞在することになった2人だったが、さかさ町はすべてが逆さまな、不思議で奇妙な町だった。文字も逆さま、家も逆さま、食事の順番も、働く人も逆さま。そんな不思議な光景に、2人は次々と疑問を浮かべていく。この本は児童書であるし、どの年齢に向けた本かと聞かれたら小学生と答えるだろう。しかし私は、日々の「なぜ」を口にしなくなった大学生にこそ、この本はおすすめできると思う。車が反対に走るなんておかしいし、子供が働いて大人が遊んでいるなんてありえない。けれど、そこには逆さまになっている理由がちゃんとあるのだ。こうだから逆さまになっている…では「普通」は?普通はどうしてこうなっているんだろう。そうして考えていると、普段いかに疑問を持たず、日々を当たり前に受け入れていたのかに気づかされる。
子供が読めば、単純に逆さまを楽しめる本になっているだろう。しかし、そんなものだ、と碌に考えずに毎日を過ごしている大学生には、「なんで」を刺激される内容になっている。特に、疑問を持つことの大切さ、難しさを実感したこの講義の受講生にはおすすめの本だ。ここで、「私たちのくらしが便利で楽なほうへと進めば進むほど、失われていくのは、立ち止まって考えることです。」という訳者の言葉を引用しておく。「なんで」を大切に、日々に疑問をぶつけていこう。
絶対音感を科学する 著 阿部純一絶対音感 著 最明葉月本書は絶対音感について生物学的・心理学的・音楽的に研究を行い書き記したものではなく、また絶対音感を身に着けるための教科書でもない。この本は子供に絶対音感を身に着けさせる教育が本当に子どもの幸せにつながるのか?という音楽教育に焦点を置いたエッセイとなっている。また本書に登場する五嶋みどりさんは先天的に一般人が音楽的教育で獲得しうる普遍的な絶対音感より遥かに優れた音感を持っているにもかかわらず芸術家として様々な苦悩と葛藤を経験したことが記されています。自分は本書を読むまではピアニストやバイオリニストなど音楽を生業にするには絶対音感は必須技能である、と考えていましたが本書を読んだことで絶対音感に対する価値観や絶対音感に対する現場の苦悩と現実を知ることができました。音楽的教育、音感に対する価値観が変わる目から鱗が落ちる一冊となっています。
ルドルフとイッパイアッテナ、斉藤洋ルドルフともだちひとりだち、斉藤洋この本は『ルドルフとイッパイアッテナ』という作品の一年後を描いたものである。この作品では飼い猫と野良猫という二つの言葉がしばしば登場する。実際、プロローグを読んでみると筆者もそこにフォーカスしてこの作品を書いたことがわかる。この作品の中ではルドルフとイッパイアッテナの2匹のかつての飼い主が対象的に描かれており、そこが面白さを引き出しているポイントになっていると私は感じた。ルドルフのかつての飼い主の日野さんはアメリカに行ってしまったものの、日本に帰ることになった際、かつて飼っていたイッパイアッテナにもう一度会いたいという気持ちからお金持ちになったにも関わらず過去の家と同じ場所に家を建てたり、猫用の入り口を造ったり、猫が好きなお手伝いさんを雇ったりとかつて生活を共にしたイッパイアッテナを唯一無二な存在だと考えていることがうかがえる。対して、ルドルフのかつての飼い主のリエちゃんはルドルフに似た新しい猫をルドルフという名をつけて飼い始めていた。ルドルフという名をつけたり、一年間は帰りを待っていたことからルドルフに対し愛情を抱いていたことは窺えるが、私にとってはルドルフという名を全く別の猫につけていることはむしろルドルフが唯一無二の存在というわけではなかったことを表しているように感じさせた。この2匹と2人が対照的に描かれていることで、飼い猫にとっての飼い主と飼い主にとっての飼い猫の認識の違いが鮮明になっているだけでなく、話の軸である飼い猫と野良猫の間にある精神的な意識の違いについても理解しやすくなるため読んでいる中で自分なりの答えを見つけることができた。この本は1作目から更に成長し、周りの猫との絆も芽生えたルドルフの姿や飼い猫は飼い主にとってはどのような存在なのか、主従関係のようなものなのかまたは友達のようなものなのか両方の視点から考えてみたい人におすすめの本であると私は思う。
参考図書:コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて  著者:豊田泰久参考図書:建築音響シリーズ〈材料編〉吸音材料  編者(社):日本音響材料協会 まず、自分がこの講義を受けようと思ったきっかけが、自分の所属する工学部建築プログラムの「音環境」という部分にこの講義が関連してくるのではないかと思ったことだ。実際に参考図書としてコンサートホールに関するものが挙げられていたので読んでみた。この参考図書ではオーケストラとホールの関係性などが多く書かれていたが、ホールの設計と建築の関係も記載されていた。この部分において音響設計の歴史、反射音について多く書かれていた。ここからどう音を反射させるかが大切と分かった。 ここで自分は反射とは反対に吸音というポイントに注目した。そこで探したのが「吸音」に関する本だ。この本は全5章から成り立っている。第1章は「吸音材料とその用途」、第2章は「性能表示方法」、第3章は「吸音機構」、第4章は「各種材料の吸音特性」、第5章は「吸音材料の選定方法」となっていた。 この本がどのような受講生に向いているかどうかを考えると、自分と同じように「吸音」ということについて気になった人、建築の音環境に興味を持つ人、身の回りの材料が気になる人、物理現象に興味を持つ人、楽器を演奏する人などが挙げられると思った。 この本のについて思ったことは、内容を完璧に理解・把握するのは難しいが、概要を大まかに理解するのは比較的簡単だということだ。どういうことかというと、この本は基本文章で構成されるが数式がちょこちょこと出てきているため数学苦手意識を持っていると少し大変だということだ。しかし多くの図やグラフがあるため視覚的にも理解しやすいと感じた。また、第4章では全てではないが材料の施工方法が記載されていたためどのように使われているかなどの構成も理解しやすいと感じた。また自分的には、学校で借りられる上、各章間で繫がりはあるものの話の区切れもあって非常に読みやすいと感じた。
日本音響学会 音のなんでも小辞典筒井信介 ゴジラ音楽と緊急地震速報東日本大震災や熊本地震、胆振東部地震、能登半島沖地震など、日本から切っても切り離せない災害である地震で必ず耳にするあの不気味な緊急地震速報のチャイム音。意外にも緊急地震速報のチャイム音が作られるきっかけになったのは2007年と比較的最近であり製作期間は半年しかなかったという。この不気味ながらもすぐさま緊急事態であることに気づかされるチャイムの音はどのようにして効果的に出来上がったのか。そこには膨大な科学的ノウハウ(福祉工学の視点)とおよそ100年に及ぶ歴史が随所に込められている。このチャイム音が作られる過程には、「怖い音」が生物共通の感覚として進化の過程で得たものであること、音が聞こえる仕組みや人工内耳の研究、メロディーと心理的な反応を解明する中で得たデータがチャイム音を作る上で役立っていることなどが記されている。それらの研究をもとに作り上げられた「試作」のチャイム音が、実験を通してどのように人に心理的な影響を与えるのかと言ったことも取り上げられている。例えば、より不快感/緊急性を感じるのはどちらの音か、チャイム音に適した楽器の特徴は何か、高齢者や聴覚障害者にも聞こえやすいメロディーは何か、など緊急地震速報の音に見合った要素とは何か、ということを突き詰めて研究している過程がわかりやすく示されている。実のところ、この緊急地震速報チャイムは福祉工学の本領域ではなく、派生技術から生まれた産物であるという。福祉工学のカバーする領域はとても広く、工学が社会に活かされる場面はとても多い。この緊急地震速報のチャイム音で広まった福祉工学という学問が、今後どのように社会に活かされていくのか、工学部や理学部に限らず、人間社会に活かされる実用的な領域に関心のある人におすすめの一冊である。
斉藤洋 ルドルフとイッパイアッテナ永田和宏 知の体力ルドルフとイッパイアッテナを読んでみても、教養とは何かについて明確な答えは書かれていない。この知の体力という本もまた一言では表されていない。しかし読み終えた頃には自分なりの考えを持つことができるだろう。そしてそれらは、この講義で教えて頂いたことを多く含んでいるため、大変分かりやすく良い復習となる。だから講義を受けた学生は特に、大学生としての学び方や教養についてさらに考えを深められる本となるため、心に刺さるだろう。この講義で先生は毎回、質問や疑問点を書くことを課題としている。この本にも、自分のものとして考えるように能動的に講義を聞いて、知識の展開を図ることに意味があると書いてある。さらに読み進めると、知識の習得以上にどう考えればその場を乗り切れるのかという、考え方の訓練こそが、私たち大学生が身につけるべきことだと分かる。また読書を通して、自分はまだ何も知らない存在なのだと新たに発見することによって、相手と自分の関係や、新しい視線が生まれるとあり、講義で学んだ教養と同じだと思う人も多いのではないか。さらに印象的だったのは、狭い場所しか知らない人間にとってはここだけが生きる場となって、数人の仲間づきあいが世界の全てであるかのように勘違いし、自分への悪い評価が絶対となり傷つく。しかしそんなことはない、すぐ横には別の世界があるというような話だ。これはもっともなことを言っているが、私も含め実際は多くの人が狭い世界に閉じこもってしまっているのではないか。別の世界があること、自分が輝ける世界があることを知っているだけでどんなに心が軽くなったり、無知の知を知り、新たな世界に飛びこみやすくなったりするのではないか。この本はそんな、現代の若者の葛藤をも消し去るような力もある。大学での学びから社会人になった後までも役立つ考え方に、心を奪われるに違いない。自信を持ってこの本をおすすめする。
古谷晋一 ピアニストの脳を科学する著 清水響 コード理論大全この講義をうけて、人の音に対する主観的な感覚をまとめたものである音楽理論に興味をもち、本書を読もうと考えた。本書は音楽理論の基礎から始まり、長調、短調、ドミナントコード、転調といった講義で扱われた技法について、より踏み込んだ内容となっている。本書のテーマは上記の技法をコード進行の上でいつ、どのように使えるのかということに焦点をあてたものである。本書で特に面白いと感じたポイントとしては、講義でも扱った転調について詳しく知ることができた点である。転調にもいくつか種類がある。あるキーから直接ほかのキーへ転調するダイレクトモジュレーション、二つの異なる調で共通となるダイアトニックコードを利用して転調するピポットコードモジュレーションなどである。転調についてよくわかっていなかったが、様々な種類の転調について学んだことで、音楽を聞く際に少し違った視点で聞けるかもしれない。また、複数のコードの図を使って理論を説明しているので、視覚的にもわかりやすく、初学者でも読みやすいという点である。音楽理論の概要を学ぶ際に最初の一冊に適した専門書なのではないかと感じた。また各章の最後にはコードの演習問題があり、その章の理解度を確かめることができる。最後に、本書を読み進めるにあたって、注意する点がある。それは専門用語の多さと情報量の多さである。初学者である自分が読みすすめる際にそう感じた。本書は音楽理論や技法について網羅的に解説しているので、情報量が多く、重要な部分が理解しにくかったことと、音楽理論特有の専門用語が頻繁に出てくるので、読み進めるのに時間がかかった点が読む際に注意することであると考えた。
野矢茂樹『哲学の謎』野矢茂樹『はじめて考える時のように』本稿では、参考文献の一つである 著:野矢茂樹『哲学の謎』に関連する本として、同作者の『はじめて考える時のように』を取り上げ、紹介したい。本書は哲学という学問の根本を司る、「考える」という行為にフォーカスしているという点で関連すると言える。 「論理は考えないためにある」「自分の頭で考えるという言葉は正しくない」。このような言葉を聞いたとき、驚きや目新しさを感じる人は多いのではないだろうか。筆者によれば、論理とは「言葉の意味を捉える行為」であり、それ以上でもそれ以下でもないとされる。純粋に論理だけというのは、言葉の意味の羅列であり、むしろ考えることを放棄しているとされる。また、考えるということは、頭の中というよりは、手を使って操作することなどにより、頭の外で行われていると説明されている。 本書では、考えるという行為に対して徹底的にフォーカスしている。普段私たちは意識せず「考えて」いる。無意識だからこそ、それ自体の意味付けを行うことは困難であり、鮮明に理解しているとは言い難い。本書の閲読を通して、そのような概念を言語化し、理解を深めることが期待できる。そして、考えるという行為に対する解釈の一例を学ぶことが出来る。本書は口語調で書かれていることが特徴的であり、余談や脱線も多い。そのため、まるで一人の哲学者と会話をしているような、そのような錯覚に陥る。まるで著者と会話するかのように読み進められる点も魅力であると言える。 このように、本著は「考える」という行為に対して徹底的に言及している。年を重ね、思考することが多くなり、考えるという行為は煩雑化しやすい。したがって、根本に立ち返り、行為そのものを見つめ直すことも重要であると言える。本著はその機会を提供する。そのため、思考を続ける我々にとって一読の価値があると言える。特に、日常的に考え込む傾向がある人に推奨したい一冊である。
野矢茂樹著『哲学の謎』土屋賢二『あたらしい哲学入門 なぜ人間は八本足か?』「なぜ人間は八本足か?」  このように問われたとき、なんと答えるのが適切でしょうか。  この問いに適切な答えはありません。なぜなら、人間は八本足ではないからです。「なぜ」と問うことができるのは、それに続く部分が正しいという前提を必要とするため、この問い自体が問いとして成立していません。よってこの問いは発生し得ず、解消することができます。  「当たり前のことを」と思われるかもしれません。では、「人生に意味はあるか?」と問われた場合はどうでしょうか。哲学問題の筆頭のような問いですが、実はこの問いも、先ほどと同様に解消することができます。「なぜ空は青いか?」「時間とは何か?」といった、一見解決することが困難であるような問いも同様です。  この本で展開されているのは「全ての哲学問題は問題として間違っている」という考え方です。全ての哲学問題は、言葉の誤解、誤用により作られており、あらゆる問題は根本的に解消することができます。  私にとってこの本は、哲学問題に限らず様々な問題に直面したときに、その問題の前提や根本にある部分に目を向ける思考を身に着けるきっかけとなりました。また、多角的な視点を持ち、論理的に考えるという能力の重要性にも気が付くことができました。  この本には哲学分野の専門用語等は含まれず、日常生活の中でよく使われる言葉、なじみのある話題に加え、知識として面白い雑学のような話題を使った具体例がたくさん盛り込まれているたるので、この本を読むにあたり一切の予備知識は必要ありません。  アリストテレスやウィトゲンシュタインといった、誰もが一度は名前を聞いたことのあるような有力な哲学者たちの考えに基づく、哲学における基本的な考え方がこれ以上ない程に分かりやすく解説されており、他の哲学入門書で挫折した経験のある人、哲学に苦手意識のある人にこそ読んでほしい一冊です! 
佐藤雅彦/菅俊一【原作】/高橋 秀明【画】行動経済学まんが ヘンテコノミクス平野敦士 カール 思わずためしてみたくなる マンガ 行動経済学1年生皆さんは、このような経験をしたことはないだろうか。「必要なものでもないのに、半額シールが貼られていたのでついつい買ってしまった。」「今まで頑張ってアイテムを集めたこのゲームをやめてしまうと、今までの努力が無駄になってしまいそうでやめられない。」などなど。これらとは完全に一致しなくとも似たような経験、または一旦冷静に考えてみると合理的とは言えない行動をとってしまうことは、誰にでもあることだ。それは、我々人間はブレやすく、非合理的な生き物であるからだ。人間の一つ一つの行動は、その人の心理状態に大きく左右される。よって、この非合理的な心の動きを認知しながら物事を考えることが重要なのである。 伝統的な経済学では、超合理的な人物像が前提とされている。これは、どんな時でも自分の利益に向かって行動し、感情的になることはなく、絶対にミスをしないという、まるでロボットのような人物像であり、人間の心理による非合理的な行動は例外として扱われてきた。しかし近年では、経済学に心理学を反映させた「行動経済学」が重要視されている。ここでは、先ほど述べたロボットのような人物像を前提とはせずに、人間の気持ちの揺れ動きや、不安定な精神状態などが加味されている。 私が紹介する「思わずためしてみたくなる マンガ 行動経済学1年生」は、行動経済学の仕組みや活用法、すでに日常で応用されている例などを初心者でも分かりやすい4コマ漫画で学ぶことができる。これらを知ることで、行動を起こす前に一旦冷静になって考えてみたり、ついブレてしまう自分を客観的な視点で分析ができるようになる。そして、自分の非合理的な行動をうまく活用することで、それらを人生のプラスにつなげることができるようになるだろう。
小方厚 音律と音階の科学フランソワ・デュポラ 作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」私が読んだこの本は、楽譜や音階がどのようにして生み出されたのかという歴史から、初歩的な作曲の手法の解説に至るまで、一つ一つ丁寧に説明されたとても読みやすいものでした。『作曲の科学』言うタイトルから本文の内容は数学的な内容ばかりだと思う人もいるかもしれませんが、全然そんなことはなく、本文では作曲することを「足し算」や「引き算」として例えているから、むしろ算数的であり、数学を全く知らない人でも本文の内容を理解できるといっても過言ではないでしょうか。この本は4章構成であり、第一章で楽譜の誕生の経緯から音律と音階について解説し、筆者はこれを音楽の「横軸」と例えて説明しています。その次の第二部では和音について解説し、ここでは前の章と対応して音楽の「縦軸」と例えて説明しています。一、二章を通して楽譜の読み方はおろか、作曲の基礎的な要素を学ぶことができます。第三章はピアノやヴァイオリンなどの楽器がどのような音を出し、それが作曲にどう影響するのかマリンバ奏者である筆者の体験をもとに書かれています。それぞれの楽器の個性を分かりやすく捉えて解説し、作者は楽器が出す音を作曲の「語彙」とたとえています。そして第4章はこれまでに紹介された作曲にかかわる要素をまとめて、実際の作曲ではどのように使われるのかを解説し、作曲がどんなものかを本の指示に従って体験することができます。私はこの本を、音楽を全く分からない人にぜひ読んでもらいたいと思いました。なぜならば作曲のことばかりでなく、先程も述べましたが音階が誕生した経緯が説明されており、青子の部分がとても面白く納得のゆく解説をしています。だから読んだ人すべてにこの本を読んで作曲をしろとは言いませんがせめてこの部分だけでも読んでいってもらいたいと思いました。そこから音楽に興味がわいたら、ぜひ本に従って作曲の体験をしてもらいたいです。
岩堀修明「感覚器の進化」小島博己「耳は悩んでいる」 本著の著者である小島博己さんは耳鼻咽喉科医であり、幼い頃は耳の病気に悩まされていたそうだ。音が聞こえる現象は私たちにとってはありきたりで、日ごろから耳を気にかけることはほとんどないだろう。しかし、耳は私たちが知らないうちにダメージを負い、悩んでいる。この本には、読者に耳の悩みに寄り添ってほしいという著者の思いが込められている。 本の構成は、全体として10章に分けられており、前半は比較的講義の復習として読むことができる。他の章では耳に関する病気について記載されており、様々な病気に関して症例やその対処法などが挙がっている。特に若者に身近である病気として、騒音による難聴と難聴からなる認知症を挙げる。騒音による難聴は、工事現場など騒音のする場所に滞在することで、音響外傷が起きることである。これはイヤホンの長時間使用でも起こり、特に若い世代の人々は留意すべき病気である。また、難聴からくる認知症は高齢者が多くあてはまる。これは、難聴により人との会話や交流を行わなくなることで認知症が発症するというものだ。著者は、若者や親類が難聴の高齢者に補聴器を身につけるように促すことを推奨している。他にも章末にはコラムが記載されており、特に「ヒト以外の耳の話」は、岩堀修明著作の『感覚器の進化』と重なる内容であり、同時に読むことで耳に対する理解が深まることは間違いない。「音と音楽をめぐる科学と教養」では、耳に関することを詳しく学ぶだろう。また人間は耳を通して音波を音として生成するということも学ぶだろう。この本は、講義で学んだような重要な役割を持つ耳と、私たちがどう関わっていくべきなのかが述べられた本である。小島さんは耳を「自分では見ることができない位置にあり、ひっそりと当たり前のようにいつもそばにいてくれる」と述べている。将来、耳を大切にするためにも、講義を受けた人にはぜひ読んでほしい一冊である。
「空気」と「世間」 (鴻上尚史)友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル (土井隆義) 今を生きる若者にとって、教室はある種の「地獄」といっても過言ではないだろう。 我々は無意識のうちに「優しい関係」の維持を最優先にし、互いに気を遣いながらなるべく衝突を避けようと慎重に人間関係を営んでしまっているのではないか?まるで雰囲気だけが頼りのひどく脆いガラスのように思える。また不特定性を持ついじめや、少人数グループ形成による統一感の喪失などのさまざまな問題を抱えているのにも関わらず、なぜそこまでして我々は優しい関係に固執してしまうのだろうか?なぜ人間関係への過剰な憧れを捨て、西洋人のようにこういった息苦しい人間関係から逃げる選択肢をもちあわせていないのだろうか?
 本書では我々学生が生きる教室は言わば地雷の張り巡らされた地獄のような空間である原因を、日本人にとって絶対的な存在である「空気」との関係などをもとに、さまざまな視点から紐解いていこうと試みている。まさかケータイの存在が意外な役割を担っていたり… 私が特に面白いと思ったところは、著者が悲惨な状況である現状に対し、決して悲観的になるのでなく、むしろ生きづらさの最前線に立つ若者に対して与えられた特権であると表現している箇所である。生きづらさを抱えない人生などカフェイン抜きのコーヒーだとまで述べているように、著者の新たな視点からの考え方について注目して読んでほしい。
 人間関係の維持にはあまりにも膨大なエネルギーを用いるため、怒りや自分の思っていることを示すのは現在の優しい関係下ではなかなか難しい行為であると言えるだろう。そのような若者たちの行き場のない感情を解決するための、優しい関係脱却への第一歩や講じるべき手立てについて記されており非常に有用だと思う。ぜひ現状の人間関係に何かしらの不満を抱いている人や、そこから逃げたいと思っている学生におすすめしたい!
斎藤洋 ルドルフとイッパイアッテナサンテグジュペリ 星の王子さま 故郷の星を離れ、広い宇宙を旅してきた王子さま。王子さまは、たくさんの星を訪れる中で、いろいろな大人たちに出会いました。そして、一番最後の星、地球で出会った「僕」と王子さまは、砂漠で大切な時間を過ごしました。 「みんな、たいへんいそいでるね。なにさがしてるの、あの人たち?」 私はこの本を読んで、人は自分のものにすることで満たされようとするのだと感じさせられました。自分の地位や他人との中での立場、知識、お金、人からの承認を所有して安心するために必死になって、その根本にある、何のためにというところがいかに空っぽであるかを実感しました。みなさんがこれからたくさんの教養を身に付けていく中で、「たくさんのことを知っていることはすごいのか」ということを考えなくてはいけないと思います。もちろん、みんなが知らないことを知っていればかっこいいし、他の人から尊敬され、物知りになった気分を味わうことができます。しかし、教養を身に付けることの本当の良さは、物事や他人をいろんな角度から見ることができるようになって、そして自分がいかに小さいかを知って、素直な気持ちになれるということではないでしょうか。 幼稚園生から、小、中、高そして大学生へと進む中で知らず知らずのうちにたくさんの知識を身に付け、いつのまにか大人の心を持ってしまった人に、この本を読んでもらいたいです。勉強にしろ、空気の読み方にしろ、たくさんのことを知るということは、それまでよりもさらに上へと進むことができるとても良いことだと思います。しかし、それと同時に、私たちがとても幼かった時のような、単純な幸せを感じることが難しくなってしまいます。成長とともに心の奥に溜まっていった、上辺の満足感を得るための欲求に気づかされ、素直な気持ちを持つ大切さを思い出させてくれました。温かい会話と、優しいイラストでとても心安らぐ本です。
フーリエの冒険量子力学の冒険 フーリエの冒険を読んで全く知識のなかった私でさえも読み終えるとフーリエ変換についてよく理解することができました。それは、このシリーズはイラストや図、そして日常生活に例えられる分かりやすい例などが書かれていたので非常にイメージしやすかったからです。 そして、私が関連図書としてこの量子力学の冒険を読もうと思ったきっかけは、力学という観点で関連のある量子力学についてこれまでに興味をもったことはあったが、量子力学は知らない言葉や記号のオンパレードであったため避けてきました。しかし、フーリエ変換についてほぼ無知であった私がそれなりに理解できたこのシリーズの本ならば理解できるかもしれないと思ったためこの本に決めました。 この本で採用している理解の方法はまず、全体の概要をある程度把握してから部分ごとに分けて追及していくという方法でした。この学習方法とは、私たちが赤ちゃんの頃から自然と言葉を学習したような自然的なやり方であり、実際に読破してみて私にとっても非常に理解しやすい学習方法であると感じました。また、この本はフーリエ変換の冒険と同様に分かりやすいことばでイラストや図を使いながらゆったりと丁寧に解説が進み、「あ~なるほど」と着実に理解が進みます。そして、一から勉強した人達が書いている事もあり、何故→検討→解説という話の展開されていく点も一緒に考がえながら読み進めることができるため理解しやすいです。自分の考察が正しかったか答え合わせをするような感覚で読み進めることができたためワクワクしながら読み進められることもできます。言葉によるイメージの説明から数式に直すという手順である点も想像しやすく読みやすいです。 最期に、この本はフーリエの冒険を読破した前提でストーリーが作られて解説がされているためフーリエの冒険を読むか、フーリエ展開を理解してからこの本を読むことをおすすめします。
野矢茂樹  哲学の謎丸山圭三郎   言葉とは何か   人間の思い込みにはとてつもない力がある。それは、「太陽は地球の周りを回っている」という考えがどれほど自然科学の発展を遅らせたか、想像してみれば容易に理解できるだろう。そして、実の所我々は、最も身近にあるであろう「言葉」に関しても、疑うことすら難しい、全く間違った理解をしているのだ。本書は、そんな「言葉」の世界を紐解いていくものである。   今回紹介する本は、ソシュール研究で名を馳せた言語学者である著者が、一般読者向けに言葉について解説したものである。この本は、人間と切っても切れない関係にある言葉というものに対し、少し真剣に向き合ってみようかと考えている人にとって、格好の入門書となるだろう。  本書では、はじめの章で「単語の持つ音や意味の価値は、その言語の体系の中だけで決定され、言葉は、予め区切られた独立の存在である物や概念の名前ではない」という文言が登場し、そこから言葉と文化の関連性や翻訳の難しさ、外国語を学ぶ意味といったものを挙げつつ、端的ではあるが、言葉の本質に肉薄する内容が紹介される。   そして次の章から、いよいよ本格的な言語学的内容に入る。言語研究に於ける言語観の変遷や、ランガージュ、ラング、パロール、連合関係、記号素といった専門用語を駆使しつつ、言語の本質に迫っていく。この段階で、我々が普通言葉に対して抱いているイメージは壊れていくだろう。   ここまで読むと、大層難しい本なのか、と感じる人もいるかもしれない。確かにこの本に書かれている内容は、決して簡単なものでは無い。だが、この著者が書く文章には、独特な「上手さ(「わかりやすさ」とは少し違う)」があるので、読み進めることにあまり苦は感じないと思う。   最後になるが、本書は言語学への理解だけでなく、教養を身に付ける一助として良い働きをしてくれるものだと思う。丁寧な解説も含め、是非読んで欲しい。
鴻上尚史著 『「空気」と「世間」』阿部謹也著 『「世間」とは何か』 私がこの本を選んだ理由は、『「空気」と「世間」』という本の中で、阿部謹也さんの著作を引用して世間がどういったものなのかが記されており、阿部さんの書を読むことによってより深く世間というものについて知ることができるのではないかと考えたからです。 「世間」とは日本人特有の概念であり、私たちは日々「世間」との関わりを常に意識しながら生活をしています。しかし、「世間」とは何か?と聞かれても、なかなか言葉で表すことは難しく、また、時として「世間」は私たちの自由な意思決定を妨げるような脅威的なものにもなり得ます。だからこそ、この本を読んで「世間」とはどういうものなのかを理解することで、日本社会の生きづらさを和らげることができるのではないかと思います。 この『「世間」とは何か』では、主に「世間」や「世の中」といった言葉が、日本の長い歴史の中でどのような意味を持ってきたのかということについて、万葉集や源氏物語などを始めとする文学作品の研究で明らかになったことが記されています。現代社会や私たちの意思決定のプロセスは、歴史や経験といった古いものが積み重なって規定されていくものです。人はつい新しいものに目を向けがちですが、積み重なったものを整理することで新たな発見や物事の真理にたどり着けるのだと、この本を通じて気付くことができました。 この書の中には、短歌や有名な文学作品の一部が多数記されている点や、様々な日本の歴史的背景に着目している点から、歴史に興味がある方や日本の文学作品に興味のある方は、とても楽しく読み進めることができるのではないかと思います。30年近く前に発行された本ではありますが、現代の「社会」や「世間」について深く考えられる素晴らしい本だと思います。とても興味深い内容ばかりですので、ぜひ、実際に手に取って読んでみてください。
日本音響学会『音のなんでも小事典』岡ノ谷一夫『さえずり言語起源論』 ちゅんちゅんという小鳥のさえずりを聞いて、小鳥は何と言っているのだろうと思ったことがある方は少なからずいるのではないかと思います。小鳥はどうして「うたう」のでしょうか?この岡ノ谷一夫さんの『さえずり言語起源論』という本では、岡ノ谷さんたちの長年にわたる鳥の歌、聴覚の研究とその結果により考察される鳥の行動のメカニズム、発達、機能、進化についての仮説が紹介されています。鳥とヒトは、音を作る際の発声の仕組みや脳機能、学習過程に共通点が見られるため、鳥の歌を研究することはヒト言語の起源の解明につながると考えられています。鳥と人間の音声を発する際の脳機能や主にジュウシマツという鳥を対象とした実験を通して小鳥の「歌文法」を発見していく過程、どうしてジュウシマツは複雑な歌をうたうようになったのかということが詳細に述べられており、専門的な知識がなくても理解できると思います。動物が好きな人や動物の行動原理、ヒト言語の起源に興味がある人にお勧めしたい一冊です。 小鳥のコミュニケーションについてこの本で述べられていることを少し紹介します。 小鳥の音声コミュニケーションには、「地鳴き」と「さえずり」があります。私たちはよく小鳥が歌っていると言いますが、この「歌」というのは求愛や縄張り防衛を意味する「さえずり」のことであり、人間の耳にもメロディアスに聞こえるため、「歌」と呼ばれるようになったそうです。鳥は基本的に自種の歌をうたい、ヒト言語のように鳥の歌習得にも臨界期があります。 岡ノ谷さんは、ジュウシマツという鳥を対象として実験を進めていき、この鳥が他の鳥より複雑な文法構造を使っていることを突き止めました。次になぜそうなるのかを考えていくのですが、このように問いがどんどん発展していく過程もとても面白いです。 小鳥はどうしてうたうのでしょうか?興味を持たれた方はぜひこの本を読んでみて下さい。
行動経済学まんがヘンテコノミクス  佐藤雅彦, 菅俊一, 高橋 秀明USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか 森岡毅 この本はいわゆるマーケティング本である。マーケティングと聞くと難しそうな印象を持ち、近寄りがたいと感じる方が多いだろう。しかし、本書はまるで一つの物語かの様に話が進行する。大会優勝を目指すスポーツ漫画の様に、USJの顧客数回復を目標と掲げ、それに至るまでの過程を、マーケティング論と共に語っていく。この様な本に慣れない人でも、楽しみながら読める一冊だ。 私が本書において注目したいのが、立場によって異なる視点、同じものに対する異なる認識、経済学として登場する人の行動心理とそれの活用事例だ。 まずは、視点と認識の違いである。人々が世界観に没入できるよう、細部まで凝った作りは技術者達の自信だった。そんな本物そっくりに歴史を感じる建物は、しかし来場客にとって、ただの汚れに見えてしまっていた。そして子供向けエリアは、大人にとっての理想でしかなかった。一見ポップで可愛く楽しく見えても、それは大人目線でしかなかったのだ。大人よりもはるかに背の低い子供には、その魅力は伝わっていなかった。 これらの課題を解決していった著者であったが、大きな壁に阻まれてしまう。多額の資金、時間、労力を掛けたイベントに震災が重なってしまったのだ。人々は自粛ムードとなり、せっかくのイベントが台無しになってしまう。そこでUSJは広告を打ち出した。「関西から日本を元気に」というキャッチコピーを添えて。自粛ムードとなってしまった人々は、ある意味罪悪感の様なものを感じ、自ら楽しさに向かうことが出来ない。そんな心理を突き、このキャッチコピーを広げることで、人々がUSJに“来場しやすく”したのだった。 本書は有名テーマパークが舞台であり、私たちが顧客側であるという自覚を持ちやすい。つまり私達の振る舞いが、本書の中で顧客として登場する。だからこそ、より身近にこの本について考えることができる。私はこの一冊を推薦したい。
斉藤洋 ルドルフとイッパイアッテナ村上陽一郎 あらためて教養とは 「ルドルフとイッパイアッテナ」の登場人物イッパイアッテナのセリフに「できないやつをばかにするなんて、最低のねこのすることだ。教養あるねこのやるこっちゃねえ」とある。全くその通りであるが、あらためて教養とは何だろうか?そして私たちが教養を身につけるにはどうしたらいいだろうか?
 まずこの本は序章で教養に含まれる決定的で、大きい要素について述べられている。著者曰く、自らを立てることだそうだ。揺るがない自分を造り上げるために教養が必要になってくる。よく出てくる著者の好きな言葉「規矩(きく)」がキーワードである。規矩とは考えや行動の基準のことで、自分の中にちゃんと規矩をもっていて、そこからはみ出さないで生きる人を教養がある人というのだそうだ。難しいことのように感じるが、私は読書や自分の専門外の分野について知ることで規矩を作ることができるのではないかと思う。
 人間は自然によって与えられた枠からかなりな程度自由になっている。意志、技術、欲望など、自然が与えた、生物として与えられている限界を壊している。私はそこから、私たちは自由であるから自由でいないともったいないと考えていると思う。そのような間違った認識を野放しにしないために規矩を定め、それに従って生きることでその危機を乗り越えることができると考える。教養が私たちの生活を秩序あるものにしてくれているのだと思った。
 この本には教養を身につけるためにするべきことは明確には記されてはいないが、最後に教養を身につけるためにしてはならない百箇条があって面白いと思った。私は正直すべてが正しいとは思わなかったが、参考にしたい、頭に入れておきたいと思うことも多かった。講義口調で堅苦しくなく、読みやすいため、ぜひ一度読んでみてほしい。
哲学の謎 野矢茂樹著大事なものは見えにくい 鷲田清一著この本は哲学エッセイというジャンルです。筆者が生きてきて感じた哲学的な謎について私たちに問いかけ、一緒になって考えさせられるような本でした。この本には、一貫して筆者の読者に対する「やさしさ」に溢れていると感じました。この本の第一章「問い」の第一節「人生の課題」にて最初の二文で筆者はこう語っている。「わたしは「いない」より「いる」ほうがほんとうによかったのか……。六十近くまで生きてきて、この問いかけからわたしはまだ放たれていない。」私がこの本を読んで一番印象に残った文章です。今までの人生で皆さんも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。自分の存在価値って何だろう。自分は将来どうしたいんだろう。この問いに対して筆者は答えなど出せないと語っています。だからこそ「問い」ではなく「課題」なのだと。「問い」には「答え」がある。だが殊に人生においては問いのない答えを見つけなければなりません。その時に焦らないように、自分なりの答えを見つけられるように筆者は答えのない問いを「課題」と呼んだこのやさしさにとても感銘を受けました。また、筆者は高度化した現代社会で軽視されがちな「ため」や「ゆとり」「余白」の存在を重んじています。リーダーシップ、上昇志向といった能動的なことが奨励される世の中で「待つ」こと(受動性)の価値を改めて指摘してくれていて、能動的に世間の価値観に合わせにいく、というのは自由なようで自由ではない。それは人を選ぶ行為が選ばれる行為と表裏一体なのだ、ということの危うさをしばしばわすれてしまうことともつながっていることに気づかせてくれました。文章自体は難解でわからないこともあると思いますが、これからの人生を生きるにあたって人々が忘れがちなことにフォーカスして気づかせてくれるようなやさしさを感じれる本です。ぜひ読んでみてください。
古屋晋一 ピアニストの脳を科学する超絶技巧のメカニズム清水響 コード理論大全 私は、『ピアニストの脳を科学する』を読んで旋律の面から自分で考えてピアノを弾いてみたくなったのでこちらの図書を購入しました。この2冊を読むことで、ピアノを学ぶ姿勢を学び、普段触れる音楽の成り立ちを知ることができます。そして、作曲や楽曲分析を一つの完結した趣味として身につけると同時に、考えて、演奏してみることで、自分の脳機能を鍛えていきましょう。
 本書には、汎用的で綺麗なハーモニーやメロディーを考える為の理論が記載されています。これらは、パーカッションを除く全て楽器で行う、作曲のベースとなりうるものです。作曲における楽器のパート分けは、コード理論やその他音楽理論を知識を踏まえた上で行われます。音楽のプロを目指したり、DTMやバンドの作曲を体系的に始めたい方にとっては、基礎として不可欠なものがコード理論に基づく知識だと言えるでしょう。 また例えば、弾き語りのピアノやギターで作編曲する際に上手くコードを繋ぐ方法やアレンジを加える方法、もしくは楽曲のアナライズ、即興演奏をしたい方にも必要な知識となりうるでしょう。
 本書の構成は、初心者でも分かりやすい様に、基本からコード理論へ順序を立てて説明がされています。基礎からコード理論までの概要は「音と音楽」の第14回講義で触れられているので、理論までは講義内容を深掘りしつつ読み進めていけます。 そこから、発展的なコード理論の話になってくる訳ですが、一概にも内容は平易とは言えません。専門的な用語が沢山出てくる為、出てきた単語の定義をしっかりと覚え、一つ一つ読み解いていきましょう。初見は用語の多さに圧倒されるかもしれませんが、繰り返し同じところを読み、章末の問題を解いて、大体、数ヶ月程度をかけてゆっくりと咀嚼していくのが良いと思います。
『音とことばのふしぎな世界』川原繁人著『「あ」は「い」よりも大きい?!音象徴で学ぶ音声学入門』川原繁人著私が音声学という学問をはっきりと意識したのは、この講義の参考図書である『音とことばのふしぎな世界』を読んだ時である。この本は厚すぎず所々に図や表も挿入されている上、文章も話し言葉調で書かれており、音声学初心者の私でもわかりやすく感じた。だが一冊に音声学に関する多種多様な話題が詰め込まれているため、章と章同士のつながりが薄く話題が飛び飛びになっているように感じた。ここで私は『「あ」は「い」よりも大きい?!音象徴で学ぶ音声学入門』という本を紹介したいと思う。この本は初めに出した参考図書と同じく川原繁人先生によって書かれたもので、より音声学初心者に向けたものになっている。題名にもある通り音象徴というものをメインとして扱っている。音象徴とはものの名前に使われている音によってイメージに影響が出てしまう現象のことである。例えば「ゴジラ」という名前から濁点をとって「コシラ」にしてしまうとなんだか薄っぺらく弱そうな印象を受けるようになったり、「ワナマ」ちゃんと「サタカ」ちゃんがいたら「ワナマ」ちゃんの方が優しそうな印象が与えられるというような具合だ。この例の他にも様々な音象徴の例があるがそれらを一つ一つ身近なものや人さらにゲームシステムやキャラクターなどを使い、とっつきやすくそれでいて詳しく書かれている。そして章ごとに練習問題や付属の参考資料などがありただ本を読むだけではなく音象徴について自主的に考えを深められるよう作られており、さらに少し踏み込んだ内容や難しめの内容はコラムとして書かれていたり、飛ばして読んでしまっても理解できるようになっていたりと読む人を選ばないような配慮もされている。音声学の分かりやすい教科書的なものが欲しいという人はもちろんのこと、堅苦しい専門書が苦手な人、最近音声学に興味興味を持ち始めた人など、どんな人にも勧められる一冊であると私は思う。
野矢茂樹 哲学の謎飲茶 史上最強の哲学入門野矢茂樹「哲学の謎」を読んで、様々な哲学者の思想についてさらに知りたいと考えていたためこの書籍を手に取った。真理の「真理」、国家の「真理」、神様の「真理」、存在の「真理」の4ラウンドで31人の哲学者たちがプロレス形式で戦う、ついつい次のページを読みたくなるような面白い構成となっている。しかしながら、内容はふざけているわけではなく真面目なものだ。それぞれの思想の概要とともに、時代背景と哲学者の比較、思想の変遷がまとめられている。「真理とは」「存在とは」と考える中で科学や神学の誕生があった。哲学は様々な学問の基盤となっていることが分かるし、特に政治や経済の勉強をしている人はこの書籍を興味をもって読み進めることができると思う。例えば、なぜ世界はすべて民主主義国家だけではないのか?民主主義国家は優れているのか?といった疑問を、その思想の根底から考えて、自分なりの答えを見出すことができるようになるだろう。哲学という抽象的な内容については退屈に感じる人も多いと思うが、この書籍は読んでいてあくびが出ない。嚙み砕いて書かれているため、この書籍の内容を理解するために他の書籍の参照が必要になることもなく、非常に理解しやすい。注意点として、一人ひとりの哲学者の思想を深く掘り下げているわけではないため、哲学について様々な書籍から学んでいる人向けではないように思われる。ただし、哲学入門としては、学びを広げるきっかけとなり得るかなり有用な書籍だと思う。この書籍を読むことで、様々な哲学者や主義・思想について興味を持ち、それについての書籍を買うことにも繋がるだろう。私はソフィーとエピクロスの思想ついて深く学びたいと思った。タイトルや表紙から稚拙な印象をもつ人もいるかもしれないが実際はそんなことはなく、哲学系の書籍でこのような面白いスタイルの本は貴重だと思う。
野矢茂樹「哲学の謎」野矢茂樹(編著)「子どもの難問 : 哲学者の先生、教えてください!」死んだらどうなるのか、なぜ生きているのか、幸せとはなんなのか。誰しもが一度は考え、悩んだことがある問いであろう。そして大半の人が、明確な答えを出せず、気づいたら考えることを辞めてしまうのである。
当書では、そんな問いに対して多くの”哲学者”が各々の答えを出している。そしてこれらの問いは、「子どもの問い」とされている。しかし、実際に子ども達から募集した質問であったり、著者が子どもの時に感じた疑問ではない。編著者の野矢茂樹さんは、子どもにしか哲学はできないと考えている。しかし、子どもには哲学はできないとも考えている。そして、この逆説の中に”哲学者”がいる、と結論づける。野矢さんは哲学の研究においての「前に進め」という圧力から解放され、もっとも無防備で粗野な姿で、哲学の問いを立ち上がらせるため、圧力から自由であり、かつその答えを導くのが難しい”子ども”として22の問いを投げかける。
これら哲学者からの答えは、決して模範解答であったり、自らの考えに対して点数がつけられたりするものではないことが、当書を通じて理解できる。当書では1つの問いに対し2人の哲学者が回答していて、それが似ている時も、正反対のように見える時もある。そこがまさに哲学の面白い部分であり、野矢さんが当書を通し伝えたかった点であるだろう。
当書の問いの中に、「哲学者って、何をする人なの?」がある。回答者の1人は「ちょっとした疑問に対してすぐに考え始め、ずっと考えている人」、1人は「日常に開けなくてもいい「穴」を開けそれを塞ごうとしたり忘れたり埋められないと気づく人」と答えている。こう見ると、自分も哲学者なのでは?と思い始めたりする。そしてその問いに対してずっと考えたり、解決しようと考えれば考えるほど、私は哲学者になっていくと気づく。
子どもにも大人にも、ぜひ読んで、考えて、「穴」に気づいたり欲しい作品である。
野矢 茂樹 無限論の教室イアン・スチュアート 無限 無限と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。最近の若者は『呪術廻戦』の五条悟を思い浮かべるかもしれない。彼は現実の無限を持ち出し、物を引き寄せたり突き飛ばしたりする能力を持っている。作中で自身の能力をアキレスと亀のようなものだと説明したとき、多くの読者がインターネットでアキレスと亀の話を調べたに違いない。この本では、アキレスと亀に代表されるゼノンのパラドックスをはじめとして、パズルのような話や相対論、超限順序数、さらには数学だけでなく哲学や宗教学など様々な学問を通じて無限を解説している。無限は現実には存在しないにもかかわらず、心の自然なふるまいだと豪語する著者が描く無限の奇妙な美しさ。多角的な視点から得られる知識によって、無限に対する認識は変化し、あなたの世界は壊し変えられていく。∞+1=∞の両辺から無限を引くと1=∞。このような正しそうでありながら実は間違っているように思える問題を導入として、同じような8つの例に興味を引かれていくうちに、数学や哲学が得意でない人でもいつの間にか読み終えてしまえる一冊。
著者:佐野洋子・加藤正弘 題名:脳が言葉を取り戻すとき著者:薮中弘美 題名:私の夫は高次脳機能障害です あなたの家族が急に性格が変わったら、一人で動けなくなったら、あなたはどうするだろうか。この前までの当たり前が当たり前ではなくなり、生活が一変してしまった時、あなたはどのような役割を果たさないといけなくなるのだろうか。本書は、障害を抱えた当の本人を最も近くで支える家族の視点から、障害が発覚してからの生活や、暮らしのコツなどを記したものである。図やイラストなどのグラフィックも豊富で、前提知識がなくても内容を理解しやすい。 実際に妻が書いている部分は日記のようであり、当時の葛藤など切実な思いが赤裸々に書かれているので、読んでいると共感しやすいと思われる。また、当事者の声を知ることで、もし日記の中のような行動をしている人に出会ったとき、これまでよりもあたたかいまなざしで見ることができるようになると感じる。 家族が同じ時間を共有し、楽しい思い出を作りたいと願う人は多いと思われる。しかし、それが突然叶わなくなってしまう時がある。本書において、親の突然の変化を受け止めきれなかった子供たちの葛藤も描かれている。もし自分の家族だったら…。決して他人事にはできず、様々なことを考えさせられる内容であると思う。 保険や経済的支援の内容を読んでいると、いかに日本が医療福祉の充実した国であるかが認識できるであろう。医療技術の進歩とともに寿命も延びている現代、誰がいつ医療的ケアを必要とするかわからない。また、知識がないと利用することのできない申請主義の制度も多いのでなおさら、これからの日本を生きる私たちにとって、このような制度や仕組みを知っておいて損はないだろう。おそらくインターネットで調べただけでは得ることのできないような情報も多くあり、当事者から当事者に向けたエールのような本であるのと同時に、そうではない人にも役に立つであろう内容も多くある。是非手に取ってほしいと思う。
阿部 純一  「絶対音感を科学する」山松質文 「音楽的才能」私がおすすめする本は、山松質文著の「音楽的才能」である。この本を読んで印象に残ったトピックを二つ紹介する。一つ目は「音痴は治る」というトピックである。このトピックには、音痴の種類や音痴の人の特徴、治療の方法などが書かれており、中でも音痴の人の特徴という項目と高度の音痴である兄弟に治療を施したという筆者の体験談が印象に残っている。まず、音痴の人の特徴について、本書には「音域が著しく低く、極端に狭いこと」、「胸声発声がほとんどで、高音域では頭声や裏声的発声を行う人も少数いること」、「音高が不安定」、「一定の音を保つ短い間に音が上下する」などが挙げられていた。私は自分でも音域が低く狭いと感じており、本書で紹介されている音痴の人の特徴にあてはまる部分があることを知り、少しショックではあった。次に、筆者の体験談について、高度の音痴である兄弟に対して、約二年間にわたり長期的に治療を施したこと、その治療の内容、最終的な結果などが記載されている。最終的に兄弟は二人とも音域が広がり、音痴は治ったといえるのだが、効果の差は大きく、その原因はそこまでの学習態度にあると知り、自分の普段の学習においても、学習態度を見直すことで勉強の効果がより発揮されるのではないかと考えた。二つ目は「音楽の勉強に必要な条件」というトピックである。特に印象に残ったのは、冒頭の「あることを効果的に学習するには、まず学習者の内的条件が、それを学習するにふさわしい水準にあることが必要である。」という言葉である。本書ではバイオリンの学習を例に挙げているが、この言葉はどのような学問においてもあてはまる言葉であると考える。私はこの本から音楽に関することだけでなく、普段の学習にも当てはめることができるようなことを多く学んだため、この本を専門分野についての学習が始まる大学生に特に読んでほしいと考える。
柳田 益造「楽器の科学 図解でわかる楽器のしくみと音のだし方」吉澤純夫 「音のなんでも実験室 遊んでわかる音のしくみ」私がおすすめする本は、吉澤純夫さんが書いた、「音のなんでも実験室 遊んでわかる音のしくみ」である。お勧めする理由の一つ目は、実際に自分で体験することができるからである。この本は、タイトルにもある通り、音に関する様々な実験が書かれており、それを通して音に関する知識を得られるものである。これらの実験は、中には難しいものもあるが、すべて自分で再現でき、材料などもホームセンターなどで簡単に手に入れることができるものが多い。特に印象に残った実験は、エコーのある糸電話である。糸電話自体は子供のころによく作って遊んだが、糸電話で聞こえる音にエコーをかけるという発想はこの本を読むまで持ったことがなかった。ほかにも、様々な工作があるため、自分で作って様々な音の仕組みを学ぶことができる。お勧めする理由の二つ目は、小さい子から大人まで楽しく読めるという点である。実験を主に扱った本であるため、小さい子でもわかりやすいような図や絵が多く用いられており、これまで発想もなかった工作や実験が多いため、子どもから大人まで楽しく音の仕組みを学ぶことができる本であると言える。また、友達同士でできる実験も多いため、これからの休みで童心に帰って様々な実験を友達と一緒に行ってみることで、音に関する学習を楽しく行えると考えられる。私はこれらの理由から、この本を特に音に関する学習の初学者におすすめしたいと思う。それぞれの実験についての原理が詳しく説明されており、自分で簡単に実験できるものが多いため、音に関する学習の入門として最適であると考えたからである。この講義を通じて「音」に興味を持ち、音が持つ様々な仕組みについて学び始めたいと考えている学生には特におすすめの一冊であると言える。
