講義
今日の講義のポイントは2つ
1)音とは、空気などの振動がヒトや動物に感知されたもの
感知されてはじめて「音」と言えます。この講義に一貫する根本的な考え方です。まだ納得しない人もいるかもしれませんが、きっとそのうち腑に落ちます。
私は今まで、音波(空気の振動)=音だと思っていたので、今日の講義で「音波は物理現象であるが、音は心理現象であるから、音≠音波」というお話を聞いて、衝撃を受けたのと同時に妙に納得してしまいました。同じ音波を受け取ったとしても、感じる音の印象は人それぞれ違うし、同じ人でもその時の気分や環境によって全く違う印象の音に聞こえることがあるのも、音は脳の働きによって感知されるものだからなのかもしれないと思いました。(農1)
↑ すごく良いところに気づきましたね。
音の解釈が新しかった。が、この意見を鵜呑みにすることは違うと思うので自身の解釈も考えていこうと思う。(工2)
↑ 鵜呑みにせず考えようとするのもとても素晴らしいことです。
ただ、いずれ私の言っていることに納得すると思います。
2)音は「振動の移動(伝播)」によって伝わる
振動と移動の違いが分からない人が結構います。それは、おそらく振動とは何かが分かっていないのだと思います。どちらも「動き」を伴います。しかし、振動そのものはある一点を中心に行ったり戻ったりするだけなので、時間的に平均すると、その位置は移動しません。
授業で出てきたYouTubeの人の波を思い出すと、一人一人の位置は移動しておらず、移動してるのは最初の人が隣の人を押したり、密接している身体を起こす「力」だったと考えるとすぐに納得できた(人文2)
もし空気が移動したら、それは「風」です。
風の音が聞こえるのはなぜでしょうか。風の音源があるとは思えません。(法1)
空気の移動(風)とともに、局所的に振動も生じているからです。あるいは、振動そのものが風によって運ばれて移動する、ということもあります。波打つ水槽を、水槽台ごと運ぶような感じです。
表面波は高校までに習いませんので、知らなかった人がほとんどでしょう。
簡単にdesmosという関数描画サイトで表面波を作ってみましたのでURLを添付させていただきます。(理2)
↑ おーー!いいですね!ありがとうございます。
Q&A
今週のピックアップ!
フレミングの右手の法則と左手の法則は、両手で同時にやるとラッパーみたいな姿にやはりなりますね、愉快です。(人文2)
あなたの発想が愉快です(笑)
犬の見えている色彩や、聞こえてている音というのは、どのように調べているのでしようか(複数)
動物に尋ねても答えてくれませんからね。
まず、明確に異なる2つの色を見分けられるよう動物を訓練したとしましょう。餌で釣って学習させるのです。そのあとで、さっきとは別の2色の違いに反応できれば、その動物はこの2色を見分けられたということが分かります。逆に、色の区別をする訓練はできているのに、色Aと色Bが区別できないとすると、その動物にとって、AとBは同じように見えていると推測できます。
音についても同様で、訓練を使います。例えば、ある音が聞こえているかどうかを知りたいなら、その音を聞かせる度に餌をあげることを繰り返しているうちに、その音に反応して近付いてくるようになれば、その音が聞こえていると判断できます。
人間は20Hz~20000Hzしか聞こえませんが、私たちよりも体が小さいコウモリや犬ははるかに高い周波数の音まで聞こえます。ここから体が小さいほど高い周波数の音が聞こえるのだと思ったのですが、犬やコウモリよりもはるかに体が大きなイルカはそれらよりも高い周波数の音まで聞こえます。体の大きさには関わりがないのでしょうか。もしくは、陸生動物と水生動物の違いでしょうか。(人文1)
良い質問です。一般論として、小さい動物ほど高い音まで聞こえ、大きい動物ほど低い音まで聞こえます。
しかし、イルカはヒトより大きいのに、ヒトよりずっと高い音まで聞こえます。
これには、二つの要因があるでしょう。一つは、音波は、空気中より水中の方が遠くまで届くということです。もう一つは、光は水中ではすぐに減衰するので、水中で視覚から得られる情報が限られるということです。つまり、水中では、音こそが、情報伝達の媒体として優れています。そこで、イルカは、外界の情報を少しでも多く得るために、音を最大限利用するように進化したのでしょう。
私は電圧でコイルが動いて電流が流れるマイクの原理を初めて知り、この原理を使って音力発電をすればいいじゃないかと考えたのですが、すでに速水浩平さんという方が2008年に音力発電の会社を立ち上げていて驚きました。(人文1)
そう、マイクが音から電流をつくる仕組みは、まさに発電です。この発想から、大学生だった速水さんが起業したのが、こちらの会社です。
エネルギーが伝わる、ということの意味がよく分かりません(多数)