川原繁人 音とことばのふしぎな世界浜野祥子 日本語のオノマトペ 音象徴と構造 ポカッと穴があいた。ポカンと穴があいた。ポカリと穴があいた。前述の文はただ一文字だけ異なり、他の箇所は全く同じという文だ。しかし、そのわずかな違いでも表す意味が異なるということを、私たち日本人は認識している。このような普段何気なく使用している日本語のオノマトペを音象徴機能の観点から、構造を解明していくという本がこの「日本語のオノマトペ 音象徴と構造」である。 英語のSVやSVOといった構文のように、オノマトペの構造を2パターンに分類し、その構造によってどのような意味を含意するのかをまず述べている。この2パターンの構造は、音象徴とも深い関係があるとともに、何の知識がなくとも概略的には分類分けできると思う。私たちが普段耳にするオノマトペをすべて集約したといっても過言ではないような多種多様なオノマトペを例に、子音や母音という細かなレベルの音象徴に着目して、わずかな語句の違いにもかかわらず、なぜ受け取る意味合いが変わってくるのかが述べられている。また、その意味を拡張している要因としてメタファー(隠喩)とメトニミー(ある語を使い、それに直接的に関与するあるいは近接的なものや概念を示すことで語の意味を拡張すること)があげられている。もしかしてオノマトペは無限拡張するのではと思わされるほど、意味の拡張が生じていると感じた。 オノマトペは、計りしきれないような複雑な構造をしていてそれによって意味が付随するという見方が私にとっては新鮮であった。しかし、納得のいく部分が多かったのは、無意識的に感じている部分が多いからであろう。この本は、普段使用するようなオノマトペを例として多く取り入れ、言語化されていてとても分かりやすい。オノマトペに興味がないとしても、音象徴機能にも関連付けて普段使っている語句の仕組みを知ることができるので、ぜひ、一度この本を手に取ってほしい。
佐野洋子・加藤正弘 脳が言葉を取り戻すとき清水ちなみ 失くした「言葉」を取り戻すまで 脳梗塞で左脳の1/4が壊れた私私が清水ちなみさんの著書、「失くした『言葉』を取り戻すまで 脳梗塞で左脳の1/4が壊れた私」を読もうと思ったきっかけは「アンメット ある脳外科医の日記」というドラマでした。このドラマの中で失語症の話が取り上げられており、そこで失語症についてより詳しく知りたいと思い、本書を読みました。清水ちなみさんは、くも膜下出血から脳梗塞を発症し、左脳の1/4が壊れ、目覚めたときには利き手の右手に麻痺が出て「お母さん」「わかんない」の2語しか話せないという状況になってしまいます。本書は、著者がそんな悲劇的な状況でも「絶望していてもしょうがない」と明るく受け止めて、家族や友人、医師、言語聴覚士、理学療法士らに支えられながら、日々を楽しみつつ前向きにリハビリを続け、再び長い文章が書けるようになるまでを描いた本となっています。私が印象に残っている内容は、著者が手術を終えて意識を取り戻した後に、集中治療室で著者の旦那さんと面会をしている場面です。その時に旦那さんが記録していたメールの一部「もっとも不思議なのは、何を言っているのか全然わからない彼女との会話が、実におもしろいことです。集中治療室で、私ほど笑っている面会者は皆無でしょう。会話というのは、内容でするものではないのですね。まったく驚きました。」という言葉が印象的で、考えていることや思っていることを自由に言葉として表せない著者と家族の向き合い方が素敵だなと感じました。読者にとって、著者の経験は自分自身の健康や日常生活、そして病気へのイメージについて考えさせられるきっかけとなります。当たり前に自分の考えや思いを伝え、人とコミュニケーションをとることができる素晴らしさや、病気の経験があったとしても「かわいそう」「お気の毒に」などという偏見を持たずに、中にはそういう人もいてみんなそれぞれで当たり前だというポジティブな考え方を教えてくれます。
高橋秀明 “行動経済学まんが ヘンテコノミクス”多田洋介 “行動経済学入門”私は“行動経済学まんがヘンテコノミクス”という課題図書を読み、そこから行動経済学とは一体どのようなものなのかを知るために”行動経済学入門”という図書を読んだ。課題図書では行動経済学的な人間の行動をわかりやすく漫画として表現されていたが、行動経済学的な法則などの具体的な説明に乏しく、今回この図書を選考するに至った。この図書を通じて、行動経済学についての初歩的な知識や行動経済学がどのような学問なのかを学ぶことができた。私は経済科学部に所属しているので、1年後期以降の学期で行動経済学関連の講義をぜひ受講したいと感じた。この本ではそもそも、行動経済学が誕生した理由は標準的な経済学では人間の消費行動を全て説明することができないからという導入から始まり、そこから具体的な“時間的非整合性”、“現在志向バイアス”、“近視眼性”などといった行動経済学の論理を学ぶことができる。時間的非整合性を例に挙げると、これは人の選好は一定不変というわけではなく、時間の経過とともに変化したり逆転するというものであり、まさに期限ギリギリまで課題やテスト勉強に着手せずに他のことに時間を費やした自分に当てはまりとても新鮮な気持ちになった。このように、行動経済学は私たちの日常の行動と密接に関係しており、飽きることなく学ぶことができると感じた。前期の学部必修授業で経済学を学びあまり魅力的に感じなかった自分にとって、経済学と言っても様々なものがあるということを知ることができたのでとても良い機会だった。もし私のように今学期経済学の講義を受けて感触がイマイチだった学生がいたら、ぜひこの本を手に取って経済学の幅広さの一端に触れてみてほしい。
音とことばのふしぎな世界 メイド声から英語の達人まで 川原繁人音声知覚の基礎 ジャック・ライアルズ著私は「音とことばのふしぎな世界」の中にあった、知覚音声学について興味を持ちこの本を読みました。この本では音声を理解するために、母音と子音についてや音声をどのように脳が認識するのかといったことが書かれています。音と音楽について勉強するためにこの講義を取っている方が多いと思うのですが、授業では楽器による音楽が多かったように感じます。しかしこの本では音声について取り上げているので、歌について勉強するためにこの本で音声について学ぶのはよいのではないかと思いました。それにこの本では各章ごとにまとめとさらに勉強したい人のための文献や図書が書かれていて、情報の整理や次に勉強するための本を見つけやすいと思います。また、母音と子音に関して書かれているところに関しては授業でやったことと少しだけ被るため、復習をしながらさらに深いことを学べます。私が読んでいて面白かったところは、右脳と左脳で音を聞くときにわずかな優位性があるというところです。左右差はわずかであるため日常生活ではほとんど意味はないが、音声を聞くときは右耳に優位性があるそうです。右耳は左脳と、左耳は右脳と結びつきが強いため、音声を聞くとき、すなわち音声処理に対する優位は左脳にあるそうです。音楽に関しては、音楽の訓練を受けていない聴取者の場合は右脳に優位性があり、音楽の専門家の場合は音楽の処理を主に左脳で行っているそうです。しかしこの音楽の訓練を受けていない聴取者に音楽を注意してきくようにすると、左脳に優位性が見えるそうです。同じ音なのに音楽と音声ではこのように違うのはすごく面白いと思いました。音楽と比較しているのはあまりありませんでしたが幅広く音声のことに関して記載されていたので、音声について学ぶ入門書としてはすごく優れていると思いました。ぜひ一度手に取ってみていください。
千住博 芸術とは何か 千住博が答える147の質問シュタイガー 音楽と文学 芦津丈夫訳この本では音楽と文学を結びつけて、音楽という芸術がどのように表されてきたのか、どのような思考・歴史のもと表現されてきたのかをまとめている。バッハに始まり、モーツァルト、グルック、シェック、オゲネルなどの音楽家、またゲーテを始めとする詩人、作家、哲学者、数学者など、それ以外にも様々な分野の学者を取り上げ、それぞれを時代ごとの音楽と絡めて論を展開している。バロック・古典主義・ロマン主義という様式から現代音楽まで、取り上げた論題は幅広い。最初はバッハがドイツのバロック音楽においてどのような立ち位置にいたのかという話から始まるのだが、私はこの本の5番目の章の「ひとたび存在したものは、永遠に生き続ける」という言葉が印象に残っている。これはホーフマンスタールの最初の戯曲的習作『昨日』において最後の部分で主人公が語る言葉であるが、この本の最初の章で述べられた、「バッハは先人たちが積み上げてきた音楽を完成に導いた」という点でも音楽の歴史にも通ずるところがある。昔から現在に至るまで、音楽には様々なジャンルがあり、その中には音楽単独ではなく、絵画や詩、小説などまた別のジャンルとの組み合わせで生まれる複合的なものもある。例として中世ヨーロッパの歌物語や吟遊詩人、日本で平家物語を語り継いできた琵琶法師、最近では、音楽ユニットのYOASOBIが「小説から楽曲を作る」ということをコンセプトとしているというのは有名だ。また逆に、ボーカロイド曲などがノベライズ・コミカライズされたりもしている。この講義でまず音・音楽を物理学的・心理学的に学んだ後に読むと、音楽についてさらに広い範囲で考え、感じることができると思う。沢山の人名や音楽・学術用語が出てくるが、それぞれに注釈がついており読む分には困らない。音楽を通した歴史の移り変わりや人間の思いや考えを知った上で音楽を鑑賞したいという人におすすめである。
波の科学ー音波・地震波・水面波・電磁波ー 谷村康行波のはなし 科学の眼で見る日常の疑問 稲葉秀明みなさんは、「波」と言われると、どんな波を想像するだろうか。海で見られる波浪だろうか。それとも、音の波、音波だろうか。波とよばれるものは身近なところに多く存在している。例えば前述した波浪や音波は当然波であるし、地震や電磁波、光も波である。そしてこれらは様々なことに利用されている。テレビ放送や、電子レンジ、赤外線カメラなどがその例である。また、自然界には超音波を利用する生物もいる。波を日常的に扱っている私たち。そんな生活を送る中で「これはどういう仕組みなのだろう」と思ったことはないだろうか。この本には波について、日常で感じる様々な疑問、あるいは疑問と思ったこともないほど当たり前と思っていたことについて、その本質は何なのか書かれている。この本は全部で11の章で構成されており、各章で異なる分野の波についての疑問とその回答を文章だけでなく図や数式を用いて説明されている。数式と言っても、ただ計算過程を書き連ねるような感じではなく、文章を交えて簡潔に書かれている。各章の中にはいくつかの日常の疑問が提起されており、それについて見開き1ページで完結するように説明がなされている。そのためとても分かりやすい。高校の教科書に近しいものと言ってもいいだろう。そして各疑問の回答に対して最後にまとめが書かれており、本を読むのが好きでない人、科学が苦手な人でもとりあえずまとめを理解出来れば大丈夫なようになっている。そのため、この本は科学への興味を持つための一冊だと僕は思う。そのため波についてだけでなく、科学について少しでも興味をもった人がいたら、ぜひこの本を読んでもらいたい。また、高校で物理を履修していて波について大体理解しているという人にとっても、波の日常生活での応用については分からないことがあるかもしれない。そういう人たちもこの本を読むことで新たな学びが得られると思うので、ぜひ読んでもらいたい。
千住博『芸術とは何か__千住博が答える147の質問』千住博『日本画を描く悦び』 この本は、日本画家である千住博にとっての日本画、そして芸術について、著者自身の経験を踏まえて語られています。日本画に興味がある人は勿論のこと、日本画について全く知らない人こそ、この本を手に取ってほしいと私は思います。なぜなら、日本画についての知識がない私は、この本を読んで日本画の魅力を知ると同時に、芸術について考え直す貴重な経験を得ることができたからです。 まず、日本画と聞いてあなたは何を想像しますか。平安時代の絵巻物か、それとも江戸時代の浮世絵でしょうか。このように、なんとなく古い時代で止まってしまったものと考えがちだと思います。これらの私たちが考える日本画像を覆す様々な言葉が、この本には眠っています。「世界のなかに日本画はあるとも言え、また、日本画のなかに世界があるとも言えます」。これはその一文を抜き取ったものです。この本を読むことで、皆さんが日本画についての認識を新たなものにすることを期待しています。 そして、先ほどにも述べたように、この本では著者自身の芸術観が述べられています。等身大の現実を表現することの魅力、優れた芸術が生まれるための条件、芸術家であるための資質、そして夢と現実、生死について。それらが、著者が生きていく中で体験した出来事と共に語られます。自身が画家である著者の体験談には、私たちをあっと言わせるようなものがたくさんあります。特に私が興味を持ったのは、著者がどのように絵を描き始め、仕上げていくのか、その時の心情がこまごまと書かれている部分です。他にも、多くの外国を訪れた著者ならではの思想が伺えるのも魅力の一つです。 ここまでを読んで少しでもこの本に興味が湧いたなら、惜しまずに読んでいただきたいと思います。日本画、そして芸術について知ることは、私たちの今後の生活をより豊かなものにしてくれるはずです。思いがけない芸術の世界が、あなたを待っています。
佐藤雅彦・菅俊一「ヘンテコのミクス」稲葉真由美「性格が合わないんじゃなくて話がかみ合っていないから」 生きていくうえで、人と関わることは避けられないものである。人にはそれぞれ個性があり、性格も異なるため、関わるうえでトラブルが生じてしまうことは当然である。大学生になって、バイトを始めたり、新しい友達ができたりしたことで、対人関係の悩みが増えた人もいるのではないだろうか。この本では、そのような人との間に生じた「すれ違い」をどのように受け止めるかで悩みを軽減する方法がわかりやすく書かれている。 はじめに、「性格統計学」より人の性格タイプは、ピース・フレキシブル、ピース・プランニング、ビジョン、ロジカルという4つのタイプに分けられていると説明されている。これは縦軸が「相手軸」か「自分軸」か、どちらが動機になるか、横軸が「計画重視」か、「臨機応変」か、行動の傾向を表してものから分けられている。それぞれ詳細に特徴が書かれており、自分がどこに近いかがよくわかるものとなっている。 この本において伝えたい重要なことは、『コミュニケーションでは「伝え方」が大切だと言われているが、伝える前にまず行うのは、相手の言葉を受け止めること』であるとしている点であると思う。つまり、先に「受け止め方」を身に付けることが大切なのである。受け止め方とは自分を知る、相手を知る、違いを認めるという3つのステップを踏むことである。今の自分の中の受け止め方をこのような手順を踏んだものに変えるだけで、人間関係のストレスは激減していくのである。 本の内容も、場合ごとにそれぞれの性格タイプの視点が書かれており、どのような考えからその行動に至ったかがわかりやすいものとなっている。イラっとするとき、困ってしまうとき、傷つけられるとき、理解できないときというチャプター毎に、約10個ずつ事例が挙げられており、私も読んでいる中でこんなことあったなと思えるものであった。対人関係で悩んでいる人はぜひ参考にしてみてはどうだろうか。
斎藤陽、ルドルフとイッパイアッテナ吉野源三郎、君たちはどう生きるか 貧困、いじめ、勇気、学問など今も昔も変わらないテーマが存在する。この本では、読んでいるうちに自然に考える仕掛けがあるため、楽しく読むことができる。そして、タイトルの「君たちはどう生きるか」にあるように私たちがどう生きるか、人間としてどう向き合うべきかを考えさせられる本である。取り上げられているテーマは大きく7つあり、ものの見方、正義、経済構造、貧富の差、社会貢献、過ちと後悔、これからの生き方について書かれている。そのため、自分の生き方について深く考えてみたいと思う人にこの本を読んでもらいたい。 物語のはじまりでは、中学二年生のコペル君は周囲の人々や社会との関わりのなかで、自分自身の価値観や生き方について深く考えるようになる。そして、コペル君は、他人とどのように接して、どのように自分の信念を持つべきかを悩みながらも、自らの道を模索していく。物語を通じて、コペル君はどう生きるべきかを考え、成長していく。 「君たちはどう生きるか」は、もともと小説であったものが、漫画化、アニメ映画化されていて長年愛されている作品である。この作品は、子供向けに書かれたものであり、読みやすい。一方で、内容は倫理、哲学、教養、道徳の性質をもつ奥深いものであって、大学生である私たちが読んでも、十分に読み応えがあるものだろう。また、物語の途中のおじさんのノートに書いてある「人間が人間同士、お互いに、好意をつくし、それを喜びとしているほど美しいことは、他にありはしない。そして、それが本当に人間らしい人間関係だ」という言葉が心に残った。人間らしい関係は報酬を求めるのではなく、誰かに何かをしてあげること自体に喜びを感じることだということを意味している。おじさんのノートには、生きる上で大切にしたいと思うような名言がたくさん出てくるので、ぜひ他の受講者にもこの作品を読んでもらいたい。 
サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ  下條 信輔著芸術的創造は脳のどこから産まれるか? 大黒達也著この本は、「脳の潜在記憶」の視点から芸術と創造性を深く探求した一冊です。脳の構造とその機能がどのようにして芸術的な創造に関わるかを解明し、特に音楽に焦点を当てています。これまで創造性は天からの啓示のように感じられてきたため長らく研究の対象にはなりませんでした。しかし近年、脳科学や人工知能の発展とともに、創造性の問題を科学的に論理づけようという試みが増えてきました。この本の著者は潜在記憶や脳科学と特に音楽に関する芸術的創造についての研究者です。そのため、芸術的創造を科学的に理解するための多くの研究成果を整理し、参考文献も収載されていて、脳のどの部位が感情や創造性に関与しているかを解説しています。本の流れはまず脳の機能や仕組みの基本情報について詳細に説明した後音楽と脳の関係性について述べられています。さらに記憶や記憶から創造的な情報を生み出す仕組みについて話が展開され、その後は創造性を身につける方法、潜在能力を活用した勉強法などについて述べられています。はじめ難しくわかりにくい脳の仕組みについてかかれているように感じるかもしれませんが、難しい部分の説明はかみ砕かれて繰り返し説明されていたり、後半に進むにつれより具体的な内容になっていくので脳科学について知識がない人でも読みやすいです。全体として、本書は脳科学、潜在記憶に基づく芸術の理解を深めるための本です。特に音楽や創造的な思考に興味がある人々に強くお勧めできる一冊です。また、教育法や外国語の学び方について言及する章もあるので、勉強がしたい大学生に読んでほしいです。芸術的な創造が脳内でどのように展開されるのかを知りたい人には、とても有益な情報が詰まっていると思います。
ダーウィン『種の起源』を漫画で読む マイケル・ケラー面白くて眠れなくなる進化論 長谷川英祐「進化論」では「生物はずっとそのままでいるのではなく、時間とともに変化していくものではないか」という考え方をする。現代に生きる私たちからすると生物の進化というのは当たり前のことだが、昔はそうではなく、生物はできたときからそのままであり時間とともに変化することはないと考えられていた。本冊では、進化論の誕生から現在の進化論、そして進化論の未来について、3章に分けて書かれている。1章では、進化という考え方が存在しなかった時代から、「神によって生物がつくられ、その後変化しないできた」という仮説に疑問をもつ人が現れ、ダーウィンが『種の起源』を発表して社会に受け入れられるまでが説明されている。2章では、遺伝の発見と「進化論」の決定版として登場した「総合説」、そして、進化論は本当に正しいのかという論争における二つの論点について丁寧に説明されている。この章では、高校生物で学ぶようなDNAの構造や突然変異の仕組み、細胞内共生などについて触れられている。3章では、現在の「進化論」でははっきりしないこと、そして、「進化論」はこれからどのように変わっていくのかについて書かれている。この章では、なぜ働かないアリが存在するのかや、カブトエビが卵のふ化のタイミングをバラバラにする理由など、生物の不思議な生態を挙げながら説明している。特に2章は生物学用語が多く、生物を学んできた人にとってはよい復習になる本である。また、そもそも進化とは何か、つまり生物は種という単位で進化するのか、それとも個という単位で進化するのかという、今までになかった視点で進化について考えさせられた。生物が苦手な人にとっては少し難しいかもしれないと感じたが、全体的に分かりやすく、一般向けに「進化とは何か」ということが説明されている。生物の知識の有無に関わらず「進化」というものに少しでも興味のある人にはぜひ読んでほしい一冊である。
サブリミナル・マインド 下條信輔脳はなぜ「心」を作ったのか 前野隆司 「心を持ったロボットは簡単に作れるようになる。」これは著者が本書の中で断言した言葉である。この言葉を聞いただけでは、そんなロボットは気持ち悪いと思うかもしれない。実のところ、私も急にそんなことを言われたらそう思ってしまうだろう。だが、この本を読み終わった後には、心を持ったのならばロボットとヒトにはどれほどの違いがあるのだろう、また、心を持ったロボットのなんと役立つことだろうと思うようになった。 この本は、今まではっきりとわかっていなかった心のメカニズムを理解した著者が自身の考えをまとめた本である。1章では心や意識の定義と今までわかっていなかった点について、2章では心についての著者の考え(新しいパラダイム)である受動意識仮説(心の地動説)について、3章では受動意識仮説を用いた今までの謎の解明、4章では心が解明されるとはどういうことか、また、ロボットもヒトと同じように心を持つ未来とはどんな時代か、という流れで進んでいく。 この本で興味深い点はたくさんあるが、私が特に興味深いと思った点を1つ紹介する。それは、「私」は「意図」したと錯覚しているという点だ。リベットの実験で「意識」が動かそうと「意図」する指令と「無意識」が指の筋肉を動かそうとする準備指令のタイミングを脳電位を測って比べたところ、「無意識」の電位が0.35秒早かったという結果が出た。つまり、脳は自分が初めに「意識」したと錯覚しているのだ。 この本は、心のメカニズムが理解できたのだから心を持つロボットはそれをプログラムすれば作れる、という結論に帰着し、そのようなロボットができた未来を考えている。そして、あと数十年のうちにその未来が来る可能性があると著者は言っている。その時に備えて、教養として現代人は読んでおくべきだと私は思っている。 
「空気」と「世間」 著者:鴻上尚史孤独と不安のレッスン 著者:鴻上 尚史鴻上尚史さんの『孤独と不安のレッスン』は、特に新生活を始めたばかりの大学生にとって有益な一冊だと思います。大学生活は新たな出会いや経験に満ち溢れていますが、その一方で孤独や不安を感じることも少なくありません。この本は、そんな悩みを抱える人に対して、深い洞察と実践的なアドバイスを提供してくれます。大学生活において、孤独や不安を感じる瞬間は多岐にわたります。新しい環境での生活、学業や将来へのプレッシャー、友人関係や恋愛の悩みなど、多くの要因が絡み合って心の負担となります。私自身も初めての一人暮らしで、入学した当初は孤独感や不安な気持ちに押しつぶされそうになっていました。『孤独と不安のレッスン』は、これらの感情がどのように生じ、私たちの行動や思考にどのような影響を与えるかを解説してくれています。本書の中で著者は、孤独や不安を完全に排除することは不可能であると指摘しています。しかし、これらの感情を否定するのではなく、理解し、受け入れることで、より健全な心の状態を保つことができると説いています。例えば、「孤独は人間が成長するための重要な要素であり、それを経験することで自己理解が深まる」といった考え方は、多くの大学生にとって新しい視点を提供してくれるはずです。このように、この本は心の支えとなってくれるだけでなく、新しい視点を与える「教養」も同時に得られる一冊だと思います。さらに、この本では具体的な対処法も提示しています。たとえば、孤独を感じたときに自分を見つめ直すための方法や、不安に襲われたときに心を落ち着かせるためのテクニックなど、すぐに実践できるアドバイスが多く示されていました。まとめると、『孤独と不安のレッスン』は、自己理解を深め、他者との関係を見直し、私たちの視野を広げるような、教養を高めてくれる一冊です。鴻上尚史さんの深い洞察と優しさを文章を通じて感じてみてください。
下條信輔 『サブリミナル・マインド 潜在的人間観のゆくえ』下條信輔『〈意識〉とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯誤』選んだ参考図書と同じ著者の本を関連する課題図書として読んだ。参考図書が、人間の潜在的な意識が行動や情動に与える影響について、実験を行った結果や世界的に認められている理論、現代の人間観や潜在的意識を利用した商法などについてまとめたものであった。それに対して、こちらの本では、「錯誤」に着目し、計算ミスなどの「偶発的な錯誤」には見られない、「内在的・本質的な錯誤」の特徴を科学的に検討することを通して、心と体の関係、意識と無意識の関係を捉えている。脳の科学的な解明を基盤として、その錯誤がどのように起こるのか、なぜ起こるのかが説明されていた。一例として、「陰性残効」という現象について紹介する。スキーをするときなどに、オレンジ色のゴーグルをかけることがある。ゴーグルをかけたすぐ後には視界全体がオレンジ色になるが、二、三分経過すると、その印象は薄れ、雪は白色に、空は青色に見えるようになってくる。加えて、ゴーグルを外すときには全く逆の現象が起こり、雪までが青く見える。このような陰性残効の現象は、神経系の中で特定の色に反応する感覚ニューロンが疲弊することによって、全体の信号出力バランスが変化することで引き起こされるという。したがって、オレンジのゴーグルを外した時に起きた現象は、赤や黄色に対応する感覚ニューロンが疲弊したことで相対的に緑や青の感覚ニューロンの出力が大きくなったことによると科学的に説明できる。このように、この本を読むことを通して、私たちが普段体験しているちょっと不思議なイリュージョンの科学的な根拠を得ることができる。読んでいた時に、小学生の時のなぜどうしての疑問に答えるフィールドワークを思い出すような爽快感を味わうことが出来た。また、脳や神経の仕組みについての理解を基盤として説明されているため、脳の仕組みに興味がある人にとっては、学びがより楽しくなる要素が詰まっている。
ダーウィン 「種の起源」を漫画で読む進化論のウソを暴く ダーウィンの進化論は全部嘘だった!著者;平田勝彦 この本の題名をみて「胡散臭い」、「こんなの注目を集めるためにわざと大げさにタイトルを付けたのだろう」と感じる人がきっとほとんどであろう。もちろん、私もその中の一人である。しかし、この本を一度読むと、たしかに進化論を当たり前のように私たちは受け入れてきたが、本当にそうなのか?と懐疑的になり、サルから進化したといわれる私たち人間が本来はどういう存在なのかを考えるいい機会になると思う。まず、筆者が進化論を嘘だとしている理由は主に三つあり、①時間があれば無から有が生じること。②時間をかけてゆっくりと進化を遂げたこと。③進化論は科学であるということである。それぞれについて簡単に説明すると、①は生命や物質は自然発生していないことは科学的に証明されているため、そもそも既存のものが進化するとは科学的におかしいということである。②は進化は何十億年という長い時間をかけてゆっくり進化したといわれているが、人間が年老いて死ぬように組織の高度なものは次第に低下して、簡単なものになってしまうというエントロピーの法則に矛盾するということである。③は進化論はそもそも科学の定義、例えばデータの観察や仮説→検証といったものに当てはまらないということである。これらのことを踏まえ、私たちにとって最も身近な進化論の例であり、皆が当たり前だとしている人はサルから進化したというものについて今一度考えてもらいたい。本当にそうならば人とサルの間の生物がいてもおかしくないはずではないか。またとてつもなく人間に似たサルや逆にほとんどサルに近い人間もいるはずであろう。しかし実際そのような生物は発見されておらず、サルor人というようにはっきり分けることができるようになっている。このように当たり前だと持っていたことに疑問を持ち、深く考える意欲がある人にはぜひ初めの一歩としてこの本を読んでもらいたいと思う。
下條信輔 サブリミナル・マインド文響社 今すぐ君の武器になる 今日から使える心理学今となっては当たり前であるよくあること。その実態は、心理学で説明できるものがほとんどである。そして、それはあまり意識を伴わずに起こっているものだと知ることになる。日常で思い当たる心理学の現象を分かりやすく紹介し、解説してくれるのがこの本である。例えば、人格心理学として紹介されていた「シャドウ」は、自分の性格や特徴の中で、自分自身では受け入れられず、表に出ないようにした自己・自我のことである。相手を苦手や嫌いと感じるとき、その苦手という要素は相手にあるのではなく、自分自身のネガティブな部分を他社に投影しているところにある、つまり、同族嫌悪を感じているだけということになる。これは、まだ「シャドウ」という名前からも想像がつきやすいだろう。では、「プルースト効果」と言われればどうだろうか。プルースト効果とは、あるにおいを嗅ぐことで、過去の思い出や気持ちを思い出す現象のことである。幼いころに食べた料理の匂いで実家を思い出したり、香水の香りからかつての恋人を思い出すなど、このような経験はだれしもあるのではないだろうか。本書では、使用例として「ドリアンのにおいを嗅ぐと、元カレを思い出しちゃって…」「プルースト効果だろうけど、どういう元カレ!?」という例が挙げられている。このように本書は、要点を押さえた解説、使用例、キーワード、そしてイラストで分かりやすく説明をしてくれている。しかも、本書で紹介されている68用語それぞれにこの説明がついており、キーワードを含めると250を超える用語が収録されている。本当はあの時、この現象が起こってたんだという爽快感を得ることができたり、純粋に心理学の知識を蓄えることができる一冊である。ここで得た知識を活用し、自分の心を理解することで、これからを上手に生きていくことができるようになると考える。思春期を迎える学生などの若者におすすめしたい一冊である。
小方厚 「音律と音階の科学」中島さち子 「音楽の魅力を数学で新発見! ヒット曲のすごい秘密」「ヨナ抜き音階」、「カノン進行」…。これらは講義の中で学んできた音楽用語であるが、「このコード進行は身近なJ-POPだとどのように使われているのだろうか?」「なぜこの音階を使うとこのような雰囲気になるのか?」というような疑問を持った方に是非おすすめしたいのがこの本である。題名には「数学」とあるが、数学が苦手な人も全く心配する必要はない。 この本は、幼少期から音楽は身近な存在だったというノンフィクションライターの今井順子さんと、プロのジャズピアニストで数学教育者の中島さち子さんの対話形式で展開される全5章で構成されている。『さくらんぼ』『少年時代』などのヒット曲に共通する「カノン進行」や、YOASOBIとバッハをつなぐ対称性、など馴染みのあるヒット曲から音楽の隠れた魅力を数学的視点で発見していくという内容である。数学的視点と言っても難しくはなく、「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義を受けた人ならより理解が深まる内容なのではないかと思う。言葉だけでは理解しづらいところには図表や楽譜の一部が挿入されており、本を読んでいるというより、プレゼンを受けているような感覚で読み進めることができる。 私はこの本を、「スマホを片手に」読むことをおすすめしたい。なぜなら、本の中で出てきた音階を実際にピアノアプリで弾いてみたり、例として挙げられた曲をYouTubeで検索して聞いてみたり、対話の流れにそって自分も体験してみることでより理解が深まり、楽しく読むことができたからである。紹介されている曲は最新のヒット曲も多いため、読みながら「あぁ~あの部分か!」という発見もできるし、知らない曲も実際に聞いてみることで「なるほど~そういうことか」と説明が腑に落ちる。 この本を読むと、聴きすぎてもはや聴き飽きたかもしれないヒット曲の聴こえ方が変わり、再度楽しめるようになるのではないか。
杉浦彩子 驚異の小器官 耳の科学柏野牧夫 空耳の科学 だまされる耳、聞き分ける脳この本は、著者である柏野牧夫さんが、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校の学生に向けて行った、聴覚についての講義の内容をまとめたものである。この本の大きな特徴として、まるで実際に講義を行っているかのような語り口調で書かれていることがあげられる。生徒の反応や、やりとりしている様子も描写されている上、イラストやグラフ、図などが多く分かりやすいのでスルスル読み進めることができ、お堅い本や活字を読むのが苦手な人にもおすすめである。この本は全8章で構成されており、さまざまな切り口から音や聴覚について理解を深めることができる。それぞれの章の内容が独立しているので、どこから読んでも理解することができ、自分の興味があるところだけつまみ食いのようにして読んで楽しむこともできるところも魅力のひとつである。また、この本の中には、音と音楽をめぐる科学と教養の講義を通して学んだ、人間の耳は周波数によって聞こえ方がちがうことや、ミッシング・ファンダメンタルなどが登場するため、講義で学んだことを改めて咀嚼することができた。全8章の中で特に印象に残ったのは、第4章 音とは何か―音の高さや音色はどうして生まれる?―の中の「AKB48《Beginner》の衝撃」で、車の中のFMラジオでAKB48の《Beginner》を聞いて、ステレオのFMとは思えないほど音場(空間的な広がり)や周波数帯域が狭く、まるでモノラルのAMラジオのような音がすることに衝撃を受けた著者の柏野さんが、《桜の栞》という曲とさまざまな観点から比較する、という内容で、曲を具体的な数値として可視化することで、両者にどのような違いがあるのかが明らかになっておもしろいなと感じた。文系・理系を問わず、この本を読むことで、音や聴覚に興味を持ち、日頃何気なく聞いている音の世界が、実は相当複雑な脳の働きの産物だということを実感することができるだろう。
「空気」と「世間」 鴻上尚史 著「教養」とは何か   阿部謹也 著 本書は、鴻上氏が『「空気」と「世間」』を著すにあたって参考図書とした本である。 はじめに、この本をお勧めしたい人は「音と音楽をめぐる科学と教養」を受講してなお「結局教養ってなんだ?」とわからなくなっている人である。私は教養の正体をつかみきれなかったため、本書を読んで理解しようとした。本書は全体的に難解であり、読むのに苦労したが、その分「こうやって教養という概念が誕生したのか」という知見が得られるため、まさに「No Pain, No Gain.」である。 教養を理解するためには「世間」と「本音と建て前」との関係を理解する必要がある、と本書は教えてくれる。筆者によるとこれは西洋とのかかわりによって生み出されたものだという。日本古来の「世間」と西洋の「世間」とが衝突したことで、「本音」と「建前」という概念が誕生した、と筆者は語る。筆者はハーバーマスの言説を引用し、日本の「世間」を西洋と比べ相対的に語っている (ここは少々難解)。『「空気」と「世間」』でも語られていたようにいかに「世間」という存在が支配的なのかを語ってくれており、生活をする上で「世間」がどれほど避けて通れない存在かを詳説してくれていた。 章を変えて、筆者はやっと教養について言及している。教養とは何かから始まり、フーコーの主張から読み解く教養という存在、教養と世間のつながりなどを順々に語っている。漠然としたイメージから、阿部氏によって枠組みを与えられ教養という概念が頭の中で組み立てられていく体験は新鮮だった。また、同時に哲学とはどういう概念・存在かということも説明してくれており、解像度を上げるのに非常に役に立った。新書を読むことの面白さを再体験した。 この本を理解して読み終えることが、ある種教養の有無を試されているのかもしれない。
ダーウィン「種の起源」を漫画で読む ダーウィンダーウィンとデザイン 進化に目的はあるのか?ダーウィンといえば、ガラパゴス諸島のフィンチ達を思い浮かべる人もいるだろう。彼らは食べ物や巣作りの違いという原因によって、全く異なる形状の嘴を持つという結果を迎えたと考えられているが、それらの順序は本当に正しいといえるのだろうか。生命やすべての自然のデザインの背後には神がいるのだろうか。人や馬、蝙蝠やアザラシの「手」は相同性があるといえるのか。この本にはそんな「デザイン」への捉え方を宗教的に、哲学的に、経済的にも多角的な視点から何十人もの学者の言葉を介してまるで大きな講義室で自分まで一緒に議論したり、授業を受けたり、考え方を逆転せざる負えない生物の生態を見せてくれ、自身に持ちえなかった創造の可能性を広げてくれる。特にダーヴィニズムとキリスト教については何度も述べられており、進化論と自然神学の二つの相容れない理論の戦いの歴史は、人類かなぜ出現したのかを争点に繰り広げられ、現在でもその終着点は見つかっていないが、人間が例えば知性のように当時を有利にする発達ではないものといった、いかに自然選択ではありえない要素を多く持つ生き物であるかに対して人間でいえば、男性の乳腺のような生物の不用な特徴こそがダーウィンの唱える四方八方に枝を張って多くのより弱い枝を凌ぐように、進化による偉大な生命の樹も同じであるといえるということが複雑に絡み合って解説されている。私が一番面白いと感じた章は子殺しがテーマであり、太ったヌートリアのメスはオスを多く産み、子がメスであれば自然流産するというものと、瘦せたヌートリアのメスはメスを多く産むというような事象が、ヌートリアだけでなくクモザル、ひいてはインドの人々にも当てはまるということが述べられているが人間だけは生理学的手段ではなく、意図的にそれを行い、文化によってダーヴィニズムから脱却をある程度可能としている証拠であるといえる一説であると思える。
野矢茂樹「哲学の謎」飲茶「史上最強の哲学入門」参考図書である野矢茂樹著「哲学の謎」を読み、哲学に興味を持ったため、哲学者について基本的なところから学びたいと思いこの本を選んだ。この本は三十一人の哲学者をひとりひとり紹介していく形式で書かれており、哲学について学びたい人が気軽に読むことが出来ると思う。また、この本は「より強い論を求め、知を戦わせてきた男たち」というコンセプトで書かれていて、熱い展開、テイストを持ち込んだ哲学入門書となっており、従来の哲学入門書とは一味違う。哲学を「刃牙(戦闘)」に見立てて、哲学者同士が互いの真理をぶつけ合い、戦っているかのように描写されているため、哲学者たちがどのようなつながりを持っているのかも分かりやすい。先述のように三十一人の哲学者がどのような哲学を打ち出したのか簡潔に書かれているのだが、私はデリダについて書かれている部分が特に面白いと思った。デリダについては高校生の時に倫理の授業で少し学んだ事があったが、この本を読んでより具体的なイメージがわいた。デリダは話し手の脳内にあるものを真理だとしても到達することができないので、聞き手の脳内を真理とする必要があると唱え、「話し手の意図」よりも「読み手の解釈」を重視するという「価値観の逆転」を提案した。得ることの出来ない真理をめぐって争うのは無意味であるため、与えられたものから人それぞれの解釈で真理を見つければよいという考え方はとても現実的で妥当であると思った。このように、何通りもの「真理」についての哲学者の考え方が示されており、読者自身も「真理」について考えるきっかけとなるであろう。この本は解説がとても分かりやすく、予備知識がなくても読めるため、哲学初心者に向いていると思う。
チャールズ・ダーウィン 『ダーウィン『種の起源』を漫画で読む』大石正道 『『生物』のことが一冊でまるごとわかる』 「生命はいったいどこから来たのだろうか」「生物の体の構造はどのようになっているのだろうか」このような問いは生物学を学ぶことによって解決することができそうだというのは誰しもが予測することが可能である。しかし、「日本人はどこから来たのだろうか」「日本人は世界的に見た場合なぜお酒に弱いのだろうか」というような歴史学、統計学のような分野に分類されると予想される問いについても、生物学を学ぶことで解決することができる。本書は生命の誕生や細胞の仕組み、生体の構成物質やDNAの正体についてなど、複数の観点から生物学の知識について解説している。第1章から第9章までで構成されており、それぞれの章でさらに細かく小見出しが付けられ、複数のトピックについてまとめられている。様々な観点から生物のルーツを見つめなおし、「生物」について一から考えることができるのが本書である。高校で生物の授業が好きだった人は各章を読むことで授業を復習することができ、生物に興味はあったが難しくて覚えられなかったというような人は、「ホタルイカはどのようにして光るのか?」「近い将来、ウナギが食べられなくなる?」といった身近に感じやすい内容から読むことができる。生物が得意な人も苦手な人も楽しく生物学を学ぶことができる一冊である。 現代に生きる私たちは、忙しない日常の中でふと自身の存在意義などいった哲学的な問いについて考えることはあっても、生物学的な観点から自身を見つめなおすことはそうないように思う。明確な答えのない事柄について思考を巡らすことが哲学の面白さのひとつであると思うが、答えのない問いについて考えるからこそ疲弊してしまう人も多いのではないのだろうか。そういった場合、そもそも生物はどのような紆余曲折を経て現在に至ったのかという、答えが明確に示されている生物学的な観点から自身を見つめ直すのも一つの手段ではないかと思う。
野矢茂樹 哲学の謎千葉雅也 勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版 この本では、勉強がただの知識の習得に留まらず、自分の価値観や考え方を見直す機会であることを教えてくれます。それでは、この本での学びの一部をいくつか紹介したいと思います。 一つ目は、勉強=「自己破壊」という考え方です。自己破壊とは、これまでの自分を壊し、新しい自分を作り上げることです。普段あまり考えずに受け入れていた概念や常識に疑問を持ち、新しい視点を取り入れることで、自分自身を成長させることができます。この視点は、現代の大学生が直面する複雑な社会問題や、多様な価値観に対応するための重要なスキルではないでしょうか。 2つ目は、「ツッコミ=アイロニー」と「ボケ=ユーモア」です。ツッコミとは、物事に疑問を投げかけ、新しい視点を得る方法であり、ボケは物事を違った角度から見ることで新たな発見をする方法です。このツッコミとボケを繰り返していくことで勉強の質が高まっていきます。授業で学んだ内容を友人と議論し、違った意見を聞くことで自分の理解が深まり、新しいアイデアが生まれるような場合がボケとツッコミです。これらの方法は、勉強だけでなく日常生活や将来の仕事にも役立つはずです。 3つ目は、「有限性」です。これは、学びの範囲を適度に絞ることで、より深く理解することができるということです。例えば、興味のあるテーマに関する本を3冊ほど選び、集中的に読むことで、無駄な情報に惑わされることなく本質を捉えることができます。情報過多な毎日を過ごしている私たちにとって、この考え方はとても大切だと思います。 これらの他にも勉強に役立つ様々な考え方が沢山載っているので、気になった方は読んでみるべきですと書きたいところですが、普段から読書をしない私にとっては読みづらく、著者の意見を理解するのに苦労しました。そのため、難解な文章を読むのに慣れており、かつ勉強について深く考えなおしてみたい方におすすめです。
豊田泰久、林田直樹、潮博恵著 コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて: 音響設計家・豊田泰久との対話上野佳奈子著 コンサートホールの科学 形と音のハーモニー この本は、音響学の本であり、教科書のような構成になっていて、横書きであるため、堅苦しくない。図表が豊富に挿入されており、文字だけというページがほとんどなく、読んでいて飽きない。重要な用語や言葉は太字になっているため、要点をつかみやすくなっている。また、コラムがあり、プラスアルファで知識を身につけることができる。 全6章から構成されており、各章では、ホールの歴史、ホール音場の性質と心理的評価、室内音場の予測、コンサートホールの設計の実際、コンサートホールにおける電気音響技術、ホール音場の理論的背景について述べられている。 コンサートホール設計に関する本であるから、音の拡散、音圧、音の反射など、様々なものの複雑な計算式が多く出てくる。そのため、数学や物理が好きな人に向いていると思う。もちろん、建築関係に興味のある人や、工学部の建築分野の人にも向いていると思う。 反対に、数学や物理が苦手な人にとっては、なかなか読み進められない内容であるので、お勧めしない。しかし、第1章のホールの歴史、第2章のホール音場の性質と心理的評価については、歴史と心理学の話であるから、この2章だけなら読むことができると思う。 音をきれいに響かせるためには、ホールの形、材質だけでなく、客席椅子やパイプオルガンにもこだわる必要がある。音波は壁に当たると一部は反射し、一部は吸収される。客席椅子はホール全体の吸音面積の30%~40%を占めるため、座り心地も考えつつ、材質や勾配にもこだわる。ホール内のあらゆるものが音波を反射し、吸収するため、それらすべてにこだわる必要がある。 5000円で鑑賞するコンサートは高いと思っているそこのあなた、この本を読めば、そのコンサートの会場であるコンサートホールの設計にはどれだけのこだわりが、苦労があるのか知ることができ、その5000円の価値がぐっとあがるはずだ。
杉浦彩子『驚異の小器官 耳の科学』小島博己『耳は悩んでいる』皆さんはいかに耳がひそかに大変な思いをしているか、考えたことがあるだろうか。自分では見えない位置にある耳。普段私たちはその存在を忘れてしまい、有難さを実感することも少ない。かゆくなったり、ウイルスに感染したり、骨が溶けたり、大きな音に打ちのめされたりなど、耳は悩んでいるのである。 本書は少年時代から耳の悩みを知り、ともに闘った経験のある耳鼻咽喉科医の著者と、耳科学を専門とする教室員によって、専門でない人にも読みやすいように工夫して書かれている。Ⅰ章とⅣ章ではかゆい・こもる・響く・耳鳴り・幻聴など、様々な耳の症状の原因や病気、診断方法などが書かれている。Ⅱ章とⅢ章は耳の構造と働きが説明され、更に聞こえを助けるツールや耳の病気の予防についても書かれている。聞こえを助けるツールの一種に、人工内耳というものがあることはご存じだろうか。これは補聴器でも十分な効果が得られない場合に検討される。人工内耳は、体外装置(プロセッサー)と体内装置(インプラント)からなる。この二つの装置は、皮膚を介して磁石で接合される。外部からの音は体外装置で集音され、電気信号に変換された音声情報が耳の後ろの皮下に埋め込まれた体内装置へ送信される。体内装置には細くて長い電極がついており、その電極は内耳の蝸牛の中へ挿入される。体外装置から届いた音声情報が電極に伝わると、蝸牛の代わりに直接、蝸牛神経を刺激し、脳へ音の情報を伝える。しかし人工内耳の種類によっては、MRI検査が受けられなかったり、体内装置の故障を防ぐために、サッカーのヘディングや格闘技などができなかったりと、いくつかの制約がある。 本書はヒト以外の耳の話や、ベートーヴェンの難聴について、耳の再生医療など、コラムで軽く知識を得ることもできる。この一冊を読むことで、耳に詳しい人になれること間違いなしであろう。
川原繁人 音とことばのふしぎな世界ジェレミー・クルーズ 演技をはじめる人のためのハンドブック この本は演技をするにあたっての基礎や必要技術等を実践的に学べるものである。 講義と関連する事項が主に2つある。1つ目は、声の出し方等の物理的な事項である。2つ目は声の感じ方等の感覚的な事項である。 声の出し方について、主に講義の音は波であり、数式で求められるということと関連する。演技をするに当たっては、聞き取りやすい声が重要である。講義では人間の耳には音の高さ・大きさによって聞き取りやすい音や聞き取りにくい音、また聞きとれない音があることを波形と共に学んだ。この本では人間が聞き取りやすい高さの声を出すための方法やうるさすぎる状態にならないように大きい声をだすためのレッスン方法等が書かれている。講義の知識と組み合わせれば理想的な声に近づくスピードがあがると考えている。実際、私はこの講義で物理的な音を学ぶ前よりも学んだ後の方がこの本に書かれているような事項が理解でき、レッスンがよりスムーズに進むようになったと感じている。 声の感じ方について、主に講義の音には聞いていて心地よい協和音と心地の悪い不協和音が存在しているということと関連する。講義では、協和音は人に明るい印象を与え、逆に不協和音は人に暗い印象を与えること、またこれを音楽に応用して雰囲気を変化させることを学んだ。演技をするに当たっては、その場面場面で適切な声色を出すことが重要である。この本では、どのような声を出せば、受け手に与えたい印象を与えられるかが書かれている。講義の知識を応用することにより、音楽と同じように演技の雰囲気を出せると考えている。悲鳴のような不快に感じる声色を出せば不快な雰囲気を出せるため演技が音楽に通じることをこの本により感じられると思う。
著 川原繁人 音とことばの不思議な世界著 川原繁人 「あ」は「い」より大きい!? 音象徴で学ぶ音声学入門今回私が紹介する図書は川原繁人著の『「あ」は「い」より大きい!?音象徴で学ぶ音声学入門』です。本書は「音象徴」という現象を、音声学の分野を中心に、言語学や心理学の観点からも考察していく、という内容です。これだけ聞くと難解なように聞こえますが、扱っている具体的な内容は「怪獣のゴジラはなぜゴジラと名付けられ、なぜ『コシラ』にはならなかったのか?」といった「言われてみれば確かに…」と思わず感じてしまうような現象です。他にもゲーム「ドラゴンクエスト」の呪文や進化する「ポケモン」につけられた名前を音数・拍数から解き明かしたり、メイド喫茶のメイドさんの源氏名についてを大真面目に考察しており、非常にとっつきやすく、面白いものとなっています。私が本書を紹介するうえで皆さんに伝えたい本書の魅力としては、本書が「内容の理解しやすさ」を重視して書かれている、という点です。勿論論文ですので学術的な用語は出てきますが、それぞれの用語の解説集も完備しており問題なく読み進められます。何より、こういった音楽分野の論文を読むうえで最も障害となるであろう数学分野の解説が特に丁寧に、かみ砕いてなされているのが私にとっては有難かったです。本講義で習った対数グラフについての話題も沢山登場するので、講義の復習や理解を深めるのにも役立ちます。まさに私のような数学が苦手な本講義の受講者にこそおすすめできる図書となっています。また、本書は筆者の研究した考察を述べるだけでなく、学生が発見した面白い音象徴を紹介するというトピックも載せられています。学生の読者や音楽分野の研究に携わったことのない読者でも、本書を読むことで「自分たちにも何かできるのではないか」「音楽や言語学は身近なものだったのか」と気づけるという体験を得られます。気軽に入門として教養を広げることができる本書を、是非一度手に取ってみて下さい。
佐藤 雅彦(著), 菅俊一 (著), 高橋 秀明(著)行動経済学まんが ヘンテコノミクス西村博之 ラクしてうまくいく生き方これまでの人生で頑張ってきたがあまり報われていない気がすると感じたことはないだろうか。または、適度に余裕をもってそれなりの生活がしたいと考えたことはないだろうか。この本はそういった方たちにお勧めできる、心理学の超入門書だと私は考える。心理学を学ぶと自分の行動、相手の行動がなぜ起きるのか、どんな意味があるのかを理解することができる。しかし、実際の生活では実感しにくいものもあったりするだろう。この本の魅力は実生活で使えるような「自分を最優先にしながらちゃんと結果を出す」100のコツを、2ちゃんねるやニコニコを作ったことで有名な西村博之(ひろゆき)がデータを示しながら教えてくれるところだ。私がもっとも面白いと感じた節がいくつかあるの。まず、第4章の「てきとうなところで見切りをつけましょう」という節である。何かと無意識に完璧に遂行しようとしてしまうことはないだろうか。どこまでも改善しようとすると終わりが見えないこともある。また、改善したところで仕事において給料が変わることがないものもある。そういった問題は、あたりまえだが早めに見切りをつけて次にやるべきことに取り掛かるべきである。そのためには「60%のものを素早く連続でつくっていく能力」が必要なのだ。また、第3章の「あえて弱みをさらけ出しましょう」も役立つ知識であった。あるコンプレックスに悩まされたことはないだろうか。自分にとってそれは邪魔なものだが、人との距離を縮めるのに役に立つかもしれない。相手が弱みを見せてくれるということは「自分を信頼して心を開いてくれた」と思われやすい。ひろゆきも打ち合わせで相手がかつらであることを打ち明けられたとき一気に相手との距離が縮まったことがあるという。プライド高く振る舞うよりもその方が有効であることを学んだ。便利なマインドが細かい節に分けて記載されており読みやすいため、ぜひ読んでみてほしい。
佐藤 雅彦/菅 俊一 行動経済学まんが ヘンテコノミクス大竹 文雄/平井 啓 医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者この本の題名を見て、医療現場と行動経済学に関係があるのか、と疑問に思う人もいるであろう。この本を読むとそのような考えが変わるだろう。
この本では医療現場において人のどのような心理が隠れているのか、またどのようなバイアスがかかっているのかを、実際に起こっている医療の問題や、患者と医者の間で行われるよくあるような会話を用いて示されている。これにより、人間は本来合理的な選択をするはずだが、実際にはそうではなく、よくない選択をする可能性があるということを強く実感するだろう。
さらに、そのような人間の性質を踏まえたうえで、どうしたら人々の選択の自由を狭めずによりよい選択へと導くことができるかを、行われた実験やアンケート結果を多く用いて説明している。これをナッジというが、ナッジによって人々の行動変容を引き起こすことができるため、どのように患者や医療従事者に活用していくかが重要となってくる。この活用方法についても述べられていて、具体例が多いためイメージしやすいだろう。
加えて、近年重要視されている患者の自己決定権について、今までは医師は単に医療知識を伝え、最終的には患者が治療方針を決めるべきであると思っていたが、これほど単純ではなく、治療方針を決める際にも双方にバイアスがかかったり、患者の意思が変わってしまう要素が沢山あることを学んだ。医療従事者側にも、無意識にバイアスがかかってしまうことが興味深い。またこの考え方が本当に正しいのかと、考えさせられた。
この本は医療現場について書かれているため、将来医療従事者になろうと考えている人にお勧めだ。しかし、そうでない人により勧めたい。この本を読むことでこれからの自分の将来について考えるきっかけとなるだろう。
ダーウィン『種の起源』を漫画で読む利己的な遺伝子 リチャード・ドーキンス 「私たち(あらゆる動植物、バクテリア、ウイルス)は遺伝子の生存機械なのである。」これは私が紹介する本の核となる考え方の1つで、それまでの進化を含む全ての行動を斬新な捉え方から説明するポイントとなる考え方である。 私が紹介する本はリチャード・ドーキンス氏の「利己的な遺伝子」という本である。この本は2017年に「英国史上最も影響力のある科学書」の第1位にも選ばれた世界的にも非常に有名な本である。世界的な評価の通り内容もとても面白いものとなっており、知識の有無に関わらず楽しめる内容が多い。しかし、本編は非常に長く、内容も所々に難しい考え方もあるので、生物を学んだとこがある人や、生物の進化・行動に強い興味を持っている人に特に向いていると言える。 進化論において、現在でもひとつの重要な考え方となっているものにダーウィンの自然淘汰説という考え方があり、基本的には支持されている。しかし、自然淘汰では説明できない生物の行動が存在する。それは利他的行動(親切や社会性昆虫、直接的な攻撃を行わない戦いなど)が存在する。これらの行動は主役を変えてみると全てが利己的な行動として見られる。その主役こそが遺伝子である。すなわち、全ての生物の全ての行動において、遺伝子がより生存しやすい行動をとるものが自然淘汰により残っていくということができる。これこそが私たちを生存機械ということができる根拠となっている。 生物の行動は、利己的な遺伝子の生存戦略であり、我々はその道具でしかない。本書の基本的な考え方はそこにある。しかし、それで終わらなかったのがこの本をベストセラーにした理由だといえる。人間は「文化」を持つ。この「文化」が新たな自己複製子となり、利己的な自己複製子に変わる存在として、本当の意味での利他的行動を実現できるのではないか。そんな希望まで感じることができるのが本書の魅力であると言える。
近藤滋 「波紋と螺旋とフィボナッチ」松下貢 「キリンの斑論争と寺田寅彦」私は近藤滋の「波紋と螺旋とフィボナッチ」を読んでもっとこの人の著書を読みたいと思い、執筆に携わっているこの本を見つけて選びました。キリンの斑論争というタイトルが、自分と友人がダブルデートで食事をしているとき、友人が自分の恋人のためにエゴマの葉をはがすのを手伝うことはありかなしかを論じる「エゴマの葉論争」に似ていることから興味本位で手に取りました。この本で取り上げられている「キリンの斑論争」はキリンの斑模様は胎児のある時期にその表面の被膜が成長による内部の膨張に耐えられずに敗れてできたもので、割れ目の残りであるという意見とそれに対する反論のことを指します。この本はこの論争についてのいくつかの論文とそれを解決するような科学的メカニズムについての論文で構成されています。キリンの斑模様と粘土板の割れ目の幾何学的類似が示されてこの説を立証しようとする学者がいても、何十年も経つとあっさりと片付けられてしまうのが切ないと感じました。科学の楽しさと論争の意義を感じられるこの本は、お値段以上の濃厚な本です。
v.sラマチャンドラン 「脳のなかの幽霊」池谷裕二 「進化しすぎた脳」この本は著者が実際に行った脳科学の講義を本にしたもので、講義調のものとなっている。特徴を一言で挙げるとno pain no gain であろう。特に第5章でそれが実感できる。多くの場面で著者から問いかけられるがそこで自分の考えをこれまでの関連する部分から練り上げる。半ば強制的にその環境を作り出してくれるのがこの本の良いところである。「音と音楽をめぐる科学と教養」を受講し、脳に関して少しでも興味を抱いた全員におすすめできる本である。まず、第1章では講義の全体的な導入から始まり、脳の基本的な構造を解説しながら科学雑誌「ネイチャー」に載った「ネズミをラジコンにしてしまった」というタイトルのものから、脳にできてコンピューターにはできないこと、なぜ人間の脳は他の生物に比べ発達しているのか、「意志」とは何なのかという話題に発展していく。第2章では主に錯覚、人間の見ている色、盲視、失語症など「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義でも扱ったテーマから発展させ、人間が認識している「世界」について脳の構造、意識、無意識、感情、言語といった切り口から哲学的に思考していく。第3章では神経細胞におけるイオン、スパイク、シナプスなどを簡単に、かつ詳しく解説し、人間の記憶のあいまいさ、ひいては脳自体のあいまいさに話を進め、神経細胞1つの働きというミクロな視点から、神経細胞のネットワークの働きというマクロな視点を考える。第4章では著者が「科学のツール」と言う薬から、主にアルツハイマー病について考える。最近新薬が登場したが、ここでは出版当時の段階でどのようにアルツハイマーになるのか、その対処法は、などの話題を筆者とともに進める。第5章はこの本の特別講義となっている。少し突っ込んだ内容であり、これまでの講義とリンクさせ、自分の考え、疑問として練り上げるまさにno pain no gain の実践の場である。
『「音響学」を学ぶ前に読む本』、坂本真一・蘆原郁著『その常識は本当かこれだけは知っておきたい実用オーディオ学』岡野邦彦著 CD、アンプ、スピーカー……身の回りにある音楽に関する様々な機器について、名前は知っていても、その仕組みや聴こえ方、よりよい使い方について詳しく知っている人はそう多くないのではないだろうか。この本では音の聴こえや空間音響について科学的な観点からわかりやすく解説している。 どのような聴こえ方がいいのかについては個人の好みであると本書にもあるが、機器の性能を十分に引き出す方法について知ることができる。オーディオ機器は進化の早い市場であるが、いつでも役に立つ情報を得られる。例えば、スピーカーの配線や配置について。スピーカーについているアースは常に接地端子につなげた方がいいように思えるが、実はそうではない。確かに安全性の観点ではつなげたほうが良いが、繋ぎ方によっては再生時のノイズを増やしてしまうことになる。これを防ぐためには、各機器のアースの線がループしないように繋げるなどの対策が必要である。 本書ではこのような機器の特徴や音の波形について、図を添えてわかりやすく説明されている。また、音響学・オーディオ学という言葉から連想されるような難しい数式などはなく、数学の知識が少々必要な点については詳しい解説が添えられている。特に、ライブで楽器を演奏する、自分で曲を作る、音楽をよりよい環境で聴きたい、という方にお勧めしたい一冊である。
佐藤雅彦、菅俊一 行動経済学まんが ヘンテコノミクス奈須正裕 やる気はどこから来るのか 意欲と心理学論私は、「やる気はどこから来るのか 意欲の心理学理論」という本を紹介します。この本は、意欲が人の行動や考え方とどう関係するのかを心理学の観点から理論的にひも解いていく内容の本で、私のように受験勉強が終わった反動で大学の勉強に身が入らない人にぜひ読んでほしいです。心理学は勉強したことがないし、抽象的で難しそうと思う人でも、この本は、実際の実験の結果や様々な分かりやすい例を用いているため本の内容が理解し易く、ページ数も120ページ弱と少ないため、手軽に読むことができると思います。そのため、文理問わず、大学に入って心理学に興味を持った人にもぜひ読んでほしいです。この本の内容で特に印象に残ったのは、犬の実験を通して無気力感について学習する場面です。実験では、犬を立たせたまま動けなくし、一定時間、何回か微弱な電気ショックを流す仕組みになっていて、最初は犬もなんとかしようともがいていましたが、行動と結果が結びつかないため、一切の行動を放棄するようになりました。そしてこの犬を今度は、低い板を飛び越えれば簡単に電気ショックから逃れられる環境下に移動させました。するとこの犬は積極的に行動することなく、ただ電気ショックに耐えるだけになってしまいました。この実験から、無気力感は学習によって後天的に身に付けられることが分かります。これは人間も同じで、偏差値や通知表などの相対評価を行う現在の教育システムが原因で、一生懸命努力しても結果に結びつかないことが続いてしまうと意欲がなくなり無気力感につながってしまいます。私はこの場面に大きな共感を覚え、この無気力感を防ぐためには、相対評価ばかりに気を取られるのではなく、以前の自分と比べて努力によって成長したことを強く実感することが大事なんだと思いました。この本を読んで、皆さんも意欲のメカニズムについて学んで、ぜひテスト勉強に生かしてみてください。
鴻上尚史「空気」と「世間」鴻上尚史 「空気」を読んでも従わないこの本はおわりにも書かれているように同じ著者の「空気」と「世間」という本の専門性、詳細性を省いた本で、難しい話が少なくかなり読みやすいと思います。内容としては、日本人における「空気を読む」ということが何に由来し、今の日本人の生活にどう影響してるのか、また、それによって苦しめられている場合には、どのような考え方でどのように対処したらいいのかを説明しています。この本で特徴的なのは「世間」と「社会」という考え方です。「世間」とは自分と関わりのある人達との繋がり、「社会」とは自分とは関係の無い人達との繋がりです。日本の人々は主にこの「世間」の中で生活しています。日本人が「世間」の中に生きるのは昔から人同士で協力するのが必要不可欠な環境で生きてきており、それが現代でも残っているからとされています。そしてこれが、私たちが普段言われたり感じる、「空気を読まなければならない」ということに繋がっています。逆に、外国人は「社会」で生きていることが多く、周りの関係ある人との関わりに重きを置くことは少ないため、「空気を読む」という文化はあまりみられないということです。そして、この世間に関するもう1つの興味深かった考え方が「世間」の5つのルールです。それは1:年上が偉い、2:同じ時間を生きることが大切、3:贈り物が大切、4:仲間はずれを作る、5:ミステリアス、というものです。これらのルールは私達が生き苦しいと感じる原因そのものとも言えますが、逆にこれを利用することで生き苦しさに対抗出来ると主張されています。この本を読めば、これらの「空気を読む」ことに対する考え方を深めることが出来ます。そして、この「空気を読む」ことによる生き苦しさの原因とそれに対する対処を知ることができ、自分を取り巻く「世間」という縛りから逃れて自由に生きる方法を見つける足がかりに出来ると思います。
佐藤雅彦、菅俊一 ヘンテコノミクス橋本之克 9割の買い物は不要である私は参考図書の一つである「ヘンテコノミクス」を読み行動経済学に興味を持ったため行動経済学に関する本を探していたところ、「9割の買い物は不要である」という衝撃的なタイトルに目を引かれ、読んでみることにした。この本は、マーケティング&ブランディングディレクターである著者が行動経済学を用いて、より良い買い物をするコツについて述べたものである。大きく3章に分かれており、さらに具体的な内容ごとに細かく小見出しがつけられ、重要な箇所は太字で書かれているためとても簡潔で読みやすい。また、取り上げられているトピックもメルカリやアマゾン、マクドナルドなど身近なものが多く、共感したり自分の身に置き換えて考えたりすることが容易である。短時間で自分の関心のある内容のみ読むことも十分可能であるため、読書をする時間があまりとれない人にもおすすめである。ここで本の内容をいくつか紹介しようと思う。例えば、買い物をする際にこれを買うべきか買うのをやめるべきか迷ったとき、判断するための情報をネットでチェックする人が多いのではなかろうか。しかし、実はその時買おうと思っている感情と買わないでおこうと思っている感情は半々ではなく、既に買うことを決めて買う理由を探しているのである。この時、人は自分に都合のいい情報だけを選んで参考にしており、このような傾向を「確証バイアス」という。その他にも、返品するつもりで買ったのに何となく返品しなかったり、他の携帯会社に変えればもっと携帯料金が抑えられると分かっているのに、何となく乗り換えなかったりするなど普段何となく自分がやっている行動に専門用語が付き明確な根拠があることに驚くだろう。そして、それらの心理を利用したマーケティングが世の中にあふれていることにも衝撃を受けるだろう。物価高など厳しい世の中だからこそ、賢く買い物ができるようになりたい学生にはぜひ読んでほしい。
楽器の科学 柳田益造知っているようで知らないオーケストラ楽器おもしろ雑学事典  緒方英子  この本の魅力は、なんといってもオーケストラの楽器たちについてのしくみや特徴だけでなく 、実際のオーケストラ奏者の本音や豆知識、彼らの面白い雑学を学べる点だ。この本は事典式になっており、第1章から第5章までで弦楽器・木管楽器・金管楽器・打楽器・鍵盤楽器の各楽器に分かれている。そしてその楽器ごとに楽器のキホンや楽器の材質について、その楽器の音域やなんと楽器の値段まで事細やかに書かれており、楽器を学んでいる・やっていた人にはもちろん、やっていなかった人や興味のある人にもわかるように楽器のいろはが載ってあるのが特徴だ。 私がこの本で特に興味を持った点は、各楽器編の最後に記載されている「ちょっと知りたい○○楽器」のところだ。ここで少し面白いと思ったエピソードを紹介しよう。1つ目はあるフルート奏者が、穴が開いていてかつ一方が塞がっているものを見かけると吹いてみたい衝動に駆られる話だ。ここで紹介されていた奏法が、1本のフルートを1人は通常の吹口から、もう1人は楽器の先端部分から吹く、つまりひとつの楽器を2人で吹くという「仲良し」奏法というものだ。これはこれで十分驚くべき奏法だが、これ以上に驚愕したのが人の口から人が息を吹き込むという「究極の仲良し」奏法だ。これはもはや人工呼吸と言うべきなのだろうが、どんな弟がするのかは多少気になる。私はやる勇気はないが、この紹介文を読んで気になった方はぜひこの奏法をするのに許してくれる人とやって見てほしい。  このような他にも、サクソフォンは強風の中で勝手に音が出るだとか、楽器の下にマンガを置いてる訳、低音奏者は画面が揺れるなど、面白い話が盛りだくさんだ。もし気になった方はぜひ手に取って読んでみて欲しい。
『ルドルフとイッパイアッテナ』齋藤洋『ぼく自身のノオト』ヒュー・プレイサー私は今回『ルドルフとイッパイアッテナ』を読んで、「教養」について深く考えることが出来ました。私は今は大学一年生で、精神的にも時間的にも比較的余裕のある日々を送っていますが、これから就職して厳しい世界で生きていくことになったら人を見下したり、平気でずるをしたりしてしまうかもしれません。教養というものをはっきり言葉で説明できる訳では無いし、今の私は「教養がある人」だと断言できるとはいえないけれど、この本を読んでずっと心に留めておきたい、立場が変わっても忘れたくないと思えるような教養に出会えました。そして、私がこの本を読んだ人におすすめしたいのは、『ぼく自身のノオト』です。この本は著者が青年時代に執筆したエッセイで、自分とはなにか、どう生きるのか、というような青年期の思索が時に痛々しく描かれています。そして前述した本と同じように「立場が変わっても忘れたくない」と思えるような思索が描かれた本です。この本を読み進めていると常に自分の気持ちに正直で居たい、自分の心の動きに敏感でありたい、という筆者の気持ちが読み取れます。私は高校時代、勉強と部活に追われ常に心をすり減らして生きていました。その中で頑張る意味を見失ったり、心が苦しくなってしまうことも沢山ありました。このように苦しくなるのは一生懸命生きていれば当然のことなのかもしれませんが、無意識に自分を苦しめたり、必要以上に自分の感情を抑圧することは無い、とこの本を読んで気づくことが出来ます。これから人生を生きていく上でもこの心の持ち方を忘れずに生きていきたいと思います。高校時代にこの本に出会っていたら、間違いなく当時の自分を救っていただろう、と思える本です。ちなみに私が心に残っている部分は「ぼくの将来に対してとるべきもっとも現実的な態度とは、『どうかるのか面白そうだから、見てやろう』というもの」という部分です。
「空気」と「世間」鴻上尚史 同調圧力のトリセツ 鴻上尚史 中野信子この本は空気と世間の筆者である鴻上尚史氏と脳科学者の中野信子氏の対談をまとめた本になっている。空気と世間では、日本人の生きづらさの要因と対処法を、「世間」という観点から考えてまとめた本であったが、同調圧力のトリセツでは、日本人の生きづらさの要因や対処法を、二人の対談を通して探っていこうとする本である。対談の構成は、どちらかが話題を提供する。その話題について、二人の体験談や考えを伝えあい、中野信子氏が脳科学に基づいた説明(例えば、日本人はセロトニンの濃度調節を行うセロトニントランスポーターの数が少ないため不安に感じやすい等)をし、鴻上氏は聞き手に回り、質問をする、というように大体なっている。鴻上氏の説明の中には空気と世間の内容とつながっているものもあるので、先に空気と世間の方を読むことを薦める。私が印象に残っている場面は、好きなことをしていると、ネットで誹謗中傷を受けることについての話題である。演出家である鴻上氏は、コロナの自粛の影響で演劇ができない時期があった。その時期に、彼はインタビューで演劇業界に休業補償をお願いしたいと語ったところ、「好きなことをやっているのだから貧乏でいいだろう」と非難を受けたことがあるそうだ。それに対する鴻上氏の「好きなことを仕事にするためには、やらなければいけない好きではないことがかなりある」という言葉が特に印象に残った。対談では最終的に好きなことをやることは苦しいことでもあるという認識を持つべきであるという結論に至っている。私はユーチューバーやタレント等に対し「楽をしそうで羨ましい」と嫉妬したことがあった。しかし、この本を読んだ後に考えてみた結果、彼らにも苦しいことや辛いことが多くあり、それが見えてないだけであるということに気づいた。社会に対する生きづらさに悩んでいる人はぜひ読んでほしい。何か新しい気づきを得るかもしれない。
古屋晋一 ピアニストの脳を科学する伊東佳美 ピアニストのためのカラダの使い方バイブル アレクサンダー・テクニークを取り入れながらみなさんは「ピアニストのようにピアノを上手に弾いてみたい!」と思ったことはありますか。ピアノを習ったことがある人なら誰しもそう思ったことはあると思います。私自身も幼稚園の頃から中学校に上がるまで、ピアノ教室に通っていたのでそう思っていました。しかし、どんなに練習を重ねてもピアノ演奏が上達しない、練習を重ねるうちに手首を負傷してしまった、ということも時にはあります。それは身体の構造を知らないから起きることなのです。一見、関係なさそうに思える部分の無駄な動きや力みなどが、ピアノを楽に弾く邪魔をしていることも多いのです。「知らないうちに身についてしまった身体の使い方の無駄を除くことで脳と身体を再教育する」という考え方や技法を、「アレクサンダー・テクニーク」と言います。アレクサンダー・テクニークを踏まえて身体の正しい構造を知ることで、ピアノが弾きやすくなるかもしれません。例えば、ピアノを弾くときに窮屈だと感じることはありませんか?端から端まで120cm程もあるピアノの鍵盤を楽に弾くには、椅子の高さやピアノとの距離、ペダルを踏む際の脚の開き方に気を付ける必要があります。そこで、アレクサンダー・テクニークで「モンキー」と呼ばれる姿勢をとります。この姿勢は、股関節、膝、足首が曲がって、脚を少しガニ股に開き、腰を落として、上体を少し前傾させます。これはテニスや卓球などのスポーツ選手がとる姿勢でもあります。前後左右に体幹部を素早く動かすことができ、手が仕事をしやすい姿勢です。ピアノの座り方においても、これは適用されるということです。そうすることで身体全体が使いやすく、パフォーマンスを発揮しやすい機能的優位な姿勢となり、ピアノが弾きやすくなります。この本はピアノ初心者から上級者まで、ピアノを上達させたいと思っている人すべてにとてもおすすめの本です。ぜひ読んでみてください。
野矢茂樹 哲学の謎ジュリアン・バジーニ 100の思考実験僕が紹介するのは100の思考実験という本です。この本は思考実験としてとても有名な「胡蝶の夢」や「トロッコ問題」をもじって日常や現実にありえそうな小話にしたものが100個その問題の解説と共に載っている本です。さっきも書きましたがトロッコ問題にしても止まれないトロッコが迫ってきていて、1人または3人どちらを助けるかしか選べないという形だけでなく、日頃よく目にするニュースや事件などを新しい視点で考えることができるので、思考実験ってなんか難しそうと思わずにぜひ読んでもらいたいと思った。哲学や倫理という言葉だけだと難しいし、非日常的な学問であることを想像しやすいと僕は思うのだが、この本を読むと日々報道される世間の事柄や事件、事故などについて考えるということはすなわち哲学や倫理について考えているのだなということをこの本に出会ってそう感じた。この本を探すきっかけになった参考図書の過去の書評でも哲学には明確な答えはないし、簡単に答えが出せるものではないと書かれていたが、まさしくこの本で挙げられている100個の思考実験もそうで、一見倫理的やこの世界の常識で考えると簡単に答えが出せそうな問題も載っているのだが、解説を見てみると僕らが当たり前、前提にしている規則や考え方は果たして本当にそうなのだろうかという疑問を挙げてくれている。僕たちはそれを当然のこととして普段生活しているため、普通に暮らしていると全く考えもつかないような視点もあるので色々な考え方に触れる体験ができるのではないかと思う。参考図書には講義の名前にもあるが音楽や音、脳の働きについての本がたくさんあったが、僕がこれを参考図書にしようと思ったきっかけは、最初の講義で最終目標は教養を身につけることという目標だったことを考え、この本にしました。みなさんもぜひこの本を手に取ってみて、考えることを楽しいと思っていただけたら幸いです。
鴻上尚史 「空気」と「世間」鴻上尚史、佐藤直樹 同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのかこの本は日本特有のシステムである「世間」によって生み出された同調圧力について具体的な事例を用いて書かれた本である。授業で質問するときに本当は質問したいが誰も手を上げないから自分も上げない、コロナが大流行していた時にコロナに感染しただけで責められたり差別されたりする、LINEの既読無視ができないなど、他にもたくさんあるが、普段の生活の中でこのようなことに苦しめられた経験はないだろうか。経験したことがある人の中には自分の責任であると思い込んでいる人がいると思う。しかし、それはあなたの責任ではなく、他に原因がある。この本はその息苦しさを生み出す原因を知りたい人におすすめの一冊である。コロナ禍で浮き彫りになった「世間」について書かれているので、共感や納得できる部分が多いと思う。また、対談形式になっているため、読書が苦手な人もスラスラと読むことができる。読み終わって思ったのは、自分でも気づかないうちに「世間のルール」に従っているといういうこと。本の中では複数の事例が扱われており、共感できるものが多くあったが、中には「こんな場面でも日本人は世間や同調圧力の影響を受けているのか」と驚く内容もいくつかあった。「世間のルール」に従っていると気づいていない時点で、我々日本人は世間に依存しているのである。世間に依存してしまっている以上、世間がどのようなものなのか理解しておくべきであると思う。世間がどのようなもので、どのような影響を私たちに与えているのかを知るにはこの本がピッタリであるため、少しでも気になった人はぜひ手に取って読んでみてほしい。
佐藤雅彦、菅俊一『ヘンテコノミクス』真壁昭夫、『行動経済学入門ー基礎から応用までまるわかり』 私は行動経済学の本である『ヘンテコノミクス』を読み、日常生活の中には様々な私たちの基準を狂わせるようなトリックがあることに気づいた。この本を読んだ皆さんは、行動経済学は私たちの心理的な側面によるところが大きいように感じであろう。なので、私は心理的な側面から多くの記載がされていた『行動経済学入門』を皆さんに勧めたいと思う。今回は本書の中でも特に私が興味深いと感じた「神経経済学」の分野について紹介する。 「神経経済学」とは私たちの心理的な判断の非合理性や非効率性を追求していく中で、心の働きは突き詰めて考えると脳に通じているという発想から生まれた。伝統的な経済学理論の創始者であるアダム・スミスは、市場では神の見えざる手に導かれて、需要と供給が均衡すると考えた。そして伝統的な経済学理論はこの均衡点を明らかにすべく分析を行ってきた。これに対して神経経済学は、均衡の以前にある、私たちの脳が何に基づいて意思決定をしているのか、を根源的に解明しようとする考え方である。私たちの意思決定には、脳内物質であるドーパミンが影響を与えていると言われている。投資家たちがこのドーパミンに影響され、より大きなリターンを得ようとするところからバブルが発生してしまう。バブル崩壊後やリーマン・ショックの際に関して、ドーパミンに影響され、多くの資産を失った投資家は少なくない。問題はこうしたドーパミンなどの分泌は、投資家自身が理解できない変化であることだ。現在ではこの問題を解明すべく、ゲーム理論との融合が図られるなど、様々な試みが進んでいる。 本書からは、行動経済学について心理面よりさらに踏み込んだ脳の分野からの説明がされていて面白いと思った。さらに詳しく説明されている部分もあったので、気になった方にはぜひこの本を手に取って読んでもらいたい。
無言論の教室 野矢茂樹無限とはなんだろう 玉野研一私はこの本を主に無限についてもっと数学的に理解したい人、文系だけど無限について詳しく学習してみたいという人におすすめします。私は参考図書「無言論の教室」を読んでいて、無限について何となくは理解したけど、参考図書での内容は抽象的なであり、もう少しだけ数学的に理解するのに挑戦したいなと感じました。その点この本は高校で無限について学習していない私でも多少難解な数式が登場しましたが無限の数学的な内容にある程度ついていくことができました。その理由として主に2つ挙げようと思います。この本のいいところとしては、まず要所に図が設けられているところにあります。主に自分でイメージすることが困難な図形についても立体的な図があることですんなりと理解できるようになっています。次にこの本では無限について理解するために様々な数学の定理が出てくるのですが、数学的な証明だけでなく、具体例を用いながら定理を説明してくれるのでイメージしながら体系的に理解することが出来ます。そうすることでなぜそのような定理が生まれたのか、私たちの周りでどのように活用されているのかがを学習することができ、数学を身近に感じることが出来ました。また、私がこの本を通して最も興味深いと感じたのは無限の個数同士の足し算についてです。私は最初無限の足し算なんてどんな複雑な概念を考える必要があるんだろうかと思っていました。しかしこの際考えるのは、個数の足し算とはどんなことであったかであり、どれだけ内容が複雑になっても結局基礎が根底にあるということを思い知りました。最初はよくわからなかった無限も一つずつ基礎から積み上げていくことで理解することが出来ました。こう考えると自分でも数学を理解できるような気がしました。理系の人は勿論、文系の人も数学を恐れず読んでみてください。
『音律と音階の科学』 小方厚『楽器の科学 美しい音色を生み出す「構造」と「しくみ」 』フランソワ・デュボワ著『楽器の科学 美しい音色を生み出す「構造」と「しくみ」 』は、音楽に興味を持つ受講者にとって、楽器の奥深い世界を探る絶好の一冊である。音楽を演奏したり聴いたりする際、私たちはその音色や旋律に心を奪われるが、その背後には精巧に設計された楽器の構造と科学が存在する。本書は、楽器がどのようにして音を生み出し、その音色をどのように形成しているのかを、分かりやすく解説している。本書では、弦楽器、管楽器、打楽器といったさまざまな種類の楽器が取り上げられ、それぞれの楽器がどのようにして音を生成し、音色を作り出しているのか、そのメカニズムが明らかにされている。たとえば、バイオリンの弦が振動して音が生じるだけでなく、その振動がどのようにして共鳴箱に伝わり、音が増幅されるのか、具体的な構造や物理的原理が詳細に解説されている。また、金管楽器では、唇の振動がどのように管内の空気を振動させ、音波を生み出すのか、その過程が理論的に説明されている。特に、音楽理論と物理学の接点に興味を持つ受講者にとっては、本書は貴重な知識を提供してくれるだろう。楽器は単なる音を出す道具ではなく、音響学や材料科学といった科学技術の結晶であることが理解できる。楽器の構造を理解することで、演奏技術や音色の微妙な違いに対する理解も深まるはずだ。また、本書は初心者にも配慮されており、難解な専門用語や理論が丁寧に解説されているため、物理や音響学の予備知識がなくても十分に読み進めることができる。『楽器の科学 美しい音色を生み出す「構造」と「しくみ」』を通じて、楽器の魅力やその背後にある科学を学ぶことで、音楽に対する理解と愛着がさらに深まることだろう。この本を手に取ることで、音楽の世界を新たな視点から探求し、自分の演奏や鑑賞に新たな発見をもたらす機会を得てほしい。
哲学の謎 野矢茂樹プチ哲学 佐藤雅彦私が紹介する図書『プチ哲学』は、31個の哲学が、短いストーリーやわかりやすく可愛いイラストで書かれています。1つ1つの哲学に解説や著者の考えが書かれていて読みやすいです。著者が勝手に考えた法則や、ユーモアのある考えが書かれていて面白いです。私がこの図書をオススメする点としては、大きく2つあります。1つ目は、1つ1つの哲学が簡潔でわかりやすく書かれており、飽きることなく最後まで読み切ることができる点です。本を読むのが好きじゃない人も好きな人もどちらのタイプの人も楽しめるかつ、教養を深めることができると思います。2つ目は、この本の裏表紙に書かれているように『哲学』というものは小難しいものと感じるかもしれないけどこの本を読むことによってそうは思わなくなり、『考えることって、たのしいかも』と思える点です。私はこの本を読み終えたあと、もっと面白い哲学はないのかなと調べたくらいに哲学に興味が湧きました。そしてこの本は、意外と身近な哲学が多く、共感できるものや、感じたことがあるようなものも多くあり、哲学は身近なものなのだと知ることもできました。私が面白いと思ったものを1つ紹介します。世の中には環境の変化により価値を失うものがあり、例えばフロリダで一年中美味しいフローズンドリンクも、シベリアではその真の美味しさは発揮されない。しかし稀に環境の変化に全く影響されない価値もある。極端な例だとフロリダの正三角形とシベリアの正三角形は同じ正三角形であり、価値の変化はない。『郷に入れば郷に従え』という言葉は、そのものの価値を変え得る。だから自分の中に不変なものも持っていることはいいことなのだろうというお話です。どんな環境であれ好きな人のことは好きであるように不変なものを持っていようと思えました。こういった新しい考えや観点、教養を得ることができるこの作品を、私は受講生にお勧めします。
コンピュータ、どうやってつくったんですか 川添愛イラストで学ぶ世界を変えたコンピュータの歴史 レイチェル・イグノトフスキー この本を読んで、コンピュータのとそれに関係するもの(ラズベリーパイやWWWなど)について歴史を辿りながら見るとともに、コンピュータの開発が進んでいく時代背景を知ることができました。この本の冒頭はコンピュータの内側の解説から始まります。各パーツの説明から、ブール代数、バイナリなどのソフト面に関する説明もあります。その後、紀元前2万5000年前の古代文明からの人類の計算するためのツールの変遷を見ていきます。蒸気機関とコンピュータ、第二次世界大戦とコンピュータ、宇宙開発とコンピュータなどのコンピュータの高性能化をその時代背景と共に学ぶことができます。最後にはコンピュータの将来、課題についてです。自動運転やAIシンギュラリティ、アルゴリズムとAIの偏見などコンピュータの進化に伴って起こるであろうことがいろいろ書かれています。この本はただ、コンピュータについて知らないことを学ぶだけでなく、自分の知っている歴史と合わせて学ぶことができるのでオススメです。
ピアニストの脳を科学する 古屋晋一音楽する脳 – 音楽は脳の〈聖餐〉である 大谷直樹大谷直樹の『音楽する脳 – 音楽は〈神経の聖餐〉である』は、音楽と脳科学の密接な関係を解明する一冊である。音楽がどのように脳に影響を与え、脳が音楽をどのように処理するかを詳述している。著者は神経科学の視点から、音楽が脳内でどのように知覚され、感情を引き起こし、記憶を形成するかを探求している。音楽を聴くこと、演奏すること、創作することが脳の各部分にどのように影響を与えるのか、また音楽が人間の精神状態や健康にどのように寄与するのかを、多くの実験データやケーススタディを交えて説明している。特に注目すべきは、音楽が脳の可塑性(プラスティシティ)に与える影響についての章である。大谷は、音楽訓練が脳の構造と機能にどのように変化をもたらすかを明らかにし、音楽教育の重要性を科学的に裏付けている。また、音楽療法の実践例を紹介し、音楽が認知症やうつ病などの治療にどのように役立つかを具体的に示している。
哲学の謎 野矢茂樹プチ哲学 佐藤雅彦私が紹介する図書は『プチ哲学』です。この図書は、全部で 31個の哲学が短いストーリーやかわいく、分かりやすいイラストなどで紹介されています。一つ一つの哲学に解説や著者の考えなどが書かれていて、とても分かりやすいです。作者が勝手に名付けた法則だったり、ユーモアのある考えが書かれていて面白いです。私がこの図書をオススメする点は2つあります。1つ目は、一つ一つが簡潔で分かりやすいため飽きず、あっという間に一冊読み終えてしまえるという点です。本を読むのがあまり好きではなかったりする人も本が好きな人もどちらのタイプの人でも楽しみながら教養を深めて読み終えることができる本です。2つ目はこの本の裏表紙に書かれているように、『哲学』というものは小難しいものと感じるかもしれないけどこの本を読むことによってそうは思わなくなり、『考えることって、たのしいかも』と思える点です。私は実際にこの本を読み終えて、他に面白い哲学はあるのか気になり、調べるくらいに哲学に興味が湧きました。この本で紹介されている哲学のほとんどは身近なものをテーマとしたものであり、読んでいながら共感できたりします。私はこの本を読んで哲学というものが意外と身近なものであり、自分たちが知らぬうちに哲学という壁に当たっていることを知りました。こういった自分の知らないものやことを知ることができるかつ、教養を深めることができ、視点を増やすことができるこの図書を、私は『音と音楽をめぐる科学と教養』受講者にオススメします。
哲学の謎、野矢茂樹入門!論理学 野矢茂樹私が紹介するのは野矢茂樹著の「入門!論理学」だ。これは「哲学の謎」と同じ著者によって執筆された本で論理とは、論理的とはということについて示された本だ。この本は大学生にとって必読とも言うべき1冊だろう。その理由をこれから説明していく。 まず、論理的とは何かについてこの本では説明されている。例として経験などから来る推測と、思考の元導き出される推論や、結論を導き出す過程である導出などを具体的な事例を元に説明している。大学生というのは得てして論理的な話と非論理的な話をまとめてレポートにしてしまうものである。これは私自身が過去に作成したレポートを思い返してそう考えている。そのため、自身の思考を論理的なものに分けることが出来るこの本はレポートや論文を書く上で非常に重要な思考力を身につけさせてくれるだろう。 また、この本の優れているところは練習問題としていくつかの短文が章ごとに用意されているところにある。これによって、学んだことをその場で復習することが可能になり知識を直ぐに自分のものにすることができるだろう。また、本書では1度立ち止まって考えることを重要視しており、そのくせが付くことはこれからの社会生活で優位に立つ力になるだろう。実際、私もここで立ち止まって自身の書いた文章を読み直してみた。すると、前の段落で大学生全体の話を自身の経験のみを根拠に話す、推測を行っており非論理的な文章展開になっていた。このように、自身のレポート作成能力を上げ、物事を分別をつけて見ることが出来る本書を是非読んで欲しい。
斉藤洋 ルドルフとイッパイアッテナ 三木清 人生論ノート私がこの本を見つけたのは、教養というカテゴリーに分類されていた本だからである。教養についての参考図書を読んだ私は、更に教養とは何かを知りたかったため本を手に取ったり、人づてに聞いたりしてこの本を見つけた。本の内容は、人生における誰もが経験することを哲学や倫理的な面から見ていくものである。章は細かく23個に分かれているものの、133ページとかなり短めである。私自身、かなり本を読むことが苦手だ。それでも、死や幸福等誰もが考えた時がある題材だけでなく、秩序や希望などを主題とした多種多様な話を読むことが出来るため飽き性でもスムーズに読み進めることが出来るだろう。1章完結型となっているので気になるトピックからも読めるのは、本好きな人だけでなく嫌いな人でも楽しめるのではないだろうか。たくさんの魅力的な章がある中で、今回私は、偽善について話そうと思う。この紹介文を読んでいるあなたは偽善について何を考えているだろうか?有名人による被災地への募金を動画にすること、または友人の代わりに出席の返事をすることのような身近なものであろうか。一般的に社会で偽善と呼ばれる行為にあなたはマイナスな面を持っているということでは無いだろうか。では、逆の言葉である偽悪という言葉にあなたはどのような事を考えるのだろう、偽善よりかは偽悪の方が見栄えがいいと考えるだろうか、そちらの方がまだいいことと言えるのだろうか。しかし、作者は偽悪こそおぼつかない人間の虚栄だと言っている。そして、偽悪家は深い人間ではないと断言している。みんなが忌み嫌う偽善。それは虚栄であり虚栄の実体は虚無である、そして虚無は人間の存在そのものである。つまり、偽善は人間にとって一般的な性質で皆が有しているもの。あなたが抱き続ける偽善という言葉、行動への価値観はこの本を読み、変化しまた、作者の考える偽善が正しいのかどうか、考え、再構築するようになる。
佐藤雅彦菅俊一 高橋秀明/著 行動経済学まんが ヘンテコノミクス畑村洋太郎/著 失敗学のすすめ「失敗は成功のもと」「失敗は成功の母」、大人達から散々言われてきたこの言葉。だが、この本ではそんな聞き慣れた言葉の重要性を、改めて学ばせてくれる。
この本では機械工学を専門にし、東京大学と工学院大学で教授をされている畑村洋太郎さんによって書かれたもの。まず、タイトルの「失敗学」とは、失敗体験に積極的に学ぶこと。すなわち、マイナスイメージを纏う失敗を忌み嫌わず向き合うことで、プラスに展示させて活用するというものである。さらに、この本では失敗を、「人間が関わって行うひとつの行為が始めに定めた目的を達成できないこと」と定義した上で、失敗を「よい失敗」と「悪い失敗」の2つに分類している。「よい失敗」とは、起こってしまった失敗から人々が学び、その経験を活かすことで未知なる知識の発掘の成功につながる失敗のこと。また「良い失敗」には、個人が未知に遭遇することも含まれる。個人にとって未知の遭遇には、無知やミスが背景にある、しかしこの本ではそれが個人の成長過程で必ず通過しなければならない失敗であるならば、「よい失敗」と定義している。一方、「悪い失敗」とは、それ以外全ての失敗である。何も学ぶことができず、単なる不注意やご判断などから繰り返される失敗である。このように失敗を定義した上で、畑村洋太郎さん自身の失敗体験、過去に失敗によって起こった事件などの体具的な話をもとに、失敗学の取り入れ方・考え方を細かく説明している。

人間誰しもミスはある。大事なのは、そこからどう成長するか。向上心を持って生活している人の心に深く刺さるはず。成長したいけど、何をすればいいのかという人にもおすすめ。少し硬い文章ではあるが、隙間時間に簡単に読める一冊なので、ぜひいろんな人に読んでほしい。
野矢秀樹、無限論の教室YEO・エイドリアン、πとeの話無限について考えたことはあるだろうか。無限の可能性や数学においての無限など様々存在する。この本は特に数学においての無限であり、特に無限級数について論ずる。よって、数学をある程度学んでいる人には、おすすめできる。しかし、数学の最低限の知識しかない人でもこの本は数学の世界を広げてくれるはずだ。中学生でπ、高校数学の数Ⅲでeを学習した。しかし、このときπは3.14159265…のように、eは2.71828182…のように無限に数字が羅列するものとして学習し、数値をある程度暗記されられたが、なぜこのようなものを定義するのかと、高校の頃、数学の先生に聞いてみたところ、「そういうものだから」という風にしか教えてくれなかった。数学的には、πやeはどちらも無限級数という無限に続く数字の和や差を考えることにより、その和や差がどの値に近づいていくのかを表したものである。この本では、πやeを数学の歴史を振り返って考えることにより、数学が苦手な人にもなぜこのようなものが生まれたのかをわかりやすく解説しており、数学への嫌悪感が少しは和らぐはずである。今までの数学は定理や公式を覚えては使うの繰り返しであったが、数学の歴史を知ることにより、過去の数学者たちの考えを共有できることになるのではないだろうか。
柳田益造(編)  楽器の科学若宮 眞一郎 図解雑学 CDでわかる 音楽の化学私たちの身の回りには多くの音楽が溢れており、意図して音楽を聞こうとしなくても店の中のBGMだったりラジオを聴いていても、テレビや映画、SNSを見ていても音楽が流れてくる。この事から人間は音楽とともに発展してきて欠かせない存在となっている。そこで疑問に思うのがまず一体音とはどういうものであるか?CDや携帯から音楽が再生できるのはなぜか?などこの本は音楽を科学的に考察するための基礎として音響学や音響心理学や多くの図解を織り交ぜながら解説している。
本書は5章で構成されており第1章では音とは何かという事から純音や複合音の事など講義の中で紹介された基本的なものから少し複雑な脳の話も踏まえて解説されている。第2章では音楽の3要素から音色についてやメロディなど音楽の科学について触れられており、第3章では楽器の分類をはじめとしそれがどのように共鳴するかなど楽器について解説されている。第4章ではコンサート・ホールの科学について触れらておりホールがいかに演奏に重要であるか、その形状や響き方について紹介されており、第5章では技術の発展によりラジオやレコード、スマホなどから音楽を聴く事が可能になったがその音の発生の仕組みについて、音楽の楽しみ方について挙げられている。
読んでみた感想として授業で取り上げられてい基本的な内容から授業内で触れたがそこから発展的な内容まで図解を使って分かりやすく説明されている。そのためこの講義に興味を持ちさらにその内容について知りたいと思う人におすすめしたい本になっている。CDや図解が使われているため文系や理系どの人でも読みやすく分かりやすい本になっているので是非手に取って読んでみて欲しい1冊である。
野矢茂樹 『哲学の謎』永井玲衣 『水中の哲学者たち』 この本は哲学研究として学校・企業・自治体などで哲学対話を幅広く行っている著者が自身が行った哲学対話で対話の内容や参加者の考え方の紹介、そこから自身が学んだこと、考えたことなどについて、優しく、時に面白く読み手に語っている本である。 人とコミュニケーションをとることが苦手という人もいるであろう。この本の著者もかつては人との対話が怖いと思っていたが、現在では対話を重視し、さらに対話の機会を多くの人に提供する立場になっている。 この「哲学対話」では日常生活の常識や当たり前となっていることの中から作られた問題について議論を交わす。問いに対する答えを当てることではなく、自分なりの考えを他者に伝え、それに対する相手の意見を聞き対話を重ねていく。自分の意見を伝える際、うまく相手に伝えようというのは考えず、今自分が思っていることを上手な言葉選びや順序立てができなくても良いので伝えるようにということが前提とされているので、参加者は緊張しすぎずに対話をすることができる。 哲学対話を通して互いに意見を交わしあうことで、自分の硬直していた考えが相手によって壊される。しかし、ただ自分の意見が崩されたのではなく、そこに他者の考えや言葉を組み込むことができるのである。「哲学」に興味がない、難しい、考えても意味がないと思う人もそれなりにいると考える。しかし、哲学を学ぶことや対話によって、新たな知識を得ることだけでなく新たなものの見方を発見することができるようになり、自分の今後の人生がさらに充実した楽しいものになるのではないかと感じさせてくれる本であると考える。哲学を知らない人でもわかりやすく楽しく読める本であるのはもちろん、関連のある哲学の理論や哲学者の名前、説明が加えられている部分もあるため哲学に詳しい人や興味がある人にもおすすめできる本である。
下條信輔 サブリミナル・マインド下條信輔 サブリミナル・インパクト この本では、本人も与り知らない無意識の認知メカニズムの存在が、ヒトの本性を規定するとともに、現代社会に特有の諸現象にも深くかげを落としているということを本全体を通して、明らかにしようとしており、はじめに「からだが裏切る」という言葉(身体的な情動が理性的判断を裏切ること)について触れ、次に習うより慣れろという言葉から日常の行動のかなりの部分が無意識の仕組みに担われていること、また運動技能もその延長線上で理解できることを示しています。そして、記憶や知覚をはじめとする認知の働きも無意識が関与している(同級生の顔をみたら思い出すなどの潜在記憶や知識があったとしても知覚が作用する)というふうに示されていました。
鴻上尚史 「空気」と「世間」 渋谷昌三 眠れなくなるほど面白い心理学の話他人とのコミュニケーションを取る中で、どうしてあの人はあんな行動をしたの?あの人は今どんな気持ちなの?と考えたことはないだろうか。多くの人が人と付き合っていくうえで1度でも思ったことがあるのではないだろうか。それは一人一人の育てられ方・過去の出来事・環境によって個性が違うのだから、そう思うことは珍しいことではない。しかしそのような社会的評価を気にして生きにくさを感じている人、または他人からどう思われているのか知りたいと思う人には読んでもらいたい本である。この本では社会的評価の生きづらさから脱却するための方法、他人の仕草・行動から気持ちを読み取るための方法が図解を含め、わかりやすく簡潔に説明されているため、この本を読むことで自分と向き合い、少しでも生きにくさを軽減することができるはずだ。実は私自身も社会的評価を気にして生きてきたほうであった。そんな私がこの本を読んでいて印象に残った言葉がある。それは「いつでも同じ仮面をつける必要はない」という言葉である。人は相手に良い印象・良い評価を与えるためにも、自分が所属している社会の中で与えられた役割を知らず知らずのうちに演じている。だからこそ仕事や学校での対人関係・コミュニケーションに疲れたと感じた経験がある人も多いではないだろうか。しかし、いつも良い友人・良い上司・良い母親と演じる必要はない。それは誰しもが完璧なわけではなく、完璧をも求めすぎても自分を追い込むだけであるからだ。そもそも良い母親・良い友人・良い上司など誰が決めることでもないということを忘れてはいけない。そのためには仮面を被るだけでなくある程度、自己開示して他人と付き合っていくことが求められるのだ。これは大学生になり今までよりも人との付き合いが増えていく私たちにとってはとても参考になる本であるはずだ。ぜひ心理学に無知な人にも読んでもらいたい1冊である。