花火や大きな太鼓の音を聞くときにはお腹にドンという振動が伝わってくる。また、コップの上にラップを貼って水滴を乗せ、ラップに声を当てると水滴が飛び跳ねる。今まで考えたことはなかったが、これらはいずれも「音によって音源から離れた物質が運動をしている」と見ることができ、これはまさに音がエネルギーを移動させているということであると改めて感じることができた(工2)
「エネルギー」は物理学の概念で、「仕事」をする能力のことです。ここでいう「仕事」は、バイトみたいな普通の意味の仕事でなく、物理学で厳密に定義された概念です。これは、物を動かす能力みたいなものと思ってください。
音の場合のエネルギーとは、媒質である空気の分子を振動させる能力です。例えば、太鼓が振動すると、太鼓の近くの空気の分子を押して(動かして)圧縮します。圧縮された空気は元に戻ろうとしますが、その時に、となりの空気を圧縮します。するとその新たに圧縮された空気が、さらにとなりの空気を圧縮し、というふうに、圧縮して元に戻るという運動の連鎖が、次々と空気中を伝わっていきます。
これは、物を動かす能力が伝わっていくので、エネルギーの伝播です。このエネルギーが耳に到達し、鼓膜を振動させると、音として知覚されます。
今週の質問
音とは何か
「音とは何か?」という問いに関する定義として「感知されなければ音でない」と考えるのが面白いと思いました。(多数)
観測者が必要という視点に納得したとともに、前回のお話とつながりを持ったような感覚をうけました。(理)
哲学的な観点で音とは何かと問われると、終わりのない旅に出たような感じですごくテンションが上がります。(工)
感知されなくても音は音として存在する、という考え方もあると思います。しかし心理学や脳科学を勉強すればするほど、音という現象は、自分の脳がつくり上げた個人的な感覚であるという考え方を認めざるを得なくなります。
犬が、赤色を見ることができないというのは初耳で驚きました。私は飼っている犬に赤信号で待つことを覚えさせようとしていたのですが、不可能なことをさせていて申し訳ない気持ちになりました。(経3)
盲導犬は赤信号を認識できないのではないかと不思議に思い自分で調べて見ました。結果、盲導犬は信号の色を判別できなく、そもそも盲導犬ユーザーの人が、音の出る信号機であればその音もしくは車の音で判断しているそうです。(工)
面白い、不思議だなどと思うのが第1歩。次は、2人目のように、自ら考えて調べてることで、どんどん世界を広げていけると良いですね。
私は先天性色覚異常なのですが、正直とても生きづらいです。一番自分が辛いなと思ったのは夜間の点滅信号の色がわからなくてとても危険だったことです。しかし、このように悪い点はあれど、私は他の人よりも緑がとても鮮やかに見えているそうです。(経1)
確率的には、この講義にはあなた以外にもきっと、色覚異常のある学生がいるでしょう。もし、講義のスライドが見えにくかったら教えてください。
夕日は赤いのか?の話もとても面白かった。哲学と言っていたが興味が出たので本も読んでみようと思う。(多数)
音波は空気があれば存在するであろうものなので、生物が存在しなくても音波は存在するが、音は生物がそれを聞き取り、脳で処理してから存在するものであると主張する人は多くいそうだが、私はそれに疑問を持っている。もしそうであるとしたら、音波を受け取る生物がいない状態で、どうして音波が存在するといえるだろうか。(人文2)
自分には答えのないことをどこまでも追い求める意味を理解できない。波という現象は確かに存在し、それを科学的に追求する意味は分かるが哲学について考え始めるときりがないように感じてしまった。(工)
哲学の問題は、興味がなければ考えなくてもいいですが、気になればぜひ徹底的に考えてみてください。理由は、単に面白いからです。そして、学問の世界を見渡せば、その面白さに共感してくれる人がたくさんいることに気付くでしょう。
ただ、3人目の方に言いたいのですが、キリがないからこそ、面白いという考え方もありますよ。自分が興味のある科学には意味があるが、他人が興味のある哲学に意味はないというスタンスは、自分自身の成長を妨げます。
数学では、異なる概念から共通する特徴を見出して、同じ概念として捉えるということがあります(同型といいます)。それと似たように、脳内で起きていることが全く異なっていても、それを言語などを通じて他者と共有することで「感覚が同じである」と言えるのではないか、むしろそのような方法でなければ「感覚が同じである」と言うことは不可能ではないかと考えました。(理3)
私の「赤」とあなたの「赤」が同じである保証はない、という話について考えてくれたのですね。
素晴らしい発想です。そしてそれはまさに、参考図書で紹介したフッサールの現象学の考え方に近いものです。
教授は哲学的にどこから音でどこからが音楽だとおもいますか?