小方厚  音律と音階の科学中島さち子   ヒット曲のすごい秘密「あのヒット曲はなぜヒットしたのか?」あなたは説明できるだろうか。おそらく「人気の人たちの曲だから」や「あのドラマ、アニメの曲だから」といった、曲そのものではない理由をあげるだろう。もちろん間違ってはいないと思う。しかし、曲そのものが人を魅了する秘密を知りたいと思わないだろうか。本書はそんなヒット曲の特徴について解説されている。著者はジャズピアニストであり数学者である中島さち子である。ノンフィクションライターの今井順子との対話形式で書かれており、説明の際にはYOASOBIなど有名なアーティストの曲が使われているため、比較的とっつきやすい内容となっている。本書は5つの章から構成されており、1から3章はメロディ、4章はリズム、5章が音色について解説されている。まず、メロディに関して、1章では曲の雰囲気を決めるスケールについて、さまざなジャンルの曲を用いて解説される。2、3章ではコード進行がどうして曲のイメージに関わるのかを解説し、そこから曲の中の対称性について話が展開されていく。次にリズムや拍子に関して、4章では世界の国々で好まれる拍子や曲のリズムの違和感について解明していく。最後に音色に関して、5章では倍音をフーリエ解析や対数関数など数学的観点から解説している。本書は著者が数学者であるため、数学を用いた解説が多くされている。数学を用いて説明をするときには楽譜や鍵盤の図表があり、分かりやすいため、数学が苦手な人や音楽のことを全然知らない人が読む際でも心配する必要はないだろう。また、本書の内容は「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義で学んだことが多いと感じた。そのため、本書は講義の復習の役に立つと思う。講義受講生には一度は本社を読んでもらいたい。
野矢茂樹 『哲学の謎』石村多門 『無限その哲学と数学』『無限その哲学と数学』を手にすることで、読者は無限の奥深さを体感し、新たな知の世界への扉を開くことができるでしょう。宇宙の果てしない広がり、時間の無尽蔵な流れ、そして人間の思考の無限の可能性など、無限は私たちの日常に深く根ざし、同時に哲学や数学といった学問の根源的な問いを投げかけています。本書『無限その哲学と数学』は、この魅力的なテーマを、哲学と数学という異なる視点から多角的に探求する一冊です。哲学では、古代ギリシャから現代まで、哲学者たちは「無限は存在するのか?」「認識できるのか?」「善悪とどう結びつくのか?」といった問いを立て、それぞれの答えを模索してきました。アリストテレスのポテンシャル無限とアクチュアル無限、ヘーゲルやニーチェの無限に関する思想など、哲学史における主要な議論が丁寧に解説されます。本書の大きな特徴は、哲学と数学という一見異なる分野を有機的に結びつけようとする点にあります。無限という共通のテーマを通じて両者の間にある深い繋がりを明らかにし、読者に新たな視点を提供します。例えば、カントールの集合論は、哲学における無限に関する議論に新たな展開をもたらしました。また、ゲーデルの不完全性定理は、数学の基礎に関する哲学的な問いを投げかけました。本書は、歴史的な議論にとどまらず、現代における無限に関する研究の最前線も紹介しています。宇宙論における無限宇宙の概念、量子力学における無限小の役割、そして人工知能における無限の可能性など、現代の科学が直面している無限に関する問題が取り上げられます。本書は、哲学や数学の専門知識を必要としない、一般読者向けの入門書です。豊富な図版や具体的な例を用いて、抽象的な概念を分かりやすく解説しています。無限という壮大なテーマに興味がある方、哲学や数学をもっと深く学びたい方、そして単に思考の幅を広げたい方、すべての方に本書をおすすめします。
斉藤洋「ルドルフとイッパイアッテナ」ブリッタ・テッケントラップ「かべのむこうになにがある?」この本は、この講義の受講生全員にぜひ読んでほしいと思います。まずあらすじをお話します。大きな赤い壁で囲われた場所に住むネズミは、壁の向こうの世界が知りたくて仕方ありませんでした。しかし周りの他の動物たちは、なぜ壁があるのか、いつからあるのか、壁の向こうには何があるのか、というネズミの問いに対し、壁の向こうは恐ろしい、壁はずっとそこにあって自分たちを守ってくれているのだ、と言うばかり。そんなある日、一羽の鳥が飛んできて、壁の向こうの世界からやってきたと言います。鳥に頼んで連れて行ってもらった壁の向こうでネズミが見たのは何とも色鮮やかな世界だったのです。本の中で、鳥がネズミに言った「ほんとうのものをみるゆうきがあればかべはぜんぶきえる。ぜんぶきえたあとにはきっとすばらしいせかいがあるはずだよ。」という言葉があります。とても考えさせられる言葉です。知らなくていいと思うこと、決めつけることで見ることができなくなるものや感じることができなくなることがたくさんあり、それはとてももったいないこと。知ろうとして一歩を踏み出すには勇気がいること、一人では一歩が踏み出せなかったとしても周りの人に力を借りれば辿り着くことができる場所があるかもしれないこと。この言葉は大学生の本業である学ぶという行為にも、他の様々な事柄にも重ねて解釈することができると思います。「音と音楽をめぐる科学と教養」の受講を通し、多くの人が初めて知ることの理解に苦しんだり、他の受講生の鋭い疑問に自分の理解不足を感じたりしたのではないかと思います。しかし、難しさを感じても理解しようとする意志を持ち、他の受講生の考えを知って納得したり反論したりすることで受講前よりも音楽について深い理解を得られた人もたくさんいると思います。この講義の自分自身の学びの過程を振り返りながら読んでもらいたいです。
千住博 芸術とは何かー千住博が答える147の質問岡本太郎 自分の中に毒を持てこの本は、岡本太郎自身の人生哲学と芸術感を語るエッセイ集のようなものです。岡本太郎は、日本の有名な芸術家で知られ、「芸術は爆発だ!」という名言を残しました。その言葉通り、エネルギッシュで独創的な作品を数多く残しました。この本を読んで思ったことは、「自己を貫く勇気」を教えてくれる本だということです。この本で岡本太郎は「毒」を自分の中に持つことの大切さを書いています。彼のいう「毒」とは、他人の評価や社会の常識にとらわれず、自分自身の本質を見つめ、それを表現し続けるエネルギー源のことです。彼は、自分の中にある毒を恐れず、それを活かして自分らしく生きることこそが真の芸術であり、人生の醍醐味であると考えています。また、この本で感じたことは、岡本太郎は挑戦し続け、変化を求める人であるということです。彼は「マンネリズムを避け、常に新しい自分を発見する」ということに重きを置いています。この姿勢は、彼の芸術活動だけでなく、日常生活や仕事においても実行できるものであり、私たち読者に新しい視点や価値観を与えてくれると思います。さらに岡本太郎は、自分をさらけ出す勇気についても語っています。本書で彼は「人間は本来、一人ひとりが独自の存在であり、その独自性を隠すことなく表現するべきだ」と語っています。これを主張したとき、周囲から批判や反発を受けたと言います。しかし岡本はこれらを恐れることなく、自分の信じる道を進むことの大切さを強調しています。もし、自分らしさがわからない受講生や失いがちな受講生がいたら、読んでほしいと思います。また、心に残った部分として、「孤独」の重要性を語っていることです。彼は、孤独を恐れることなく、それを自分の成長や創造の源にするべきだと言っています。孤独が怖い、と思っている受講生がいたら読んでみることをお勧めします。孤独を力に変えるヒントを発見できるかもしれません。
哲学の謎 野矢茂樹生きるための哲学 白取春彦「生きるための哲学」。名前のとおり、生きるために哲学をどう使うかを教えてくれる本である。ソクラテスやニーチェ或いは仏陀など、古今東西の哲学者や思想家たちの言葉とともに話が展開され、世の中の人間が陥りがちな思考に対して、アンサーを提示してくれる。哲学といえば抽象的で難しいといったイメージが湧きがちであるが、非常にわかりやすい言葉で書かれており、哲学者なんて全く知らないという人や、高校までの知識しか持たない人であっても何の問題もなく読むことができる。例えば、若いうちは特に自分の人生をまるで点数をつけるように評価し、他者と比較して自分は勝者でありたい、平均以下の暮らしをしたくないと考えてしまう。など、現代を生きるほとんどの人が考えたことがある、共感できるような話を取り上げて説明してくれる。話のテンポがよく、余韻はあまり残さない。また、一つの章も数ページで終わるためさらさらと読める。物事を深く考えれば考えるほど思考は狭くなりがちで、一つの答えを目指してしまう。この本はそこに確定的とは言えないが「なるほどなあ」と思えるような考えを示してくれ、思考の幅を広げることができる。「たった一つの正答などない」本文中に大きな文字で書かれていた言葉であるが、幸せとは何か、人生とは何かなど観念的なことについていくら考えても答えは一つではない、ワンサイズの答えなど存在しない。この本を読んで、自分が狭い思考に陥ってしまい、考えても仕方ないことを延々と考えていたことに気づいた。特に自分の人生を悲観的に見てしまう人や、つい周囲と比較しながら生きてしまう人、常に気を張って生きている人にはぜひ読んでみてほしいと思う。
千住博「芸術とは何か 千住博が答える147の質問」岡本太郎「岡本太郎の眼」岡本太郎と聞いて、どのようなイメージが沸き上がるだろうか。代表作品である太陽の塔や「芸術は爆発だ!」という言葉から、ユーモラスで自由奔放、一言でいうと「変な人」というイメージを持っている人が多いのではないだろうか。本書は、そのようなイメージを持つ芸術家・岡本太郎の短編エッセイで構成されている。エッセイのテーマは伝統、青春、沖縄、縄文、女性、スキー、子供の絵などジャンルが多彩で芸術とは関係ないように思えるものばかりだ。しかし、これらのすべては一つの共通の問題意識の上に成り立っている。それは、「どう生きるか」というものである。文章中に「あなたは絵描きでありながら文章も書く。どちらが本職なのか。」という問いかけに対して、「『人間』だ」と答えるくだりが出てくる。彼は生涯にわたって数多くの作品を制作し、その表現ジャンルも幅広いものであった。しかしそこには一貫した芸術思想が流れている。芸術とは一部の金持ちやマニアのものではなく、芸術は民衆のものであり、日々の暮らしの中に生きるものである。芸術なんて何でもないのだ。これが岡本太郎の芸術観である。芸術こそ生活、つまり芸術とは生活そのものであって、彼にとっての芸術とは「どう生きるか」ということなのである。本書で語られているのは芸術論ではなくいわゆる社会論や人生論であるが、彼のこのような芸術観に沿うとエッセイのテーマのようなあらゆる問題に発言し、広い視野から現代日本人の生き方について述べるということ自体も芸術と呼べるのである。美術の知識がほとんどない私が実際に芸術とは何か、と考えようとすると、この絵画は作者のこんな感情が込められているだとかこんな社会的背景が潜んでいるだとか難しい方向に捉えがちだが、本書を通して芸術とは自分自身であると気づかされた。自由に生きてみよう、そんな風に思える一冊だ。
楽器の科学 図解でわかる楽器の仕組みと音の出し方 柳田益造一冊でわかる楽器ガイド 廣兼正明 オーケストラや吹奏楽の音楽は、様々なBGMに使われていることが多く、私たちもたくさん耳に触れる機会がある。しかし、それらで使用されている楽器はどうだろうか。ピアノやリコーダーなど学校で触れたことのある親しみのある楽器は知っている人が大多数である一方、例えばオーケストラで使われているファゴットという楽器をよく知る人は少ないであろう。 この「一冊でわかる 楽器ガイド」は、ピアノといった比較的ポピュラーな楽器からそのような比較的マイナーの楽器まで、構造や詳細な特徴、楽器の歴史を『ビジュアルで楽しむ』ことができる一冊である。本書は楽器の写真が多く用いられていて、楽器は奥深く、文字だけの説明では初学者にとって理解しづらいので実際に楽器をしっかりと見たことのない人でも容易にイメージできるところがとても良い。 先ほど挙げたファゴットは本書によると、十本の指すべてを駆使するキーシステムをしていて、ベートーヴェンがその音色を「天からの声」と表現したほど不可思議で魅力的な音色を奏でる楽器である。また、ファゴットは3オクターヴ以上の音域をカバーするため、管の長さが全長260㎝ある。これらは本書のファゴットの説明のごく一部に過ぎない。このように、一つの楽器に対して様々な知識が盛り込まれており、本書を読めばちょっとした楽器マスターとなれる。 しかし、この本を読むだけでは完全な楽器マスターにはなれない。なぜかというと実際にその楽器の音を聞くことができないからである。いくら「このような音色でとても美しく…」と本に書かれてあっても、初めて楽器のことについて触れる人にとっては音のイメージが全くつかないだろう。そこで、この本を読むのと並行してYoutubeでその楽器の音を実際に聞くことをお勧めする。 この本を読むことで様々な楽器の知識を深められること間違いなし。ぜひ書店で手に取ってみてほしい。
佐野洋子 加藤正弘著 脳が言葉を取り戻すとき西村義樹 野矢茂樹著 言語学の教室普段皆さんは意識して日本語をしゃべっているでしょうか。私はほぼ無意識でしゃべっています。おそらく皆さんもそういった人が多いと思います。しかしふとした時にこの日本語の使い方あってるかなと疑問に思うことがしばしばあると思います。その疑問に答えてくれるのが今回紹介するこの本です。例えばこの本の冒頭では「雨に降られた」という一文から考察そして解説が展開されていきます。雨に降られたという文は日本語として正しいが、財布に落ちられたという日本語は間違っているわけです。これは普段無意識で私たちは判断してしゃべれていますが、いざなぜだめなのか説明しろと言われて答えられるでしょうか。この内容は認知言語学という分野の話だそうです。この本ではこういったところにスポットライトを当てて話が進んでいきます。この本はこういった日本語の複雑さをもっと知りたいという人、さらに難しい本を読むのが苦手な人におすすめです。本書は対談形式で話が進んでいきます。作者の西村義樹さんの方が先生で、もう一人のほうの野矢茂樹さんの方が生徒役です。対談形式なので言語学について理論的にひたすら書いてあるのではなく、西村さんが身近な疑問を野矢さんに問題提起してそれを一緒に考察して西村さんが解説してくれるという感じで進んでいきます。身近な例を挙げてくれるし具体例も非常にわかりやすいので非常にすらすら読めるし、対談形式なので本を読んでいるという感覚にあまりならないです。私はこの本を読んで役に立つ知識が身についたとは思わないが、非常に興味深い内容だったし、日本語の奥深さを改めて知ることができた。皆さんもぜひ一度読んでみてほしい。
ダーウィン『種の起源』を漫画で読む野本健二(著)「おもしろサイエンス 腸内フローラの科学」 「自然界における微生物が私たちの腸内に独特な微生物の生態系を構築して、私たちと共生している」と聞いて皆はどう思うだろうか。「そんなのは当たり前である」と思った人や、「そうだったの!?」「確かにそうかもしれない」と思った人もいるだろう。 私は、一見ぎょっとしてしまったが、高校の生物基礎の授業でなんとなく学んでいたことを思い出した。共生とは、「生存環境を共有する異種生物間の持続的な密接な関係」であり、お互いにあるいは一方的に利益を得ながら共存する関係であると習ったはずである。私たちは微生物たちと共生している腸内環境を整えることで、健康を維持、増進することができるのである。このことは、今日では「腸活」という言葉が浸透しているのではないだろうか。 この本では、多種多様な微生物群が腸内に住み分けしていることを植物相(フローラ)に見立てた「腸内フローラ」が、私たちの健康にどのように関わっているかということを、細菌や微生物学に詳しくない一般人に向けて、基礎から専門的な内容まで幅広く紹介されている。なぜ乳酸菌入りのヨーグルトや納豆を推奨する食品が売られているか、なぜ腸内環境を整える必要があるのか、腸内環境が整っていない場合に起こるいろいろな疾患について等が述べられている。ここで挙げられる疾患とは、生活習慣病をはじめアレルギーなどの免疫疾患についてが取り上げられている。「腸活」を始めたい人、健康を維持、増進させたい人にはぴったりの本である。所々、専門的な内容であったり微生物の名前がたくさん出てきたりするため、難しく感じる人もいるだろうが図表が挿入されているためそこまで読みにくい内容ではないと感じた。また面白いことに、便を腸内に移植することについても述べられている。「ん?どういうこと?」と思った人にはぜひこの本を手に取っていただきたいと思う。
「音とことばのふしぎな世界」川原繁人 著「言語学入門」佐久間淳一 加藤重弘 町田健 著私は「音と言葉の不思議な世界」を読んで発音の仕組みや言語について興味を持ったため、「言語学入門」という本について紹介します。この本は言語学における言語の仕組みから始まり、音声論、形態論、統語論、意味論、語用論の順番で言語学について説明しています。今回は、自分が特に興味を持った音声論の分野について取り上げて紹介します。まず、言葉というものは言語学の中でも基本的な姿だとこの本では言われています。そして、言葉を発する際には音声器官で作られた振動が空気振動になって伝わりますが、言語学では発音の仕方、音の認識の仕方に重きを置くそうです。授業でも発音の仕組みについて、言葉の音源になるのが声帯の振動で、発音する時にはこの音を遮ったりすることによって発生すると習いました。この本では、そのようなは発音の仕組みを深堀りしていて、側面音、継続音、吸着音などの発音の過程について知識を増やすことができます。さらに母音の区分と体系や、子音を区別するための調音点と調音法といったものも学ぶことができます。調音法は気流の性質をどう変えるかの方法で、気流をせき止める閉鎖、小さな隙間を作って気流を流す強い狭め、弱い狭め、気流の阻害なしの四つに分けることができるそうです。これを子音に適用することで音を区別できるようになります。震え音、閉鎖音、摩擦音など、多くの音に分類することができるそうで、興味をそそられました。また、音韻論と音声学の違いとして、音声学は物理的な言語の音を対象にしていて、音韻論は抽象的な音を対象にしているというものがあり、ここから細かく分けられる学問が何を対象とするかについても知ることができます。最後の章では音の性質について学ぶことができました。失うと本来の音とみなされなくなる弁別的素性と性質を失っても同じ音として扱われる余剰的素性というものを基本に、音の性質についての理解を深めることができます。
『空気と世間』鴻上尚史『音楽の基礎』芥川也寸志芥川也寸志氏は、あの著名な芥川龍之介の息子です。文豪の息子が書く文章は非常に洗練されており、読むことに飽きることはありませんでした。この本の魅力は、音楽の構成要素を専門用語を使わずに、誰もが理解できるように説明している点にあります(ある程度音楽をかじっていることが前提)。音、旋律、和声などの基本的な要素から、より複雑な構造に至るまで、豊富な例えを交えて丁寧にに解説されています。特に、静寂と音の関係を論じた章は印象的でした。音楽は、単なる音の集まりではなく、静寂との対比の中でこそ意味を成すという、私には到底思いつかない視点が示されており、新鮮な驚きを感じました。また、この本は教科書に留まらず、著者の音楽への愛が随所に感じられるのが特徴です。様々な作曲家や音楽作品に関するエピソードが説明の中で紹介されており、音楽の歴史や文化を学ぶことができます。特に、現代音楽への著者の鋭い切り込みは、読者に新たな音楽の世界へと導いてくれると思います。ただし、本書を読む上で、初心者には難しいのでは?という部分も感じられました。音楽という抽象的な概念を言葉で表現する難しさは、この本にも現れています。特に、和声や対位法などの理論的な部分は、楽譜を読んだことがない読者にとっては理解しにくいかもしれません。私も音楽初心者で楽譜が全く読めないので、楽譜が絡んでくる説明は全くと言っていいほどわかりませんでした。それでも、音楽を深く理解したい人にとっては、この本は読む価値があると思います。音楽理論の入門書としてだけでなく、音楽鑑賞の幅を広げる上でも大いに役立つと思います。『音楽の基礎』は、音楽好きにお勧めの一冊です。音楽の本質を深く理解するのに役立つと思います。この本を通じて、音楽を聴く喜びが一層深まること間違いなしです。何回も読むことで味が出てくるスルメ本です。
古屋晋一『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』ジェラルド・クリックスタイン著・古屋晋一監修(第Ⅲ部)・藤村奈緒美訳『成功する音楽家の新習慣』この本は、音楽を演奏する者にとって練習、本番で必要とされる知識や体のメンテナンス方法といったところまで、音楽をする者の精神や体についての情報を網羅的に記載するとともに、実例を挙げながら、このような状況の時どう対処するか、という実践的な内容まで書かれている。本書の中ではいくつか章分けがされているが、例えば、人前で演奏する際に緊張した経験がある方や本番のプレッシャー等に悩む方は第7章の「演奏不安とは何か」についての内容が役立つだろうと推測する。ここではまず緊張、ひいては本番前の不安の要素を抽出して説明を加えた後、その要因を割り出し、それぞれの要因を作出している具体的背景を考察した上で、本番前のどの段階でどのような行為によりそれを消去・軽減できるか、ということについて具体的に考察されている。文中には実際にあった事例を基にした実例が紹介されており、専門用語も極力少なくわかりやすい説明となっているので、自分自身がどのような状態に当てはまっているのか、いつ何をすればよいのか等がすぐに理解できるような、実践的かつ明快な内容となっている。また伊藤先生からの参考図書として提示された『ピアニストの脳を科学する』の中で「ピアニストの故障」という項目があったがそこでの内容と関連して、ピアニストや、ピアニストに限らずあらゆる楽器演奏者が、末永く健康体で楽器演奏を続けていくために必要なボディメンテナンス方法や日々の心がけについても詳しく紹介されているので、プロ・アマチュアに関わらず、生涯演奏活動を望む者にとって、有意義な書である。
小方厚 音律と音階の科学坂口 博樹 数と音楽 美しさの源への旅音楽というものを考えるにおいて、周波数然り対数然り数学を必要とします。しかしほかの芸術に目を向けてみても音楽ほど数学と密接に結び付いた芸術は存在しないと思います。私はその音楽と数学を結び付けて考えることに疑問を感じていましたが、そこで私は『数と音楽美しさの源への旅』という本を手に取り読んで見ました。この本は、最初にその数がどのような意味を持ちどのようにその文字がつかわれているのかが紹介されます。そこからは3章構成で数と数学の関わり合いや、音楽の成り立ちや音楽のいろんな事柄に触れられていきます。倍音とはなにかということや、人の感覚は対数がもとになっていること、ピタゴラス音律の成り立ちやその後の純正律への移り変わり、そして平均律の誕生などを通して、数というものを考えながら音楽と数学の結びつきが強いという疑問が紐解かれるきっかけとなるとおもいます。私は音楽をやってきた人間ではないので音楽の中の暗黙の了解(ドレミをアルファベットで読むなど)について詳しくなくこのような音楽の本を読むとたまに理解しがたい文言にぶつかってしまうことがあります。しかしこの『数と音楽 美しさの源への旅』の本は音楽にふれてきたことのない人間であっても専門的な言葉があまり使われていないため、内容が理解しやすいと思います。音楽の成り立ちや性質についてもっと知りたいと思う人にとってこの本は十分に満足のいくものになると思います。
川原繁人 『音とことばのふしぎな世界』麦谷綾子 『こどもの音声』この本は、テーマの中心をこどもの音声発達に据えています。こどもの音声については、年々関心が高まってきている一方、「音声発達」そのものに焦点を当てた本はこれまでにほとんどなかったそうです。第一章では、こどもの音声発達をどのような手段を用いてひも解いていくのか、という方法論が取り上げられています。第二章から第四章までは、言語音声、感情、音楽について、生成と知覚の二つの側面から得られている知見が書かれています。第四章ではこどもの発達と親和性の高い音楽が取り上げられています。第五章では、音声における障害について、自閉症スペクトラム障害、発達性吃音といった発達障害および聴覚障害を取り上げて解説されています。この本は横書きになっているため、一般的な本よりも抵抗なくスラスラと読めます。また、ところどころコラムが据えてあり、コラムをしっかり読むことでその章で扱われていて内容についてより深い理解を得ることができます。重要な単語は太線で書かれており、何が重要なのかがとても分かりやすいです。一文が短く、淡々と説明されていくので、決して単純な内容ではありませんがスラスラと頭に入ってくる感覚をもって読むことができます。だから、普段本をあまり読まない方や、複雑で難しい文章が苦手な方にもおすすめです。今まで気にしたこともなかった新しい視点からこどものアクセントや泣き声などの感情音声、さらには音楽行動と社会性の発達といった非常に興味深い内容まで知ることができるので、ぜひ一度読んでみていただきたいです。
『ヘンテコノミクス』佐藤雅彦・菅俊一『世界一やさしい行動経済学』太宰北斗私が勧める本は『世界一やさしい行動経済学』です。この本は、ヘンテコノミクスで漫画で楽しく学んだ行動経済学の知識を、教科書のように体系的に深めることができる一冊。つまり、行動経済学の学問としての第一歩となる一冊です。ヘンテコノミクスで出てきた「アンダーマイニング効果」や「おとり効果」といった概念をこの本では、それらの概念がなぜ起こるのか、そして私たちの日常生活やビジネスシーンでどのように影響しているのかを、豊富な事例とともに解説しています。ヘンテコノミクスよりさらに実践的です。例えば、「なぜ人は、無料のものよりも有料のものの方が価値を感じてしまうのか?」「なぜ人は、多数派に同調してしまうのか?」といった、誰もが一度は疑問に思ったことがあるようなテーマについても、科学的な根拠に基づいてわかりやすく説明されています。また、この本は単に知識を詰め込むだけでなく、学んだ知識を日常生活やビジネスシーンでどのように活かせるのか、具体的なヒントも与えてくれます。例えば、マーケティングで商品を売る際、消費者の心理をどのように捉えれば良いのか、あるいは、交渉において相手を説得するにはどうすれば良いのかといった、実践的な内容も盛り込まれています。このように行動経済学は、私たちの周りの世界をより深く理解するための、とても役に立つ学問です。また、最近経済学、経営学においてホットな学問であるマーケティング学にも深くかかわってくるのが行動経済学であり、私たちの生活にたくさん潜んでいる様々な仕組みを学べる学問です。様々な学問にはそれぞれ意義がありますが、行動経済学はかなり実践的な学問であると私は考えます。役に立ちやすい学問であると言えます。そんな行動経済学導入の一冊として一読を勧めます。
無限論の教室 野矢茂樹著アキレスとカメ パラドックスの考察 吉永良正著私が選んだ本は「アキレスとカメ パラドックスの考察」である。この本を選んだ理由として参考図書として「無限論の教室」を選んだ際に、最も覚えていた話題がアキレスとカメの話題だったことに加えて、もう少しわかりやすく学べる本がないか探していたからである。今回私は、読みやすさ、内容の難易度、読んでみての感想の三つの観点を踏まえてどのような方に勧めたいかを述べたいと思う。初めに読みやすさである。この本は新書のように文字ですべてが埋まっているわけではなく比較的短い文章にイラストがついているため、読み始めるハードルは低いと考える。作者の経験談やわかりやすい例が書かれている点もポイントだ。特に経験談については、作者のユーモアを交えた語り口を踏まえて記載されていて読んでいて愉快な気持ちになった。次に内容の難易度である。アキレスとカメの話題を扱っているため、出てくる用語は数学に関連したものが多い。読む人によるが、文章の難易度は総じて高めだと言えるだろう。しかし、数学的な話題が出てくると必ず説明も入ってくるので、高校で習う程度の数学の知識が入っていれば読めるのではないだろうか。最後にこの本を読んでみての感想だ。私ははじめ、この本を読みやすそうだからという理由だけで選んだ。しかしいざ読み始めてみると、読みにくさを感じなかったことに加えて内容もボリュームがあってとても面白かった。特にパラドックスに対して理論だけを詳しく説明するのではなく多彩な視点から分析しており、「そのような考え方があったのか」と読んでいて新鮮だった。これらの三つの観点を踏まえて、私はこの本をまだどんな分野の学問を学びたいのか決まっていない高校生の方にお勧めしたいと思う。様々な学問について調べるうえで、この本は読みやすく多様な考え方に触れられるため数学という分野の参考図書として非常に有効であると考える。
日本音響団体 音のなんでも小辞典デール・バーヴス 音と人とサイエンス 音が心を動かす理由これは生物学や物理学などの観点から人々が音楽を好む理由にアプローチした本である。具体的には「人が声を発する仕組み」や「音を認識するメカニズム」、「音の組み合わせによるとらえ方の違い」などに焦点を当てて書かれている。そもそも我々は空気圧の微小変化によって起きる力学的エネルギーの変動のうち人間の可聴域(人間が聞き取れる範囲)に入る周波数や音が鼓膜に届くまでに耳の中で増幅されることによって生物学的な刺激へと変化させている。特に「協和音と不協和音」の章に私は興味を惹かれた。周期性をもって繰り返される音信号の心地よい組み合わせである協和音については何千年前から議論され、今日でも議論されているにもかかわらず、協和感が生じる理由についての意見の一致はいまだ得られていないという。数字の単純さと心地よい知覚効果の一致は協和音の概念に影響を与え続けており、無視できないが、数学的な単純さに基づく協和音の理論の中には求めている答えはみつからない。“粗さがない”=協和音と考える人が一定数いるが最近の研究において“粗さがない”ことは協和音であるための必要十分条件ではないことが明らかになっている。その例としてある二つの音を両耳で同時に別々で聞くと不協和音として知覚されてしまうというものがある。このように生物学や物理学、数学のように幅広い専門性が必要であり、決して簡単に理解できる著書ではないが、音楽を演奏する人というよりむしろ音楽を作りたいと考えている人にとっては興味のそそられる貴重な一冊である。この本を読むことによって日頃我々の心を動かす音や音楽にはいまだ解明されていない事実も多いということを知るきっかけにしてほしいと思う。
日本音響学会 編-「音のなんでも小事典」谷口 高士 著-「音楽と感情」意識されることは少ないが、私たちの生活の中では、音楽は大きな比重を占めている。レストラン・商店街では、有線を利用した音楽、オフィス・病院では、静かなバック・BGM・環境音が流れている。最近は、イヤホン・カラオケの普及で自分の意志で音楽に触れる機会も多くなっている。この著書は、その身近にある音楽を聴取することで生じた感情がどのようなものであるか、私たちの行動にどのように影響するのかという問題を音の機能、感情研究、筆者自身の実験・調査データをもとにアプローチしていく作品だ。
この本は第1章から第7章までの構造となっている。第1章では、音がどのような性質をもつかを知ることができる。第2章では、すでに行われた音楽と感情との関係に関する研究、加えて記憶以外の認知課程に及ぼす影響の研究を概観し、上記の問題に対する仮説・考察がされている。第3章以降では、第2章で述べられた仮説をもとに筆者自身の検証実験が行われ、第7章に、その調査データから新しい音楽と感情の関係性についての結論が述べられている。
この本は本編に入る前に音の性質についてわかりやすく解説されているため、音に関する知識がない方にも読みやすく、また、各章ごとに研究内容のまとめ・考察が整理されているため、内容を理解しやすいものとなっている。音に興味がある人はもちろん興味がない人にもぜひ読んでいただき、自身の音楽の世界を広げてもらいたい。
ルドルフとイッパイアッテナルドルフともだちひとりだちルドルフともだちひとりだちは、多くの教訓を得ることができる作品であり、特に私たちのような若者にとっては、自身の友人との関係のあり方や今後の人生を考える上で、非常に有意義な一冊となります。この物語は、主人公である黒猫のルドルフが、友人との出会いや別れを通じて、どのように成長し、自分自身の生き方を見つけていくのかを描いています。この物語の魅力は、動物の世界を舞台にしながらも、人間社会で私たちが直面する問題がうまく反映されている点にあります。物語の序盤では、ルドルフが見知らぬ土地で孤独と不安に苛まれてしまいますが、同じく猫であるイッパイアッテナと出会い、徐々に勇気を与えてもらいます。これは大学生活において、新しい環境に身を投じ、戸惑う私たちが、友人の支えを通じて成長していく姿と重なるものがあります。また、イッパイアッテナとの友情を通じて、ルドルフは自身の在り方を見つけていき、最終的には自分の力で生きていく決意を固めていきます。この過程は、私たち大学生が社会に出る前に、自分が何を目指し、どのように生きていくのかを考えていく過程と重なります。さらに、本作は子ども向けの作品でありながら、大人が読んでも感動を得られる内容となっており、特に登場人物たちのやりとりや言葉選びのセンスには、何度も考えさせられます。他にも、誰しもが一度は経験するであろう悩みや葛藤を描いており、自身を投影しながら読んでいくことで、未来に向けて新たな一歩を踏み出す勇気を得ることができます。このように、大学生や社会人にとっても、非常に学びが多い作品であり、自分自身の人生における考え方の指針となってくれると思うので、自身の将来について悩んでいる人はぜひ手に取って読んでみてください。
感覚器の進化リチャード・ドーキンス 進化とは何か 私は参考図書から感覚器の進化を選んで読み、その中で、視覚器の進化についての話が目に留まりました。猫や犬など身近にいる動物は世界がどのように見えているのだろうとは考えたことがありましたが、カタツムリやイカやタコの見る世界について、何も考えたことがありませんでした。カタツムリやタコの視覚器は人間とは全く異なるものでした。視覚器には多くの種類がありますが、すべてはある一つの視覚器から進化を遂げたものだと書いてありました。「進化」という言葉、学校や日常生活でよく聞きくことがありますが、進化とはどのように起こるのか、どのような過程があるのか、詳しくは知らないなと思いました。なので今回は進化とは何かについて説明している本を紹介しようと思います。私が紹介する本はリチャード・ドーキンスの「進化とは何か」です。まず一言で感想を言うと、とても面白いです。第一章ではまだ進化についての話は始まらないのですが、つかみがうまく、著者の話に引き込まれてしまいました。本全体を通して、比喩や例が多く用いられていてすんなり理解でき、専門用語がバンバン出てくるような難しい内容でもないので、生物や自然科学の難しい話が苦手な人でも簡単に読める本だと感じました。眼の進化についての話も出てくるのですが、「感覚器の進化」よりも専門的でないためわかりやすく、挿絵付きの実験の説明によって眼の進化の過程を簡単に学ぶことができます。私が疑問に思っていた、進化の途中の眼には何の意味があるのか?についても答えが書かれていて、すっきりしました。この本は挿絵が多く用いられているので、それも読みやすさの要因になっていると思います。もちろん理解しやすい話だけではなく、そのような考え方もあるのだなと受け流す話もありました。ですが感心するところが多くあり、本当に面白い内容なのでぜひ読んでほしいと思います。
川原繁人『音とことばのふしぎな世界』川原繁人『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』「世界一ほっこりする音声学入門へようこそ!」という文章から始まる通り、本書では、著者である川原繁人さん本人の子育てエピソードである、実際の子どもの言い間違いや、特有のオノマトペ表現の例が出されていて、確かにほっこりしながら読むことができる。 本書では、言い間違いや発音についてなど、子どもとの関わりから見いだせる言語の規則性だけでなく、子育てから派生して、プリキュアやポケモン、ラップなど身近に感じられるものが例に出されながら話が進められているため、想像や実践をしながら読み進めることができる。パートは全部で15個に分かれていて、特に4つ目と5つ目のパートでは、音声学の入門的なことにも触れられ、いわゆる発音記号である、国際音声記号(IPA)についても深く知ることができるようになっている。また、この二つのパートでは他にも、調音点(口のどこで発音するか)や調音法(どうやって発音するか)、有声性(声帯が振動しているか)などの専門的な用語についても説明があり、より身近に感じつつも、音声学についてきちんと学べる本であると感じた。 本書で、私が特に面白いと感じたのは、プリキュアやポケモンの名前にも一定の規則性があるということだ。名前の音の規則性が、私たちに与えるイメージと深く関わっていて、こんなにも身近なものから法則を見いだせる音声学という学問は魅力的だと思った。 身近なことから音声学について学べるので、音声学を学びたいと思っている人はもちろん、少し関心のある人など、どんな人にでも理解しやすい一冊となっている。そして、音声学を主として学びたい人にとっては、すべてのパートで少しずつ異なるアプローチがされているので、音声学を学ぶ上での様々な視点に気付ける良い一冊だと思う。
宮崎謙一「絶対音感神話:科学で解き明かすほんとうの姿」ロナルド・カヴァイエ、西山志風「日本人の音楽教育」 この本を読み始めたときは、私は「本選びに失敗したかな」と考えました。この本は筆者の西山さんとイギリス人ピアニストのカヴァイエさんの対談形式で進んでいくのですが、もっぱらある話題について西山さんが話をして、カヴァイエさんに考えを尋ね、今度はカヴァイエさんが説明するという形を延々と繰り返していくため、少しばかり単調と言えます。また、音楽用語や人名も多数登場するため、音楽に詳しくない私からすると理解しにくい話題が多かったのです。更に、2人の(特にカヴァイエさんの)意見は日本の音楽教育に対して否定的なものであったため、うがった考えが付いてしまうかもしれないという問題もありました。 しかし音楽に、または何かしらの芸術に関心のある方にはおすすめできる1冊です。音楽に精通した人達がはっきりものを言う議論は、ある意味痛快な面白さを味わえます。全体を通して、カヴァイエさんは自国をはじめとしたヨーロッパの国々の実態を元に、日本の音楽教育の特徴やその欠点について言及しているため、中々知る機会のないヨーロッパでの音楽教育、つまり西洋音楽の本場の実情に触れることができます。カヴァイエさん本人がピアニストであり、学生に教える立場の方でもあるため、特にピアノを習った経験がある方、ピアノ楽曲やピアニストに興味があるという方にはためになる話も多いかもしれません。あるいは私と同じように、音楽を含め芸術にはあまり明るくないという人でも、本がある1つの立場に立って論じてくるので、読み手である私たちはあえて逆の立場からテーマについて考えるという楽しみ方があると思います。2人の話の中に良く出てくる音楽に関わる偉人や有名人の名前、馴染みのない音楽用語も、読むときには大変になる要因ですが、逆に考えれば音楽の世界に触れる機会にもなり得るでしょう。この本の発行が昭和62年と古いので、現代の状況と比べてみるのも面白いです。
岩堀修明 図解感覚器の進化 原始動物からヒトへ水中から陸上へ財団法人 日本学術協力財団 感覚器〔視覚と聴覚〕と社会とのつながり-見るよろこび・聞くよろこび- 私は、「感覚器〔視覚と聴覚〕と社会とのつながり-見るよろこび・聞くよろこび-」という本を参考図書として紹介する。本書は、日本学術会議という分科会で行われた二つの市民公開講座の内容をまとめたものになっている。本書では、主に医学的な観点で様々な大学の先生によって行われている研究について知ることができる。専門的な話が多いが、日常的な具体例も多く、資料や図とともにとても分かりやすく解説されている。また、デシベルやヘルツなど「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義で扱われたような内容も登場するので、この講義を聞いた人ならスムーズに内容を理解できるのではないかと感じた。 私はこの本を見つける前に、岩堀修明による「図解 感覚器の進化 原始動物からヒトへ水中から陸上へ」という参考図書を読んだ。この参考図書では、感覚器がどのように進化してきたかや、人だけでなく様々な動物の感覚器の構造・仕組みについて学ぶことができた。そこから私は、日常生活と絡めた感覚器の機能について詳しく知りたいと思い、本書を読むに至った。実際に本書を読んでみて、視覚や聴覚があることによって私たちの生活の質は大きく向上していると実感した。 本書の中で特に私が興味深いと感じたのは、眼科の情報が生活習慣病を診療するうえで大きく役立っているという内容だ。目という体の一部分を調べるだけで、全身の病気の予測につながるという点に驚いた。医療の観点から見ても目は重要な器官なのだと感じた。 この他にも、様々な目や耳の病気とその医療技術について紹介されているので、感覚器について医学的な視点から知識を身につけたいと考えている人に非常におすすめしたい。また、コンタクトレンズをつけている若者に多い病気についての内容など身近な話題もあるので、今後の生活に役立つ知識を得られるはずである。少しでも興味感じた人にはぜひ手に取ってほしい一冊である。
哲学の謎 野矢 茂樹やさしすぎる哲学入門 橘 龍介私が紹介する「やさしすぎる哲学入門」という本は名前の通り哲学入門の本のなかでもかなりやさしく、簡単で理解しやすい内容になっています。この本の構成は、筆者が大事、面白いと思う哲学者とその考え方、哲学界に与えた影響などをくわしく、そして分かりやすく解説するという構成になっています。筆者は、現代社会の文系よりも理系のほうが優遇されやすいという風潮、文系のなかでも法学部や経済学部よりも哲学をはじめとする人文系の学部のほうが不人気であるという風潮から哲学の人気を取り戻すためには、初めて哲学を学ぶ人が分かりにくくつまらないと思う哲学の教え方からそういった人でも面白いと思うようなことをなるべく多く教えることが大切だと考えています。だからこそこの本は難しい専門用語を多用することなくとても分かりやすく書かれています。この本の第1章では、古代から中世の哲学者を紹介しています。古代では、哲学というのがどういう学問でどのように形成されていったのかが書かれています。中世ではキリスト教がヨーロッパの哲学にどのような影響を与えたのかが書かれています。第2章では、ルネサンスと近世の哲学者を紹介しています。近世では、哲学における思考法がどのように確立されていったのかが解説されています。第3章では、近代初の期哲学者について紹介しています。近世の哲学者の考え方を近代の哲学者がどのように発展させていったのかがくわしく書かれています。第4,5,6章では現代の哲学者について紹介しています。世界大戦や共産主義が哲学に与えた影響や私がもう一つの課題図書として選んだ「現象学の理念」で登場したフッサールについても紹介してあります。この本は、筆者の哲学の面白さ、奥深さを伝えたいという思いがつまっていてとても読みやすく面白かったです。哲学という学問に興味があるけど、難しそうでとっつきにくいと思っている人におすすめです。
古屋晋一 ピアニストの脳を科学する大黒達也 音楽する脳あなたは、音楽とは芸術であると考えるだろうか。それとも、音楽とは科学であると考えるだろうか。この講義を受けた人は、講義名にも科学という単語が入っており、講義内容も科学的目線から音と音楽について分析していく講義が多くあったため、音楽とは科学であると考える人が多いだろう。そこで少し考えてみてほしい。音楽と科学の深い関係は、いったいいつから存在していたのだろうか。筆者によると、三平方の定理で有名なピタゴラスは、彼が発見した「音律」という音楽において重要な要素を用いて天文学を理解しようとしたらしい。ほかにも、数学、医学と、音楽は科学と深く関わっていることが分かる。このように、現在私たちが学んでいる学問の根底には音楽が関わっており、音楽は科学の発展とともにあったのだ。そう考えると、音楽は私たちが考えるより身近なものだといえるのではないだろうか。このように私たちの生活と深いかかわりがある音楽だが、私たちは音楽について知らないことが多い。日常生活で音楽を聴いていて、「この曲はいい曲だ、私の好みだ」と思うことはあっても、その音楽を構成する要素についてはよく理解している人の方が少ない。この本では、そんな音楽の構成要素について解説している。たとえば、音の周波数比だったり、コード進行の仕組みなどである。このような音楽の構成要素の解説以外にも、数学から音楽にアプローチしたり、医学からアプローチしたりと、とにかく多角的な視点から音楽をとらえている。講義で扱った内容も含まれているので、講義の復習をしたいという人は、ぜひこの本を読んでみてほしい。この本は正直読んでいて難しいと感じる点も多かった。だが、読み終わった後には確実に音楽についての解釈、音楽と深く関連する科学への理解が大きく変わるので、音楽や科学に興味のある人はぜひ読んでみてほしい。
近藤滋 波紋と螺旋とフィボナッチ近藤滋 いきもののカタチ 続・波紋と螺旋とフィボナッチ-多彩なデザインを創り出すシンプルな法則 私が見つけた「いきもののカタチ 続・波紋と螺旋とフィボナッチ-多彩なデザインを創り出すシンプルな法則」は、近藤滋氏の著書「波紋と螺旋とフィボナッチ」の続編本です。一見複雑で神秘的な生き物の形が、実はごくシンプルなルールで理解することができるという前作のテーマを深掘りし、さらに多彩な生物の形や模様の謎に迫っています。 この本は生物現象の背後にある法則や仕組みが「わかる」と、「不思議」が「当たり前」になり、以前とは世界が違って見えるようになるという体験を多くの人にしてほしいという思いから書かれています。本書は、全10章で構成されており、興味を惹くタイトルばかりです。実際に第7章のタイトルは「海底のミステリーサークルの謎を追え!」となっています。 私が特に面白いなと思ったのは第1章で、この章では生き物たちの変身を特撮ヒーローの変身と絡めて面白おかしく書いています。カブトムシの角は幼虫の時点では頭の部分に折りたたみ風船方式で格納されており、これが体液の圧力で膨らみ、角ができるそうで、実際に幼虫の腹部を圧迫するとお祭りの出店で売っているピロピロ笛の要領で角が出てくるそうです。ピロピロ笛は膨らんだ形を最初に作りそれを折り畳むので作るのは簡単ですが、カブトムシの角はその逆で一度も角の最終形態を作ることなくいきなり作るため難しいのだそうです。このように生き物の形の原理や謎について知ることができます。 私はこの本は、逆に生き物に興味がない受講生に向いているのではないかと思います。中学程度の理科や数学の知識があれば問題なく理解できる内容になっていて、さらに図や写真を用いて視覚的にも分かりやすくなっているのでこの本をぱらっと読むだけで、生き物たちがなぜそのような姿形をしているかを楽しく、楽に知ることができるます。新しいことを楽しく知ることができる一冊になっているのでぜひおすすめです。
波の科学-音波・地震波・水面波・電磁波- / 谷村康行音の科学と擬似科学 音の不思議と怪しい話 /蘆原 郁,坂本 真一 皆さんは東京ディズニーランドの都市伝説というものはご存知だろうか。それは、「東京ディズニーランドの敷地内ではほとんどカラスを見かけない。それは超音波を鳴らし続けてカラスを追い払っているからである。」というものや、「東京ディズニーランドの園内では大人には聞こえない高周波音が鳴らされており、この高周波数音を聞くと子供は例外なくハイテンションになる」というものだ。にわかには信じがたいものだが、ありえなくはないだろう。この書籍ではこのようないわば馬鹿げた話を大真面目に科学的実験、考察によって紐解いていく過程が綴られている。私がこの図書を手に取った理由は、この「音」の科学と擬似科学」といういかにも専門書感があふれる題名と、このような「東京ディズニーランドの都市伝説」という興味を惹かれるフレーズに大きなギャップを感じたからである。この書籍では音に関する不思議な現象や面白い話など,知っているといつか役立つかもしれない雑学情報を紹介し、初級の科学的な視点から真相に迫っていく。また音に興味をいだくと同時に,科学の世界がいかに不思議な驚きに満ちているのかということについて記している。本書の魅力は身近なこと、知ってはいるけど深くは考えたことがなかったことなどを面白おかしく紐解いていくということに詰まっている。一例を挙げると、「補聴器をすると耳が悪くなる」という一見逆説的な「怪しい話」を科学的な知識を交えながら考察している。その真相は皆さんが実際に読んで確かめてほしい。この書籍は音に興味を持つ人や、科学的な視点から音の不思議を探求したい人にとって、非常に面白いものとなっている。また初歩的な科学知識から説明され、そこから実際の身の回りの現象に関連付けていく。そのため科学知識のあまりない人でも面白く読めるものとなっており、科学に苦手意識を持っている文系の方にも強くおすすめしたい一冊だ。
佐藤雅彦/管俊一 ヘンテコノミクスリチャード・セイラー/キャス・サンスティーン 実践行動経済学 この本には、行動経済学についての知識が実例とともに書かれています。第一部から第四部に分かれている四部構成になっています。著者であるセイラーとサンスティーンは、経済学と心理学の二つを融合させて、私たちの意思決定がどのように感情や、認知バイアスに影響を与えるかについてを調べ、どういうものなのかを明らかにしています。その中でも、セイラーとサンスティーンは、「ナッジ」という概念を提唱しています。 ナッジとは、個人の自由を制限することなく、選択肢の提示方法や環境設定などを工夫することで、人々がより良い判断ができるように促す方法を指します。例えば、健康的な食事を推奨する目的のために、学校の食堂でサラダを目立つ場所に配置することや、退職金制度の加入を自動設定にし、希望者のみが手続きによって解除できるようにすることなどが挙げられます。これにより、人々は自らの意思で最適な選択をしやすくなります。 セイラーとサンスティーンは、本書で数多くの実例を取り上げ、ナッジの理論を私たちの生活に応用する方法や具体的に示してくれています。もう一つ、公共政策の例を挙げると、エネルギー消費の削減や金融リテラシーの向上など、さまざまな分野でナッジの手法が効果を発揮するとが示されています。これにより、個人が社会全体に与える影響を考慮しながら、より良い社会を実現するための手段としてナッジが活用される可能性が広がっている事が分かります。 さらに、本書は行動経済学の基礎理論も分かりやすく解説しており、読者は自らの意思決定プロセスを見直し、日常生活での選択をより良くするための洞察を得ることができます。 この本は、学問的な知識を持たない一般読者でも理解しやすいように書かれており、読みやすさと実用性を兼ね備えた一冊です。とてもわかり易く、自らの生活について見直せる機会を得られるので、ぜひ読んでみてほしいです。
斉藤洋・ルドルフとイッパイアッテナ岸見一郎古賀史健・嫌われる勇気まずこの本のタイトルをみて、「どういうことなのか?」と疑問に思う。しかしこの本を読んだ後に、貴方は自分の人生は自分自身で作り上げていくものであり、勇気があれば誰しも自分は変われるんだと考えることができるようになるだろう。この本は他人からの評価や期待を気にして、自分自身の人生を自由に生きられていない人にとって人生を変えるための一つのヒントになるはずだ。この本の中で「他人の期待を満たすことが自分の人生ではない」という言葉がある。私はこれは他人関係なく自分で選択しろ、ということだと思う。「この人から嫌われるのは嫌だから、この人の言ってることに賛同しよう」、「周りがこうしてるから自分も周りに合わせよう」などと思ったことは何度もあるだろう。だが、これは自分の人生を生きているとは言えない。他人の人生を生きている。他人のことを考えても、他人が自分のことをどう思っているのか本当のことは知ることはできない。つまり自分の意思で主体性を持て、というのが先ほどの言葉の意図だと私は思う。確かに自分の意思で行動して他人に嫌われてしまうことはあるかもしれない。だが、他人が自分のことを本当はどう思っているのか知ることは難しい。だからまずは主体性を持つことで自分自身を見直すことができ、自分に自信を持つきっかけになるだろう。このように一つの言葉から自分の人生をもっと自由に生きるためのヒントに気づくことができる。最後にこの本は、対人関係に悩んでいる人にとって読んでほしい本である。
川添愛『コンピュータ、どうやってつくったんですか』山本貴光『コンピュータのひみつ』参考図書「コンピュータ、どうやってつくったんですか」の中でおすすめの本として紹介されていた一冊。本書では参考図書が妖精と青年の対話方式ですすんでいくように先生と生徒の会話方式で一つ一つの疑問に答える形で展開されていく。会話方式で進むことで読み手である我々がちょうど疑問に思ったことが期待どおりに触れられると気持ちよく読み進められる。我々が考えることのないような鋭い質問が飛ぶこともしばしばあり、その質問の内容についていけているのかどうかで自身の理解度に応じたペースで読み進めることができる。受験生時代参考書をつかってたくさん勉強したであろう新大生の中には生徒と先生の会話方式の物を好んだ人もいることだろう。私もそのうちの一人なのだが、私がこの本を熱く勧めたいのはそのような分類の人たちである。そしてこのタイプの本を読む時、事前にある程度その界隈に対する知識をもっていなければ内容についていけないということがしばしばおこりうる。しかしこの本は知識がない私でも読み進めることができるほどには初心者にやさしくなっている。「コンピュータに関する興味はあるけど詳しいことはよくわかんねぇ」という人でもぜひ手に取ってみてもらいたい。本書ではコンピュータにおける「書く」とは記憶領域にデータを記録すること、「読む」とは記憶領域に記憶されているデータをとりだすこととし、コンピュータを「記憶装置」として見立てるところから始まる。「コンピュータがわかる」とはどのようなことなのか。この本を読み終えるころには自身のコンピュータに関してわかること、わからないことが理解でき、コンピュータについて自分の言葉にまとめることができるようになるだろう。
川原繁人 「音とことばの不思議な世界」川原繁人 「音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む 〜プリチュワからカピチュウ、おっけーぐるぐるまで〜」 参考図書である川原繁人氏の『音とことばの不思議な世界』を読み、彼の音声学についての話をさらにいろいろと学んでみたいと思い本書を購入。本書では言葉と音の関係を子供の発声から分析している。「プリキュア」や「アンパンマン」などのキャラクターの名前に両唇音(発声の際に両唇が触れる音)が多く使われているという筆者の気づきから始まり、音のもつイメージについて分析がなされている。これらの子供向けコンテンツに触れたことが無い人はほとんどいないだろう、それゆえに誰でもこの不思議を具体的に想像することができ、難しいイメージのある音の科学について抵抗なく入ることが可能だ。 また、子供によく見られる言い間違いも単なる間違いではなく音韻論に基づいて説明できる現象であるというのは「当たり前のことだろう」とスルーしていたことに向き合う、講義でいうところの『無知の知』というものを実感することができた。 本書の後半では音象徴(音そのものが特定のイメージを想起させる現象)について触れられている。冒頭の子供向けキャラクターの名前の分析から繋がり、名前の持つ意味・情報について学ぶことができる、もしかしたら将来自分の子供に名前を付けたり、自分の作った創作物のネーミングに役に立つかも…そんな非常に興味を惹かれるだった。 最後に、本書では物理学的・数学的に音について言及されていることはほとんどない。そのため講義で波形だったりフーリエ変換などの話を聞いて「難しくてわからない…自分は音の話は向いていないのかな」と思った人でもまず音と教養について知るきっかけになると感じた。怖がらずに一度読んでみてもらいたい。
行動経済学まんが ヘンテコノミクス 著者佐藤雅彦・菅俊一池上彰の行動経済学入門 著:池上彰「人間の行動は利益と不利益だけで左右されるものではない」この言葉によって私はどんな行動経済学があるのかが気になりこの課題図書を手に取った。この課題図書ではかわいいキャラたちが分かりやすく行動経済学の例を紹介してくれるが、コミカルにわかりやすく伝えることに重きを置いているために、それがどんな場面で役立つのかや私たちに何をもたらすか曖昧なことが多いのも事実だ。そこで私が紹介したい本がこの『池上彰の経済学入門』だ。ほかにも多くの行動経済学に関する本はあった中で私がこの本を選んだ理由は表紙にあった言葉『働く君に伝えたい「本物の教養」』である。これは講義で先生が私たちに一番伝えたいと言っていた事と合致するものであったために迷わずこの本を選んだ。そして、この本を読んだ私が一番に皆さんに伝えたいのは、行動経済学という名前から経済やビジネスといった方面にこの学問が活かされると思われがちだが、実際には、己の行動を変え目標達成、自己実現を助ける効果が行動経済学にはあるという事だ。1つの例を挙げるとするならばSDGs実現のための行動経済学だ。私たちは最近よく胸にSDGsバッジをつけている人を見かけることが増えてきた。このSDGsバッジはSDGsの取り組みを他者にアピールするという役割のほかに、自分たちがSDGsに取り組んでいるんだという自覚を持たせ、その人の意識に働きかける役割を担っているのだ。これは専門用語で「ナッジ理論」と呼び、強制ではなく人々をさりげなく好ましい方向へ差し向ける手法である。このナッジ理論こそが行動経済学が私たち自身を変えてくれるために最も大切なものともいえる。本誌にはSDGs以外にもコロナ禍や医療で働くナッジ理論など、より詳しく書いてあるので是非読んでほしい。この本は行動経済学の分析と応用の内容がまとまっている。己の教養を深めるために必ず役に立つと胸を張って言える一冊だ。
古屋晋一 「ピアニストの脳を科学する」ハラミちゃん 「好きのパワーは無限大」努力は報われる。これは本当だろうか?皆さんの中には努力をたくさんしてきたが報われない、報われた経験がない人もいると思う。私自身もそんな経験があり、あまりこの言葉を信用していなかったが、この本を読んでその考えを変えることができた。
この本では、現在、ピアニストのYouTuberとして活動している登録者数200万人越えのハラミちゃんが、どのようにしてピアニストのYouTuberとして有名になるに至ったのかが著されている。
彼女はピアニストを目指し、幼少期から非常に多くの時間をピアノに費やしてきた。そんなに努力してきたのならここまで成功したのは当たり前と思うかも知れない。しかし、その成功の過程では様々な挫折があった。そんなハラミちゃんがどのようにして成功するに至ったのか、是非読んで確かめてみて欲しい。努力をすることがどんな結果をもたらすのか学べると思う。
今現在、もしくは過去に何かに熱中していて、それがうまくいってない、うまくいったことがない人には是非読んでみて欲しい。また、ピアノのテクニックについても少々学べるためピアノが趣味の人も学べることがあると思う。
川原繁人 音とことばのふしぎな世界君野隆久 ことばと表現 参考図書では言葉を発するまでの仕組みや音、言語について、また音声学が実社会にどのように関わっているかについて知ることができました。「ことばと表現」では、この本で学んだ言葉を大学生がどのように使うべきなのか、また学習を進めるうえで必要となる日本語表現について知ることができます。卒業論分やレポートの提出が求めらる在学生におすすめの一冊です。第一章では、言葉を文字に書き起こすうえで基本となることや注意点、ローマ字、平仮名のそれぞれの特徴についてであったり、どのようなバランスで使うとどのようなイメージを与えるのかや言葉や文字の間が与えるイメージも紹介されています。レポート等を書く際のテーマや章にあった書き方が可能になり、表現力がかなり向上すると思います。 第二章では、第一章で紹介したことの実践に向けた前置きの部分がまとめられています。レポートや論文の基本についてや書く前に心得ておくこと、またこのレポートや論文など実際に文字を書き起こすことで身につけることができる能力、「ことばを表現することとは」についても載っています。 第二章まででことばを文字に書き留めることについてまとめてあったのですが、最後の章である第三章では、その文字を声を発して行うプレゼンテーションについて書かれています。プレゼンテーションの基本や文字を書き起こすレポートと声を使う論分の関係性、態度も含めてどのようなことばの発し方や態聞き手にどう印象を与えるのか述べられています。この章では実際の資料を用いて述べられているのでとても理解がしやすく、想像しやすくなっています。 この本はことばが与える印象やそのことばの活用方法、またそれを「大学生」である私たちがどのように活用できるのか載っている本になっています。順序に沿って紹介されているのでとてもわかりやすく実践しやすくなっています。この際にぜひ一読してみてください。
豊田泰久 コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて:音響設計家・豊田泰久との対話石田力 響きをみがく 音響設計家豊田泰久の仕事 音響設計家という職業を知っているだろうか。おそらくほとんどの人は、聞いたことがなかったり、名前だけ聞いたことがあったりするだけだろう。 この本は音響設計家という職業で世界に名を轟かせた「豊田泰久」という人間について記している。内容は、豊田泰久がこれまで関わってきた多くのマエストロや建築家の会話や豊田泰久がこれまでの出来事で思ってきたことが書かれている。序章から始まり1章から7章、最後に終章で構成されており、各章で多くのマエストロが豊田泰久と共同して行ってきた偉業や豊田泰久に対して思っていることがインタビュー形式で書かれている。 私がこの本を読んで思ったことは、コンサートホールはただ演奏する場所ではなく、音楽を豊かにする一つであることだ。世界で活躍するオーケストラさえコンサートホールが変わるとアンサンブルが乱れることがある。世界中の人を魅了するオーケストラの土台にあるのが豊田泰久が作り上げるコンサートホールなのだ。 また、豊田泰久はただ音響のことだけを理解しているのではない。多くのマエストロと関わっているので、政治や人間関係などあらゆることを知り尽くしていた。なぜなら、豊田泰久氏は国を代表するコンサートホールを作り上げるからだ。このような多方面のことを知るということは現代社会必要な能力となっている。 この本は、音楽関係者や学生など音楽を楽しむ人にとってお勧めできる本である。特にクラシック音楽を好きな人にお勧めしたい。さらに、この本を読んだ後一度コンサートホールのライブ演奏を味わってみてはいかかだろうか。実際に、豊田泰久が作り上げたコンサートホールはサントリーホールや札幌コンサートホールなど日本にもいくつか存在する。実際に演奏を体感することで、音の迫力や響きの透明感をより感じ取ることができ、デジタル音源では味わえない経験を得ることができるに違いない。
音と言葉の不思議な世界 川原繁人音楽と感情 谷口高士まずこの図書は全部で7章で構成されておりそれぞれ音楽と感情の関係について実験のデータを用いて科学的に述べています。また各章で要約が書かれているためとてもその章の内容を理解しやすいです。第一章では音楽とは何かという簡単な説明と音楽的要素の情報処理についての説明を用いて音楽の感情的側面について考察している。この章は音楽のメカニズムについて学びたい受講生向きなのではないかと考えます。第二章では気分が認知過程にどのような影響を与えるのかについての研究のデータが書かれていました。第三章では第二章についての実験に音楽を用いて性格形容を調べるなどして音楽はある気分を誘導するなどといったことが述べられている。第三章は音楽と心理学の関係について学びたい受講生に向いていると考えた。第四章と第五章、第五章では音楽作品についての内容が述べられています。第四章では音楽作品の感情価を測定するための実験を行い作品によって快感情になるか、不快感情になるかということについて述べられている。第五章では第四章で述べられている感情価のリストが主な内容であり第四章の内容をより詳しく解説している。第六章では音楽作品への反応に次元の重みづけなどについて述べられていた。第四、五,六章も3章と同じく音楽と心理学を学びたい受講生に最適であると考える。第七章では1~6章で述べられたことについて総合的な考察が述べられている。これらの章をまとめると音楽とは何か、そして音楽が感情、心理学に与える影響について述べられている。
柳田益造/編 楽器の科学 デール・パーヴズ 音楽と人のサイエンス音楽は人間の高度な発声の進化により、2人以上の人が同時に音を出してそれが調性を持ったメロディーを作り出したことから始まった。心地よく聞くことができる音の組み合わせ、音階を構成する音の数、半音階による音程の強調、長調・短調による感情表現などを、音楽家達が模索・選別をし、表現方法や枠が確立したことで、音楽はまるで人間のように今の形へと進化していった。長い歴史の過程で分類が難しくなるくらい様々な楽器を改良・製造したり、今の音楽の枠を作るために様々な表現方法を模索したり、こうしてみると、人間は音楽に対し異常な執着心があるように見えてしまう。なぜ、人々は音楽がこんなにも好きなのだろうか。言葉を変えると、なぜ特定の音の組み合わせによるメロディー・ハーモニーが好きなのだろうか。こういった調性音楽の疑問は何世紀にもわたって議論されているのにも関わらず、答えはまだ見つかっていない。本書は、第1章の楽器や声などによって発生する音信号を聴覚器はどう受け取るのかに始まり、計9章という章ごとに構成されている。この本の1番の魅力はやはり解明されていない調性音楽の疑問を、様々な先行研究や数学者・哲学者の発想を用いて、生物学的観点から考察しているところだろう。難しそうに見えてしまうかもしれないが、実際に読んでみると、1つの内容に対し掘り下げが少なく、洗練された構成、議論の展開から非常にテンポよく読むことができた。章の最後には推薦図書が記載されており、読み終えた後でもさらに知識を深めることが可能だ。私は、特に音楽が好きな人にこの本を読んでもらいたい。なぜ音楽が好きなのか、なぜこの音の組み合わせが心地よいのか、そういった知識を身に着けることで、音楽が好きな根拠を知り、音楽を聞いた際にまた違った見方ができて楽しいのではないかと思う。
佐藤雅彦/菅俊一 ヘンテコノミクスダン・アリエリー 予想どおりに不合理ー行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」増補版私は今回『予想どおりに不合理ー行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』という本を紹介します。先生の参考図書で読んだ「ヘンテコノミクス」という本では人間がついとってしまうような行動が漫画で描かれていて、漫画の最後にあるまとめのところで行動経済学で使われる単語を混ぜながらわかりやすく説明されていました。今回私が紹介する本も似たような内容で、心理学と経済学という両方の面を持っている行動経済学を、長年の実験と実験から得られた結果を一歩進めてべつの状況にあてはめ、生活や仕事や政策にどうかかわりうるかという例を示すことよって説明しています。これまでの経済学では、人は合理的に行動するものと考えられてきましたが、本当にそうなのかでしょうか。「なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらったとたん楽しくなくなるのか」や、「無料!はいかに私たちの利己心に歯止めをかけるか」など興味をそそられるようなトピックがたくさんあります。食事、買い物、恋愛、お金、物事の先延ばし、ビール、正直さなど、人生のいろいろな面について調べた、実用的で好奇心をそそるおもしろい(ときにぞくぞくする)実験が多く書かれていて、自分の行動とも照らし合わせながら読み進めることができます。文字が多く本自体も分厚いので読むのをためらうかもしれませんが、細かく章で分かれているので隙間時間で少しずつ読んでいくことができます。内容もわかりやすくまとめられているので、私は読み始めたらその章が終わるまで飽きずにしっかり理解しながら続けて読むことができました。私はこの本を読むことで人間の行動の面白さを感じたり、よりよい決断をする方法が見つかったりして自分の行動を考える機会にもなったので自分自身についてさらに知れたような気がして嬉しくなりました。皆さんもぜひこの本を読んで自分を含めた人間の行動の面白さを実感してみてください!
ルドルフとイッパイアッテナ 斉藤 洋・作 杉浦範茂・絵「教養」とは何か 阿部謹也 「音と音楽をめぐる科学と教養」を履修登録した際に「教養」という文字を見落としていた人はどれだけいるでしょうか。これは大学の講義の分類にもなっているため、身近に感じている人も多いかもしれませんが、その「教養」という言葉の意味について聞かれ、私自身そうだったのですが、ただ「知識があること」としか答えることができない人がほとんどではないでしょうか。 そこで、私が皆さんにおすすめする「教養とは何か」という本では、西洋史学に精通している著者の阿部謹也氏が、そのストレートな題名通り「教養」について西欧の歴史的観点に基づいて持論を展開しています。この本では、まず私たち自身が織りなす「世間」という枠組みの中で私たちが生活していて、その「世間」とは何かを最初の章で深く考えさせられ、その「世間」において自身がどのような働きかけをできるかを「集団の教養」として、その詳細の中身を把握することができます。 私自身、今まであまり活字に触れてこなかった生粋の現代人ですが、このド直球なタイトルに惹かれ、この本を手に取って読んでみると、教養人とは、より多くの知識を持っている人のことだと思っていた以前の私が、いかに物事の表面しか見ることができず「教養」のない人間であるかを痛感することができました。 少し言い回しがくどかったりもしますが、ページ数も200に満たず、軽いスキマ時間でもあっという間に読み終えることができるため、現在社会人になるための準備段階であり、ただ何となく単位取得のために大学の教養科目を受講しているような方々に、手に取って読んで「教養」について熟考していただきたい1冊です。 新潟大学五十嵐キャンパスの図書館でも借りることができるので是非。
現象学の理念(原作 フッサール)須賀原 洋行イデーン―純粋現象学と現象学的哲学のための諸構想 渡辺二郎『イデーン―純粋現象学と現象学的哲学のための諸構想』は、エドムント・フッサールによる哲学の古典的なテキストです。この本は、現象学という新しい哲学的方法論を体系的に提唱し、その基礎を築いた重要な著作です。フッサールは現象学を通じて、意識の構造とその経験の本質を探求しようとしました。彼の方法論は「エポケー」と「現象学的還元」と呼ばれ、日常的な先入観や自然主義的な態度を一時的に停止し、意識そのものの経験に集中することを目指します。これにより、物事の「本質」や「意味」がどのように意識に現れるのかを明らかにしようとします。本書は、哲学における主観と客観の関係を深く理解するための貴重な資料であり、現象学の基礎を学ぶための必読書です。フッサールの厳密な思索と明晰な表現は、哲学の学生や研究者だけでなく、意識や知覚の問題に興味を持つ全ての人にとって有益です。『イデーン』を読むことで、現象学の基本概念を学び、意識の深層に迫るフッサールの独自の視点を体験することができます。現代哲学における重要な位置を占めるこの著作は、哲学的思考の訓練としても非常に有用であり、深い洞察と新しい視点を提供してくれるでしょう。
空気と世間同調圧力この本は題名通り同調圧力についてかかれたものです。同調圧力とは集団の中で多数派が少数派に対して、特に何を言うでもないけど意見を合わせるように仕向けるようなことを言います。日本は世界と比べた時に、圧倒的に同調圧力が強く働いてそのせいで過剰に人の目を気にして息苦しくなっています。そんな日本の現状を説明してくれているのがこの本です。この本では「世間」と「社会」という一見ほぼ同じ意味の言葉に思えるこのふたつの言葉によって同調圧力が働くか働かないかがきまっているというのです。「世間」とは自分と関わりのある人たちで構成されている集団、「社会」とは自分と関わりのない人たちで構成されている集団。そして外国では世間が存在しないのに対して日本は「世間」と「社会」のどちらもあるのです。そして「世間」が存在する日本では同調圧力が強くあらわれているということです。なぜ日本では「世間」が存在して同調圧力が働くのかこの本を読めば分かり少しは楽に生きていけるのではないかも思います。
著者_鴻上尚史 題名_「空気」と「世間」著者_佐藤直樹 題名_「世間」の現象学この本は、実際に現物があるわけではない「世間」にはその様な観念を生み出している自分と向き合うことが必要だとし、そのために世界とは自分のことと考えることで主観、客観の二元論を超えて考えることの出来る現象学的視点から世間について暴こういう本である。まず本の初めでは、「世間」にはどんな構造があるのかを具体例や海外での体験をもとにわかりやすく書かれていました。そこから、日本における「世間」の歴史をヨーロッパの歴史を含めて、現代まで解説があります。現代における「世間」のとらえかたがこの本では現代はだんだんと世間というものが肥大化していると表現されていました。ですが、私は「「空気」と「世間」」では真逆の説明があると感じました。そこで、この本は是非とも「「世間」と「空気」」と一緒に読んでほしいと思いました。なぜなら、二冊とも阿部謹也さんの著書を参考にされていて二人が一人の本を参考にしている共通点があるので思考の広がり方の違いや考え方の違いを実感できると考えたからである。どちらの本も筆者などが「世間」や「空気」に苦しめられた体験が執筆のきっかけとなっており、「初めに」の部分から共感できる内容が多く、自分の悩みを解決できるのではないかと期待させる始まり方です。これらの理由から、「「世間」の現象学」と「「空気」と「世間」」は、人間関係に息苦しさや違和感を感じている人におすすめしたいと思います。特に、先生から紹介していただいた「空気」と「世間」では、世間と空気の正体を突き止め、振り回されない方法を探ることが目的とされていました。「世間」の現象学でも、世間を現象学的視点から具体的に捉える内容になっており、人間関係に悩む自分にとって、この本を読むことで見えないものと戦う必要がなくなり、非常に楽になったと感じました。従って、同じように人間関係に悩む人にとって、この本は非常に役立つと考えます。
日本音響学会 音のなんでも小辞典フランソワ・デュボワ 楽器の科学 楽器の音はどうやって鳴らすのか。ピアノは鍵盤を押すと音が鳴る。リコーダーは息を入れれば音が鳴る。誰しも何らかの楽器を触って音を鳴らした経験はあり、少なくとも1つは楽器の音を鳴らす方法を答えられるだろう。では、あなたは「楽器からどのように音が鳴るのか」と聞かれたら説明できるだろうか。不思議なことに、楽器の奏法を理解していても、楽器の音の成り立ちは分からないのではないか。
 本書ではそのような楽器の音が鳴る仕組みをはじめ、「楽器」に焦点を当てた5つの章で構成されている。音とは何か、という内容からコンサートホールの音響科学まで、楽器そのものの説明だけでなく、楽器に関連する内容が複数の分野から取り上げられている。楽器の構造や音の科学と聞くと難しく感じるかもしれないが、著者の親しみやすい語りと図・写真による解説で、楽器を演奏しない人でも手に取りやすい1冊となっている。実際に世界で活躍するプロ奏者との対談も掲載されており、科学を学ぶための本というよりは息抜きの間に気軽に読めるような本となっている。
 この本では読者特典として、著者が作成した楽曲をダウンロードして聞くことができる。本書の中で登場した楽器も使用されていて、本書と併せて聞くことでより理解を深められる。音についての解説のみで終わるのでなく、実際に音を体験できるのは良い点だといえる。悪い点を挙げるならば、様々な楽器が登場するにもかかわらず、名称のみでどのような楽器なのかが想像しづらいことである。読むだけではどのような楽器なのかが分からないため、登場した個々の楽器を詳細に理解しようとするのは難しいだろう。
 楽器を「科学」から見るため様々な説明があるものの、文系でも十分理解できる1冊である。講義の内容ともつながる箇所があるため、受講生ならば理解できるか心配する必要はないだろう。楽器について興味がある人はぜひ一読してほしい。
矢野茂樹 「無限論の教室」玉野研一 「無限とは何だろう」私が紹介する参考図書は、玉野研一さんの著書、「無限とは何だろう」です。「無限という言葉は魅力的である」そんな言葉から始まるこの本は、数学が好きな人、特に数学を専門的に学び始めている人におすすめです。この本の大きな特徴として、図やグラフ、イメージ図がたくさん使われているというものがあります。そのため、少し難しいことが書かれていてもイメージしやすいため、理解に苦しむということは少ないはずです。内容としては、高校の頃に数学の授業で習ったこともあるような素因数分解やユークリッドの互除法などといったものから、大学1年で習うようなRSA暗号や、巡回セールスマン問題、ε-n論法を用いた収束、マクローリン展開、テイラー展開など、さらには、非ユークリッド幾何学や、順序数、選択公理といった大学二年以降に習うようなものも多々あります。その中でも私がこの本で一番興味を惹かれたのは、一つの球が二つに増えてしまうというバナッハ-タルスキーのパラドックスです。直感的には絶対に不可能である、一つの球を二つにするということが数学的に矛盾のない方法で出来てしまうということに驚きが隠せません。最後に、この本のあとがきにある「視点を変えるだけで、ものごとの見方が全く変わってしまう。そんなことを少しでも感じ取っていただければ幸いである。」という言葉からも読み取れるように、この本から数学特に無限というものを通して、人生において大切なことである。物事を多角的に捉え、考えを深めていくということに気が付くことができる、そんな自分自身の教養を深めていけるような一冊になると思います。
柳田益造「楽器の科学」佐伯茂樹「カラー図解 楽器の歴史」 この本の特徴は全ページカラーで写真・図解付きなところだ。オーケストラを全く知らない人でも楽器の編成から音が出る仕組みが紹介され読みやすい。既に音楽に通じている人にとっても、各楽器の歴史、マイナー楽器、現在の楽器との相違点や講義で習った倍音や楽器内での空気の振動の仕組みが書かれており、さらに楽器に興味が湧くこと間違いなしの内容である。 第一章では各楽器の進化について触れている。楽器がどのように変わったことを知る中で、ルネサンスやバロックなど各時代の特徴や世界の国の時代背景も知ることができる。つまり、楽器に詳しくない人でも世界史や芸術に関心のある人ならより楽しむことができる。何度も改良されたヴァルブは空気の通り道が分かりやすく図解されており、モノ作りが好きな人にとっても参考になる内容である。また、ヴァルブシステムを採用したトロンボーンは見応えがある。トロンボーンのイメージをがらりと変えるものになっている。続く第2章ではオーケストラ編成の歴史が記載されており、楽器編成から楽曲が作られた年代が分かるかもというワクワクが得られる。 第3章からは少し専門的な内容が入ってくる。昔と現在の楽器を比較しているが、決して現在の楽器が優れていると主張したいわけではない。二つの楽器の共通点や相違点を見つけて、その時代のニーズを知るきっかけとなるのだ。読んでいく中で、将来コンサートホールや鑑賞の仕方が多様になり、楽器の仕組みが変わるかもしれないと想像が膨らむものになっている。また、楽器をやっている人は解体しないと見られない楽器の内部を見ることで、息の入れ方やタッチの仕方など奏法に意識を向けようと思うに違いない! 総じてこの本は明快でどのページから読んでも楽しめるものになっている。写真付きで楽器の説明もわかりやすいため、読むと楽器の音が聞こえてきそうだ。ぜひ読んでみてはいかがだろうか。
佐野洋子・加藤正弘 脳が言葉を取り戻すときテンプル・グランディン ビジュアルシンカーの脳:絵で考える人々の世界物事を考えるとき、言葉で考えるのか、イメージで考えるのか、人によってさまざまである。言語思考の人は考えていることを言葉にすることができ、言葉にできないならば考えが足りないと思い、イメージ思考の人は頭の中を見せることができればそれがもっともよく、言葉で表すと不完全であるように考える。前者はテキストシンカー、後者はビジュアルシンカーと呼ばれる。この本は、ビジュアルシンカーでありかつASDで4歳まで言葉が出なかった筆者が思考法は前述のように複数あることを筆者自身の体験やビジュアルシンカーとされる成功者の例を挙げながら書かれている。人と人とのコミュニケーションは大部分が言語であるが、言語を習得する前の幼児期では人はみな脳内では画像的に物事を処理し、それを行っている。すなわち全員がビジュアルシンカーなのである。学校教育のなかで言語を獲得していき、多くの人が言語思考へと変わっていく。筆者は、現在の教育は言語思考を身に着けさせる傾向が強く、「賢い人」というのは言語思考者の上位に位置する人でそのような人々が社会のルールを決定していくことがほとんどであり、そこにビジュアルシンカーの人間の生き辛さの原因があるという。またアスペルガーを持つイーロンマスクや読み書きが困難であったものの独自の経営手腕で一代にして巨額な富を築いたIKEA創業イングバルカンプラードなど、現在の教育では彼らのようにビジュアルシンカーの才能ある人間を潰してしまう可能性が高いという。この本を通して認知の特性の違いを理解することは高い言語化能力が優秀とされる現代でその基準を考え直す良い機会になると私は考える。
日本音響学会 音のなんでも小事典米村俊一 「音」を理解するための教科書まず著者を調べてみたところ、米村俊一さんは新潟大学大学院修士課程修了されていて、驚いて手に取ってみたところ非常に面白かったので紹介することにしました。この本は、「音」という現象に関する物理的な観点からの説明と、「音」を受け取る側の心理学的な観点からの説明がなされています。前半は、「音の面白さ」、「認知」、後半では、「音響・音声技術」について紹介しています。前半では、講義で学んだことを総復習することができます。後半では、その技術の活用方法を具体的な例とともに説明しているのでより理解を深めることができます。また全部でほぼ文章で書いてあるので、最初は読みづらいと感じました。しかし、12章に分かれていてさらに章の中でも細かく分かれているので、本を読む苦手な自分でもスムーズに読み切ることができました。この本は、狭く深くではなく、広く浅く音楽の知識を網羅しているかつ上にも述べたように講義でやった事例も出てきて非常に読みやすいと思います。後半に関しては、音響や音声の機器の技術について学ぶことができるので、音に興味を持っている人だけでなく、コンピュータや、オーディオ技術などに興味がある人も読みやすく知識をつけることができます。幅広い分野にマッチするような一冊になっています。ぜひ読んでみてください。
菅俊一,、高橋秀明,、佐藤雅彦 行動経済学まんが ヘンテコノミクス小峰隆夫 日本経済の基本この本は、題名の通り経済学の基本的な部分について詳しく説明されてある。まず、なぜ私がこの本を選んだのかというと、第1ターム時に経済学入門、及び日本経済入門の講義を受けていたのだが、正直授業中に全てを理解できたかと言われればそうではなく、分からない点や疑問に思った点がいくつもあった。そのときに、この本を親に勧められて読んでみた。すると、今までわからなかったことはもちろん、講義の内容を発展させたことまでこの本に書いてあり、経済というものをより深く学ぶことができた。よってこの本を薦めることにした。この本の構成としては、「日本経済の姿」、「雇用・産業・企業の働き」、「経済政策のポイント」、「財政、金融の課題」、「日本経済の構造的課題」、「世界中の日本」の6部構成になっており、それぞれの章で重要となるキーワードを読者が分かりやすいように説明されている。また、見開きのうち左側のページにはそのキーワードの説明がなされており、右側はその説明をより理解しやすくするためにグラフや表が描かれており、経済学に詳しくない人や、苦手な人でも読むことのできる本となっている。特に、6つの章のうち、「日本の構造的課題」の章は、将来、金融関係の仕事や経済学をあまり使わないような職に就く人でなくても知っておくべき事例や言葉がたくさん載っており、読む価値はあると思う。例えば、「ニュー・パブリック・マネジメント」というワードは、この章で説明されているものの一つで、民間部門の行動原理を公的部門に働かせることで公的部門の提供するサービスの質向上や財政負担軽減を目指すというものなのだが、私含め多くの人はこの言葉を初めて聞いたと思う。しかし、この考え方は多くの企業に精通するものであり、知っていて損はないものである。このように、今後の人生に役に立つような知識を手に入れることができるこの本を薦めたいと思う。
「行動経済学漫画ヘンテコノミクス」 佐藤雅彦 菅俊一「だから僕はググらない」 浅生鴨まず、私がこの本に興味持ったのは作者のペンネームです。浅生鴨(あそうかも)「あ、そうかも」といった何か閃いたのかのようなペンネームに惹かれました。次に、私が初めに「だから僕はググらない」を見つけた時、この本は何でもすぐにインターネットに検索すれば出てくるようなインターネットに頼りきっている現代社会についての本なのだろうと思いました。購入した後、読んでみたところ、私が抱いていたこの本のイメージとは全く違うものでとても面白くユーモアのある本でした。まず、作者は広告やポスターを制作していたりする方でした。タイトルの「ググらない」についての説明があり、作者は検索はしているし、むしろ検索は上手い方だとのこと。「じゃあググってるじゃん」と思ったり、タイトル詐欺のようにも感じました。しかし、その後に書かれていたのは「僕は検索をするより前に妄想をしている」でした。作者はほんの些細な事柄から妄想を始め、そこから連想し、ポスターや広告作成に至るらしいのです。そう、この本のメインテーマは「妄想」だったのでした。この本では主に課題解決の際、どのように課題解決のアイデアを出すのかという作者の考え方を伝えようとしています。大学の授業でもよくあるグループディスカッションなどでもそのような場面はあります。意見をそれぞれ出すような場面でありがちな「意見がかぶったらどうしよう」という思考にも注目し、よく人はオリジナリティを大事にしろと言うが自分しか考えないような意見を出すのがオリジナリティなのではなく、自分で些細なことから妄想、連想し、辿り着いた意見がかぶったとしてもそれを思いついた過程がオリジナリティだということをこの本から学ぶことができました。この本では前述したオリジナリティの部分以外にも妄想からたどり着くことができる様々な考え方が書かれています。ぜひ読んで見て頂きたいです。
チャールズ・ダーウィン 訳:夏目大「ダーウィンの『種の起源』を漫画で読む」蔵琢也「美しさをめぐる進化論」この著書は、生物としてのヒトの美醜やそれに関連した性淘汰に関する話題を、社会生物学あるいは進化生物学的な視点から捉え、過去の進化における由来や適応的な意味から考察を加えたものとなっている。人の容貌容姿については、これまでに心理学や社会学の観点から考察されてきたが、この著書では進化生物学の理論を大規模に援用して考察しているため、ネオダーウィニズムと称される現在の進化生物学の理解が必要となる。ダーウィンにより、現生の生物が進化した結果生じたことが、突然変異によって常に供給されている種内変異とそれにかかる淘汰といった簡単な進化の原理とともに提示された。そしてダーウィンの進化論をその後の集団遺伝学と結びつけて体系化した理論をネオダーウィニズムと呼んでいる。ヒトの容姿容貌の優劣が、配偶者選択や適応度にどれほど影響しているかを、生物学的に考察している。生物学的視点で考察している以上、ジェンダーや多様性の部分は考慮されていない。また、著書が書かれて30年以上経過しているため、現在と、性差への敏感さがかなり異なる。しかし、生物学的進化に伴って構築されたヒトの美醜の概念を体系化していく過程は大変興味深い。ヒトの頭蓋骨や骨格形成の進化で、どのような淘汰がかかっているかを詳しく考察している。また、顔の美醜において、全体的な形や各パーツの総合的な配置が重要になってくると述べ、最も重要なパーツは目だとしている。そして、霊長類の感覚は視覚が優位のため、配偶者選択にも視覚による相手の情報が多く利用されているとする。赤子がよりヒトの顔に近い図形を注視するというように、ヒトには生得的に顔認識の配置が備わっており、筆者は最も顔らしい図形を顔の元型と呼び、美的感覚の進化とともに、ヒトは調和の取れた顔を、より美しいと感じるとしている。しかし、後天的な影響を受ける現実の美の基準は個々人で異なるとしている。
図解 感覚器の進化 著者:岩堀 修明絵と文章でわかりやすい 図解雑学 音のしくみ 著者:中村健太郎 音は、私たちの周りに常にあるものです。たとえどんなに静かだと感じられる状況でも、耳を澄ましてみると必ず音はきこえてきます。それでは、音とは、一体何でしょうか。普段の生活で音はあって当たり前のものなので、どのようなものでどんな性質を持っているから改めて問われてみると、うまく答えれられないのではしょうか。音の本質は、空気のうごきというとてもわかりやすい現象で、けっして難しいものではなく、基礎については近代にはあらかたわかっています。それでは、人間は音について知り尽くしたか言うと、そんなことはありません。音は、この100年ほどで、物理だけではなく、エレクトロニクス技術や医療など非常に幅広い分野と関わりを持つようになりました。しかし、最近では学ぶ内容が多いためか中学校や高校では、音については他の分野に比べて、学びに十分に時間が割かれている印象がありません。この本は、そもそも音とは何なのかに始まり音がどのように発生して伝わっているのかという音の物理的しくみから、音色などといった人間が感じている音の特徴、人間が耳でどのように音を感じているのか、さらには、電気で音を伝える技術や音を使った工業的技術についてなどすごくバラエティーに富んだ「音の仕組み」について、身近な話題を例に挙げながら、わかりやすく説明しています。各章ごとに細かく話題が分けられており、1つの話題につき絵や図が比較的多く、文章がそれほど長いわけではないので長ったらしい文章を読むのが苦手な人や音についてピンポイントですぐに知りたい人には、すごくおすすめで、普段あまりに身近過ぎて気付かなかった音について基礎から最新技術まで解説しており、音について新たに興味をもってもらって音に関するさまざまな面での知識を深めることごできるきっかけになる1冊だと思います。以上が私が見つけたおすすめの図書です。
音のなんでも小事典 日本音響学会音を視る、時を聴く この本の内容を簡単に表現すると、音楽と哲学を融合させることを目指し、時間や感覚などの概念について深く議論している本となっています。少し難しそうに聞こえますが、本を読んでみると、哲学者と音楽家の対談が書いてあり、小難しい単語がずらりと書いてあるような専門的な本よりもずっと読みやすくできていました。 この本の内容としては、音楽的な視点から時間や感覚などの概念について、音楽の時間、空間的な特性についてなどを議論し、そこから音楽と哲学の関係性を見出したり、音楽的視点から哲学的な考えを探求したりしています。例えば、私が一番音楽と哲学の関係を分かりやすく議論していると感じた内容を挙げると、”音楽は単なる音の羅列ではなく、ある世界観や存在論的問題を表現していて、それらから音楽が捉える世界の本質的な性質を考える”というものです。少し難しそうに感じますが、実際読むと対談形式ということで難しい言葉も崩して説明されていて分かりやすく、なるほどなと感じる内容が多くありました。 この本は、音楽や哲学に関してほとんど知識のない私でもよく理解でき、本を読むのがあまり得意でない私でも対談形式というのもあって飽きずに読めました。新聞のように活字が並んでいるのを読むのが苦手な人にもおすすめでき、よく哲学的な思考をする人にも、新たな視点から物事を視るようになれるので向いています。このように、分かりやすく深い内容となっているため、様々な人におすすめできる本となっています。
鴻上尚史 「空気」と「世間」阿部謹也 学問と「世間」 今回私が紹介する本は阿部謹也著作の『学問と「世間」』という本である。 日本では、個人と社会の間には「世間」があり、それが個人の行動を規制している。学問に関して言えば、学会や学部などが「世間」にあたり、若い研究者のテーマ設定などに影響を与えている。学生は必ずしも自分がやりたいと思うテーマを選ぶことができないのである。また、教師と学生との関係にも「世間」は大きな力を振るっている。学生が自らテーマを選ぶことができない場合も多く、学生が自らテーマを決めても教師がそれを認めないことも珍しくない。 多くの国民は大学入学には大きな関心を寄せていて、入試問題や入試のあり方については様々の意見を持っている。しかしながら、国立大学のあり方や国立大学における学問・研究のあり方についてはほとんど関心が寄せられていない。それらの国立大学は国民の税金が使われている。そこで営まれている学問・研究は果たして国民の需要を充たすものなのかどうかは必ずしも十分な検討がされていない。 国立大学における学問・研究は国民にとって真の意味で必要なものなのか。本書はこの問題について人文社会科学を対象として検証しようとしている。本書は全四章で構成されていて、第一・ニ章ではまず日本の人文社会科学のあり方を「世間」をいう枠組みを中心として観察し、その問題点を挙げている。そして後半の第三・四章ではそこで提起された問題を学問論として位置づけ、検証を行っている。 本書と参考図書である『「空気」と「世間」』はどちらも「世間」について取り上げている。その参考図書を読んだことがあるなら、本書の内容はさらに理解できるようになるだろう。そのため、本書はその参考図書を読んで「世間」に関心をもつようになった人に向いていると思う。そして「世間」の問題を通して今後の学問のあり方について考える良い機会になると思う。
「空気」と「世間」鴻上尚史同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか鴻上尚史 佐藤直樹皆さんは「同調圧力」という言葉をご存知だろうか。聞いたこともあるし実感したこともある人もいるだろう。似たような言葉で分かりやすく説明すると「空気を読め」とでも言い換えられるだろうか。この本はそんな「世間」や「同調圧力」に対する考え方について詳しく書かれている本である。まだどんな内容か実感が湧かない人もいると思われるので1つこの本の内容を紹介したいと思う。例えば日本特有の「お返しのルール」についてだ。モノを貰ったら必ず返さなければならない。という日常の中に潜むルールがある。お中元・お歳暮から出産祝いや旅行のお土産など皆さんも何かしらお返しをしたことはあるのではないかと思う。そのお返しの文化がLINEの既読無視を問題してしまう実態があると言われている。これも1つの同調圧力の1つである。頂きっぱなしでは悪いと考えてしまいつい返信をしなければならないと思ってしまうことが多々ある。このようにこの本にはそのような日常の中に潜む同調圧力などが紹介されていたり、世間のルールというものに対して疑問を抱き一体何がどのように影響しているのかを考え、学ぶことが出来る。もし今何かグループやサークルあるいはバイト先などで空気を読むことで精一杯になっている人がいるなら是非この本を読んで欲しい。それはきっとあなたのせいではない。そんな風に少しでも気持ちを楽にできると思う。あるいはそのような世間の空気などに疑問を抱いている人も是非読んで頂きたい。そしてこの本を読んでただ単に終わるだけでなく、今の世の中を見て次に活かして頂きたいと思う。そんな面白い本を是非皆さんに読んで頂きたい。
哲学の謎 野矢茂樹私はどうして私なのか 大庭健 この本では「自分がいるとはどういうことなのか」という問題について哲学する。この問いについて考える上で、著者は「私」という一人称代名詞を用いる。これは、自分の存在と「私」という言葉を使えることの間には結びつきがあると考えているためである。 「私」という概念が成り立つのは「他者」があってこそである。私たちは「他者」の存在によって自らの存在を成り立たせている。もしも世界でただ一人、あなただけが存在するとしたら、あなたは自分の存在を意識できるのであろうか。私たちは他者との比較によって自らのアイデンティティを確立している。他者との関わり合いは、「自分がこの世界にいること」を確かめるためにも必要不可欠なのだ。 この本を読んで、私は著者の考えを完全に理解できている自信がない。また、著者の考えすべてに納得できたわけではない。疑問に思うこともたくさんある。しかしながら、この本を読むことで私には得られたものがある。それは、「あたりまえだと思って疑問にすら思わないことへの反省」である。自分を存在させているものは何なのか、鏡に映る自分が自分であると理解できるのはなぜなのか、著者はこうした疑問を抱き、私たちに共有してくれる。あまりにもあたりまえであるから、そもそも疑問に思わない人は多いと思う。無論私もそうであった。また、このような問いについて考えることに意味を見出せない人もいるかと思う。私自身、はじめは考えたところで無駄なのではないかと感じていた。しかし、本を読んで、自分の生きる世界が広くなったように思えた。自分の思いもつかなかった謎にはっとさせられ、著者の意見を知ることで、自分はどう考えるか考えさせられた。自分の視野を広げたい人にぜひともおすすめしたいと思う。 この本では、言語の分析を軸に一つひとつの問いを考えていく。言語に興味があるという人にもおすすめしたい。
豊田 泰久、林田直樹、潮博恵 「コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて: 音響設計家・豊田泰久との対話」フランソワ・デュボワ「楽器の科学 美しい音色を生み出す『構造』と『しくみ』」 本書は、音楽に欠かせない存在である「楽器」を支える、理論と技術についてくまなく伝える本である。基本的な「音」の性質、楽器の構造はもちろん、演奏の場であるコンサートホールに施された工夫に至るまで、多くの紙幅を費やして説明している。説明にあたって言及が必要な音響物理についても、その初歩から丁寧に手ほどきをしてくれる。
 音色は、我々が音楽を聞く時に必ず感じる、音楽に欠かせない要素でありながらも、それがどういったものなのか捉えるのが難しい。本書の説明を通して、異なる楽器を鳴らしてみると音色が異なること、初めて演奏してみた楽器で、経験者のような音が出せないこと、こうした当たり前だけれどもなぜ起こるのかイメージしづらい現象の仕組みを納得して理解できる。
 しかし、本書が扱うのはこうした純然たる物理のあり様だけではない。例えば、客観的条件はもちろん、演奏者や聴衆の好みをも鑑みた音響技術者の審美眼など、人間の主観的な感性が重要であることを感じるエピソードが節々で紹介されている。 また、本書の最終章では、世界的なソリストである演奏家達へのインタビューを通して、良い楽器とは何か、自らの楽器とどのようなパートナーシップを築いてきたかなど、彼らの楽器論を読むことができる。読者は、あくまで物体にすぎない楽器の「生きた姿」が眼前に立ち上がってくる様子を目の当たりにすることだろう。
 このように、本書では、本授業と同じように物理法則に基づいた音、音楽への理解を助けてくれると同時に、授業で深堀り出来なかった演奏環境としてのコンサートホールや、演奏者目線の語りにも触れることができる。楽器を演奏する人はもちろん、音楽を愛する人皆さんにお勧めしたい本だ。
ヘンテコノミクス  佐藤雅彦・菅俊一・高橋秀明思わずためしてみたくなる行動経済学   平野敦士・カール 今10万円をもらうか、1か月後に11万円をもらうか選ぶとしたらあなたはどうするか。また、1年後に10万円をもらうか、1年と1か月後に11万円をもらうかを選ぶとしたらどちらの選択肢をとるか。この問いに対してほとんどの人が同じ選択をとる。それがなぜなのかを理解するには人間の心理を考えてみる必要がある。この本は人の日常行動を漫画で描き、その行動を起こす心理をわかりやすく説明している。 まず10万円をもらうか、11万円をもらうかという問いに対してである。多くの人が前者では10万円をもらうが、後者では11万円をもらう選択をする。1か月待てば1万円増えるという事実が同じでも今から1か月と、1年待った後の1か月は感じ方が変わる。時間整合性のある人以外は先のことよりも今を重要視してしまうのだ。これはダイエットにおいても同じことがいえる。なかなかダイエットが始められない人は痩せた未来よりも美味しいものを食べられる今を優先しているのである。 また、子供のころに、親から「早く帰ってきなさい」と強く言われれば言われるほど帰りたくなくなるのに、「美味しいご飯を作って待ってるよ」と言われると早く帰りたくなった、という経験はないだろうか。これは強制するのではなく、さりげなく意識させるように誘導し、望ましい方向へ行動を促す、ナッジ理論と呼ばれるものである。この理論は様々な場面で活用されている。例えば、スーパーなどのトイレの貼り紙だ。「汚すな!」といった強制的な貼り紙ではなく、「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」という貼り紙が張られている。この貼り紙は人のきれいに使わなくてはならないという気持ちを呼び起こしているのである。 こうした人の行動について学ぶことで自分の行動を客観視することができるのではないか。この本を通じて自分にとってよりよい選択が何かを考え、行動しようと思った。
小方厚,音律と音階の科学アンリ・ゴナール,藤田茂,理論・方法・分析から調性音楽を読む本この本では調性音楽の入門的な内容を扱っている。そのため、「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義を受講した方であれば、講義で得た知識をより具体的に学ぶことができるだろう。ただ、楽曲を例示して分析する場面が何度かあるので、容易に理解するには楽譜が読めると良いかもしれない。この本では講義でも学んだ、協和と不協和、弛緩と緊張について述べられている。協和と不協和が、安定性と不安定性にどうつながっているかを、和音と和声法のレベルで考察する。その中で、不安定性を計るものさしとして、和音の「緊張係数」を用い、実際にシューマンの<詩人は語る>において分析を行っている。すると、そこには明確に一定方向に向かう時間としての不安定性と、あらゆる可能性が開かれていく不安定性の2種類があることが分かったのだ。また、短調についても着目している。長調と違い、短調には旋律的短音階下行形、旋律的短音階上行形、和声的短音階の3つの様態がある。そして、短調独自の性質がうまく利用された事例として、ショパンやシューマンを取り上げる。短調には、長調に特有の「上方」ドミナントと正確に対をなす、「下方」ドミナントが存在するということを、それらは示しているのだ。さらに、「古典期の調性に潜むもの」という章では、四小節枠の重要性の裏付けを行っている。四小節枠とは、楽段を楽節に分節する特別な方法のことである。四小節枠が働くことで、ひとつの楽段は決まって4小節に分けられる。すると、旋律・和声の足踏みを揃えることが可能になり、四小節枠に枠づけられた楽段の均斉のとれた歩調は、古典期には日常的なものになった。そして、ベートーヴェンのソナタの考察によって、音楽家側の「つくる」と聴き手側の「聴き取る」の関連をみている。このように、この本では西洋の音楽的事例が多く扱われるので、特に西洋音楽に関心のある方には、非常に興味深い本であると思う。