私は感情を揺さぶれる波が音楽で、無機質な波が音だと思います。(農1)
音波は物理現象、音は心理現象、とありましたが、音楽は何現象なのでしょうか。
音波と音と音楽の関係性について、考えれば考えるほど分からなくなりました。(法1)
難解な現代音楽に私が感情を揺さぶられていても、あなたには無機質に感じられたとして、それは音でしょうか、音楽でしょうか? 鳥の歌声は、音楽でしょうか?
「音楽とは何か」という難問に答えを出すのが、この講義の最終目標です。最終回を楽しみにしつつ、自分でも答えを考え続けてください。
音の3要素
音の3要素のうち、大きさと高さは理解しましたが、音色とは何かがよく分かりませんでした。(多数)
3要素のうち、音色は最も謎です。音の属性のうち、大きさでも高さでもないものが音色である、というふうに、消去法でしか定義できません。たとえば、ピアノとバイオリンで同じ高さの音を同じ強さで弾いた時の音は、聴いた感じの「何か」が違うわけですが、その「何か」に関する全てが、音色である、ということになります。
楽器による音色以外にも、明るい音、とがった音、芯のある音、太い音、冷たい音など、音楽をやっている人は、本当に色々な言葉を使って音色を表現します。こういった音色の違いが、音のどのような物理学的性質に由来するかは、今の科学では未解明です。
音色は倍音によって生まれると別の授業で習った(教)
そのとおり、音色を決める最も重要な要素は、倍音です(後日説明します)。ただ、それだけで音色の全てを説明できるわけではないのが、奥深いところです。
0dBが「人に聞こえる」という基準であることは初めて知りました。(多数)
音波のエネルギーの大きさがdBで、0dBはヒトが聞ける一番小さい音とありましたが、ヒトが聞けるということは0dBのエネルギーは0ではないということでしょうか。(経2)
どのくらい小さい音まで聞こえるかはひとりひとり違いますので、平均的な値をもって0dBとしています。ですから、マイナスのデシベル値の音まで聞こえる人もいます。マイナスのデシベル値の音まで聞こえる動物もいます。0dBの音波のエネルギーは、ゼロではありません。
0dbが人間の感覚を基準として最小の音だとすると、0dbとはどのくらいの音なのか、そもそも聞き取れるのかと考えた。聞き取れるとしたらそれは聞き取れるのだから0dbとは言えないのではないか、でも聞き取れないとしたらそれは最小音といえるのか、と疑問に思った。(人文2)
聞き取れるか聞き取れないかギリギリの量を、閾値と言います。閾値に相当する音圧が 0dBです。
閾値では、半分の音が聞こえて、残りの半分が聞こえません。つまり、閾値の大きさの音波を100回聞かせると、50回は聞こえて、50回は聞こえないのです。逆にいうと、そのような結果になる大きさを実験で求めて、それを閾値とします。
スライドの図では、60dBが普通の会話であるのに対し飛行機のエンジン音が120dBであった。ということは、普通の会話の2倍の大きさが飛行機のエンジン音と同じ大きさになるということなのだろうか。普段の2倍声を大きくするつもりで話しても、飛行機のエンジン音と同じ音の大きさになっているとは思えないため、気になった。(人文2)
良いことに気がつきましたね。d Bという単位は、そのようには計算できないのです。いずれ講義で説明します。
音は波動
最初の〝音で移動するのは何?〟という問いにまんまと引っかかった。(人文1ほか多数)
音で移動しているのは、空気(媒質)ではなくエネルギーであるとは驚きましたが、言われてみれば納得しました。(多数)
音を発したところの空気が移動したら、そこは真空になってしまうので、なるほどと思いました。(人文)
もし空気そのものが音源から聞く人の場所まで移動したら、それは「風」です。オペラ歌手の歌声を聴いても、「あ・・・昼に餃子食べたな」とか、分かりませんよね。
空気はその場で振動しているだけで、その振動がドミノ倒しのように伝わるのです。
今までヴァイオリンをチューニングするとき、なにげなく442Hzで合わせていましたが、改めて442Hzの意味を考えるととても不思議な気持ちになりました。(医保)
わかります。
1秒間に442回の波の振動があなたの鼓膜を叩き、それがあの「ラ」と感じる音の正体なんです。不思議ですよね。
講義のスライドに、デシベルの最大が「120dB、飛行機のエンジン音」と書かれていました。そうなると世界で一番大きな音が「飛行機のエンジン音」になってしまうのでは?と私は疑問に感じました。調べてみると、140dBが「ジェットエンジンの離陸時の音を真横で聞くレベル」この音の大きさは鼓膜が破れるそうです。そして、世界で一番大きな音は173dBであり、1883年(明治16年)「インドネシアのクラカタウで起きた大噴火」がそれにあたるそうです。地球上の大気で出せる音の限界は194dBらしいですがどのようにそれを求めたのかが書かれていなかったので次回の講義までに調べてきたいと思います。(理2)
最大値が気になって、調べてみました。地球上で計測された最大の音圧レベルは172㏈で、これは音源から160km離れた場所での計測値とのことです。また、地球上の大気の中でだすことのできる音の限界は194dB(それ以上は衝撃波となる。)とのことです。(農1)
クラカタウの噴火の中心部では、音圧が235dBもあったと推測されています。上で書いてある音圧の限界値194dBよりも大きいですね。どういうことでしょうか?