ルドルフとイッパイアッテナ子どもの自立と授業の科学ルドルフとイッパイアッテナを読み、私はこの本は「自立」をテーマにした本であると感じたため、この「子どもの自立と授業の科学」という本を紹介します。 まず、「自立」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるでしょうか。この本では子どもにおける「自立」を学校の授業でどう育んでいくかについて述べられています。ここで、「集団学習における自立」について焦点を当てます。この本における「自立」とは生徒自身が主体性を持つことであり、それを育むためには、集団による学習が必要であると述べられています。グループ学習というのは授業を受け持つ教師がそのような授業を展開する必要があり、たとえどれだけいい教材でも、どれだけ学習意欲のある学生がいたとしても、教師が一方的に教えるようなスタイルでは生徒の主体性は身につくことはありません。学力や主体性はあくまでも学習主体としての子どもの能動的な学習活動を通してのみ獲得されるものであることから、教師が押し付けるのではなく、生徒たちでお互いの意見を交えながら活動して行くことが好ましいと綴られています。また、役職決めにおいて1人1つは役職に着くというルールを用いている状況は一見良いように思えますが、これはただ全員参加を強調しているだけであり、主体性を育むことには繋がらないと考えられます。 このようにこの本には学校教育における主体性の育み方、集団活動のあり方や、生徒に対する教師の関わり方などが書かれています。私は将来、教師になりたいと考えているため、この本を手にとりました。学生においては、教育実習などの前に目を通しておくと授業におけるグループ活動の意義や考え方の理解を深めることができるため、私と同じく教師を目指している学生にはぜひ一度読んでいただきたい作品です。
「音律と音階の科学」月溪恒子 「日本音楽との出会い」 私がこの本を選んだ一番の理由は、「音律と音階の科学」を読み、もっと深く「日本の」楽器や音楽理論のことについて知りたいと思ったからです。日本人として日本の楽器や音楽について説明できるようになりたい、という思いや私自身一時期箏をやっていたこともあるため、日本の楽器について興味があった事も選んだ理由です。 日本音楽には、文芸や舞踏などの他芸術と結びついたものが多いこと、宗教儀礼として行われるものがあることなど音楽自体も細分化することができます。それゆえ一見親しみがたいものとして捉えられがちですが、この本はそう言った点を噛み砕いて親しみをもって日本音楽の理論や歴史を追うことが出来ます。また、古代、中世、近世の3つに分けた時代区分とともに楽器の歴史を追うこともできます。私のやっていた箏についても、いつ何処から伝わり楽器自体がどのうような変化を遂げてきたのか、また箏曲についても時代の特徴を伺うことのできる音楽理論の記述がなされていました。このように、時代の流れとともに楽器の歴史を追うことで歴史への理解もさらに深まり、楽器の成り立ちや時代ごとに変遷してきた音楽理論を知ることで普段目にしたり実際に演奏することが少ない日本の楽器、日本の音楽について多方面からのアプローチをかけることができます。私は、日本の楽器に少しでも触れたことのある方や音楽の観点から歴史を見てみたい方、日本の音楽の変遷について古代から近現代に至るまでの幅広い歴史を学んでみたい方にこの本をオススメしたいと思います。
哲学の謎/ 野矢茂樹心を動かす音の心理学~行動を支配する音楽の力~ / 齋藤寛 この本は、音楽がなぜ現在にかけて進化を遂げてきたのかを書いた本です。時代の中で必要ないものは淘汰され廃れていきますが、音楽は淘汰されなかった……娯楽としての役割を担う部分も多く、生きるために絶対的な必要事項ではない音楽がなぜここまで進化を遂げることができたのでしょうか。まず最初に人類の進化の過程の中でいつ音楽と呼べるものが生まれたのか、生物としての生存戦略として音楽が必要だったわけなどについて書かれてあります。そして、脳の構造と音楽の関係性についても書かれています。好きな音楽を聴くと、特定の物質が分泌され聴き手は気持ちよさを感じます。それは食事や性行動、睡眠、薬物依存と同じ気持ちよさを得ることができます。さらに音楽は脳全体を刺激するものでもあり、とある脳機能の損傷により言語能そのものに支障はないものの、メロディーの違いを認識できない人でもその曲が悲しい曲調であるのか明るい曲調であるの判別はできると言います。続いて、ストレスや身の回りのこまごました出来事と音楽の関連性について書かれています。現代のストレス社会における音楽の効果や、クラシック音楽を聴く効果などです。特に共感したことは、悲しい時は悲しい曲を聴くのがいい理由という項目です。その後も飲食店のBGMにを例に音楽のもたらす効果について書かれています。お店のコンセプトとの兼ね合いを考えて店内BGMを選曲したり、テンポの速い遅いを考慮して選曲したりなどこういった点でも音楽が客や店内に与える影響は大きいものです。ただの娯楽ではない「音楽」の脳科学的な、心理学的な面が中心の内容になっています。視覚情報が中心の生活において聴覚は意識を向ける機会が乏しいため改めて考えていると経済にも音楽という分野はものすごく関わってきます。
ダーウィン 『種の起源』を漫画で読むレイチェル・カーソン 沈黙の春 この本は今から約60年前に出版された本ではあるが、現代に生きる私達も考え続けなければならない、環境問題について詳しく書かれている。 第二次世界大戦後のアメリカでは後先考えずに除草剤や殺虫剤などの薬剤をあちこちに撒き散らしていた。その結果、排除目的である植物や昆虫だけでなく、むしろその他の小動物や家畜、鳥や魚が皆殺しになった。たとえ許容量を守って薬剤を散布していたとしても、生物濃縮により思いがけない環境汚染が生じる。そうして濃縮されて生物の体内に蓄積された毒物は、回り回って私達人間に害を及ぼす。 日本でも戦後の高度経済成長期の裏では、四大公害病が発生している。そのなかでも水俣病と新潟水俣病は、有機水銀による水質汚染や底質汚染を原因とする、魚類の植物連鎖を通じて人の健康被害が生じた。土や川に流れる有害物質はほんの微量でも、食物連鎖によって生物濃縮が起こり、最終的には人間にも被害が及ぶ。 自然を操れると信じた人間の傲慢さが、生態系を破壊し、多くの生物を殺してきた。化学は私達の生活を便利にしてきた側面もあるが、一方で複雑な均衡を保っていた自然を破壊し、最終的に自分たち人間を滅ぼしかねないものとなっている。 本書では人間と自然が共生するにはどのような考え方をすればいいのかが書かれている。自然を人為的にコントロールしようと躍起になるのではなく、自然を自然の力をもって収めるほうが将来的に良い。この本はそうした将来的に自然に害が残りにくい別の方法をいくつか紹介している。 本書は自然に興味がある人だけでなく、地球で生活する以上、一度は読んでみてほしい。そしてこの本を読んで少しでも環境に対する意識が変わると良い。
野矢茂樹 哲学の謎飲茶 14歳からの哲学入門私が紹介するのは14歳からの哲学入門です。タイトルに「14歳から」と入っているように、本書は常識が打ち砕かれる思春期の人が、哲学者という誰よりも常識を疑い思考を深め続けた哲学者の考えを学ぶことで、現実とどのように向き合ってゆくかをのヒントとなることを目的としています。哲学者が何を考えていたか、を主題にしているためデカルト以降の近代哲学の主要な哲学者の思想や、考え方を非常にわかりやすく知ることができます。参考図書である「哲学の謎」は、日常の一場面などでのふとした瞬間に心に一瞬だけ生じる違和感を自問自答形式で深めていくという本です。本が進むに連れて内容も次第に深まり抽象度がましてゆきますが、文章を通して哲学的な用語や哲学者が登場することは一切ありません。わかりやすい言葉で書かれているからこそ、学問として行われている哲学とはどのようなものだろうかと読み進めるにつれ感じるようになります。そんなときに、この「14歳からの哲学入門」は中学生でも理解できるほどわかりやすい言葉と図解で近代以降の哲学の流れつかむことができます。哲学者本人が書いた著書、例えばニーチェによる「ツァウストラはかく語りき」など、は非常に難解ですし、原語で読むべきという意見があります。また、それぞれの時代の流れなどをくむことも難しいです。それぞれの哲学者や主義思想について勉強し始める前に、哲学という意識についてかんがえる学問が時代とともにどのように変遷を遂げてきたかをつかむことで、自分がどのような分野に興味にもったのかを全体の流れの中で位置をつかむことができます。ギリシャ哲学など近代以前の哲学については思想は本書では触れられませんが、近代以降については十分に流れを理解できます。この講義を通して常識に疑問を抱き、深く追及することに興味をおぼえ始めたすべての人が哲学という学問について理解できる良い入門書です。
トランスナショナルカレッジオブレックス『フーリエの冒険』エリアス・M・スタイン『フーリエ解析入門』自分はトランスナショナルカレッジオブレックスの『フーリエの冒険』を読んだ。自分は工学部で電子情分野を専攻している。まだ2年前期だがフーリエ変換もこれから深く学習するため理解しておいて損はないという点、また音についてフーリエ変換でできていることを知って衝撃を受け、より詳しくフーリエ変換について知りたいと考えこの本を選んだ。
フーリエ変換と聞くと、恐らく文系の学部の人や数学を苦手とする人は苦手意識を感じる人も多いだろう。しかしこの本は数学の中でも複雑で難しいフーリエ変換をわかりやすく丁寧に解説していて、苦手意識をなくす努力が緻密にされている。数学の苦手意識としては記号だらけ、イメージしづらいという点が多いと考えられるがフーリエ変換という通常は敬遠されがちなテーマも、親しみやすく理解できるため、苦手意識を克服できると考える。
また数学の複雑な概念をわかりやすく解説してくれるだけでなく学ぶ楽しさも教えてくれフーリエ変換に辿り着くまでの過程を順を追って理解でき、数学の面白さを実感できた。楽しめることは学ぶ上で一番重要なことでありこの難しい内容のフーリエ変換で学ぶ楽しさを実感できるのは非常に貴重な体験だと考える。
関連する本としてフーリエ変換についての他の本で学術的要素が強いエリアス・M・スタインの『フーリエ解析入門』という本を読んだが、やはりイラストやがあるのとないのではイメージのしやすさがかなり違い、理解度もフーリエの冒険の方が遥かに理解しやすいと感じた。具体例、イラストが豊富に使われているため視覚的にも理解しやすく、抽象的な概念が具体的なイメージと結びつくので頭に残りやすいのだと考えられた。
もちろん理系で数学や物理を学んでいる学生には読んでいただきたいが、数学が苦手な人や文系で数学や解析に興味がある人にぜひ一度読んでみていただき、数学に対する新たな視点を得てもらいたい。
鴻上尚史-「空気」と「世間」 阿部謹也-西洋中世の愛と人格「世間」論序説本書は西洋諸国に住む人々の国民性、およびその内面について世間や社会の観点から掘り下げていくものになっている。西洋諸国に住む人々と我々日本人は歴史的な背景も含めて、感性や価値観が決定的に違う。それは先日行われたパリ五輪の開会式を見ても明らかである。私の周囲の人間からインターネットに至るまでパリ五輪の開会式に対して批判的な意見であふれているように感じる(あくまで私の視界に入る中の話であるが)。しかし、フランスでは日本人が非としていることが是であると考えているのは明らかである。本書はそのような価値観の違いについて歴史と世間や社会の観点から考察し、できる限り西洋人を理解しようと努める書物である。本レポートで提示されている課題は、この文を読んだことで本書を読みたくなるような文を書くことであるが、正直なところ安易にこの本に手を出すことはあまりおすすめできない。本書は共通テストの現代文に出題される評論文ほどに難解であり、そのうえで注釈もついていないので読むのに非常に時間がかかる書物である。特に様々な書籍や論文からの引用が多数含まれているので、自分が一体何を目指して本書を読んでいるのか、今どのようなことが主題として挙がっており説明されているのか、そもそも何を説明したいのかを見失ってしまい、気が付いた時には別の話題に変わっているといった体験も多々あり、非常に理解に苦労したし何度も読み直すこととなった。では、別の本を紹介すればよかったのではないかと考えるかもしれないが、西洋人の個というものの見方や、西洋人の根本の価値観に大きく迫ることができるため、自分の読んだ書物の中では最も惹かれるものであった。今後西洋人と関係を持つ予定がある人間には非常に参考になる本だと思う。もし、本書を読もうと考えた際には西洋史やキリスト教世界について教養を身に着けておくことをおすすめする。
青木直史 ゼロからはじめる音響学太田健紘 物理と心理から見る音楽の音響音楽を研究対象として考えた場合、音響学だけでは説明できない。楽器の演奏には楽器が持つ振動体の振動に関する物理学が関係する。そして、楽器が発する音はホールでの反響を介して聴衆に伝わり、様々な感情が生まれる。つまり、音響学や心理学も関係するのだ。更には、音楽はコンピュータ上で作成・加工されるため、デジタル信号処理や情報工学も関連している。この本では、以上のような多岐にわたる分野と融合した形で音楽について6章にわたって解説されている。第1章では、各楽器の力学的な物理現象との対応関係が簡潔にまとめられており、講義内で得た楽器の分類に関する知識を補完するのに適している。また、フーリエ変換を用いた振動の仕組みの解説は丁寧に答えまで誘導してくれるため、専門用語が多いものの高校物理の知識があれば対応可能である。第2章では音の3要素と物理量との対応が述べられており、それらの抽出方法についても説明されている。第3章では、演奏音から受ける心理的側面の解明について述べられている。特に「芸術的逸脱」の研究内容は興味深く、撥弦楽器のトレモロ音を用いた測定が紹介されているので、撥弦楽器を演奏する学生にとっては新たな発見があるかもしれない。第4章では和声理論の説明の後、音響学をはじめ、音楽知覚認識や脳科学にいたる幅広い分野の研究が紹介されている。第5章では、ギターコード演奏における最適押弦位置決定システムなど、魅力的な音楽情報処理の応用システムが複数紹介されている。第6章では、音響学における研究のこれからの課題が述べられており、様々な分野の研究者が個々の研究テーマに留まらず、知見を融合させることの重要性が読者に示唆されている。この本では具体的な研究や技術が多く紹介されており、文理や物理の得意不得意問わず、音響学に興味のある学生にとって間違いなく読む価値があると言える本であるため、ぜひ手に取ってみてほしい。
宮崎謙一 絶対音感神話千住博 芸術とは何かー千住博が答える147の質問 この図書は著者の千住博さんが多くの質問に答える形で構成されている。授業では主に音楽のことを中心に内容が展開していた。この著書は音楽ではなく、美術について千住さんの質問に対する意見が述べられている。質問の数は100個を超えるが一つ一つが長文で説明されているわけではなく、難しい内容ではなかった。 質問の内容は、芸術と絵画、日本画と西洋画の違い、古典と現代美術の比較、制作と作品、芸術家と画家、芸術と教育、価格と価値、美術館と展覧会、東京都ニューヨーク、日本と日本人、芸術の力で構成されている。対照的なものの比較、似ているもの同士についての意見が述べられている。単純な質問なら、1枚を書くのに要する時間や、美術館では自分の目当ての絵だけを観ればよいのかという質問があった。一方で深い内容の質問は、画家がお金儲けすることの是非や、「答えは作品のなかにある。」ということの真意があった。個人的に好きな質問は上記に挙げた「画家がお金儲けをすることは悪いことなのか?」である。それに対する回答は、才能があり絵でお金を設けた人は本当に絵画が好きなのでお金には無頓着である。そして、お金を次のプロジェクトの準備に使ったり、より良い素材を買ったりする。だから、気持ちとしてお金儲けをしているわけではないということである。この質問が印象に残ったのは、純粋に絵画に向き合っている姿勢が伝わったからだ。画家は豪華な生活をしているイメージではなく、その理由はこれにあるかもしれない。また、この姿勢は画家だけではなく、小説家や音楽家などにも通じることだと考える。 この図書は音楽だけに留まらずそれ以外の芸術に触れたい人に手に取ってほしい。この本には絵具で絵を描くこと以外にも、絵画鑑賞のこと、芸術家に向いている性格など多角的な質問に溢れている。著者がそれらに対し、まっすぐな意見を述べているからである。
チャールズ・ダーウィン ダーウィン「種の起源」を漫画で読む百田尚樹 雑談力 あなたは雑談力とは何だと思いますか? 相手が興味をもちそうな話題の話をする力だと思っていませんか?実はそれは違うのです。真の雑談力とは話し手自身が面白いと思った話題をいかにうまく相手に伝えられる力なんです。そして初めの一言で相手にどれだけ興味を持たせられるかです。例えば、昔コロッセオでライオンと剣闘士が殺し合いをしていたことは有名ですよね。しかし、そのライオンは実はわたしたちが知っている動物園にいるようなライオンとは違うライオンだったのです。 このように初めの一言で相手に興味を持たせることができたら相手はそれ以降の話を聞きたくてうずうずすることになると思います。 この作品はいろいろな話題が詰まっています。 ぜひ読んでみてください! 
菅俊一、佐藤雅彦、高橋秀明「行動経済学まんがヘンテコノミクス」」鈴木敏昭「私たちは思い込みから逃れられない?「認知バイアス」を正しく活用する方法」 皆さんは「認知バイアス」という言葉を聞いたことはありますか?「音と音楽をめぐる科学と教養」の講義では、柱で隠れている犬の画像を見たり、存在しないはずの音がきこえたりするという様々な「思い込み」を体験してきたと思います。この本では、その「思い込み」について「認知バイアス」とともにこれがどのようなものであるか、そして「思い込み」がどのようにして起きるかについて分かりやすいイラストが添えて解説されています。
 「思い込み」と「認知バイアス」は同じように扱われることも多いですが、この本では具体的内容に関わるものが「思い込み」であり、それをもたらす思考プロセスを「認知バイアス」と呼んで区別されています。難しい名前がついていても自分が経験したことの中であてはまることがあると思います。例えば、占いを見て当たっている!と思った経験はありませんか?これは「バーナム効果」もしくは「フリーサイズ効果」といい、自分に当てはまる部分だけを後付けで自分の中から探し出してしまうものです。様々な思い込みについて学んでみたいという人にお勧めしたい一冊です。
 また、この本には思い込みチャート分析や思い込みからの脱却へのヒントがあり、楽しく学んで普段の生活にも活かすことができます。思い込みを抱えているのは自分だけではありません。身の回りにいる家族・友達、更にはあなたが入りたいと思っている会社の面接官までも思い込みから行動しているかもしれません。この本を読んで「認知バイアス」について正しい知識を得て思い込みからの脱却するだけでなく、相手の思い込みを上手く利用できるようになりませんか?読み終わった瞬間から周りに対する見え方が少し変わるかもしれません!
絶対音感神話: 科学で解き明かすほんとうの姿  宮崎謙一絶対音感  最相 葉月 音楽の世界には、私たちが日常的に体験しない、しかし確実に存在する神秘的な要素が潜んでいます。そのひとつが「絶対音感」。最相葉月氏の著書『絶対音感』は、音楽愛好者やプロのミュージシャン、さらには音楽教育に携わる方々にとって、深い洞察と驚きの連続を提供してくれる一冊です。
本書は、音楽に対する純粋な好奇心を持つ読者に対し、音感という能力がどのように私たちの脳に刻まれ、発達していくのかを解説しています。音楽の基礎知識がある読者はもちろん、音楽に興味を持つ初心者にとっても理解しやすい構成になっており、専門的な知識を必要とせずに楽しむことができます。
最相 葉月氏は、「絶対音感」という一見神秘的な現象を、科学的な視点から解明し、音楽教育の現場や研究者たちが抱える疑問に答えていきます。本書では、絶対音感を持つ人々がどのようにしてその能力を身につけ、またそれをどのように活用しているのかを、多くの実例とともに紹介しています。さらに、音楽における「感じる力」と「聴く力」の違い、音楽的な記憶と認知のメカニズムにも触れ、音楽教育の未来に対する考察も行っています。
音楽の神秘に迫る本書は、ピアニストや音楽家だけでなく、音楽に興味がある全ての人々にとって、知識の幅を広げる一助となるでしょう。音楽を聴くこと、演奏することがもっと楽しくなる、そんな新たな視点を提供してくれる一冊です。
『絶対音感』は、単なる音楽の技術書ではなく、音楽がもたらす感動と驚きを深く味わいたい方々にぴったりです。ぜひ、音楽の奥深い世界を知るための一歩を踏み出してみてください。音楽の「真実」を知ることで、あなたの音楽体験がより豊かで、感動的なものになることを願っています。
下條信輔 サブリミナル・マインド山竹伸二 無意識の正体 誰もが一度は、毎日通っている道は考え事をしていても間違えずにいつの間にか着いていたと感じたことやつい髪を触っているなどの経験をしたことがあるだろう。これらはすべて私たちが無意識に行っていた行為である。このように普段、無意識にやっている行為は他にもたくさんあるが、そのほとんどに気づくことなく生活をしている。しかし、無意識に気づいたとき、私たちは何を感じるだろうか。 本書は、「無意識に気づく」という経験は、人間が自由に生きる上でとても大事なものであると考える筆者が、そもそも無意識が私たちの生にとってどんな意味を持つのか、その本質を探究しているものである。全6章の構成になっており、章ごとにさらに細かく分けられているので、何について論じているか見失うことがなく、とても読みやすい。また、筆者が参考にしている哲学者のほとんどは高校の倫理で学習する人であり、例も多くあるので、理解しやすい。「無意識の発見」に始まり、「無意識とは何か」、「無意識はいかにして生まれるか」、「無意識を生かす方法」など興味深い内容となっている。さまざま視点から無意識について言及されており、私たちがどれだけ無意識に影響されているかがわかる。また「自分」とは何か、「自由」とは何かについて考えさせられる本でもある。無意識に興味がある人はもちろん、自分のやりたいことがまだわからない人、本当の自分を知りたい人にぜひ読んでほしい一冊である。 私は、「意識せずともできる行為」のお陰で、私たちは日々の生活を問題なく過ごせているという話が印象に残った。これを読んだときは、自分が無意識によって問題なく過ごせているという感覚がなく、どういうことかわからなかった。しかしその後、習慣化した行為には、都合の良い面と悪い面があることを前提とした説明がなされ、理解できた。他にもたくさん気づかされることがあり、読んで損はない本だと感じた。
斉藤洋 ルドルフとイッパイアッテナフランツ・カフカ 変身 この本は当時のオーストリア=ハンガリー帝国、現在のチェコ共和国にあるプラハのユダヤ人の家庭に生まれ、20世紀を代表する作家といわれるフランツ・カフカの代表作です。アルベール・カミュの『ペスト』とともに「不条理の文学」と呼ばれ、数多くの作品に影響を与えました。物語の中で描かれる、世の中に対する不条理さ、偏見は現代に通ずるものがあります。少々難しい内容ですが、人間の存在意義について疑問を抱いている人などにぜひ読んでほしい作品です。 セールスマンである主人公のグレゴール・ザムザがある朝目覚めると一匹の虫に変わっていました。5年前に破産してしまってから働かなくなった父親の代わりに一家の大黒柱として働いていたグレゴールはそれでも出勤しようとなんとかベッドから体を起こそうとしますが、人間とは姿がまったく異なる体はうまく動かすことができず、そのうち会社の上司も家にやって来ます。息子は体調が悪いのだとザムザ夫人が説明し、グレゴールも今に出勤しますよと声をあげ、なんとかベッドから起きあがり自力で部屋のドアを開け、家族と上司の前に姿を現しますが、グレゴールの世にもおぞましい姿に上司は逃げ出してしまいます。結局父親はステッキでグレゴールを自室に追い立てます。それから、グレゴールの世話は妹のグレーテが率先して行い食べ物を運んだり部屋の掃除をしますが、グレゴールは食べ物の嗜好や行動まで虫になってしまいます。主人公が虫に変わってから生活が一変してしまった一家は最終的にどうなってしまうのか。 この本を書いたフランツカフカは『変身』の書籍化にあたって扉絵に虫の姿を描かないよう要求したそうです。自分がもしある日突然虫に変わってしまったらどうするか、実際はどのような姿なのか想像力を膨らませながら読んでほしいです。
千住博著 芸術とは何かルドルフ・シュタイナー著/西川隆範訳 音楽の本質と人間の音体験この本の著者、ルドルフ・シュタイナーはオーストラリアやドイツで活動した神秘思想家、哲学者、教育者である。功績は医学、芸術、養育、農業など多岐にわたり、芸術においては音や言葉の質を体の動きによって表現する「オイリュトミー」を考案するという功績を残し、オイリュトミーは障害児に対する治療教育に用いられている。
この本では音楽とは何か、音楽と言葉の結びつきについて、音響について、そして音楽と人間のかかわりについて、思想家であり哲学者であるシュタイナー独自の視点から述べられている。
本講義、「音と音楽をめぐる科学と教養」では、音や音楽について脳科学や人体構造学、音響学などの観点から論理的に「音楽とは何か」という疑問に近づいていったが、この本では哲学とからめてその「音楽とは何か」という疑問を紐解いている。
著者は、精神哲学的な考察方法によって私たちの周囲の世界、自然全体が理解可能なものになるとし、私たちの周囲の外的な事実が人間の内的本質にとって深い意味を持ちうることが明らかになるとしている。それを利用して、なぜ音楽は全く一定の独自の方法で人間の魂に作用するのかということを考察している。
私は他者の考えを取り入れることや知識を増やすことは自分の意見を深めるためや他者へのリスペクトをもつために重要であると本講義で学んだが、そうであると感じたものは私のほかにも多くいると思う。哲学が苦手な人もいると思うが、音楽とは何か、本講義で自分の中での結論をもっと深めたいと思った人は、自分の考えを深めるうえでの材料としてこの本を読んでみるのはどうだろうか。
V.S.ラマチャンドラン 脳の中の幽霊小鷹研理 からだの錯覚 タイトルに引かれ、参考図書であったV.S.ラマチャンドランさんの『脳の中の幽霊』を読んだ。『脳の中の幽霊』は患者さんの症例から脳の錯覚を解き明していくという内容であった。自分が思ってもいないような症状を持っている患者さんがいるということが面白く、その症状にどのように対処していくか想像できなかったため、推理小説を読むように自分でもどのように解決するのかわくわくしながら読むことができた。しかし、読み始める前は多くのページ数に戸惑い、読み始めることに躊躇しがちであった。 そこで、脳の錯覚について書かれている本で、読み始めやすいようなものはないかと考え、関連する本を探すに至った。このような経緯で見つけたのが、小鷹研理さんの『からだの錯覚』であった。 この本は、導入、序章と続き、本文は第6章から構成されている。序章には、錯覚実験がいくつか書かれている。内容に入る前に実際に実験で体験することによって、本文に入りやすくなっている。最初に著者の錯覚についての身近な体験の説明から始まり、手軽に体験できる簡単な実験を元に様々な錯覚についての説明が展開されている。実験は2人で行うものも多いが、1人でできるものも紹介されているため、話を読み進めながら、実験で体験することで内容が頭に入りやすい。近年認知されてきたVRについての説明もあり、キーワードだけでも興味を惹かれるものが多い。著者が用いている実験データはサンプル数が少ないため、統計学的な信憑性に欠けるのではないかと疑問に思うところもあったが、錯覚の面白い事例を知るには十分であると思った。 もし『脳の中の幽霊』をまだ読んでいないのであれば、先にこの本を読むと『脳の中の幽霊』が読み始めやすいのではないかと思う。読んだ人でも、こんな事例もあるということを体験しながら、楽しんで読むことができると思う。
千住博 / 芸術とは何か 千住博が答える147の質問シェリー・ケーガン/ 「死」とは何かこの本は、イェール大学教授シェリー・ケーガンによる人気講義をまとめたものである。考察されているさまざまなテーマは、哲学的な思考を踏まえており、他の本が取り上げる死についての話とは一線を画す。よって、死についての本なら当然語るはずだと人々が思う事柄、語ってほしいと期待する事柄が本当に書かれているとは限らない。著者は、死が終わりであることを前提として読者に疑問を提示しながら実際の講義のように話を進めていく。第三講では、主張、根拠、根拠に対するシェリー先生の考え、反論が示されており、実際に講義に参加しているように思える。シェリー先生の「死が悪い」ことについての結論は、私たちが死んでさえいなければ人生がもたらしてくれただろうものを享受できないからにほかならない、である。この本を読むことによって、これからの私たちの人生においてプラスになることを多く学ぶことができる。第七講では、「私たちが死ぬまでに考えておくべき、『死』にまつわる6つの問題」について考える。1つ目は「『死は絶対に避けられない』という事実を巡る考察」、2つ目は「なぜ『寿命』は、平等に与えられないのか」、3つ目は「『自分に残された時間』を誰も知りえない問題」、4つ目は「人生の『形』が幸福度に与える影響」、5つ目は「突発的に起こりうる死との向き合い方」、6つ目は「生と死の組み合わせによる相互作用」。誰しもが一度は考えたことがあるであろう問題が提示されている。最終講義では、これからを生きる私たちへシェリー先生から言葉があり、終える。この本を読むことで、これから訪れる「死」との向き合い方、そして生きていることの「幸せ」を学ぶことができる。
鴻上尚史『「空気」と「世間」』井上忠司『まなざしの人間関係』 私は『まなざしの人間関係』という本を紹介する。日常生活の中で、他人と目が合うことに気をつかって疲れることはないだろうか。すれ違う人、電車で向かい合った人、または窓越しに目が合った時、私たちの多くは気まずさを感じると思う。また、人と会話する際に相手と目が合うとそらしたくなるし、どこを見ていればよいのか分からなくなることがよくある。私自身このようなことを感じることがよくあり、人のまなざしや視線について知りたいと思い、この本を手に取った。
 1章ではまなざしや視線について、2章では、映画や文学作品における視線の演技や描写などについて、3章では対人間の距離や座る形式(対面、直角など)とその時の視線について、4章では視線に関する作法(日本では視線を避け合うなど)について、5章では対人恐怖などについて説明されている。映画における視線の演技やにらめっこの起源など内容が面白く、楽しく読み進めることができた。また、文章の後に例が示されていたり、身近な内容も多いため、本を読むことがあまり得意ではない人にも読みやすいものであると思う。
 この本を読んで私が印象に残った点は、文化の違いについてである。筆者はイタリアでの生活を機に、日本は「視線を避ける文化」であるということに気づいたという。その一方、イタリアでは「視線を合わす文化」と筆者が表したように、人々は目を合わせて会話したり、目をまっすぐ見つめるのだという。私たちには当たり前と思われていた視線の作法が異なることが面白かった。
 このように、この本には視線に関する様々な内容が載っているため、視線に興味のある人にぜひ読んでもらいたい本である。
川原繁人「音とことばのふしぎな世界」川原繁人『「あ」は「い」より大きい!?』本書は題名や内容、また扱われるテーマからもわかるように、とても読みやすく、理解しやすい内容になっておりとてもおすすめの一冊です。音象徴という「音そのものに意味はあるのか?」というような議論などをテーマにしている入門書となっていて、例えば、ある子音について、その子音が丸いのか角ばっているのか、また母音について、その中には大きいものや小さいものが存在するのか、というように、身近な場面でも触れるような母音や子音など、私のように音声学に初めて触れるような方でも興味を持ちやすい話題を中心に構成されており、そこから音声学の詳しい知識や分析方法について切り込んでいくという流れで書かれています。メイドの名前の分類やポケモンの名前をテーマとして扱っているために、私のように音声学について全く詳しくない人などでもとても読みやすく、興味が持てるものになっている点がとてもおすすめできます。音声学について学ぶために扱われる内容が身近なものとなっており、とても興味が持てるため、是非読んでいただきたいと思っています。著者が語りかけてくる、対話のような文体で書かれているため、難解な本などに比べ、自然に読むことが可能です。最初はとても親しみやすいと感じているような議論の内容が、気づいたら詳細な音声学研究の内容にまで到達しているというような流れで、初学だとしても、より深い内容について学ぶことができます。興味を持ちやすいために、結果として深い学びを得ることができるのだと考えています。また、本書では、扱われる図や資料についてもとてもわかりやすいものとなっており、より容易に理解できるようになっていると感じました。音声学に興味があるが、難しくなく、面白く学びたいという方には持ってこいの内容となっているため、そういった方々におすすめです。
古屋晋一『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』大黒達也『音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学』「風は見えなくても風車は回っている、音楽は見えなくても心に響いてくる、囁きかける」というバッハの言葉のように、私たちは目に見えない音楽をほぼ毎日のように聴き影響を受けている。この本は、音楽はどのように進化し私たちと関わってきたのか、脳は音楽をどのように認識し創造しているのか、といった「音楽と脳」の関係について述べている本である。  普段生活している中で自分はこの分野においての才能が無いな、と感じる場面やあの人は天性の才能があるから自分とは違うのだ、と感じる場面はほぼ全員が経験したことのあるものであろうし、それが大学生など若者であれば少なくないであろうと考える。それは音楽にも言えることであり、この本では音楽と脳の関係を論理的に明らかにしつつも、音楽は才能が全てなのか、それとも私たち一般人でも育てることはできるのかといった非常に身近に感じるテーマを扱っている。  特に面白かったのは第5章である。例えば親が音楽家でその子供も音楽家になった時、それは親の遺伝から来た才能であると思う人は少なくないであろう。しかしこのように生まれた時から遺伝的に個性をつくる発達パターンがプログラムされていると考える生得説と、生後の環境が個性を作るという経験説が対立しているのである。それには元々人間の脳には文法構造を学習する機能がついているとする普遍文法説や音楽は音楽の学習機能がある訳ではなく、脳は普遍的な統計学習をしているという統計学習仮説がある。しかし現在では両方の要素が関わると考えられており、絶対音感はそのポテンシャルを持っていたとしても適した環境がなければ会得できないのだとされている。つまり天才も努力しなければ力を発揮できないのだ。  このように脳と音楽の関係を論理的に解説しつつも自分に刺さる内容が多いため、ぜひ音楽に関してなにか劣等感を抱いている人などに読んで頂きたい1冊だ。
鴻上 尚史 「空気」と「世間」  横山 信弘 「空気」で人を動かす 著者は会社の経営方針を改善し、利益上昇や業務の取り組みの効率化に貢献する経営コンサルタントの横山信弘さんです。この本はお店の店長やアルバイトのリーダー、スポーツチームの監督などのリーダーたちがチームを良くするための方法として「空気」に焦点を当てています。 まず、私たちがチームでなにか目標に向かう時、一人一人のメンバーに目を向けて個人の能力を高めようと考えがちです。しかし横山さんは、人を変える前にまず「空気」を変えるべきだと主張しています。場の空気が個人の素晴らしいパフォーマンスを引き出すということは、特にスポーツにおいて感じることが多いと思います。そこには会場にいるすべての人を巻き込んだ、絶対に負けてはならないという空気や、ここを決めたら一躍スターになれる!という空気が確かに存在しています。このように「空気」は感情だけでなくパフォーマンスや行動にも大きな影響があります。 私自身にとって「空気」とは人の相性や、それぞれのモチベーションに左右され、それを動かせるとは考えていませんでした。しかし本にある、空気の変化によるチームの好転例を読み、チームのメンバーが共有する価値基準を創り上げて、(当たり前の基準を変える)理想的な空気になる、と学びました。 この本には空気にも悪い空気、いい空気があり、悪い空気にはいい空気への変え方があると紹介されています。人ではなく、「空気」をコントロールするのです。日本人が空気に感化されやすいと思っている方や、アルバイトのチーフになったり職場での雰囲気に悩んだときのためにも、とてもためになる本です。
脳が言葉を取り戻すとき 佐藤洋子加藤正弘失くした「言葉」を取り戻すまで 清水ちなみこの本は作者さんが脳梗塞になり言葉を失った実際の体験記であり、回復の過程が描かれている。2009年にくも膜下出血と診断されたが手術を拒否して帰宅し、その後脳梗塞を発症してしまった。手術後右手に麻痺してしまい、お母さんとわかんないの二語のみしか話せなくなってしまう。家族や友人、医師などの様々な人の支えを受けながら、前向きにリハビリを続け、再び文章が書けるようになるまでの過程である。私が選んだ「脳が言葉を取り戻す時」という参考図書では失語症の回復過程を追いながら脳の働きや言葉の社会の関係について探る本である。この本を読んだ後、私が選んだ「失くした言葉を取り戻すため」といいう実際作者が経験した失語症や闘病記録を読むことでとても身近に感じることができる。その本の中には手術前後の家族の会話や夫の日記、実際の脳のMRI画像、担当医師や医師、理学療法士や言語聴覚士の証言などの詳細な記録が残っており、あまり身近に感じることができない写真や周りの人の話を見ることによって、より病気を患ったことによる失語症の話を見て、私は今までの人生で周りの人がおおきなびょうきにかかっているという状況がなかったため、読んでいてとても心に来るものであった。この本を読むことで、これから自分だけでなく自分の周りの人たちが病気になり、その病気の合併症にかかってしまったときのリアリティを感じることができる失語症についての回復過程を学べることができるかつ実際なった人と周りの人のリアルな話を見ることができるとても良い価値のある本である。
林田直樹、潮博恵 コンサートホール×オーケストラ 理想の響きを求めて石丸寛 それゆけ!オーケストラまず、私が紹介したい「それゆけ!オーケストラ」の概要を説明します。指揮者である石丸寛が書いた、指揮者からみた、オーケストラの練習時、本番時に起こったこと、この指揮者が現役であったときに世界的に有名だった指揮者の考え方など、指揮者視点で音楽を考えている本です。この本は音楽を演奏する人にとっては、普段オーケストラの団員から少し離れた立ち位置にいる指揮者から見て、音楽やオケの環境がどのように見えているかが知れる本であり、この本を読まないと中々触れることのない視点から音楽について考えることができます。逆に音楽を演奏はしないが、聴く人にとっては、うわべの知識ではなく、指揮者とはどういう立ち位置であるのか、なにをしているのか、世界的に有名な指揮者の考え方を学ぶことができます。このようにどの立場の人でも音楽の理解を深めるために読む価値のある本です。この指揮者は「音楽が具体的な形やモノでないものを表現することの難しさと素晴らしさを持っている」と言っていましたが、これは、先生の参考図書「コンサートホール×オーケストラ」の語り手である豊田泰久がコンサートホールの音響設計をするときに考えていることと同じでありました。コンサートホールの音響設計をする際には一つのホールの特徴を示す指標として、「残響時間」が示されます。しかし、残響時間は音楽を詳しく知らない県の担当者などに簡単にホールをわかってもらうための指標にすぎず、豊田さんは実際、リッチで明瞭な音という感覚的な目標を掲げていると仰っていました。これから、指揮者と音響設計士は似たような考え方をする職業だと考えることができます。どちらも「目指す音」は感覚的でありますが、それを色んな見方をもつ人々から評価されることに意味がある職業であり、その二つの職業と演奏家がいてこそ素晴らしい音楽が作り上げられるのだと、二つの本を合わせて読むことでより実感できます。
図解・感覚器の進化―原始動物からヒトへ水中から陸上へ  岩堀 修明「顔」の進化 あなたの顔はどこからきたのか 馬場悠男「キリンの頸はなぜ短いのか」という問いに対して、おそらくほとんどの人が、「いやいや、キリンの頸は長いでしょ」と答えるだろう。確かに、絶対的な頸の長さでは、現生のすべての動物のなかでキリンの頸は最も長いが、相対的な見方をすると、短いのである。また、「ヒトの顔とよく似ているのはゾウだ」といわれて、ピンとくる人はいるだろうか。なぜ、他の哺乳類の顔は毛に覆われているのに、人だけ毛がなく露出しているのか。なぜ、髪の毛や髭が生えるのか。唇の魅力とは何か。本書は、国立科学博物館名誉研究員で、人類学者である馬場悠男さんが著した一冊である。上に述べたような様々な動物の顔、人間の顔について、写真やイラストをたくさん用いながら、丁寧な説明が施されている。本書には、様々な動物の顔の進化について記されているが、自分では考えたことのないような視点で、その動物の顔の形や生命活動のようすが説明されているので、頭にどんどん新しい豆知識が蓄積されていくような感覚が非常に面白かった。感覚器官の役割と形、位置の関係、そもそもなぜ感覚器官が顔に集結しているのか、など、興味深いものばかりである。また、一つ一つのトピックにつき、必ず小見出しがつけられているため、どのようなことが説明されているのかも非常にわかりやすい。また、本書では人種によるヒトの顔の違いについても描かれている。顔の進化の過程について、本書で詳しく学んだからこそ、肌の色などの見た目でカースト制を作ってしまう人種差別が、いかに残酷なものなのかが思い知らされた。
自分の顔が、どのような進化をたどってきたのか、そんな素朴な疑問への第一歩が本書だと思う。この一冊を読み終えてから見た、鏡に映る自分の顔は、昨日見た顔とは違って見えた。本書を読めば、きっとあなたも、自分の顔をもっと好きになれるはずだ。
斎藤洋 ルドルフとイッパイアッテナ鈴木光司 なぜ勉強するのか? 私が紹介するのは、2人の娘を育てた主夫作家として有名な鈴木光司氏の著作である、「なぜ勉強をするのか?」という本です。この本は、そのタイトルの通り、学生が一度は口にするであろう、「なぜ勉強しなければいけないのか」という疑問に対して、著者の実体験や見識をもとに答えていく本です。大学生でいまさら勉強をする意味の話を聞くというのは、なんだか説教臭く感じますが、この本では、小手先的な精神面の話ではなく、具体的事象をもとに展開されているため説得力があり、対話形式でもあるためとても読みやすく、受け入れやすいものになっています。 本書では、勉強の本質は「読解力・理解力」「想像力」「表現力」の3つの要素であると述べています。世界史の勉強や、微分積分などは、知識として直接的に将来役に立つわけではありませんが、その知識をつける勉強をすることで、上記の3つの要素を育てることができるのです。そして、この3つの要素こそが、将来私たちの役に立つ力になるというわけです。では、この「役に立つ力」というのは、「何」の役に立つのでしょうか?本書では、この部分について、例えば、「UFOは存在するのかどうか」「脳死状態は本当に死なのか」などの具体的な質問への議論を交えながら解説しています。本書を読むことで、上記の2つのような、長年議論が続いている話題への向き合い方も理解することができます。 本書は、大学で勉強をしている私たちが、「勉強をする意味」を改めて考える機会を与えてくれるため、大学の勉強に対するモチベーションや、将来に対する具体的な展望をもつことができるようになると思います。大学生の中には、大学に入ってから何をするのかを深く考えずに入学し、特に、「教養科目」の授業では、単位だけを目当てに受ける人も多く見受けられます。そんな学生にこそ、「勉強」の先にある未来を思い描くために読んでほしい一冊です。
鴻上尚史 「『空気』と『世間』」今井むつみ 「学びとは何か」 私が「『空気』と『世間』」の関連図書として紹介するのは、「学びとは何か(今井むつみ)」である。この本では、認知や言語、教育を専門とする心理学者の著者が、「学び」について言語発達や分野の熟練者、脳科学などの様々な事例と観点から解説している。講義の中で、「もっと『空気』について理解したい」と思った人におすすめの一冊だ。 「『空気』と『世間』」では、「世間」が徐々に崩壊し、「空気」が流行りはじめた現代において、「空気」の正体を突き止め、それに囚われずに生活をするための考え方や方法が述べられている。本文の「人は正体のわからないものに怯える」という一文が示すように、空気の正体がわからなければ、人々は怯え、対症療法を行うしかない。私の紹介する図書では、学びや教育を「スキーマ(思い込み)」の概念から説明している。スキーマを簡単に説明すると、人々が知識を身につける際、無意識に形成する取捨選択の基準のことである。私は、参考図書では触れられていないこの「スキーマ」こそが、日本で「世間」と「空気」を形成し、固定化している大きな要因なのではないかと考える。「世間」のスキーマは、母語のそれと同様に強力に形成され、修正が難しいものだ。しかし、「世間」が中途半端に壊れている現代日本においては、スキーマの理解と修正の方法を正しく理解することが、「空気」の正体を突き止めることと同様に大切だと私は考える。 また、「学びとは何か」では、脳科学の観点から、音楽の熟練度によって脳の構造がどのように変化するかを示した事例や、教養を深めるために必要な「知識観」についても触れられており、本講義の内容全般に関して理解を深められるものとなっている。本講義をこれから受ける人や、受けている最中の人、既に受けた人の誰もが楽しめる内容となっているので、「講義の関連図書」としても自信を持ってオススメできる一冊だ。
チャールズダーウィン/文、マイケル・ケラー/編・文、ニコル・レージャー・フラー/絵『ダーウィン【種の起源】を漫画で読む』杉晴夫『人類はなぜ短期間で進化できたのか−ラマルク説で読み解く』 貴方はケニアのサバンナで、サファリのツアーに参加している。そこでもしも貴方が一人で車から降ろされて、裸一貫でその場に置き去りにされたとする。きっと、貴方は為す術もなくライオンの餌食となり、骨の髄までハイエナに食べ尽くされるだろう。それは何故か。一人の人間は、自然界ではあまりにも脆弱だからだ。では何故我々は今、そういう危険に晒される心配が無いのか。そう、進化したからである。サルからヒトとなり、文明を創り、文化を形成し、安全な場所で集団で生活しているからである。それも、他の生物を凌駕する異常な速度で。では何故これが可能であったか。その答えとして有力なものが、本書を読めば知ることができる。 「ラマルク説」という何やら難しそうな言葉が題名にあるが、なんてことはない、進化理論の内の一つである。進化理論で最も有名なのは、貴方もご存知であろう、ダーウィンの進化論だ。本書の著者は、これとは異なる、いや、著者によるとダーウィンの進化論よりも優れているらしい、ラマルクの進化理論を用いて、人間の進化過程を解読する。本書の初めの方で、著者は堂々とラマルク説の賛同者であることを宣言する。当然、ダーウィンの進化論の批判もなされている。 「進化」とは一概に言っても、人類のそれは他の生物と大いに異なる。人類の場合、骨格などの生物的特徴というよりは、むしろ文明の創始、征服戦争などの方が顕著であり、重要なのだ。勿論本書では脳の容量の増大や二足歩行など、原始における進化に関しても詳しく触れられているが、後半はギリシア文明やルネサンス、人類の進化に貢献した天才に関する話が沢山出てくる。 再確認だが、本書はあくまでも「ラマルク説」に則っている。そもそも進化を巡る諸理論は、言ってしまえば全て推測に過ぎない。そういった前提をもとに、本書を読んでみて欲しい。本書を読んだ私は、大いに納得できた、とだけ言っておく。
宮崎謙一 絶対音感神話: 科学で解き明かすほんとうの姿最相葉月 絶対音感宮崎謙一さんの講義を聞いた人、または、「絶対音感神話: 科学で解き明かすほんとうの姿」を読んだ人であれば絶対音感は音楽をするうえで必ずしも役に立つ能力ではなく、むしろ音楽の理解を妨げるものになりうるということを知ったであろう。しかし、多くの人は絶対音感を持っていなく、絶対音感を持った人の世界は想像することすら難しい。そのような人にぜひ読んでほしいのが最相葉月さんの「絶対音感」である。もちろん絶対音感をもっているひとにもこの本を読んでいただきたい。なぜなら、絶対音感を持っているだけでは知りえない、絶対音感の歴史的背景があるからだ。宮崎さんの講義のなかで絶対音感における特徴的な事実として日本の音楽大学の学生の絶対音感保持者の割合が欧米の国に比べて非常に高いということが示された。日本と絶対音感教育にどの様な関係があるのだろうか。それは、かつて日本が戦争をしていたころまでさかのぼる。軍隊は絶対音感を用いて敵の戦闘機やミサイルの音を聞き分ける人間レーダーを作ろうとしたのである。そしてそれが学校教育にまで広まったのだ。宮崎さんの講義を聞いたことで、絶対音感は何か無駄な能力なのではないかと考えてしまった人がいるかもしれない。少なくとも私はそう感じてしまった。しかし、絶対音感は「持っていれば便利。ただ、どっちつかず。時には、やっかい」な代物でしかないのである。絶対音感のない人もある人も、絶対音感とうまく付き合っていくことが重要なのだろう。その方法を最も効率的に得られるのがこの本なのかもしれない。
川原繁人 『音とことばのふしぎな世界』山下充康 『音戯話』この本は、音に関する様々な事例が集められ、それらをわかりやすく紹介している。私は一冊目に音響学についての本を読んだため、二冊目も音響学についての本を選ぼうと思い、図書館に行ってみたのだが、音響学に関する本を何冊かみてみると、何やら複雑そうな数式やグラフが書いており、数学があまり得意ではない私にとってはハードルが高そうなものであった。他のジャンルの本にしようかと諦めかけたその時に手に取ったのが本書である。本書は数学的な説明が極力さけられており、私のような人間に向けても易しく書かれている。さらにこの本はこの講義と重なる部分が多くあり、この講義を受けたあとに読むとよい復習になり、さらに理解が深まる。ページ数もそこまでなく、細かく章に分かれているので、何を読んだらわからない人や、普段あまり読書をしないという人にもおすすめできる、非常に読みやすい本でもある。内容的にもわかりやすい具体例が多く交えられていて、挫折することはあまりないように思われる。
ヘンテコノミクス  佐藤 雅彦/菅 俊一【原作】ざっくりわかる8コマ行動経済学  橋本之克 行動経済学とは、経済学と心理学を合わせ、人々の意思決定や行動を研究する学問です。これを聞いて「何それ…つまらなそう」と感じる人もいるかもしれません。しかし、行動経済学を知ることで日常生活の見方を180度変えることができると考えています。そこで、私がお勧めしたいのはこの本です!この本は今年の7月に出たばかりの新しい本なので知らない人も多いのではないかと思います。日常の何気ない行動をテーマにして、それぞれ8コマ漫画で紹介された後にそれについての説明が丁寧になされています。 皆さんは「感応度逓減性」という言葉を知っていますか。ちなみに私はこの本を読んで初めて知りました。皆さんは、何か大きな買い物をした後に、100円程度のお菓子にお金を使うことがあまり気にならない、といったような経験はありませんか。感応度逓減性とは今あげた例のように、損や得が大きくなるほど、それによる不満や満足の感じ方が鈍くなる、というものです。私自身も、バイトのお給料が入った直後にはコンビニで無駄にお菓子を買ったり普段なら高いと感じて買わない物も買ってしまう経験が何度かあるので、これを知った時には衝撃を受けましたね。 人間は無意識のうちに、思いもよらないことに判断や行動を誘導されてしまっています。「ナッジ」という言葉をご存じですか。ナッジとは、相手に気付かれないように誘導することです。ある銀行では、コロナ禍の際に、ロビーの椅子に人が並んで座らないようにその銀行のキャラクターである猫のぬいぐるみをところどころに置きました。張り紙などを用いて禁止せず、ぬいぐるみを用いる「ナッジ」によって精神的ストレスを与えることなくソーシャルディスタンスを確保することに成功したのは「ナッジ」の一例になります。 このように、日常生活に直接結びつけて考えることのできる学問なので、文理問わずに多くの人に読んでいただきたい一冊です!
川原繁人『音とことばのふしぎな世界』窪薗晴夫『オノマトペの謎』「ガチャポン」や「ガリガリ君」はオノマトペがなかったらどのような名称になっていたのだろう。もし日本語に擬声語や擬態語がなかったら「ピカチュウ」は「雷ネズミ」や「稲妻ネズミ」とでも呼ばれていたのだろうか。国語辞典に載っているなじみの深い動植物の名前から正式な病名になったものまで、オノマトペに由来している言葉は数多く存在している。そして、オノマトペなしでは日本語の会話が成り立たないほどに、私たちの言葉の中に定着している。この本では、そんな私たちの生活と密接に関係しており、日常生活の大切な部分となっているオノマトペの謎について迫っていく。本書の良いところは、8人の研究者が執筆に携わっており、それぞれの専門の立場からオノマトペの特徴や性質が章ごとに分かれて説明されているところだ。そのため、さまざまな角度からオノマトペについて新たな興味、発見を得ることができる。また、オノマトペを含む例文が数多くあり、中高生でも分かりやすく楽しみながら読み進めることができるだろう。特に私が興味を持った内容は外国と日本のオノマトペの違いだ。『サザエさん』に出てくるタラちゃんの足音は、廊下でも道でも決まった電子音を出して駆けてくる。一方アメリカのアニメを見てみると、電子音ではなく実際の足音を使用している場合が多い。これは、日本語は「トコトコ」や「トボトボ」などの歩調を表す擬態語が豊富なのに対し、英語は実際の音を写す「パター(patter)」(パタパタ歩く)のような擬音語が多いといった、オノマトペの守備範囲の差からきている。また、医療現場では患者のオノマトペによる表現と比喩の組み合わせが、医師の判断で重要とされていることにも驚いた。この本は言語に興味がある人だけでなく、音と感覚、コミュニケーションについて知りたい人にもぴったりである。何気なく使っている言葉の奥深さ、不思議さに気付かせてくれるだろう。
柳田益造 著「楽器の科学 図解でわかる楽器のしくみと音のだし方」フランソワ・デュボワ 著『楽器の科学 美しい音色を生み出す「構造」と「しくみ」』楽器演奏・音楽鑑賞は好きですか。音楽が好きな人、特に音楽鑑賞や音楽演奏が好きな人に私はこの本を強く薦めたい。この本は音楽についての本だが「楽器」に焦点を当て全5章に分かれながら楽器の音の出る仕組みからコンサートホールの音響学まで基礎的なことからやや専門的な内容まで音楽好きには興味深い内容が詰まっていると感じた。また、第○章を「第○楽章」と表現するなど随所に音楽的な遊び心を感じさせる工夫があり最初から最後まで楽しみながら読むことができる。 
第一楽章では楽器の分類とそれでは表せない楽器の多様化について、第二楽章・第三楽章では物理的な観点から見た各楽器の個性や音色共鳴について、第四楽章では音響学やコンサートホール構造づくりの技術や大変さについて、そして第五楽章ではプロの音楽家達の楽器や音楽についてのインタビューが記載されている。全体を通して実際に演奏されている方たちのコメントや考え方も紹介されていてコンサートホールによって演奏しやすさが違ったり、良い演奏をするための工夫など美しい音楽が生まれるまでの努力や気持ちを知ることができ、音楽という芸術的なものの裏には計算による理論的な面と音楽家や技術士による感覚的な面によって数々の名作品が奏でられていることを実感することができる。 
私自身高校で物理選択の理系でピアノや吹奏楽をやっていた音楽好きのためとても興味深く読めたがやや専門的な話も出てくるため、物理学というよりも音楽の演奏や鑑賞に興味のない人には読んでいても面白さを感じないのではないかと思った。しかし、私がこの本を読み終えて一番に感じたことはこの本で得た知識やコンサートホールの構造、演奏家たちのこだわりなどの音楽知識を頭に入れた状態でコンサートを聴きに行きたい、楽器を演奏してみたいという音楽を楽しむ気持ちだ。読み終わった後に音楽がより好きになれる、そんな本だと感じた。 
川原繁人 『音とことばのふしぎな世界』山下充康 『音戯話』この本では、音にまつわる様々な事例をわかりやすく解説している。私は一冊目に音響学に関する本を読んだため、二冊目も音響学に関する本を選ぼうと考えた。しかし、いざ図書館へ行き、音響学に関する本を見てみると、何やら難しそうな数式やグラフが書いており、数学があまり得意ではない私にとってはハードルが高いように感じた。諦めて他のテーマの本を選ぼうとしかけたその時に手に取ったのがこの本である。この本では数式などが極力省かれており、私のような人間にとっても読みやすい様になっている。さらにページ数も少なく、細かく章に分かれているので、何を読んだらいいか分からない人や普段あまり本を読まない人にもおすすめできる。説明も具体例を交えてわかりやすく書かれているので、挫折するようなことはあまりないと思われる。
題名  フーリエの冒険 著者 トランスナショナルカレッジオブレックス題名 高校数学でわかるフーリエ変換―フーリエ級数からラプラス変換まで 著者 竹内淳この本では題名に書いてある通りに高校数学を用いてフーリエ変換を説明しているおり、高校数学の中でも三角関数や微分法・積分法、複素数を理解している方に薦めたい。それらの分野の高校範囲を理解できているのを前提にこの本は作られており、本の内容も数学の教科書のように証明や性質について重点的に説明されている。また、それらの説明だけでなく公式や性質を発見した数学者や発見した経緯、その時代で起きていた問題や公式や性質を応用した技術などについても解説されており、より身近に感じることができ、自分が読んだ際にはさらに興味深く感じるようになった。例としてフーリエ級数を生み出したフーリエは、ナポレオンのエジプトへの調査団の一員として同行していた。当時エジプトはインド洋と地中海を結ぶ交易路であったり、古代で繁栄していた文明があったりと重要な地域であったため多くの学者や技師が調査団として派遣されていた話や、フーリエは数学分野の中でも実用的な分野をとくに取り組んでいたため数学者というよりも現代では物理学者に近いといえるとされていたり、行政上でも優秀でありナポレオンから知事に任命されたりしたという興味深い話が書かれている。また、フーリエ級数はほとんどの関数を三角関数で表すことができるとされており、それによってテレビやパソコンなどの電化製品には電気信号として最もよく使われている方形波もサイン波の重ね合わせで表すことができたり、インターネットや電話で利用されている光パルスを表すことができたりするため、今の情報社会を支えているともいえるという話も含まれている。特に私は高校数学を学んでいた際に、個人的に現実に存在していないと感じていた範囲があり、「今学んでいるものは実際に利用できるのか」と疑問に思ってしまっていたため、その疑問が晴れさらに数学が面白く感じたため、同じような疑問を持った人に特に薦めたい。
千住博『芸術とは何か』マルティン・ハイデガー 訳:関口浩 『芸術の根源』芸術作品とは単なる物と何が異なるのか。物も芸術作品もどちらも人によって生み出されたものであるが、芸術作品には物とは別に価値がある。絵画に描かれている靴と現実世界の道具として存在する靴は有用性という点で異なる。物とは別の価値とはなんなのか、それを考えるには物自体について認識を深めねばならない。絵画に描かれている物を身近な現実性として把握しようとしてはそれは作品ではない。芸術作品の根源は芸術である。しかし、芸術作品に実際に存在する「芸術」とは何なのか。芸術の本質を《真理を作品の内へと捉えること》とすると、最終的な問いは芸術として生起する真理は何であるのか、芸術はどのように存在するのか、となる。本書では芸術と真理について、現象学の立場から述べられている。芸術作品から真理を見出そうとして、芸術作品を見続けても作品の内に存在する真理は見えて来ないため、結局作品そのものではなく芸術家の働きに立ち入らなくてはならない。ゆえに作品の作品存在を純粋に作品そのものから規定する試みは貫徹しえないのである。作品とは創作する者の本質において可能にするものであると同時にその本質から見守るものも必要とするものでもある。したがって芸術は作品において真理を創作しつつ見守ることである。芸術作品の根源すなわち創作し見守る者たちの根源は芸術であり、我々は根源の近くにいるからこそ本質を知れないのにも関わらずその場所を去れないのである。
脳が言葉を取り戻すとき 佐野洋子・加藤正広思い出せない脳 澤田誠講義の中で取り上げられた失語症に関する本である「脳が言葉を取り戻すとき」を読んだ際になにかのショックによって言葉を流暢に話せなくなってしまうと知り興味を持ったため脳に関連のある「思い出せない脳」を読んでみた。本書は、思い出せない5つのパターンから記憶の全貌を読み解いていく。その中には、睡眠不足が記憶の整理を妨げるというものや情動が記憶を選別するなど言われてみればなるほどと思うような事が多くこれからに活かせることが多くある。各章の初めにはそれぞれに関係したストーリーがついており具体的な例が書いてあるため想像しやすくわかりやすくまとめてある。私がこの本をよんで一番驚いたことは、不要だと判断された記憶は失われていくということだ。片付けが苦手な人がいつか必要になると考え、物を捨てられず部屋が散らかって物が見つからなくなるのとは逆で脳は非情で合理的であるため使わない記憶は不要だと判断され捨てられてしまう。それを防ぐために時々思い出す必要がある。人間は起きている間に多くの情報に触れているためこの構造は不可欠である。機械は使えば使うほど劣化していくが記憶は使えば使うほど定着していく。これは日常生活にもあてはめられ、耳で一度聞いただけでの言葉よりも文字で書き何度も読んだほうが記憶に残るのだ。図や挿絵が多くあり脳に関する難しい言葉なども簡単に噛み砕いて説明してあるため初学者にも薦められるような本であると考える。
阿部 純一「絶対音感を科学する」最相 葉月「絶対音感」小説「絶対音感」は、音楽の神秘と人間の能力について深く掘り下げるノンフィクション作品だ。この作品は、絶対音感に焦点を当て、音楽の才能とその背後にある科学、歴史、そして人間の物語を探求していく。絶対音感とは、一音一音を聞いただけで正確に音高を識別できる能力を指すが、この能力が生まれ持った天賦の才なのか、それとも訓練によって獲得できるものなのかは長年にわたり議論されてきた。著者はこの謎に迫るため、数多くの音楽家や専門家へのインタビューを通じて、絶対音感の本質を明らかにしようと試みる。本書では、五嶋みどり一家のエピソードをはじめ、様々な音楽家の体験が紹介される。彼らの成功や苦悩、音楽の才能に対する社会的な期待と個人の挑戦が描かれており、絶対音感が持つ曖昧さや複雑さ、そしてその能力が音楽家の人生にどのような影響を与えるかが分かる。さらに、音楽教育の現場でも話題となっている絶対音感について、音楽教育の歴史と現実が説明され、絶対音感がどのように育まれ、評価されてきたのかが分かる。また絶対音感は、音楽の才能だけでなく、脳の機能や発達、心理学的な側面からも興味深い現象であり、著者は、最新の科学研究や心理学を取り入れながら、絶対音感がどのように形成されるのか、遺伝的要因と環境的要因から考察している。他にも絶対音感が持つ両刃の剣としての側面も描かれており、この能力が必ずしも音楽的成功を保証するものではなく、逆にプレッシャーやストレスの原因となることも説明している。音楽家たちの喜びと苦しみ、そして絶対音感がもたらす恩恵と困難は、人間の才能と限界について深く考えさせられる。音楽の才能に対する深い洞察と、人間の可能性と限界を探るこの作品は、単なる能力の解説にとどまらず、音楽という芸術に対する理解を深めるきっかけとなる。絶対音感という現象を通して、音楽の美しさと人間の複雑さを感じさせる一冊である。
佐倉統/ダーウィン「種の起源」を漫画で読むリチャード・ドーキンス/利己的な遺伝子「ダーウィン『種の起源』を漫画で読む」を読んで、「自然淘汰」により環境に有利に適応した個体が生き残り、後世に受け継がれていくことを知った。一見非常にもっともらしい説だが、この本をきっかけにダーウィンの進化論について調べていく中で矛盾点も多く存在することを知った。その1つが「なぜ親切は淘汰されなかったのか」ということである。この矛盾点に対する一説を提示した「利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンス著)を紹介する。ダーウィンの進化論では、自然淘汰は個体に働くと考えられていた。しかし個体の自然淘汰では説明できない動物行動があった。それが「利他行動」である。利他行動とはいわゆる「親切」である。なぜ親切が矛盾した行動なのか。それは単純に自己中心的な個体の方が生存に有利だからである。確かに自分の利益のみを追求した方が生存に有利である。しかし私たち、ひいては動物は利他行動をする。子育てなど究極の利他行動である。そこでドーキンスは視点を変え、自然淘汰は個体ではなく遺伝子に働くものだという説を提示した。進化とは生存に不利な遺伝子が淘汰されていき、生存に有利な遺伝子が生き残っていくということである。私たちはなぜ自分の利益を犠牲にしてでも親切な行動をするのか。これは淘汰されるべき欠陥なのだろうか。また、そもそも「利己的な遺伝子」とはどういう意味なのか。進化論についてより深く、新しい知見を得ることができる。それとともに感情的なものとしてとらえられていた「親切」のメカニズムについて論理的な視点から見ることができ、自分の親切は遺伝子に組み込まれたものであったのかなど、今まで当たり前の感情であったものを疑うことになり、非常に面白い。是非ご一読していただきたい。
鴻上尚史『「空気」と「世間」』平尾昌宏「人間関係ってどういう関係?」『「空気」と「世間」』の参考図書として平尾昌宏さんの「人間関係ってどういう関係?」という本を紹介します。まず、『「空気」と「世間」』の中で「世間」と呼ばれていたものはこの本では「身近な関係」に当てはまるのかなと思います。特に第一章と第七章は先生の参考図書の内容と照らし合わせて読むことができます。そしてこの本では「身近な関係」とはどんなものなのかはっきりと説明することを目標としています。私たちの抱える人間関係は様々で、例えば「友達」といっても共通の趣味を持つ仲か、挨拶をする程度か、などと一言では言い表せない関係性も多いのではないでしょうか。そういった「身近な関係」をいくつかの枠組みに分け、分かりやすくグループ化していく本です。自分の周りの人を思い浮かべて、この人はどの枠組みに当てはまるのか、などと考えながら読み進めるのもおもしろいかと思います。さらに解説が進むにつれて、必要最低限の人間関係を除き、「身近な関係」は必要なものかという問いについても考えていきます。他人との繋がりをどれくらい求めるかは千差万別です。この本ではなるべく様々な考え方を否定しない様に書かれていますが、是非自分だったらこの人間関係は大切だ、あるいはそんなに必要ではない、という風に自分事に考えながら読んでみてほしいです。この本は新書ではありますが、一人のおじさんが横で喋っているような親しみやすさがある文章です。新書に対して堅苦しそうな本だと抵抗のある人でも気軽に読める本だと思います。課題などではなく趣味としての読書の中で新書を読む機会がない方や自分の人間関係が客観的にどんなものであるかを明確にしてみたいという方におすすめしたいです。
千住博「芸術とは何か 千住博が答える147の質問」大黒達也「芸術的創造は脳のどこから生まれるか?」 この本では、人間の創造性、主に音楽の創造性が脳の中でどのように産まれるのかを、世界中の脳科学の研究結果に基づいて探求している。全7章、学術論文が元になっているため専門用語が多用されているが、脳の部位からその役割、脳と音楽との関連性まで序盤で細かく解説されているため、理系分野はからっきしだという人にも分かりやすい。 この本のキーワードは、主に2つある。1つは、脳の働きによって様々な外界現象の起こる”確率”を記憶する「統計学習」、そして2つ目は、統計学習によって得られ、記憶したことに本人も気づかない「潜在記憶」である。 著者である大黒達也氏は、この「潜在記憶」から音楽の創造性を研究しており、東京大学で教鞭をとる傍ら、自身も現代音楽の制作に取り組んでいる。 著者は、この本のはじめに、人間が創造物を皆に共有するために規則性を見つける行為を「収束的な芸術(≒知能)」、規則性から脱しようとする行為を「拡散的な芸術(≒創造性)」として、その”ゆらぎ”を「芸術性」として捉える、と述べているが、これだけを読んでもなんだかよく分からないと思う。ここで詳しく説明するとネタバレになってしまうので、詳しく知りたい場合はぜひ第2章まで読んでみていただきたい。第2章でこの「芸術性」について理解を深めたところで第3章に進むと、いよいよ創造性とは何か?というこの本の核心に迫る。またそれを理解した上で、今度は創造的な発想力はどうすれば高めることができるのか?という新たな視点も加わり、さらに話が展開していく。 第7章までで様々な視点から芸術的な創造性について説明されているが、その軸となるのは先に述べた「潜在記憶」である。この潜在記憶が脳でどのように働き、私たちが音楽を音楽と認識したり、そこから芸術的な活動に昇華したりすることに繋がるのか、気になった人はぜひ一度、この本を読んでみることをおすすめする。
芸術とは何かー千住博が答える147の質問 千住博ヒト、この奇妙な動物 : 言語、芸術、社会の起源 ジャン=フランソワ・ドルティエ/鈴木光太郎まず、私がこの本を選んだ理由は、「芸術とは何か」を読んで、人間に芸術が必要な理由について納得できたので、さらに芸術の起源について深く知りたいと思ったからです。また、芸術だけではなく、音と音楽の講義でも取り上げられた言語の起源についても書かれ、参考図書で読んだダーウィンの「種の起源」のおける進化の過程にも関連している内容だったことも選んだ理由です。次に、この本の内容について紹介します。1つ目に言語の起源と発展についてです。言語は他の動物のコミュニケーションに比べてとても複雑ですが、言語の進化に関する理論や証拠をもとに、どのようにして言語がヒトの文化や社会に影響を及ぼしたか詳しく知ることができます。2つ目に、芸術の起源と発展についてです。人がなぜ芸術を創り上げ、作品を作り、鑑賞するのか、芸術がどのように文化や社会で重要な役割を果たしたかについて著者の考えを知ることができます。3つ目に、社会の起源と発展についてです。人間社会の形成から協力、対立まで、一人一人の人間の社会的な行動が人類にどのような影響を及ぼしたか知ることができます。また、人間の感情や道徳に基づいて、社会的な構造や制度がどのように作られたかも知ることができます。その他にも、人間の想像力の観念が脳のどこから生み出されるのか、言語を用いずにイメージで思考することが社会科学をどれほど発展させてきたかについても深く知ることができます。この本は、受講生で進化心理学をもとに学びたい人にお勧めします。音楽も含んだ芸術の起源や講義で音楽とともに触れられた言語についても様々な見解を知ることができます。進化心理学を主として、人類学や歴史学を学べるので文系にはもちろん、生物学や科学についても多く触れられているため理系にもお勧めできる本です。また、著者の鈴木光太郎先生は新潟大学の名誉教授なので、新潟大学生としてもぜひ読んでほしい本です。
著者:野矢茂樹 題名:無限論の教室著者:小川洋子 題名:博士の愛した数式「君の靴のサイズはいくつかね」初対面の「私」に対して博士はこう問う。[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖にはそう書かれたメモが留められている。博士にとって「私」は常に新しい家政婦であり、初対面の家政婦だ。やがて私の10歳の息子「ルート」も加わり、物語は進んでいく。この博士は、いつどんな時でも求めるのは正解だけではない。何も答えられずに黙りこくってしまうより、苦し紛れに突拍子のない間違いを犯したときの方がむしろ喜んだ。この間違いを喜ぶという部分を見て、不思議な人だと私はとても驚いた。家政婦と博士の間には特別なつながりがある。家政婦の誕生日である「220」と博士の腕時計に刻まれている数字「248」。その2つの数字は友愛数というめったに存在しない組み合わせだった。そんな不思議なつながりのある二人のもとに、今度は家政婦の息子が登場する。博士はその息子に「ルート」という愛称を与えた。「君はルートだよ。どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、ルートだ」と。このシーンを読んだとき、博士がただのおかしなおじさんではなく、とてもやさしい人物なのだろうと感じた。ある日、家政婦がルートのことでトラブルに巻き込まれてしまった。このトラブルを解決させたのはなんと博士。その時博士がとった行動は、「オイラーの公式を書いた紙を置いて去る」だった。家政婦はこの公式を通して様々なことに気付く。このように、この物語を読み進めていくと、たくさんの数字や公式が出てくる。家政婦の誕生日の「220」、博士の腕時計に刻まれている「248」、オイラーの公式、そしてとある野球選手の背番号「28」。この話を読んで、自分の誕生日はどんな数字か、あの時目にしたあの数字はどうだろう、と考えると様々な発見があるかもしれない。数学を通して彼らも私たちも学んでいける、そんなお話だ。
斉藤洋/ルドルフとイッパイアッテナ夏目漱石/吾輩は猫である教養とはなんなのか。音と音楽をめぐる科学と講義の授業を通して、私たちはたびたびこの問いを投げかけられていた。この問いに対して私は、最終回のまとめにおいて、音とは何かをもう一度提示することにより、教養とは表層的な理解になっていた事項に改めて向き合い、深く知ることによって世界の認識を変えることであるという示唆を持って本講義は終了したと考えている。『吾輩は猫である』は、参考図書の『ルドルフとイッパイアッテナ』と、猫が主役であり、それらの名前自体がよく知られている作品であるという類似点を持つ点から選択した。私はこの本から再びこの問いを再認識することとなった。本図書は夏目漱石による猫が主人公の小説である。「吾輩は猫である。名前はまだない。」という書き出しは知っている人の方が大多数なのではないだろうか。しかしながら、それまでに知られているにもかかわらず、この本を最後まで読んだ人というのはその中でも限られた少数の人しかいない。ここに講義を受ける前の私たちと音の間で見られた、表層的な理解という構図を見てとることができる。『吾輩は猫である』私たちは知ったつもりになっているのだ。これに似た状況が作中でも存在する。第1節にて、主人公の猫が住む家の主人が、故意に彼の尊敬する人物の嘘の言説を引用した友人に騙されてしまうといったものである。主人が自身の尊敬する氏を知った気になっていなければ騙されることはなかっただろう。繰り返しとなるが、私たちは全16回の講義を通して、教養とは何なのかということに対して考えるきっかけを得た。講義内でも情報は受け手の経験によって変わると言われていたように、その答えは人それぞれ変わるのかもしれない。そうであるならば今一度この「表面的な部分で知った気になっている本」と向き合うことで、教養とは何なのかという問題へ思考を巡らせてみるのはいかがだろうか。
ルドルフとイッパイアッテナ読書と日本人 津野海太郎 私はルドルフとイッパイアッテナを読んだ人に津野海太郎の「読書と日本人」を紹介したい。ルドルフとイッパイアッテナでは教養という言葉がキーワードになってくる。私がこの本を紹介しようと思ったのは、教養と聞いてまず本を読むことが思い浮かんだからだ。一番手っ取り早く教養を身に着けたかったら本を読むべきだと思う。                           この本では日本人の読書遍歴が書かれている。源氏物語から電子書籍まで幅広い年代 について触れている。特に興味を持ったところは「1はじまりの読書」だ。この章では源氏物語が書かれた頃のことが書かれている。本は音読して読むか黙読して読むかという議論がされている。本は最初は音読で伝えられていくものだったが、男性の知識人によって書き記され、女房が姫君に読み聞かせるものへと変わっていった。しかし源氏物語は内容が難しくただ受け身で聞いているだけでは理解できなかった。そこで、平安の物語の本質は文字で書かれた文芸であり部屋の中で黙々と読まれることをイメージして書かれたものであるという結論になった。平安以前との明確な違いがあり、今の読書と聞いてイメージする状態ではないか。このように各時代の読書とはどういうものかが書かれていて、日本史の知識と絡めながらも読むことができる。最近の若者は本を読まないと言われるが、私は本を読むことが好きで本を読むことは本当に素晴らしいことだと思う。この本は1章があまり長くなく、読みやすい新書だと思う。読書が嫌いだという人もハードルが高いと感じることなく読めるのではないか。教養について興味を持ったなら、日本人はどのようにして教養を身に着けてきたのかがわかるこの本を読んでみてはどうだろうか。
小方厚 音律と音階の科学中島さち子 音楽の魅力を数学で新発見!ヒット曲のすごい秘密 この本は、プロのジャズピアニスト、国際数学オリンピックで、日本人女性初の金メダル受賞者である中島さち子氏と、ライターによる会話形式で、数学的観点から音楽理論が解説される。 講義で習った音階やコード進行、倍音などについて、具体的な楽曲と共に述べられているため、実感しながら復習することが出来る。また、コード進行については、講義よりも詳しく、実践的に解説されていて、法則性が解剖されていて面白かった。 この本は、新たに拍子・リズムについて学ぶことが出来る。リズムは音楽で最も原始的な要素であり、リズムをとることで音楽性が生まれ、心を動かす。ここでは、文化や民族で親しまれる拍子が異なることが述べられている。日本の盆踊りは変拍子や表拍裏拍の逆転などが多く存在し、ゆったりと長い1拍により揺らぎを感じさせる。このような複雑さを心地よいと感じることはとても面白い。 この本の題名には「数学で発見」とあるが、高度な数学の知識が必要では無いため誰でも読み進めることが出来る。数学が好きな人にはうってつけで、これから音楽を聴く際、音楽による心の効果をより論理的に感じることが可能で、新たな面白味を見出すことが出来るだろう。数学が嫌いな人でも、講義を乗り越えられたのなら、理解に苦しむことはないと思われる。会話形式であり、簡潔な図も挟んであるため、講義の延長として誰もが読むべき本である。
谷村康行 波の科学-音波・地震波・水面波・電磁波-左巻健男 面白くて眠れなくなる理科 私が紹介する本は、左巻健男氏の「面白くて眠れなくなる理科」です。この本は3Partに分かれており、それぞれに細かい話題が10個程度含まれている形式の本です。「面白くて眠れなくなるシリーズ」は私が小学生・中学生の頃によく読んでいたシリーズでしたが、この本は読んだことがなかったので、この機会に読んで紹介したいと思いました。 この本を読むうえでまず知っておいてもらいたいのは、この本の内容は比較的簡単であり、私たち大学生には「そんなこと言われなくても分かってるよ!」と言いたくなってしまう内容が多い可能性があるということです。しかし、この本の内容は中学・高校範囲を超える内容も多く含まれており、その内容がかなり噛み砕かれて説明されているので、内容が簡単だと思っていても意外に多くの新たな学びが得られるように感じます。新しいことを学ぶときに、専門用語ばかりで内容がほとんど頭に入らない、もしくは高校で文系科目を重点的にやっていたことでより理科の知識を付けたい、という方にとってはうってつけではないでしょうか。 この本の中から一つ例を挙げてみます。「磁石の意外な弱点」という話題では、タイトルの通り磁石について語られています。この話題は12ページほどですぐに読み終わることができます。磁石の「磁」と「石」の漢字の由来や青木ヶ原樹海で磁石が狂うといわれている理由、地球の地磁気が弱まっていることなど多方面から磁石について書いてあり、この話題は特に内容が濃いと感じました。昔、多くの人が磁石に釘をつなげて磁石を離してもくっついている、という遊びをしたことがあると思います。これはまさにこの話題の内容にある「一時磁石と永久磁石」についてです。このようなふと思う疑問についての話題がたくさんあります。この本の面白さは、中学生でも理解できるが大人になってから読むとより「スッキリ」するという点であると考えます。
チャールズ・ダーウィン 「ダーウィン『種の起源』を漫画で読む」稲垣栄洋 「面白くて眠れなくなる植物学」突然ですが、あなたは花占いの必勝法を知っていますか?実は花の種類によって、花びらの枚数は初めから決まっています。従って「スキ」で終わる、奇数の枚数の花びらを持つユリ(3枚)やサクラ(5枚)、マリーゴールド(13枚)を選べばよいのです。反対に、コスモス(8枚)は何度やっても「キライ」の花びらが残ってしまいます。さて、ここで今まで挙げた花びらの枚数を小さい順に列挙してみましょう。3,5,8,13…そうです、植物の花びらは、フィボナッチ数列に従っているのです。どうです、植物面白れぇーと思ってくれましたか?もう知っていたという強者もいるでしょうか?
本書には、このような植物の謎が目一杯詰め込まれています。どれもワクワクする内容で、筆者の「植物の魅力を知ってほしい」という気持ちが伝わってきます。植物は私たちの生活の一部として当たり前に存在していますが、思っているより分からないことだらけです。というのも、高校生物で習ってきた知識は、花の器官の形成の仕組み、花が色づく仕組み等、「どうして?」への答えが多く、「なぜ?」という問いにはほとんど答えられていないのです。なぜ、植物は動かないの?なぜ、植物は私たちを魅了するの?数え上げたらきりがありません。
私自身、学問を取り扱う本はどうしてもハードルを感じて敬遠してしまいがちでした。しかし、本書は題名の通り最初から最後まで楽しんで読むことが出来ました。本書は基礎の基礎から説明してくれるので、読んでいて分からないことがまずないです。さらに、筆者の語り口調で進むので堅苦しくなく、非常に読みやすいです。内容についても、疑問ごとに細かく章が分かれているので集中力が続かない人でも比較的楽に読み進められると思います。気になる章から読む私は多くの人に本書を読んでもらい、植物の魅力に触れてほしいと思います。植物の世界は、きっとあなたを待っています。
ルドルフとイッパイアッテナ吾輩は猫である 夏目漱石ルドルフとイッパイアッテナは主人公である猫が魚屋から逃げ出す過程でトラックに乗ってしまい、東京の江戸川にきてしまうところから始まります。そこでそこの親分の猫のイッパイアッテナと出会い、ルドルフと様々な場所を冒険するという話である。夏目漱石の「吾輩は猫である」という話は、珍野家で飼われている猫がの視点で物語が進んでいきます。この、吾輩は猫であるという作品は、ある有名な文章である、「吾輩は猫である。名前はまだない」という文章で始まることは知っていると思います。吾輩は猫であるという物語は、その雄猫から見た人間の不合理さや非効率さなどを皮肉を交えて描いているのが特徴的です。珍野家の飼い主はなかなかの変人で、胃も弱く、ノイローゼ気味であるというなかなか苦労の多い人であったため、より人間の人間らしいところを観察できたのだと感じます。また、吾輩(猫)は隣の家の雌猫の三毛子に恋焦がれていましたが、その恋が発展する前に、三毛子が風邪で死んでしまいます。吾輩は悲しみ、落ち込み、引きこもってしまいます。そこから、珍野家に泥棒が入ったり、珍野苦沙弥の教え子が結婚したりと様々なことが起きます。そこで、珍野家に何が起き、どのように変わっていくのか、また、吾輩の心情や人間への見方がどう変わってくるのかにも注目してもらいたいと思います。
ダーウィン「種の起源」を漫画で読む チャールズ・ダーウィン マイケン・ケラー 夏目大世界で一番素敵な進化の教室私は「ダーウィン「種の起源」を漫画で読む」を読んで、「世界で一番素敵な教室」監修:長谷川 政美を選んだ。この漫画を実際に読んだ際、漫画に書かれている内容は理学部に通っている自分にとって理解しづらく、生物の進化論について興味を持つことがかなり難しく感じた。そんな中、私は「世界で一番素敵な教室」という本を手にとった。この本の構成は生命の起源から始まり、生物の祖先についてそして特定の生物について進化について取り上げられ、人類の進化について記述されている。また「ダーウィン「種の起源」を漫画で読む」の構成は進化論の誕生から始まり、種の起源に続いていく。まず「ダーウィン「種の起源」を漫画で読む」では、漫画の絵は意図的に油絵のようなタッチで、難しい言い回しが数多くある。それに対してこの「世界で一番素敵な教室」はそのテーマごとに質問と授業形式で内容が進んでいき、そのテーマごとに最適な色とりどりの写真が掲載されている。また1ページにおける文字の密度も少なく、専門用語の少なさも目立っている。以上のことから「ダーウィン「種の起源」を漫画で読む」は内容の専門性、詳細的に理解ができるという点が優れているが、「世界で一番素敵な教室」はキャッチーに進化や生物の起源について学ぶことができるので、まだ生物の内容を学んだことがない大人や生物に興味を持った小学生、中学生に「ダーウィン「種の起源」を漫画で読む」の接続本としてお勧めしたい本だと感じた。
古屋晋一:ピアニストの脳を科学する夢プロジェクト:名曲 謎解きミステリー あのクラシックの名曲に隠された驚きの真実とは… 世界的に有名なあの作曲家は実は奇人だった?、だれでも知っているあの名曲は実は盗作といわれている?、そんなクラシック音楽界の知られざる裏側のエピソードを面白くまとめたのが本書である。 本書の最もオススメできる点はクラシック初心者も楽しめるお手軽さである。クラシックにはどうしても、難しそう、硬派そう、といった初心者が取っつきにくいイメージがある。しかし本書を読めばクラシック曲や作曲家が一気に身近に感じるはずである。例えば下ネタが好きすぎて友人に怒られてしまうベートーヴェン、師匠の奥さんが好きすぎて長文の手紙を書いてしまったブラームス、あまりにも売れなさ過ぎて「悲愴」なんていうとんでもない副題がついてしまった曲まで。こんな話を聞くとクラシックが意外と親しみやすく感じてくる。 さらに本書の良いところは構成の読みやすさである。本書は大きな4つの章の中にそれぞれクラシックにまつわるエピソードが複数収録される、という形式で書かれている。そのためちょっとの空いた時間に気軽に読むことができる。また本自体も文庫本より一回り小さいサイズと持ち運びやすい。 クラシックに興味はあるけど専門的な話はまだ早い。そんなクラシックの入り口を探している人に自信をもってオススメする一冊である。
V.S.ラマチャンドラン 脳の中の幽霊オリヴァー・サックス 音楽嗜好症この本は、今まで音楽に無関心だった人々が、落雷・脳腫瘍の手術・薬の投与などの要因により音楽を深く求めるようになったり、何も特別なことが起こったわけでもなく日常の中で突然音楽的才能に目覚め、とめどなく頭の中にオリジナルのフレーズが浮かんできたり、幼いころに起きた事故の影響で大人になってから急にけいれん発作で倒れるようになって、その前兆として流れてもいない音楽が聞こえる、などといった不思議な現象について数多くの事例を紹介しています。そして、こうした事例はごくまれなものではなく、規模が小さいだけで私たちの身にもよく起こっている現象と同じかもしれない…?そうしたことについて話しています。また、その逆で音楽がその場にあるのにも関わらずまったく別の不快な音に変わって聞こえてしまう失音楽症についても説明しています。「言いようのない音楽の深みは、音楽が私たちの最も内側にある感情をすべて再現しているのに、リアリティがまったくなく、痛みからはかけ離れている」本文中の冒頭の言葉を一部抜粋しましたが、私が音楽を聴くとき、ひどく心を揺さぶられる曲があってもどこか他人事であり、聞き終わったらその世界は消滅してそこにずっと何かが留まっていることはなく、ただ薄っすらとした虚無が残るだけのような…。この感覚を言語化していてとてもしっくりくる表現だと思いました。この本は人体において脳が起こすバグに興味がある方にはとても面白い本だと思います。しかし、何十人もの例が記されており、その分人名が多く出てくるため、今誰の話をしているのか、この人がどんな症例だったかわからなくなり混乱しやすいです。そのため、読みながら情報を整理することが得意な方に是非読んでもらいたいです。また、特定の音楽を聴いたときに何か共通した反応をしている、という方にとっては似たような事例が見つかるかもしれません。
千住博『芸術とは何か―千住博が答える147の質問』川畑秀明『脳は美をどう感じるか―アートの脳科学』この本はまず、絵を描くことが好きな人たちに薦めたい。本書では、脳科学、心理学の視点から、著名な画家や芸術家の作品にどのような手法が使われているのか。そして、それが私たちの脳でどう処理されることにより魅力的に映っているのかということが語られる。著者によると、人は単純なものには快を感じないが、複雑すぎるものに対しても不快感を覚え、その中間、つまり「中庸」なところに最も魅力を感じるらしい。ほとんどの人が「黄金比」という言葉を聞いたことがあると思う。「1;1.618…」という中途半端な値が魅力的に感じられるのは、その「中庸さの重要性」を裏付ける根拠であるということが本書から分かる。単純すぎず複雑すぎない「中庸さ」のアピールは、もしかすると芸術の世界だけでなく、人間関係においても応用できるかもしれない。私は絵を描くことが好きなので、構図や色彩の手法に関してとても興味深く感じ、自分が描くときにも取り入れてみたいと感じるものも多かった。自分ではあまり絵を描かないけれど、美術館などで絵を鑑賞することは好きだという人にとっても、鑑賞する際の新たな視点を得ることに繋がると思われる。また、美術館などに行っても退屈で楽しめないという人にも薦めたいと思う。「絵の何を見たらよいか分からない」「何を考えて見たらよいか分からない」という人も、鑑賞する際の視点を得ることによって、少し見方・考え方というのが分かるのではないだろうか。そして、この本の中では面白い研究や実験の結果が多く示される。人間ではない動物も絵の特徴を見分けることができたり、絵や音楽の「好み」が分かれたりするということが示される実験は、そもそも芸術にあまり興味がないという人にとっても興味深いものではないだろうか。
小方厚 『音律と音階の科学』青柳いづみ 『ピアニストから見たピアニスト 名演奏家の秘密とは』一流ピアニストが演奏している姿を見た時、なぜあんなにも高速なスピードで指を動かせるのだろう、と不思議に思った経験がある人は少なくないと思う。私自身もそうだった。本書は、そんな素朴な疑問を抱える人にお勧めしたい一冊だ。著者自身がピアニストとしての経験を活かし、名演奏家たちの技術や演奏スタイル、そしてその背景にある哲学や練習方法に焦点を当てて解説している。伝記形式で、会話文も交えて書かれているため、まるで物語文を読んでいるかのようにスムーズに内容をつかみ取ることができるのが魅力的だ。各ピアニストの練習方法や日常生活についても触れられており、彼らの成功の背後にある努力とを垣間見ることができる。さらに、本書は音楽の哲学的側面にも踏み込んでいる。青柳氏は、音楽がどのようにして人々の心を動かすのか、そして演奏家がどのようにしてその感動を伝えるのかについて語っており、これは、単なる技術的な解説にとどまらず、音楽の本質に迫る内容となっている。また、本書の特徴として、著者自身のエピソードや経験談が豊富に盛り込まれている点が挙げられる。青柳氏は、自身が名演奏家たちと接した経験や、彼らから学んだ教訓を通じて、読者に対して具体的でリアルな視点を提供している。これにより、読者はまるで自分自身が名演奏家たちと対話しているかのような感覚を味わうことができる。『ピアニストから見たピアニスト 名演奏家の秘密とは』は、ピアノに関心があるすべての人にとって必読の書だ。専門的な数式や図などはないため、気軽に手に取ることができる。技術的な解説から哲学的な洞察、そして著者自身の経験談まで、幅広い内容が詰まっており、贅沢な一冊だと自信をもって断言できる。ぜひ一度、ピアノに興味がある人もない人も、この本を読んで世界を広げてみてほしい。
無限論の教室/野矢茂樹詳説 数学Ⅲ/高橋陽一郎 私ははっきり言って、理系ではあるが数学がすこぶる苦手だ。高校の数学すらだいぶ怪しい。いまこの文章を読んでいる方にも同志が多くいると信ずる。そのような私がずっと避けてきた数学を参考図書に選んだ時、だいぶ苦戦するに違いないと思っていた。私が参考図書として選んだ『無限論の教室』は、先生と生徒とが対話形式で“無限”について対話するものだ。これを読んで、今まで当たり前のように教えられてきた実無限の他に可能無限があることを知り、自分の視野の狭さを実感した。 さて、これを読んで私は逆に、高校の教科書にはこのことをどのように記述していただろうかと思い至った。大学に入学して1年が過ぎ、もう高校の教科書を開くことなどほとんどなくなっていた。いっそ全部読み返してみようと埃の被った教科書を手に取り、読んでみた。驚いたことに、教科書に書いてあることは羅列的ではあるがスッと頭に入ってきた。そして数列の無限については、確かに実無限の立場に立って書かれていた。教科書の記述を読むだけで、ここが生徒の発言の根拠となっていたなと分かる。ストンと腑に落ちる。なぜこんなに数学を避けて、苦手意識を持っていたのだろうと感じた。 私がこの本を薦めるのは、自分の先入観や決め付けと言ったものに支配されていることに気付けたからだ。これは決して、私個人の限定的ケースではないと思う。一度解りやすく噛み砕かれた書籍を読んだ後に別の書籍を読むという双方向的な行為が、数学が苦手という先入観を少しではあるが克服するのに役立った。「私は〇〇が苦手だから…」と言って何かを避ける学生は多い。実際私もそう言った学生の一人であったし、ともすればある分野においては未だにそうかもしれない。そういう人たちに、この2冊をきっかけにして自分の中に作りがちな先入観を認め、それを超えるという経験のきっかけになれば良いと思う。
V.S.ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー著 山下篤子訳 脳のなかの幽霊リチャード・E・サイトウィック、デイヴィッド・M・イーグルマン著 山下篤子訳 脳のなかの万華鏡 あなたは共感覚という言葉を聞いたことがあるだろうか。共感覚とはたとえば声や音楽が、ただ耳から聞こえるだけでなく、目に見えたり、味をもっていたり、物理的な手触りを伴っていたりする。これだけ聞くと土曜日は青、国語は赤というようにカレンダーや教科書などの文字と色の結びつきを記憶していて連想しているだけのように考える人もいると思うが、共感覚発生時には実際に知覚しているときの脳と同じ活動パターンが見られるため、連想とは明確な違いがある。 この本はまず共感覚とは何か、ただの想像となにが違うのかから始まる。そして、様々な共感覚のタイプが紹介され、その後、タイプごとの詳しい説明や考察が続く。実際の共感覚者自信のエピソードが、都度交えられているため、非共感覚者にも理解しやすい内容となっている。最後には共感覚の脳の中、非共感覚者との違い共感覚研究の今後と語られていく。 私が特に印象に残っているのは共感覚と隠喩の関係の話だ。「柄がうるさい」「甘い言葉」という言葉があるが、柄は耳から聞こえるものではなく目に見えるものではないのか。また、なぜ言葉のことを表現するのに味覚の形容詞が使われるのか。これらはどういうことなのだろうか。ひょっとするとよくある隠喩は共感覚から派生しているのでないのかと著者は検討する。このようにただ未知の話が続いていくのでなく、私たちに身近な話題についても共感覚という観点から述べられている。 全体を通して脳科学の要素が強い内容ではあったが、専門用語はほとんどなくあってもその都度説明があるため、予備知識がなくても読める本だと感じた。講義でも触れた絶対音感と共感覚の関わりについても述べられているので講義を受けた人に是非読んでほしい一冊だ。
ダーウィン『種の起源』を漫画で読む/佐倉統若い読者に贈る美しい生物学講義/更科功動物や植物、進化や多様性など「生物学」のほぼ無限とも思える領域の話題をとても簡潔に広く述べている。細胞や遺伝についてなど高校の教科書に書いてありそうな生物の学問としての内容も多かったが、様々な動物や植物の生体を例に挙げて、生物の定義から始まり、なぜ植物は人間の心臓のようなポンプを持たずとも重力に逆らって水を高いところに運べるのか、などたくさんの興味深いトピックについて説明している。農学部でありながら、高校の頃は目に見えない小さなミクロの話ばかりの生物がとても苦手であった私は、この本を自分で選んでおきながら読むまでがすこし億劫であった。しかし読み始めると六時間ノンストップで最後まで読み終えてしまった。私は特に後半のヒトの進化あたりに興味を持った。空を飛ぶ能力は生物の進化の過程において昆虫、恐竜(翼竜)、ネズミ(コウモリ)、鳥類がそれぞれが各々で身につけたが、頭が足の真上にある直立二足歩行を身につけたのはヒトだけで、それは太陽光にあたる面積を小さくしたり、大きな脳を増したから支えられたり両手が空くため武器や食物を運べるなど様々なメリットがある。しかし人類以外に直立二足歩行が全く進化しなかったのは自然界において最大の欠点となる走行の減速があるから、という話にはとても納得した。
『「空気」と「世間」』 鴻上尚史『「世間体」の構造』 井上忠司私は『「空気」と「世間」』を読んで相手を思いやることではなく相手と交渉することが人とかかわるうえで重要であると強く感じた。特に日本人の間では昔から他者に迷惑をかけずに生きることが重要視されているため、その過程で「空気」を読むことや「世間」の目を極度に気にしてしまう人が多い。私自身他者に迷惑をかけないよう行動することに囚われて自分のことを二の次にばかりしてしまい、自分の意見を素直に話せなかったり、他者に助けを求めることができなかったりして自分を犠牲にしてきた過去がある。そのため、自分の中だけで相手に迷惑かを勝手に判断するのではなく、相手ときちんとコミュニケーションを取り合いながら他者そして自分を思いやって生きることの重要性を改めて感じた。『「空気」と「世間」』から私はなぜ私たちはこんなにも場の空気や世間という存在に縛られて生きているのか大変疑問に思った。そこで紹介したいのが井上忠司著作の『「世間体」の構造』である。この本は私たち日本人がなぜ行動やその結果に関して極度に世間の目を気にするのかということを「世間」という言葉の意味や「恥」の文化や「ウチ」と「ソト」の概念といった日本古来の文化的側面から論じている。また西洋圏と日本との文化比較によって世間体や人間関係に関する考え方の違いといった比較文化論の視点も加わり、さらに広い視点で私たちが囚われている「世間」について学ぶことができる。特に日本人はほかの国の人々とは異なり、基本的に無宗教で唯一絶対神を持たないため、世間に対して体面、体裁をつくろい、恥ずかしくない行動をとろうとすることに規範意識を持ち、それを唯一絶対神のように価値基準に置いている。この本は「世間」といういわば一種の宗教的観念に囚われている私たち日本人に世間を重んじる本当の意味を認識し、再考させてくれる。ぜひおすすめしたい一冊である。
コンサートホール×オーケストラ理想の響きを求めて音響設計家・豊田泰久との対話 林田直樹、潮博恵響きをみがく 音響設計家豊田泰久の仕事 石合力究極の響きはどのようにして生まれるのか?この本を読み終えるころには、きっと究極の響きに包まれるコンサートホールとはどのようなものだろうか?一度究極の響きに包まれてみたいと思うだろう。ネット配信で音楽を楽しむのが当たり前になった現代に曲が終わった後に聴客の総立ちで拍手が起こるよなコンサートホールのライブでしか味わうことができない音の響きはどのようにして生み出されているのか。日本よりもむしろ、海外で知られていて、クラシックの本場欧州で新たなコンサートホールの建設計画が持ち上がると、著名な指揮者や名門オーケストラから必ずと言っていいほど名指しで声がかかる、音響設計家の豊田泰久さんの言葉を交えながらどのようにして究極の響きをつくっているのかについて書かれている。音響設計家の豊田泰久さんは世界中の交響楽団や音楽家から非常に高い評価を受けている東京赤坂のサントリーホールなど、各地のコンサートホールの音響設計で知られる会社『永田音響設計』のロサンゼルス事務所代表兼パリ事務所代表の肩書を持つ音響設計家であり大の音楽好きである。音響設計家と言ったら、普通コンサートホールなどの建築物について考えるだけだと考えるかもしれないが、究極の響きをつくり出す豊田は、ホールの優れた音響を引き出す指揮者と演奏者が重要と考えている。そのため、演奏者の配置や演奏自体についてもかなり考えられている。また、多くの海外の方と仕事をしているため、人とのかかわりや出会いなど人間関係についても書かれている。普通のコンサートホールと世界的な音楽家から好まれるコンサートホールは何が違うのか、音楽家たちを魅了する響きにはどのような工夫があるのか、ここでは説明しきれないのでぜひ読んでみてほしい。
菊地 成孔  大谷能生『憂鬱と官能を教えた学校』柴田 南雄 『音楽の骸骨のはなし』この本は、日本の伝統的な音階と、12音を用いた現代音楽の、伝統と前衛という対照的な2つの音楽のそれぞれを分析した本です。現代の一般的な音楽だけでなく、さらに広く音楽の理論について知りたい人や、具体的な音楽の中から理論を見出すことについて興味のある人に読んでほしい本です。あまり音楽理論として意識されない音楽の中から、興味深い理論が見出されている一冊です。日本の音楽については「テトラコルド」という概念で説明されていたものを、より基本に立ち返って説明しています。また、「無調音楽」については、12音のひとまとまりを前半と後半に分けることにより、一般的な「調性」とは異なりますが、音同士のつながりの規則性のようなものが見いだせることがわかります。理論として完成されたものではありませんが、分析の過程を追うことができます。そのため、この本を読むことで、一般的な音楽理論に対しても新たな視点で捉え直すことにもつながると思います。