そもそも理論的な限界値とは、どうやって求めるのでしょうか?
自分で考えて、どうしても分からなかったら聞きにきてください。
音で移動しているエネルギーとは、どんなエネルギーなのか気になりました(多数)
物理を習った人は、振動するバネの先にぶら下げた、おもりのエネルギーを計算したことがあると思います。エネルギーの総和を保ったまま、位置エネルギーと運動エネルギーが交換しましたね。
波も、媒質が定位置から振動する現象なので、基本的な仕組みは、おもりの振動と同じです。位置エネルギーと運動エネルギーにわけて計算することできます。
スピーカーとマイク
先生がイヤホンをマイクとして使うことができるとおしゃっていたので私もやってみたところ、確かに音は小さいのですが使うことができたので面白かったです。人から話を聞くだけでも面白いですが、自分でやってみるとより面白いことを学びました。(医保1)
すぐに自分でやってみた行動力が素晴らしい。
なお、これはあくまでも“原理的に可能”なのであって、決して実用的ではありません。イヤホンはイヤホンに、マイクはマイクに適した構造に特化していますので、逆向きに使うと効率が悪いです。
最近のイヤホンやヘッドホンはマイクの機能も兼ね備えているものが多いが、それが可能なのは構造が同じためなのだろうか、と考えるなどした。(数名)
それは違います。一つのものを同時に逆方向にイヤホンとマイクとして使っているのではありません。イヤホンはイヤホン、マイクはマイクとして、別々に組み込まれています。
捨てても良い古いイヤホンを分解してみたらどうでしょう。あるいは、分解しないでも、外観をよく観察してみましょう。マイク機能のあるイヤホンなら、マイクが音を拾うための小さな穴が、どこかに空いているはずです。そこをテープで塞いでしゃべると、どうなりますか?
大気圧が変化すればマイクの感知する気圧変化の度合いも変化するのではないだろうか。高圧下で録音した音を低圧下で再生すると違う音になる?(医)
マイクには、大気圧を基準として、その基準からのプラスマイナスの気圧変化を検出しています。だから大気圧は関係ありません。
大気圧 ± α
のαの部分を検出してるのです。あなたの鼓膜が音をとらえる仕組みも、これと同じですよ。
その他
フレミングの左手と右手、両方あるのになぜ中学校高校では左手のみを習うのでしょうか。(工)
横波と縦波だけ教えて、なぜ表面波を教えないのか?というのも同じ質問ですね。
理由は、限られた時間で、全てを教えることはできないからです。
当たり前ですね。
しかし、これが罠なのです。
フレミングの「左手の法則」だけを教わることで、「右手の法則」はないという勝手な思い込みが生まれます。横波と縦波を習うと、「波は2種類なんだ」という勝手な思い込みが生まれます。「習ってない=存在しない」ではありません。このように言われれば、誰にでも分かる簡単なことですが、つい忘れてしまいがちなことです。
私は主専攻で哲学を学んでおり、野矢茂樹著『哲学の謎』は愛読書のうちの一冊でもあります。(人文)
野矢さんの本、面白いですよね。私は彼の大ファンで、他にも何冊も持っています。
「夕日は赤いか」など、音から出発して哲学的な問いにたどり着いたことから、科学と哲学は意外に近いものであると思い、面白く感じました。高校では文系と理系に分かれてしまいますが、文系であっても理系的な問いが発生したり、理系であっても文系的な疑問に発展してしまうことがあると知り、文系、理系に分かれてしまうのは必ずしも学問的によいことではないと思いました。(医医1)
まったくその通りですね。そもそも理系・文系と分けること自体がおかしいと、私は思います。
私は、小学生くらいの頃から自分が認識している色と、他人が認識している色は全く同じ色なのか気になっていた。しかし、この考え方に興味を示してくれる人がいなかったため、今回の講義でこのことについて先生がお話されていて嬉しく感じた(人文1)
決してあなた一人ではないですよ。哲学者や科学者によって、たくさんの研究がなされています。