ルドルフとイッパイアッテナ、著:斎藤洋おとなの教養、著:池上彰ルドルフとイッパイアッテナを読んだ方が次読む本としてオススメしたいのが、池上彰さんが書いた「おとなの教養」です。ルドルフとイッパイアッテナでは、教養のある猫のイッパイアッテナがルドルフに対して、教養は何のために学ぶのか、教養の大切さを教えていくセリフがとても印象に残ったと思います。今回私が紹介する本は、教養を学ぶ大切さを知り、教養を学んでいきたいけど、何から学べばいいか分からないという方に、最初の一冊として欲しい本です。本書の序章にこんなことが書かれてあります。「すぐに役立つことは、世の中に出て、すぐ役に立たなくなる。すぐには役に立たないことが、実は長い目で見ると、役に立つ。」池上彰さんは、本当の教養は、すぐに役立たないかもしれないが、長い人生の中で自分を支える基盤となるものであると考えました。そこで何を学べばいいのか考えたとき、現代で必要な教養は「自分自身を知る」ことだと言います。本書では、そんな自分自身を知るための教養を、「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間の病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」の7つのトピックに分けて話しています。私は本書を読んでみて、聞いたこたことのある話題が沢山出てきましたが、その中でも「この起源はこうゆうことだったのか!」と発見することが沢山ありました。私自身、本書を読みながら社会の様々なことについて、知っているつもりであったけど、それを説明しろと言われるとできないような曖昧な知識が多いということにも気づきました。今まで宗教や経済、歴史の分野の話はどうしても難しく聞こえ、遠ざけてきていたのですが、本書はとても分かり易く面白く、スラスラ読み進めることがでみました。本書を読み終えて「自分自身を知るための教養」の第一歩が歩めたと感じてます。ぜひ大学生が教養を学ぶためのはじめの本として皆さんに読んで欲しいです。
川原繁人/ 音とことばのふしぎな世界編著:沖森卓也 木村一 ,著:安部清哉 加藤大鶴 吉田雅子 / 日本語の音 この本では,日本語の音声や音韻・アクセントの特徴を言語と音の性質や発音記号などともに解説している。『音とことばのふしぎな世界』における第2~4章の部分を日本語に対象を絞ってさらに詳しく述べている。 内容は音声学の中でも,調音音声学や記述音声学がメインとなっている。音声器官や発生の仕組み,子音や母音の種類などについての説明といった音声学の基礎から始まり,IPAで分類されている母音や子音から日本語の発音の特徴を表や図式でまとめている。例えば,日本語の「ん」の発音は後につく文字によっていくつかの音に変化するという性質を持つということや,五十音にはない鼻濁音(語中,語尾の「ガギグゲゴ」で使う音)についてなどがある。 また日本語におけるそれぞれの単音の特徴だけでなく,語句のアクセントやイントネーション,日本語特有の拍感についても解説されている。この部分はこの講義の内容とはずれる部分であるが,日本語の音声・音韻的仕組みを学ぶ上では比較的わかりやすくまとめられている。 ほかには,方言における特有の発音やアクセント,日本語における音韻史についてなどが述べられている。私がここで興味深いと感じたのは,日本語の音の歴史的な変化である。言葉遣いや単語,アクセントなどが違うことは大河ドラマなどでなんとなく知っていたが,日本語の音自体もかなり大きく変わっていたということに驚いた。(ハ行の音が平安時代ではパ行と同じ発音であったものからファ行の発音を経て現在の「ハヒフヘホ」になったということや,「クヮ,グヮ」といった発音が方言以外にも受容されていたということなど) 入門書として読むにしては幾分内容がとっつきにくい部分もあるが,先ほどの書籍を読んで音声のふしぎに興味を持った人や音声学の基礎を学ぶ人にお勧めする。
VSラマチャンドラン 脳のなかの幽霊オリヴァーサックス 妻を帽子とまちがえた男まず、私がこの本を選んだのは、タイトルの奇抜さに惹かれたと共に、これまでの講義を受けてきたなかで、強く興味を持った脳の不思議について書かれていたからである。これまでの講義でも、音楽とは脳でどのように認識するかによって感じ方が変わるものであるという話があったが、この本ではそんな脳の感覚の不思議な症例について紹介がされている。この本では、脳の神経障害や異常を持った人々の事例がいくつか書かれているが、今回は、そのなかで自分が面白いと感じた話のあらすじを挙げていこうと思う。それが、突然犬のように嗅覚が鋭くなった男性の話である。その男性は脳の異常から嗅覚が上がり、様々なものをかぎ分け、店や道の匂いで街を迷わずに歩くことすらできるようになった。その男性は身の回り全てがこれまでよりも新鮮に感じたが、逆にその感覚のために自分の周りに現実感が薄れたように感じていく。3週間後、奇跡的に脳の異常は治り、元の嗅覚を取り戻した男性だったが、「元に戻って良かったが、代わりに失ったものも大きいように感じる。文明の発展とともにその代償として我々人間が何を失ってきたのか分かった気がする」と少し名残惜しそうに話す。脳の異常による感覚の変化が、どのような影響を及ぼすのかという面白さもあるが、この本が伝えたいことは、それだけでなく、その異常を持った人々がどんな考えを持つのか、どんな行動をするのかというところにあると私は考える。この本に出てくる人達は皆、他の人とは違う感覚を持つなかで、普通に生きていく中で考えたこともないようなことを感じたり思ったりしている。「人とは違う」とは果たして何なのかを改めて考えさせられる、そんな新たな視点を持つことができる本に感じた。この本のタイトルでもある「妻を帽子と間違えた男」も大変興味深く面白い話であるため、是非読んでみて欲しい。
斎藤洋「ルドルフとイッパイアッテナ」斎藤洋「ルドルフともだちひとりだち「ルドルフともだちひとりだち」は、斉藤洋による「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズの続編として、主人公の黒猫ルドルフが新しい友達と出会い、自立するための冒険を繰り広げる姿が描かれています。物語のあらすじでは、前作に登場した賢い猫のイッパイアッテナからたくさんの知識や心の持ち方を学んだルドルフが、自分の力で新しい冒険に挑むところからはじまります。ある日ルドルフは新しい街に迷い込み、そこでは新しい様々な猫たちと出会います。出会った猫にいたミーシャが今後ルドルフにとって頼れる存在となり、彼に多くのことを教えてくれます。また、ルドルフは前作とは異なり自分自身の力で問題を解決する方法を学ぶとともに、自立知るための勇気と知恵や友情の大切さを学びます。この本の中で描かれるルドルフが新しい仲間と出会い、共に困難を乗り越えていく姿は、読者にとって多くの感動や教訓を与えるでしょう。さらに、物語の中で描かれる友情や自立といったテーマは私たち大学生と通ずるものがあり、親元を離れ生活をしている人やこれから新生活を始めようとしている人も勇気をもらえる作品なので学生にお勧めしたい作品です。また、前作と比べてさらにルドルフの成長が顕著に描かれていることから、前作を読んだ人には自分の力で道を切り開くルドルフの成長した姿を感じられ、感動すること間違いなしです。さあ、ルドルフとともに新たな冒険の旅に出かけ、心温まる物語をぜひ体験してみてください。
佐藤 雅彦/菅 俊一【原作】/高橋秀明【画】 行動経済学まんがヘンテコノミクス平野敦士カール 思わずためしてみたくなる マンガ 行動経済学1年生「行動経済学」。この言葉を目にしたとき、なんだか難しそう、と考える人も多いのではないでだろうか。しかし、この本を読めば、難しそうだった行動経済学も、きっと面白く、興味深いものであるという考えになるだろう。本書では、行動経済学で分析されている様々な効果を、日常でよく体験するような場面を用いて、4コマ漫画にして紹介されている。その漫画の後に、詳しい解説が添えられているので、効果の内容がより理解しやすい構成となっている。経済学を学んでいる学生はもちろん、それ以外の学生でも十分に理解することができる内容にため、一読して損はないと言える。なぜこの本を読むことを勧めるか。それは、自分自身の日常での選択を見直すきっかけとなるからである。「自分はいつも合理的な行動・選択をしている」こう言い切れる人は果たして居るだろうか?伝統的な経済学では、人間は常に合理的という前提で考えられてきた。しかし、実際にはそうではない。そこで、非合理的な人間の行動を研究するために、経済学に人間の心の動きを反映させたものが行動経済学である。日常のあらゆる場面で、非合理的な行動をした覚えのある人は多いだろう。それらの多くは、行動経済学によって説明することができ、自分の選択に影響を与えた効果を知ることで、今後の選択をより合理的なものにすることができるだろう。行動経済学は、企業が行うマーケティング戦術にも幅広く応用されている。本書でもさまざまな事例が紹介されているが、実際に見た、企業の思惑通りに購入してしまった、といった経験を思い出す人も多いと思う。これらの戦術を知ることは、不要な出費を減らすことはもちろん、将来社会人になり、その戦略を用いる側となった際にも必ず役立つ。本格的な社会生活を送り始める前の学生の今だからこそ、自分、そして社会の取る行動についての知識を深めておくことで、いつか来る役に立つ場面に備えよう。
佐野洋子、加藤正弘 脳が言葉を取り戻すときニーナ・クラウス 音と脳―あなたの身体・思考・感情を動かす聴覚「音と脳」は、音が人間の脳と心理に与える影響について深く掘り下げた一冊であり、音楽や音がどのように私たちの認知、感情、行動に作用するかを科学的視点から探求している。本書の著者は、神経科学や心理学の知識を駆使し、音と脳の複雑な相互作用を明確にデータを用いて解説しているため、非常に分かりやすいと感じた。本講義と内容が被っている部分もあるため、この本を読むことでより深い理解を得られると思う。本書の核心は、音がどのように脳の働きに影響を与えるかを理解することにあると感じる。音楽がどのように脳内の報酬系を活性化させ、快感や幸福感をもたらすかについて、具体的な実験結果や神経画像のデータをもとに説明している。また、音のリズムやメロディーが脳の各領域にどのように作用するのか、ストレスや不安に対する音の効果についても学ぶことができる。最近は、動画サイトにヒーリング効果のある動画などが多数上がっているが、この本を読むことで、これらの動画への解像度も上がった。この解説より、音楽や音の力を実生活で効果的に活用する方法についても具体的なアドバイスがあり、試してみたくなるようなものばかりである。著者は、音と脳の関係を探る過程で、音楽の歴史的背景や文化的意義にも触れている。音楽がどのようにして文化や社会に影響を与え、また音楽が持つ普遍的な価値について考察している。このように、音楽と脳の関係を科学的に理解するだけでなく、音楽の文化的な側面にも光を当てている点が本書の大きな魅力だと私は思う。「音と脳」は、音楽が好きな人だけでなく、心理学や神経科学に興味を持つ人に是非とも読んでほしい一冊である。
日本音響学会 音の何でも小辞典ジョン・パウエル 響きの科学この本は楽器の構造、音の物理的な部分からクリエイティブな部分まで、音に関する幅広いテーマを扱っています。音楽の科学的な側面を理解するだけでなく、音楽理論についても学びを深めることができます。著者のジョン・パウエルは物理学者であると同時に音楽家でもあります。物理学者、音楽家としての、それぞれの視点からのアプローチや、どちらの知識も持っているからこその説得力と分かりやすさがあるように感じました。
この本の素晴らしいところは、専門的な内容も詳しく丁寧に説明されており、理解しやすい内容であるところです。講義で扱った内容とリンクする部分が多くありつつも、さらに詳しく書かれていたり、新しく学べることがあったり、講義の内容からさらに専門的に踏み込んで学べる内容となっています。難易度が高すぎても低すぎても退屈してしまいますが、授業を受けた人にとっては一番楽しく読める難易度なのではないかと感じました。
自分が授業で疑問に思ったことで、解決できていなかったことの答え合わせができるように感じました。例えば、自分は第11回の授業後に、ギターやヴァイオリンの弦の振動について非常に多くの疑問を持ったまま、解決できていなかったのですが、この本では第3章や第5章で非常に詳しく書かれており、そのときに感じた疑問は解消することができました。
授業内で聞いた、相対音感、絶対音感の話や、音楽とは何かといったことがより詳しく、具体例をあげて説明されているので、授業と並行して、または授業を一通り受けた後に読むことをお勧めします。
斉藤洋 ルドルフとイッパイアッテナ冨樫義博 HUNTER×HUNTER『HUNTER×HUNTER』は、冨樫義博による人気の漫画で、その複雑なストーリーと豊かなテーマ性は、教養を深めるための素晴らしい教材となり得る。物語の緻密な構成やさまざまなキャラクターの成長は、読み手に批判的思考や分析能力を養うことができる。
まず、物語の複雑さが教養の一部として位置づけられる。『HUNTER×HUNTER』は、複雑な物語と緻密なキャラクター描写が特徴である。物語は、単なる冒険の話ではなく、複数の視点から展開され、キャラクターの動機や背景が深く掘り下げられている。これにより、読者はストーリーを理解するだけでなく、その背後にあるテーマやメッセージについても考察する必要がある。このような複雑な物語を楽しむことで、読者は批判的思考力や分析能力を養うことができる。
次に、作品に含まれる多様なテーマと哲学的要素が教養と関連している。『HUNTER×HUNTER』は、権力、道徳、倫理、自己実現などの深いテーマを扱っており、これらのテーマは教養を高めるための重要な要素となると考える。例えば、キャラクターの内面的な葛藤や社会的な問題に対するアプローチは読者に深い思索を促し、自己や社会に対する理解を深める手助けとなる。
さらに、作品に登場する「念能力」や「ハンター試験」などのファンタジー要素は、物理学や心理学、戦略的思考などの知識を取り入れており、これにより読者は異なる知識体系に触れることができる。こうした知識の幅広さは、単なるエンターテイメントを超えて、学びの機会を提供し、教養の一部として位置づけられる。
このように、『HUNTER×HUNTER』は、その複雑な物語構造や深いテーマ、知識の広がりを通じて、教養を深めるための貴重な資源となっている。単なる娯楽としてだけでなく、知的な刺激や思索の機会を提供する作品として、多くの人に推薦できる。
コンサートホール×オーケストラ 理想の響きを求めて 聞き手:林田直樹 解説:潮博恵音と生活 橘秀樹、田中ひかり、上野佳奈子、横山栄、船場ひさお共著音と生活という本は音響入門シリーズの一冊で、高校を卒業した大学1年生や社会人、新たに音響を専門としたいという初学者に向けた本であり、私たちの身の回りの空間にかかわる音についてのことが様々な視点から書かれている。おおまかに、住宅、学校、公共空間、ホールにおける音、環境騒音、サウンドスケープ(音の風景)といった内容であり、音響を学ぶ人だけでなく、建築を学ぶ人、教育を学ぶ人、まちづくりをしたい人などにとっては特におすすめしたい。しかし、すぐに理解することはできない式や定義も含まれていたため、すべてを理解するのは難しいと感じた。この中から話題につい3つほどのトピックについてピックアップしていきたい。住宅については、快適にすごすためには十分な遮音がなされる必要がある。遮音の対象となる音には空気中を伝わって壁などを通過する空気伝搬音、建物の構造体を振動として伝わり、室内で音となって聴こえる固体伝搬音の2種類があり、それぞれの音を遮音する方法について書かれている。学校における音では、教育現場における音環境の重要さについて書かれている。発生音の大きさや必要な静けさ、適度な響きについて、教室ごとに決まっていてそれに基づいて設計されているということが分かる。コンサートホールについては、参考図書として読んだ本はオーケストラとホールのことについて書かれており、コンサートホールの音響設計はサイエンスであるという風に書かれていた。設計の話についてもあったが、オーケストラや各ホールの話も多く、アートな部分も多く感じた。音と生活という本を読むと、ホールの響きの評価や音響設計の流れが大まかに分かり、サイエンスの部分がよりコンパクトで分かりやすくまとまっていた。この本を読むことで私たちの生活している空間と音のかかわりやより良い空間にするために工夫されていることが分かると思う。
古谷晋一 ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム岡田暁生 伊藤信宏 近藤秀樹 大久保研 小岩信治 大地宏子 筒井はる香 ピアノを弾く身体 私は、「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム」という本を読んでピアニストがピアノを弾くときに脳がどのような働きをしているのかについて読みました。それがきっかけでピアニストの演奏を身体という観点から見た本を読んでみようと思いこの本を選びました。 この本は、演奏という形で自らの身体を響きと共鳴させてみて初めて浮き上がってくる音楽の諸相を主題にしています。音楽とは単に聴くものではではなく身体全体で演奏するものであると筆者は主張しており、確かに聞いているだけではわからないことがたくさんあると感じました。 また、指使いの問題についても記述があり、ピアノを習っている・弾ける人にはぜひ読んでほしいと思いました。ピアノの先生から「指使いを守りなさい」と言われたことがあるピアノ学習者が多い一方でモーツアルトは「弾ければ、鼻で弾いてもかまわないさ」と言ったとされています。どちらが正しいのかをぜひ読んで確かめていただきたいです。 また、超絶技巧についても記述があります。超絶技巧を用いた演奏は「機械のようである」とよく表現されることから機械とは何かという問いから始まり、超絶技巧で聴衆をを圧倒するためには動作だけでなくタイミングも重要な要素であるとの記述がありました。また、私たちは何か技術を習得するとき、知らぬ間に飛躍を遂げていることがあるが、かと言って反復練習は決して無駄ではなく飛躍の準備のために必須なものであると改めて理解しました。また、超絶技巧で大事なのは技術だけであると思い込んでいたけれど、ほかにも様々な要素がそろって初めて超絶技巧で聴衆を驚かせることができるのだと分かりました。  この本はピアノの経験がある人はもちろん、やったことがない人にもぜひ読んでいただきたいと思いました。この本を読めばピアノの演奏に対する考えを深めることができると思います。 
哲学の謎 野矢茂樹哲学な日々 考えさせない時代に抗して  野矢茂樹今回参考図書で選んだ本がたまたまどちらも著者 野矢茂樹のものであったが、すっかりハマってしまった。この著者の本はなんと言っても「簡単」それに尽きる。普段の生活でも一度は考えたことがあるが、だんだん難しくなって考えるのをやめてしまう、頭がこんがらがって「よし、一旦YouTube見よう」ってなるあれ。そういう触り方を間違えると難しくて嫌になってしまうことを簡単な言葉で、どこかコミカルに、そして整然と教えてくれる。本の内容に移っていく。この本の前半は短いエッセイが50個続く。著者が昔新聞に毎日掲載していたものだそうで一つ当たり2ページ分くらいのとても軽いエッセイなのだが、これが面白い。特に自分が面白いと感じた話をひとつ紹介16番目「全てはおまけ」おばちゃんが「これ、おまけ」と言ってくれると幸せを感じる。でも、皆んなにそう言っていてこのおまけも値段のうちと考えるとその幸せはどうなるだろうか?ここで出てくるのが本来無一物(何にも持ってなくてもともと)と言う考え方。何も持っていないのだから貰ったものは全ておまけとして無邪気に喜んでいればいい。そんな、執着やそれに付随する喜びや恐怖への考え方を教えてくれる。また、この著者は大学教授なのだそうだが、学生に自分がずっと続けている坐禅を教えるのだそう。エッセイに詳しいやり方も書いてあり試しにやってみたのだが、なかなか悪くない。大学生と坐禅、程遠いと思っていたが将来の不安や楽しい飲み会など、情緒の振れ幅が大きくなりやすい大学生にこそ、何もしない何も考えない時間は心にゆとりを持たせてくれる。何かしなければと忙しい時こそ、ぜひやってみてほしい。座禅のおかげでこの課題も提出期限ギリギリになってしまった。と、こんな風にオチをつけてしまうのもこの本の作者にすっかり影響されてしまっている。軽い気持ちで一冊読んでみると良い経験になると思う。
コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて: 音響設計家・豊田泰久との対話澤和樹 教養として学んでおきたいクラシック音楽 クラシック音楽を「聴いた」ことはありますか?おそらくほぼすべ他の方が「聞いた」ことがあると思いますが、「聴いた」ことがある人は少ないと思います。クラシック音楽が好きな僕からすると、「聞いた」ことさえあれば、それだけでうれしいです。ですが、さらにクラシック音楽の知識を増やし、もう一度「聞いて」そしてコンサートホールなどでも「聴いて」ほしいと思います。 まず、僕が見つけた図書の説明を簡単にさせていただきます。この本は第10代藝大学長の澤和樹さんが著書したものです。図書の紹介文では、「格調高い音楽を、もっと知りたい、その知識を深めたいという期待にお応えできるように、」「クラシック音楽の美しさ、楽しさ、すばらしさを、この本を通じてご理解いただける一冊」と書かれています。僕なりに図書の内容も取り入れながら紹介させていただきたいと思います。 図書には「最初からクラシック音楽として書かれたクラシック音楽はなく、あくまでそれぞれは、ある時代を生きていた作曲家が書き、演奏家が演奏していた音楽だということ。」と初めに書いてあり、読んだ時にはびっくりしました。「バッハなどは初めからクラシック音楽を作ろうとして作ったわけではないんだ…」と思いましたが、「よくよく考えてみれば、初めから音楽の種類を定義付けていたわけではないかも」と読みながら考えていました。 途中には古典派、ロマン派とわけてのおすすめの曲紹介クラシック音楽の楽しみ方、オーケストラの楽しみ方、またヴァイオリニストとしての経験についてなどクラシック音楽を楽しむためのあれこれが詰まっています。 僕はこの図書を少しでもクラシック音楽に興味のある人にまず、読んでみてほしいです。クラシック音楽が好きだ!、オーケストラもなんども聞いている!という人には図書を読み進めていると共感できるところがいくつもあります。 ぜひ読んでみてください。
野矢茂樹 哲学の謎平野啓一郎 私とは何か「個人」から「分人」へ「自分はどんな人間なのだろうか。」生きているうちに多くの人が一度は考えたことがあるのではないでしょうか。この本はその問いを考える際のヒントを与えてくれるように感じます。人間が成長するにつれて多くの経験を経るようになり、それと同時に多くの考えや感情を抱くようになるでしょう。つまり、人間関係もより複雑になってきます。その中で一定の人格を持つ人はいるのでしょうか。この本が言いたいことを簡単に説明すると、様々な人間関係のなかにそれぞれの自分がいるということ、本当の自分は一つではないということです。どうしても自分がどんな人間かを考えるとき、一つの答えを求めてしまうことがあるかもしれません。しかし、そんな必要はないのです。また、社会人手前の大学生は就職については考えざる終えないことでしょう。しかし、この本の中で、「職業の多様性は個性の多様性に比べて遥かに限定的である。」というように述べられています。この文を読んで少しホッとした自分がいました。このほかにも様々な分野にわたり、自分と向き合う際のヒントを与えてくれる本です。また、自分の人格の半分は他者の影響によりつくられたということを聞いて驚く人が多いと思います。なぜこのように著者が述べるのか、実際にこの本を読んで納得してみて欲しいと感じます。また、その他にも、自分を好きになる方法についても述べられています。この本を読んだ後は少し自分のことを好きになれるかもしれません。前述したように、現代の人間関係は非常に複雑なものです。時には、自分を見失ってしまうこともあるかもしれません。この本は自分を見つめ直すのに本当に新しい視点でしたし、考え方も非常に面白かったです。是非多くの大学生に読んでもらいたいと感じます。特に人間関係に悩んでいる人、本当の自分を追い求めている人には読んでもらいたい一冊です。
斉藤洋 杉浦範茂 ルドルフとイッパイアッテナ水野敬也 夢をかなえるゾウルドルフとイッパイアッテナでは、主人公のルドルフという黒猫が自分の住んでいる町から遠く離れた場所にトラックで運ばれてしまうところから始まる。ルドルフが困っているところにあるトラネコが現れる。その名前を聞くと、「俺のなまえは、いっぱいあってな」と言われる。ルドルフはそのトラネコの名前が「イッパイアッテナ」であると勘違いした。イッパイアッテナには教養があったため、そこからルドルフに文字の読み書きを教える日が始まった。ある日テレビを見るとそこに映っていた景色がルドルフの故郷であると分かった。そして商店街のポスターを見て、バス旅行のバスに乗りこめれば、自分の故郷へ帰ることができ、飼い主にも再開できると分かった。イッパイアッテナの他人を思いやる気持ちと、そこからルドルフが成長していく人間の成長に通じる本である。夢をかなえるゾウでは、ある平凡なサラリーマンの前にインドの神様・ガネーシャが現れる。この出会いが主人公であるサラリーマンの人生を変えてゆく。ガネーシヤはその主人公に課題を与えるが、その課題は自己発見の旅へと導くカギとなる。ガネーシャは主人公にまず、「毎朝鏡の前で自分の長所を三つ言うこと」の課題を課した。ここから主人公は自分の価値を再発見していく。次に、「一週間に一度、新しい趣味に挑戦する」という課題が課される。ここから、主人公は自分の興味や情熱を探求し、目標を明確にすることを学ぶ。ここから、主人公の旅を通して、自分自身の人生における夢を再発見し、それをかなえるための勇気を得ることができるだろう。この二つの本から、主人公の前にカギとなる登場人物が現れ、そこから登場人物との協力で主人公が成長を遂げていくという共通点を見つけることができる。教養の重要さと人生における他人の存在の不可欠さを感じることができる。人生の成長をしたい・新たなことをしたいと考えている人にぜひおすすめしたい。
川原繁人 著 音とことばの不思議な世界窪薗晴夫 編 オノマトペの謎ポップな雰囲気感じるサブタイトルに惹かれこの本を手に取った。中身はキリっと真面目な雰囲気漂うが、色んな疑問に理詰めで説明していくのに面白みを感じてしまう、そんな本である。
本書は全8章で構成され、章ごとに異なる専門家たちが各々の観点からオノマトペについて考察し、素朴な疑問に答えていく形となっている。例えば、「スクスク」と「クスクス」はどうして意味が違うの?という疑問。普段、両者を使い分けることができていると思うが、どちらも「s,k,u」という音からなっており、いざ聞かれるとなぜ意味が違うのか分からない人が多いのではないだろうか。実はこれは、子音の位置が関係しており、子音の順番が異なるだけで全く意味が違ってくるのだという。他にも、曜日を言うとき「火」「土」を「カー」「ドー」のように伸ばして発音する。また、十二支を言うときも「子」「卯」を「ネー」「ウ―」と語尾を伸ばして発音するが、これはオノマトペと赤ちゃん言葉の中心的な音声構造と酷似しているという。また、特に面白いと思った事例は、赤ちゃんが、音と形との関係をしっかり捉えられるというものだ。実験で、赤ちゃんに、尖った形に「もま」、丸い形に「きぴ」という組合せで提示すると、違和感を感じるということが脳の反応から分かったという。「オノマトペは子どもを言語の世界に引きつける。それによって子どもはことばに興味をもち、もっと聞きたい、話したい、ことばを使いたいと思う。」―これは第6章から引用したもので、一番印象に残った言葉だ。実はオノマトペが子どもにとって大事な言葉であるのを初めて知った。「話すのって楽しいな」と思ってもらえるように、子どもと話すときはオノマトペを意識して使っていきたいと思えた。
入門書というよりも学術的で、前半は少し難しく感じると思うが、後半は比較的読みやすい。オノマトペの謎と魅力に深く触れられる一冊となっている。
フーリエの冒険オーディオ・ビデオ圧縮入門この本は動画や音声の圧縮に関する知識を取り揃えた本だ。圧縮とは何かに始まり、圧縮の方法を事細かく書かれている。具体的には圧縮には可逆圧縮、非可逆圧縮があることや、圧縮率、圧縮の必要性などに関して書かれている。この本は音を通して数学やコンピューターの考えも学ぶことが出来るので非常におすすめであると言える。
哲学の謎 野矢茂樹意識はいつ生まれるのか ジュリオトニーノ まず大まかにこの本の説明をすると、この本は医学的な検知から意識を探っていくというような本です。意識とは脳から独立したもので脳の外側からやってくるものという考え方などがある中で、そもそも意識があるかないかということについて、植物状態や昏睡状態の場合、寝ている場合を引き合いに出し、意識というのはどういう風にとらえるべきなのか。意識があるのかないのか確認するために声をかけたりして、それに対して体を使って意識を伝えられる人と伝える方法がないにもかかわらず意識はちゃんと持っているという人がいる場合、意識があるかないかをどのように判断するべきなのか。その判断をするために客観的な指標であるΦ値を定め、意識というものを暴くために突き詰めていくという本です。 この本はいきなり結論とかではなく、色々な実験など意識を暴こうとした過程についてストーリー的に書かれているためとても読みやすくなっています。意識や自我に興味がある人や脳科学、医学に興味がある人はもちろん、そのようなことに一切触れたことのない人でも読みやすいような本になっています。
音とことばのふしぎな世界-メイド声から英語の達人まで(川原 繁人)ちいさい言語学者の冒険-子どもに学ぶことばの秘密(広瀬 友紀)筆者の広瀬友紀教授は東京大学で心理言語学について研究を進めており、ことばが子どもや大人の心の中でどの様に認識されているかを、自らの子育て日記を分析した、言語学の入門としてとても入りやすい書籍になっている。まず、「ちいさい言語学者」と聞いて、子どもが言語学者?と感じた人が多いのではないだろうか。しかし、自分の小さい頃を思い出して頂きたい。日本語に熟練した今よりことばに対する謎を沢山抱いていたはずだ。どうしてこんな言い間違いをするのか?何でその言い間違いを大人はしないのか?今では慣れたこの様なことばも、言語を習得する前の子どもは敏感に受け止める。
本書は、「ちいさい言語学者」の子どもが日本語、ひいては言語を手に入れる冒険に筆者が実況を施す形式で書かれている。ことばの秩序を論理的手法で見出し、試し、整理する子どもの考えは、今の私たちが通り過ぎたことばへの謎を呼び起こしてくれるであろう。
本書は第1章に音声学の説明から始まってる。子音や母音の構造について、子どもが感じた疑問から出発し論を展開している。音声学というと発話行為の仕組みや多少人体構造についても知っている必要があるため、理解が難しいが、本書では、『「おんなごころ」は「ご」なのに「おんなことば」は何で「こ」なのか?』の様に、分かりやすい疑問と共に説明しているためとても分かりやすい。続いて第2章からは押韻論や統語論、意味論や語用論、まとめと参考文献の様に続く事から、この書籍では論文の記述形式が使われている。そのため、筆者の育児記録等を使った実践的で分かりやすい内容でありながら、言語学の論文的な側面も持っている。
私は大学で学ぶ学問はどれも難しく取っ付きづらく感じていたが、本書ではとても簡潔に分かりやすく説明されており、内容も非常に興味深かった。自分の様に大学学問に壁を感じている人に、是非読んで頂きたい本であった。
下條信輔/サブリミナル・マインド河合隼雄/無意識の構造私たちは日常生活において、意識的に行動をし、感情を表現して意思決定を行なっていると考えている。しかし、ユングの心理学では、意識的な活動の背後には常に無意識が働いていると考えられる。たとえば、私たちは特定の音楽を聴くことで過去の記憶が呼び起こされ、懐かしさや幸福感を感じる。あるいは、買い物をしているとき、過去の経験や広告による影響を受けて商品を選ぶ。このように、意識的にコントロールできない無意識の働きは、私たちの知覚していない多くの心の働きを支えている。ユングは、我々が自覚している意識は無意識上に表層化した氷山の一角であるとし、無意識は個人的無意識とさらにその深層にある集合的無意識に区分した。コンプレックスという言葉はユングが提唱し、現在劣等感という意味としてよく用いられる。しかし実際には、父親に恐怖を抱いている人が髭のある人物に不快感を感じるなど、個人的無意識下で形成された観念の複合体である。こうしたコンプレックスは、対話によって意識化することで自己が補完され、心が発達していく。さらに、無意識の深層には、文化や時代を超越した観念に根差した共通の土台である集合的無意識があるとされる。集合的無意識は、自分が成し得なかった姿や、抑圧した自身の中の異性のイメージなどを形成し、しばしば夢として表層化する。これらは過去に否定した自身のイメージであり、その存在を知り容認することによって他者との対話や理解、ひいては自分自身の心の成長(個性化)へとつながっていく。
鴻上尚史 「空気」と「世間」森毅 まちがったっていいじゃないかこの本は1988年に出版されました。少し昔の本で、書かれている具体的な出来事なども少し古いものがありますが、書かれている内容は今の現代の私たちにも当てはまるものが多いと思います。家庭や学校のクラスなどになじめずに窮屈にかたまってしまった人たちの心を優しく受けとめて、そんな時にどのような心持でいればいいのかの筆者なりの考え方を提示し、なじめないあなたの存在が大切であると伝えてくれます。大学生になった私でも読んで心が軽くなったり新しい考え方を見つけられたりしましたが、多感で自分と周りとの差を考え悩み始める中学生や高校生にも紹介したい本です。前述したとおり、この本は30年ほど前に発行されたものですが、昔と環境や世間の価値観が大きく変わっている現代の人々にも響く内容が多く、読んでいてシンプルに「すごいな」と思うことが多くありました。また、この本の中に書いてある、「ときには孤独の気分で」という章の「学校へ行くのがイヤなとき」という内容の話では、「イヤな相手、イヤな状況でも、自分の心もほうを保つことができれば、なんとかなる」「学校なんて、どうということないさ、それよりも、このいちにちを、きみが充実して生きることのほうが、ずっと大事なことだ、そう思ったほうがいい」という文章が出てきますが、これは「空気」と「世間」の本の中で言っていた、「世間」から精神的に逃げ出すことと内容が関連していると思いました。自分と周りとの関係に困ったとき、自分の人生や生活について悩んだときにぜひ読んでほしい一冊です。
川原繁人 音とことばのふしぎな世界川原繁人 日本語の秘密私たちが普段使っている日本語を歌人・ラッパー・言語学者の視点からどう捉えているのか、向き合っているのか。言語学の観点から解釈するとどうなのかについてこの著書では紹介されている。現代に生きる人のほぼ全員がスマホなどの連絡ツールを持っている今、「言語学ブーム」が起こった。さらにコロナ渦で人と直接会うことよりもネット上で対話することが多くなり書き言葉が占める割合が一気に増えたこと、チャットGPTが普及したことによってこの「言語学ブーム」はいっそう発展した。「言語の本質的な性質とはこれこれである。よって言語学の分析方法はかくあらねばならない。」と断定する人もいるが、言葉の創造性は無限であり、言語には様々な側面がある。その上、ことばと空気はニアイコールの存在であり私たちを常に取り巻いている。よって言語分析を通じて人間についてより深い理解を得たいと著者は述べている。「人を知ること」は「自分を知ること」であり、これは私たち全員が行うべきことである。私はこの著書をこれから社会に出る学生におすすめしたい。この著書の中に『言語=「精神の鏡」である』という文があった。私もこの言葉に非常に賛成する。言葉は試験を受けたりする必要がなく、誰でも使うことができるものである。言葉を無免許で好き放題乗り回すことで言葉の行き違い・事故が起こってしまう。だからこそ、教養を身につけることがこれを未然に防ぐために必要である。学生であれば、万が一言葉で間違いを犯しても「若気の至り」で済まされるかもしれない。しかし、社会の一員となってからはそれでは許されない。自分を守るため、相手に嫌な思いをさせないためにも社会に出る前にこの著書を通じて教養を身につけてほしい。また、一流の表現者による「生きるヒント」を読み取ってほしい。
斉藤洋、「ルドルフとイッパイアッテナ」夏目漱石、「吾輩は猫である」みなさんも題名と最初の一文は知っているのに読んだことがないという人も多いのではないかと思うのが、この夏目漱石の「吾輩は猫である」です。物語の語り手は、中学校の英語教師をやっている珍野の家で飼われている雄猫です。珍野家が泥棒に入られたり、嫌がらせをされたりする中で、「吾輩」は人間の見栄っ張りなところや競争心を見て人間はわがままな生き物だと感じます。しかし、時間がたつにつれて「吾輩」は人間に対して親しみを抱くようになっていきます。そして最後は意外性のある終わり方でした。 私は、「吾輩」が初めて人間を見たときの感想である、「第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶だ」という部分が、いつも人間を見ている私たちからはとても想像のすることのできない表現の仕方でとても面白いなと感じました。また、珍野家に泥棒が入ったときに、泥棒が入っていったことに気づいていたのにもか変わらず逃がしてしまった「吾輩」は名誉挽回としてネズミをつかまえて驚かせようとするが失敗してしまうシーンなんともキュートだなと思いました。また、この作品では、猫もかわいいですが、人間の人間臭さも注目すべきポイントです。「吾輩」は苦沙弥たちの人間の名誉や競争心が見え隠れする会話を聞く中で人間は滑稽だなと感じます。しかしこのあと「吾輩」が人間に対して親しみを感じていく、心の移り様も魅力的です。猫派はもちろん、犬派であっても一度は読んでみるべき有名作品です。ぜひ読んでみてください。
ヘンテコノミクスマンガ行動経済学入門私は「ヘンテコノミクス」に掲載されていた、「顕著な特徴だけで、物事を見極める」、いわゆる「ハロー効果」というものに関心をもち、そこからこの分野の大元である行動経済学に興味をもったため、この「マンガ行動経済学入門」を紹介図書に選んだ。この本では、行動経済学について、日常の事象を例にあげることで分かりやすく説明されている。まず、行動経済学とは人間の「 人々が直感や感情によってどのような判断をし、その結果、市場や人々の幸福にどのような影響を及ぼすのか 」を研究する学問であり、この行動経済学にあげられる事象は私たちの生活の中にあふれている。この本はマンガ形式で描かれており、主人公が直面する出来事に対し、行動経済学の理念や考え方に基づいた解決策で対応していき、その後、その事象についての詳しい説明が書かれているため、読者は問題に直面し解決するまでの流れを主人公と共にできるため、行動経済学の基礎を楽しく学ぶことができる。この本では行動経済学に基づくある事象と、さらにそこから発展させた他の事象と関連づけて説明してくれているため、行動経済学の考え方を広く知ることができる。また、実際の私たちの日常生活における具体的な例や行動経済学の活用方法まで学ぶことができる。マンガ形式で楽しく、そして分かりやすく行動経済学について学ぶことができ、かつ、行動経済学に関心がある人はこの本をきっかけに深く研究していくこともできるだろう。ぜひたくさんの人に読んでもらいたい一冊である。
矢野茂樹 『哲学の謎』今井むつみ 秋田喜美 『言語の本質』「〇〇」を「甘酸っぱい」「おいしい」という別の記号と結び付けたら、AIは〇〇を「知った」と言えるだろうか? メロンの味を知らない人に、言葉だけで100%メロンの味を伝えることはできるのか? これは記号接地問題と言います。もともと人工知能の問題として考えられた記号接地問題ですが、本書では人は言葉を覚えるのに身体経験が必要か? 使うために身体経験は必要か? 言語はどこまで身体とつながっている必要があるのか? という人間に置き換えた疑問に派生させ、『言語の本質』についての考察を二人の筆者が共同で執筆しています。本書で中心的役割を果たすのはオノマトペ。「ザラザラ」「ガッカリ」というようなあれです。単純で子供っぽいイメージがあり、実際、学問の場でも言語として扱われてこなかった歴史があるオノマトペですが、本書でキーになる言語との身体性を考えるとき、とても重要でなくてはならないものになります。「身体性」ということを念頭に、ぜひ読んでください。また、言語使用の際、人間の思考がどう働くのかについても重要なポイントです。動物やAIと人間の差異については興味深い内容となっています。人工知能や言語について興味のある方、ぜひ本書を読んでください。言語がどのように進化してきたのか、人はどのように言葉を理解し、使っていくのか、AIと人で言語の使用にどのような差があるのか、などなど知ることが出来ます。
現象学の理念はじめてのフッサール「現象学の理念」今、私たちが見ているものは本当にそれが認識として正しいのかを疑ったことはありますか。普段から私たちは目の前のものをそのまま認識して当たり前のように情報を受け取っています。しかし、例えばリンゴを見てそれをリンゴと認識する際にもさまざまな情報を受け取ることができます。そして、リンゴが本当にリンゴであるのか、そもそもリンゴという概念はどこから来たものなのか、なぜ私たちはリンゴだと認識できるのかという問いについて考えています。この本のタイトルにも入っている哲学者フッサールはこれらの問いについて考え、「現象学」という分野を開拓しました。この現象学においてさまざまな概念が存在する。まず、現象学は人間の認識ははたして世界を正しく認識できるのかという認識論の問題から考えてきた。現象学の中にはさまざまな概念が存在する。まず、もっとも根源的な概念として、現象学的還元がある。客観が存在し、すべてを「意識体験」へと還元され、世界の存在全ては、自分の「意識」のなかで生じている表象である、というものである。例えば、ラーメンのスープを飲んだときに「うまい」と感じることで自分自身が持っている知識や先入観を除いたうまいという感覚は純粋な直感である。つまり、自分の中にある「意識」を取り出すことに成功したということになる。また、認識論において、私たちの主観は絶対に客観を超えることはできないという前提が重要である。「物事を認識する」という極めて身近なことについて考える現象学はすべての学問の根本を担っている。ぜひ読んでいただきたいです。
V.S.ラマチャンドラン, サンドラ・ブレイクスリー著; 山下篤子訳 脳のなかの幽霊山田規畝子 壊れた脳生存する知 父親が整形外科医であったこともあり、整形外科医になるために上京し、東京女子医大に進学した山田規畝子さん。彼女は卒業試験直前の大学6年生の秋、講義の間の休み時間に友人と話していた時になんの前兆もなくいきなり後頭部にものすごい痛みが襲い掛かりそのまま吐いてしまった。医大であったため周りにいた彼女の友人たちもみな医者の卵であり、発作の状況から脳卒中を疑い、すぐに救急外来に運び込んでくれた。そこで山田さんは「モヤモヤ病(正式名称はウィリス動脈輪閉塞症)」という原因は不明で厚生労働省が難病に指定している病気だと診断された。この時はこのモヤモヤ病による脳出血のために倒れたが、幸い後遺症や障害は全く残らず回復する。卒業試験、医師国家試験に合格して周りからの反対もあったが、母校の整形外科に整形外科医として勤めることが決まる。その後病気の心配もあったが、結婚し子供も産まれた。しかし子供が3歳の時に再び救急車で搬送されてしまう。前回倒れたときは脳出血だけであったが、この時は脳梗塞も起こしていた。ここから山田さんと高次脳機能障害との付き合いが始まったそうだ。この高次脳機能障害により山田さんは、仕事はおろか日常生活を送るのも大変になってしまった。それでもあきらめず周りの助けもありながら職場復帰を果たし、自分の経験を活かしながら、同じ高次脳機能障害の患者さんを診ていた。しかしこの後山田さんは再度病に倒れてしまうが、その時も再び立ち上がり前を向いて進んでいく。このようにこの本は、作者の山田規畝子さんが病気になりながらも、それを生かし同じような症状を持つ人たちに希望を与えてくれるものになっていると私は感じた。
野矢茂樹哲学の謎盛岡正博,寺田にゃんこふ まんが 哲学入門哲学というと難しいイメージが付き纏う人が多いと思う。内容の実感が湧かないからである。実際私も漫画であれば分かりやすいのではないかと思い本を手に取った。しかし、なぜ実感が湧かないかというと、「哲学の問いはあまりにも人間にとって身近過ぎるから」だと私は考えている。
本の冒頭では、「生きるとは、死ぬとはどういうことか」「なぜ生きなければならないのか」という問いを取り上げている。その後、二人のキャラクターが対話形式で、漫画として分かりやすい図解を交えつつ、話を進めていく。そして本の終盤では、「なぜ生まれてきたのか?」という冒頭の問いに関連する問いに対し、「生まれてきて本当に良かったと心の底から思えるような、私によってのみ可能な誕生肯定を実現するため」と答えたい、と述べている。ここで「答えたい」と記述されているのは、人によって様々な答えが存在するからである。
作中では生死についてだけではなく、他にも過去と現在と未来とは何か、私の存在とは何か、など生物の根幹に迫る問いが取り上げられている。「人間にとって身近過ぎる」内容を扱う哲学。あまり自分とは関係がないと感じるかもしれないが、これらは人生を生き、見つめ直す上で大変重要な問いだと考える。少しでも興味が湧いた人はぜひこの本を読んで哲学という学問に触れて考え、自分の納得のいく答えを見つけてほしい。
『音とことばのふしぎな世界』 川原繁人『うたうからだのふしぎ』 作:川原繫人・北原陽一 まんが:牧村久美この本は絵本です。「楽をするために選んだのではないのか」、「ふざけているのか」そう思われるかもしれません。確かに「楽をできるかもな」と少しは思いました。ですが、もちろんそれだけではありません。言語を面白い観点からとらえる川原先生が書いた絵本がどのような内容に仕上がっているのだろうか、絵本であるからして、「音」や「体」をわかりやすく説明してくれるのではないか、だとしたらこの授業を受講する人にとっては大きなプラスになるのでは、と様々な思いから本書を選びました。そして、期待を裏切ることはありませんでした。内容としては、声がどのように出るのか、人体の仕組みを通して説明していくというのが主ですが、川原先生が詳しく説明しており、初めて知ることも多かったです。皆さんは人間が声をどのように発してるのか、人体の器官や筋肉を用いて具体的に説明することができますか?おそらく多くの人にとって難しいのではないでしょうか。私もそのうちの一人でした。ですが、本書の絵本形式の説明によってより分かりやすく理解することができると思います。例えば、音は空気の振動によって伝わりますが、どのようにして人間は空気の振動を作り出しているのでしょうか。結論から言うと、声帯という器官によって、左右の声帯が近づくと空気が通るときに声帯が震え、振動が起きています。二枚の紙の間に空気が入ると同じように振動します。経験したことのある人もいるのではないでしょうか。このように、音と体の仕組みをわかりやすく説明しているので読んでみることをお勧めします。
柳田益造 楽器の科学林幸弘 ギター・エフェクターとアンプの秘密がわかる本この本はエレキギターで用いる、エフェクターの仕組みを回路図を用いて説明している参考図書である。エフェクターの回路図を理解するために、回路図で用いる記号の意味や、エレキギターやエフェクターが機能する原理を理解するために必要な物理学の電磁気学に関わる知識をかなり多くのページを使って丁寧に分かりやすく説明してくれている。図などを用いて綺麗にまとめられており、回路図をこれまでに見たことのない人や、物理学を学んでこなかった人にとっても読みやすいように工夫されている。これ1冊を読むことではエフェクターを実際につくったり、改造したりするような応用的なことをすることはできないが、軽音楽などでエレキギターに触れることがある人にとっては非常に有益な知識を得ることができ、そこから新たな興味や面白みを発見することができると思われる。
ルドルフとイッパイアッテナ 斉藤洋私の美しい庭 凪良ゆうルドルフとイッパイアッテナでは、飼い主のリエちゃんと平和に暮らしいた黒猫のルドルフが思わぬ事故で見知らぬ遠い町に運ばれてしまい、そこで出会った大柄で知恵があるボス猫のイッパイアッテナから多くのことを学びながら、飼い猫としての生活と野良猫としての生活の違いを体験し、さまざまな冒険や出会いを通じて、彼は成長し、勇気と友情の大切さを学ぶという内容でした。私の美しい庭では、小話形式で様々な人の葛藤と成長が描かれるのですが、この話にでてくる百音という小学生の女の子が周りから学ぶ姿勢をみてとることができます。この本では、ルドルフとイッパイアッテナのように、ほかの人の様々な考えや成長を学ぶことができてとてもおもしろいです。